BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 二次創作をまとめる(予定) ( No.5 )
日時: 2018/01/06 12:07
名前: 利府(リフ) (ID: xiz6dVQF)

ホームズお誕生日おめでとう!!!!!!出遅れ野郎だけど睡眠時間バリバリ削って愛を表現した所存!!(寝ろバカ)
ホームズが渇望する死に方の話です。なんかよくわかりません。いつものことながら、いやこれいつもよりわかりません。ダメだこれ。
CP要素相変わらず薄い。ただホームズがワトソンくんのこと大好きです。やはりホム×概念ワトだよ......

そして重要項目ですが、FGO第2部序章のネタバレをがっっっつり含みます。第1部クリアしてない人が見たらいろいろと泣く構成です。ネタバレなんかいくらでも食うぞ!って人は大丈夫ですがそれ以外の方本当にやめておいた方がいいです。自分の目で確かめてください、探偵のかっこよさ(下手くそステマ)
あと、シャーロックホームズ原典「最後の挨拶」のラストシーンを多く話に絡めてきます。読んだことない人もいると思いますがそこはフィーリングで行ってください。というか原典読んでください。ホムワトのしんどさがマッハです。

今回ぐだ視点1本通し。マシュとダヴィンチちゃんがいます。


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晴れたカルデアの夜空のもと。
セイレムの特異点修正を終えた数日後の夜、管制室でマシュと会話していた時のことだった。管制室に一本の電話が入ってきて、電話の主が開口一番にこう言い放ったのである。

『至急だ。来てくれ。思い立った』
「何を!?ワトソンくん以外にはわからないんだよそれ!というかホームズ、またシミュレーション戦闘の時のモニター観測の仕事サボったでしょ!?シルビアがなんか泣いてた!つらいって!人手不足つらいって!!」
『私が出る幕ではないのだよ。じゃ、要件を告げていいかい?メモを取るべき内容でもないし、むしろ最初の私の一言に了解とだけ返して、電話を切ってくれても構わなかったのだが。
誕生日プレゼントを前借りしたい。私の部屋に来たまえ。1人でね。では』

そこで電話が切れた。恐る恐るマシュの方向を見て、受話器を置いてから、ワクワクドキドキの視線を向けてくるマシュの耳元でつぶやく。

(ねえ、ホームズが今のうちに誕生日プレゼント欲しいって......)
「え、ええーーーーーー!!!そ、そんな、ミスター・ホームズが......」
「声おっきい!わかるけどしっ!」
「はっ、はい......よっ...予想外です、先輩!それに、あの大探偵に差し上げるプレゼントだなんて、とてもスケールの大きいものになるのではないかと......!」

興奮するマシュの背中を撫でながら、落ち着け落ち着けと念じつつ私も同じく呼吸を整える。まさかホームズがプレゼント要求だなんて。そんなびっくり。

マシュにひとりで行くことを告げると残念そうな顔をされたが、ホームズの指示なのだから仕方ないことなんだろう。ごめんよマシュ。お土産話はいっぱいする。
かたく誓いながら管制室を出た。


*****

ノックをしても返事がないのはいつものこと。
部屋の中に入ると、探偵は何を思ったか、手先で器用にぐるぐるとペンを回していた。文明の利器は天才の指にも馴染むらしく、最近は万年筆よりもこの黒インクのペンの方を好み出したのだ。

「マスター。プレゼントの話からしよう。私はこの小さい手帳と黒インクのボールペンしか持ちえないのだが、例えば他の色のペンはあるだろうか」
「えっ、あるよ。前に赤ペンとか職員の人が使ってなかった?赤ペンとか青ペンとか、存在を知ってるものとてっきり」
「青いペンの存在だけは記憶に留めていたが、カルデア内にあるかを聞くのを忘れていたものでね。うっかりしたことに」

