BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.11 )
- 日時: 2022/01/27 20:22
- 名前: みっつまめ (ID: Slxlk2Pz)
階段を上ってきた俺に気づいた清水先輩は自分のベッドに腰掛け無表情のまま俺を見つめて問う。
「自分で乾かすんちゃうん?」
「乾かしますよ 先輩の髪、乾かしたあとに」
「は? 俺が自分の髪も乾かせん歳に見えるんか?」
「バカにしてるわけじゃないですよ、俺が先輩の髪を乾かしたいなぁーってだけです」
「お断りや」
「即答!? いいじゃないですかぁ~」
清水先輩の背後を陣取ろうと会話をしながらベッドに乗り上げれば「ひとんベッドに許可なくあがんなや、降りんかい」と腕を引かれベッドから降ろされそうになり慌ててベッドシーツを掴み、足をばたつかせ駄々をこねるように「いやいや」と言えば、引かれていた腕を掴む力が緩まりバタつかせていた足に「埃がたつからやめろ」と言及される。大人しく足を沈め、数秒お互いが沈黙する。
先輩のベッドにうつ伏せで倒れベッドシーツを掴みながら小さい声で交渉をする。
「先輩の髪 ドライヤーかけさせてくれるなら、退いてもいいですよ」
俺の言葉は小さくても届いたのか「はぁー」と深いため息が聞こえる。先輩の背中を見上げれば首の後ろに手をあてていた。
清水先輩は自分の領域に他者が介入することも干渉してくることも良く思わない。だから先輩の所有するベッドに俺があがることも良く思わないはずだ。交渉が成立することは必然である。
先輩に嫌われるのは嫌だし、さっきのため息だって俺のこと面倒くさいと思ったかもしれない。でも先輩と居られる時間があるなら時間は有意に使いたい。
入寮初日、先輩は俺のこと知らないみたいで“人違いじゃないか”って聞いてきた。俺は人違いじゃないって今でも思ってる。けど一概に否定は出来ないし理由を言っても信じてもらえないことは分かってる、だから俺も知らないフリを演じた。
人違いって言うなら教えてよ、
アナタのオーラが昔見た少年と同じ理由を…
人違いって断言できるなら証明して見せてよ、
アナタの過去に俺が介入していないことを…
アナタの髪の色は地毛じゃないし瞳の色はカラコンだってことを…
アナタの口調が定着してる地域では、困ったときや考え事してるときに首の後ろに手をおく癖は皆がしてるんだってことを…
先輩が過去を忘れててもいい
俺が憶えてるから
でも――無かったことにされたくもない
俺が物思いにふけっていると先輩は口を開いた。
「おまえ、なに企んでるんや」
それは口調こそ疑問形だけど交渉成立の台詞だった。
こちらを見ている先輩は若干冷や汗をかいているような焦りを隠しているようなそんな表情が窺える。そんな先輩に優しく微笑む。
先輩が悪いんですよ、ハッキリ俺を突き放さないから
俺なんかに優しくするから
俺なんかを甘やかすから
俺なんかを傍に置いて、一緒にいてくれるから
どうしても“サトシ兄ちゃん”と比べてしまうし、
このひとが“サトシ兄ちゃん”なんじゃないかって期待して、そうであってほしいと望んでしまう…俺の目に視えるものが“人違い”じゃないって言ってるから―――いつまでも俺はアナタから離れられないでいる…
言えない想いを笑顔に隠して、今日も嘘と本音を半分ずつ混ぜて応える。
「何も企んでなんかないですよ、先輩の髪を乾かしてみたい ただそれだけの話です」