BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.10 )
日時: 2022/01/27 00:01
名前: みっつまめ (ID: 0rBrxZqP)

相馬慧斗side

今日も今日とて、先輩の部屋にお邪魔する

 中指の骨で扉をコンコンッとノックを入れて、返事を聞かずに扉を開ける。男子寮と言うこともあり部屋に鍵は掛からないし、そもそもノックして入ってくる寮生なんてほとんど居ないのだが、清水先輩には一度注意を受け、二度目も同じ事をすれば部屋を追い出されたことがあるため、挨拶代わりにいつもしている。

 部屋に入って扉を閉める。
 指で数えきれないほど訪れた部屋の配置はある程度覚えて、出入り口から見える二階の先輩のベットに本人は不在のようだ。一階にある勉強机の上に目的のドライヤーを見つける。

「おっ、慧斗じゃねーの?」

 ドライヤーを手にしたとき、うしろから声をかけられ振り向くと、丁度部屋に戻ってきたところらしい木崎さんがいた。ガタンッと大きめの音を立てて扉が閉まる。
 寮の部屋の扉は開けるときは無音と言ってもいいほど音がしないにも関わらず閉めるときは結構大きめの音が鳴る。ふと部屋の奥にあるシャワールームから水が流れる音がしていたことに気づく。このシャワールームを使うのは部屋のぬしである二人だけ。そして、一人は目の前に居るため必然的に答えは分かるが、木崎さんに挨拶ついでに聞く。

「お邪魔してますー、シャワー 清水先輩ですか?」
「おう、さっき“さきはいる”って連絡来てたからな。 慧斗はもう浴びたのか?」

 俺の髪が濡れていることや首にかけたタオルに気づいたのか木崎さんは靴を脱ぎながら聞いてくる。その木崎さんも先程まで体を動かしていたのかピタッとした服が汗で色濃くなっている。きっと清水先輩が出たらすぐにでも入るだろうことは見てとれる。

「はい それでドライヤー借りに来ましたぁ~」

 なるほど、と理解した様子で上の服を脱いで半裸になった木崎さんは何か思いついたのか「あ、そうだ」と呟き、俺の目の前に来れば俺の手からドライヤーを取り上げる。
 何がしたいのか分からず様子を伺えば「俺が慧斗の髪、乾かしてやろうか?」と口に笑みを浮かべて言った。

「自分で出来ますよ?」
「いいからいいから、清水が出てくるまで俺の暇つぶしに付き合ってくれよ」

 ほらここ座って、と木崎さんは自分のベッドに座ってその前をポンポン叩く。半強制的ではあるが、自分で乾かす手間もはぶける上に、面倒ごとを率先してやってくれるというのならチャンスは逃すべきではない。大人しく木崎さんが叩いたベッドの端に腰掛ければ、ドライヤーのコンセントを挿した木崎さんが「よーし、熱かったら言えよな?」と背後から声をかけてきた。それに「はぁ~い」と間延びした返事をすればドライヤーの温風が髪にあたるのを感じた。

 木崎さんの左手が髪をかき分けつつ頭皮をドライヤーの温風が駆け抜けるとマッサージされている気分になり、心地よさに瞼が重くなってくる。

「なにしとんねん」

 ふと耳に届く声とドライヤーの音が止まったことでなんとか意識を保てた。いつの間にかシャワールームから出ていて身なりが整っている清水先輩がタオルで髪を覆っては、俺の後ろに居る木崎さんに「おっ、思ったより早かったな」と声をかけられていて「いつも通りやろ」と答えながら俺の目の前に立つ。

「ドライヤー借りに来たんか?」

 誰に聞いているのか曖昧な質問は、俺が口を開くよりも先に木崎さんが答えた。

「そうそう どーせ清水もこのあと使うんならここで乾かして行きゃいいし、清水が出てくるまで俺も暇だし、乾かしてやろうと思ってな」
「ふーん…もう終わったんか?」
「いや、あともうちょい」
「あとどんくらい使うん?」

 止まったドライヤーの音に、すっかり乾かし終わったものだと思っていたが、まだ終わっていないと言って清水先輩と会話を続ける木崎さん。
 木崎さんはまだ俺の世話を焼いてくれようとしてるみたいで、さすがに“清水先輩がシャワーから出てくるまでのついで”で乾かしてもらっていた為、これ以上甘えるわけにはいかず、後ろを向いて木崎さんに笑顔で言う。

「もう大丈夫ですよ、大分だいぶ乾いてますし、あとは自然乾燥でなんとかなります」
「いや自然乾燥は髪がいたむって聞いたことあるぜ? 折角せっかくこんなつやのある髪もってんだし」

 俺の発言に不服そうな表情をする木崎さんはそう言って俺の髪を撫でつける。

木崎さんの言うことも一理ある。 が、それを今言うなら実質俺よりもつことになる清水先輩の髪や頭皮の方が心配だ!

 髪に触れていた木崎さんの手を緩く払いのけて、やんわり断りを入れていた口調を少し強める。

「いやいや大丈夫ですって、ほら清水先輩も風呂から出ましたし木崎さんも入ってきてください」
「う~ん」
「これなんの時間やねん」

 何に迷っているのか木崎さんはまだ納得いかないみたいで眉間にしわを寄せ迷っている。清水先輩は口を挟みながらも解決を見届ける姿勢だ。木崎さんからドライヤーを奪おうとするも軽くかわされてしまう。

こうなったら最終手段にでるしかないだろう

 木崎さんの前で正座になって、できるだけ目にちからを入れ、真剣な顔を作り訴えかける。

「わかりました、そこまで言うなら木崎さんが風呂入ってる間に自分で乾かしますから!」
「いや、最初から自分でしたら良かったんちゃうん?」
「…それはまことの言葉か?」
「はい! 誓います!」
「なんの決意表明やねん 漫画に影響でもされとるんか」
「よし! いいだろう、じゃあ俺は風呂に入るからな、髪を乾かすんだぞ!」
「ごり押しするやん」
「はぁ~い」
「こっちはもう気ぃ抜けてもうてるし 切り替え早いな」

 やっと木崎さんを説得させることに成功し、頭の上で軽く敬礼していれば木崎さんはシャワールームへ入っていった。
 会話が終わればさっさと階段を上がって自分の階へ行く清水先輩のあとを追うように、ドライヤーをコンセントをから外して手に持つと階段を上がる。