記憶、と聞いて思わず自分の表情に苦笑いが出た。だがそれもそうである。
何故なら、シャーロックホームズの記憶はまさに部屋であるからだ。彼の倫理観だとか諸々を含めた『ふるい』にかけられて、必要のない記憶は記憶の部屋からゴミ箱に容赦なく押し込まれる。彼が挙げなかった赤ペンも、彼にとってはまるで不思議の世界のものだ。だって忘れているのだから。
おそらく聖杯戦争において聖杯の与えるサーヴァントの予備知識も同様。お手上げである。

「君が言っていたペンの種類だが、赤いペンはいらない。青いペンと不要になった書類でもプレゼントしてくれ。書類は小さいサイズがいい、何なら刑部姫とやらの持っている折り紙でも構わないがね」
「えっ......それがプレゼントでいいの?何か描くの?」
「私なりの塗り絵だ。幼子めいているかい?」
「いや、...その、シャーロックホームズは絵を描いたことがあったか、わかんない」
「ははは、君はまだ“私”を読み終えていないのか!じゃ教える事は出来ないね。まだまだ真相は私とワトソンくんの胸の内だ」

ホームズが珍しく声を上げて笑ったので、私は余計ムッとなった。長編ふたつだけ読めてないと言い訳を言っても火に油だろう。大人しく青いペンと不要な書類を求めて廊下からスタッフ達の元に向かうことにした。身近なシャーロキアンであるマシュならホームズのことなんて何もかも存じているだろうか、と報復を考えながらの退室だった。

*****

「ただいま。はいどうぞ、ハッピーバースデー」
「ああ、ありがとう」

探偵はこちらを一瞥して、さほど大きくもない声で感謝を述べた。青ペンと書類をホームズに渡しながら思ったが、うーむ、査問官ならキレてる。

「もう自室にでも戻ってくれたまえ」
「えっ、絵は?描くんじゃないの?」
「その真相は明かせないね。ミス・キリエライトならまだしも、俄かな知識の君の前で描くのは私の信念に反する」

探偵はそう言ってにぱっと笑った。査問官ならキレてるスマイルと命名したい。退室を余儀なくされたので私はぶっきらぼうにおやすみを告げて部屋を出たが、扉を閉めるために振り返った時には、ホームズは目を閉じて両手の指を突き合わせ、目を閉じて椅子に深く沈んでいた。
邪魔するな、の意思表示も同然である。
私はそのまま何も言わずに部屋を出た。彼の傍にあるミニテーブルに転がされたペンと白い紙が、彼にはどうにも似つかわしくないものに見えた。


*****


そこから先は、存じてのとおりだ。
あの後、カルデアは崩壊した。
ホームズが使っていた部屋も例外なく踏み荒らされ、凍結させられただろう。それは私の部屋だって同様だ。
生き残った人間は、虚数空間に浮かぶ箱舟に身を任せている。
それでもいつだって、私たちは希望の一手を探している。箱舟のハンドルを面倒くさそうに握っている探偵だって一緒だろう、と私は思っていた。

ダヴィンチちゃんがマシュ含めた職員たちとの談笑の時間をとるため席を外していた時、私はダヴィンチちゃんの椅子を少しだけ借りてみた。

「ここって、人間が座っても大丈夫?」
「無論、今まで座らせたことがない。が、君がそういう口をきけるなら大丈夫なのだろう」

探偵はこちらをちらりとも見ようとしなかった。当然のことだ。これが私達の仲である。私が死のうが構わない、のかもしれないのが彼だ。私が唯一の打開策だと思っているから、今こうやって利用しているも同然なのかもしれない。だが、そんなこと承知でこうして向き合っている。

「座っていいんだ。そうか。じゃ、そのハンドルは私が握っても?」
「それは許し難いね。君がハンドル一つで人理焼却を解決できたと豪語するなら別だが」
「でも、ホームズは運転下手って言われてた。馬車と汽車ばっかりだったもんね、ホームズの移動手段は」

そう私がいびると、探偵は横目でほんの一瞬私を見て、それから珍しいことに他人にも分かりやすい笑い声を上げた。

「はははは、それは反論のしようがない!それを言えるということは君、僕の結詞はしっかり読んだのだね?どうだい、ご感想は」
「ジョン・H・ワトソンの寛大さ、あなたの偉大さを実感した」
「それは僕も彼も報われたね。あの結詞にはサー・アーサー・コナン・ドイルの感情も含まれていると言って構わないだろうが、それを滲ませながらも我々の進む方向をあの結びによって確立させたのだ。君の抱いたそのイメージは、彼の思い描いていた僕達のイメージと少なからず合致することだろう」

ホームズは窓の外に広がる虚空に思いを馳せるようにして、既に地に還ったであろう自らの生みの親を回想していた。死の国も同然のここで、虚無と実在の狭間に生きる彼が輝かしい冒険を思い起こしているのだ。


「ホームズ、生きてた時、楽しかった?」
私はふとそれを聞いてみた。ホームズは満足気な笑みを浮かべながら、それでもまだ回想に思いを傾けているようだった。

「思い返せば、なんと楽しかったろうね。こんな常人ならば気が狂いそうな状況下も中々味わい深いものだが、やはりこの状況下においてワトソンくんの存在がいかほど必要だったか、君にすら計り知れないだろう。ほら、だからこれをここにまで持ってきてしまったのさ」

ホームズは片手でハンドルを握ったまま、傍に置いてあった手帳の中から小さく折りたたまれた青い紙を取り出して私に見せた。
私がそれを広げてみると、紙の2分の1程度は青色で浸され、残りは白が埋め尽くしているようだった。裏面にはびっしりと文字がある。これは......やはりあの書類?

「何も知らない者からしたら、紙を青いペンのインクで浸しただけのものだ。芸術性はないと断言されて然るべきだね」
「これは.........?」
「僕の故郷だよ。あの日見た海を描いた」

故郷と呼ぶにはあまりに殺風景なそれを見て、私はホームズの真意がなかなか理解できそうになかった。確かに、ホームズの物語は海の前で終幕を迎えていたが。

「工房で画材を借りてもよかったのだが、その際ダヴィンチに何をするか聞かれるのも癪だったからね。だから、管制室にダヴィンチがいないタイミングを狙って電話をかけただけだ。ペンと書類を持ってくるのは誰でも良かったのだよ」
「えっ......なんかその夢をぶち壊しにするような......」
「私にユーモアとデリカシーを期待するなよ。女は嫌いだ。それに心からの甘い言葉をかけることなんてさらさらあるものか。悪く言えば、全ての人類にとって自らの思う他人など皆手駒に近いからね」

私がため息をつきながら書類を返却すると、ホームズは大事そうに書類の上に片手を置き、それをじっと見つめた。

「ロンドンの特異点で、一人で海を見た。その時はもうバベッジ卿の依頼を引き受けていたから、ロンドンに長居はしなかったんだがね、海だけは見たんだ。あれはまだ1888年の海だというのに、もうそこには東の風が吹きすさんでいる。私はロンドンの死など見たくはなかったから、それからすぐに別の特異点へと移った」
「だから、故郷を思い出して?」
「そうなるね。ただ、僕が見たかったのは平穏で揺るぎのないロンドンの海だった。他の国にはさほど興味もなく、調査対象が既にないと感じたらすぐに別の場所へと跳んだ。そうして、ぼろぼろの霊基でカルデアにたどり着いて、これを描き上げた」

書類の上に鋭いボールが走った痕跡を白い手袋が撫で上げて、探偵は感慨深そうに平面の海を見つめる。

「12月31日、カルデア閉館の日だね、最後に僕が海を見据えたのは」
「あの時、最初は海に突っ込む気だったでしょ」
「そうだよ。そして、あの時ペーパームーンの使用に失敗して万事休すに陥ったとしたら、君はどうするつもりだった?」

いきなりとんでもない質問を投げかけられたのでムッとした表情になってしまったが、ホームズが薄ら笑いを浮かべているのを見て何となく気分が揺らぎ、私の口から言葉が滑り出てきた。

「そりゃ悪あがきするよ。みんなを守りたいもん。もしかしたら、そうすれば最悪の状況下でも生き延びられたかもしれないし」
「それこそ君らしいね。僕もそんなマスターに守られることを光悦至極だと思っている。だが、ペーパームーンの発動前、僕はぼんやりとあの海に飛び込むこと“だけ”を考えていたんだ。本当にぼんやりとだけれどね」
「え、」

さすがにその発想にはギョッとした。私はたじろいで見せるが、彼のその碧の瞳にはどんな茶化しを目にしても真剣さしかなく、その信念のおぞましさを知らしめるように冷徹と夢想で満ちているばかりだった。

「僕のプレゼントの話はしたが、僕の抱く夢の話はしていないね?」
「う、うん」
「教えよう。僕は死ぬなら海が良い。あの瞬間、彼の不変を感じながら結詞という言葉のとおり死んでいくのが、まさに“物語”冥利に尽きるのさ。物語のエピローグに置かれる、最高のプレゼントだ」

ホームズはにこりと笑って、また書類を撫で上げる。

「ジェームズ・モリアーティはおぞましい滝を揶揄するが、ジョン・H・ワトソンは慈しみの海を揶揄するものだ。おおらかで、時折天候に苛まれることこそあれどその命と信念に傷がつくことなどない。不変さ。物語の祖の分身としてこれ以上ないほどのものじゃないか」

彼は元から虚構しか見えていないかのように、自らの親友の存在価値を語り始める。熱意と軽い狂気がごちゃ混ぜになって変になりそうだというのに、本人はそんなの薬で慣れてしまったからとばかりに私に話すのだ。

「じゃあ、このプレゼントは自分の臨終を期待して描き上げたってこと?」
「そうなるね」
「前借りしたのはこれを予期して?」
「イエスだ」

なーーんなんだこの男はーーー!!
マシュに向かって叫びたくなるが、ちょうどダヴィンチちゃんと話してる所に水をさすわけにもいかない。
うう、でもこの男は何があっても揺るぎなくこういう歪んだ信念だけ持ち合わせているのだな、ということを、マシュが知ったらどうする。

「筒抜けだマスター。邪魔になる、椅子から立ち上がりたまえよ。そろそろダヴィンチの助力も必要になってくる場所に入った」
「え、ええ......?最後に聞いていい?今シラフ?」
「今日はモルヒネにした。ワトソンくんが今ここにいないことだけは分かる。それで十分だろうと思ってね」
「はあ............」
「はははは!よければ私の手帳に絵を畳んで入れておいてくれたまえ、ただしそれを持ち帰ることは許さないよ」

あんたってひとは......!と呪詛を残しながら絵を小さく畳んで手帳に挟み、私はその場を後にした。
そのすぐあとにホームズのダヴィンチちゃんを呼ぶ声が聞こえ、小さなダヴィンチちゃんがとたとたと操縦席に走り寄って行く。
まったく、こんな狂気の思考に等しい状態のホームズが言った台詞、信じた方がいいんだろうか。というか誰だホームズにヤク渡してるの。おいまさかムニエルか?


「長話だったじゃないかホームズ。どうしたの?」
「薬のせいで世間話が与太話になっただけさ。薬は常用すべきものでもないのかもしれないな」
「ふうん。いや、でもそろそろ醒めてきたみたいだね?私にもわかるぞ」
「そうかい」

ダヴィンチちゃんがよく分からないと言いたげな返事を返すと、ホームズは早く席に座れとばかりに手で促した。そして彼女が眠りにつく前に、静かに語りかける。

「ダヴィンチ」
「なんだい?」
「故郷に帰りたいかね」
「うん、そうだね、確かにそうだ。カルデアも、私の故郷ということにはなる」

微笑むダヴィンチちゃんを見ながら、薬から醒めはじめたホームズは静かに優越に浸ったかのような悦の表情を浮かべた。

そうしてまた白い手袋で手帳を撫でてから、安らかな死に溺れたがる物語は、箱舟のハンドルを握り直すのだ。


1月6日、箱舟は今日も虚空の奥の海を目指している。