BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.12 )
日時: 2022/01/29 22:13
名前: みっつまめ (ID: 4V2YWQBF)

 交渉を成立させた俺は清水先輩の髪を乾かす権利を得た。
 どうしてもベッドに乗ってほしくないみたいで目の前に座布団をかれ、「ん」とあごで座れと指示されたため俺がドライヤー片手に座布団に座れば先輩は俺に背を向けた。
 先輩を後ろから見るなんて珍し事でもないけど改めてみると、なだらかな猫背だなと思う。

「はよせえ」
「はーい」

 先輩に声をかけられてハッとし、頭を覆うタオルを外して、しなだれて元気のなくなった先輩の髪にドライヤーから風を送り始めた。

 ある程度、先輩の髪が乾いてくると重力に逆らいフワフワ元気な綿毛のように揺れて、ドライヤーの風が当たると橙色の髪が風を嫌がるような動きに見えて面白い。わしゃわしゃと左手で髪をかき分けてドライヤーの風をあててを続けていると、なんだか犬のシャンプー後にドライヤーをあててる気分になってくる。

「っふふ」
「おい、お前いま失礼なこと考えたやろ?」
「え、聞こえてるんですか?」

 気づいたら笑っていたみたいで、先輩から問いかけられる。ドライヤーの風によってかき消されていてもおかしくない声量だというのに距離的に聞こえたのか先輩の地獄耳が聞き取ったのか。きっと今 渋い顔してるんだろうなと思うと、先輩の心を揺らしているみたいで嬉しくなる。

「先輩の頭 “わさお”みたいだな~って」
「だれがブサカワ犬や、しばくぞ」
「え、先輩“わさお”知ってるんですか?」
「秋田犬の長毛種って一時期有名になったなぁ」
「…チャウチャウの方がよかったですか?」
「なんでやねん、俺の頭はライオンみたいなんか? いや犬でもあかんけどな」
「っふ、ふふ」
「なにわろうてんねん」
「いやいや、先輩詳しいなぁーって」
「誰でも知っとるやろ、こんくらい」

 先輩は頭の回転が速いし頭も良い、おまけに面白い。幽霊を寄せ付けない浄化のオーラは今でも眩しくて暖かい。

ちょっとなら、話してもいいかな…?

 ドライヤーの風を弱めて、なるべく平然を装って「俺ね」と先輩に向かって話す。

「俺ね、この間 俊介と“ほん怖”観てたんですよ」(※ほん怖=「ほんとうにあった怖い話」の略)
「おん」
「俊介、けっこう怖いの苦手だったみたいで」
「お前は平気なん?」
「まあ、俺は平気ですけど」
「ふーん、ほんで?」
「ヒイヒイ言いながら“何でいてんだよ”とか“この主人公は長く生きられねぇ、迎えがもうちゃってる”とか騒いでたんです」

 先輩の髪を乾かし終えて、自分の頭にドライヤーをあてるも、自然乾燥で頭皮までほどんど乾いていたみたいでドライヤーのスイッチを切ってコンセントから抜く。

「おれ正直、幽霊だったら気になる人の近くに居たいし、出来ることなら自分のとこに来てほしいとか思うけどなぁ~って思って」
「なん? 気になる人でもおるんか?」
「いや、そういうことじゃなくて…なんというか、幽霊って皆が皆 悪いことしてるワケじゃないし、死へみちびく行為に悪意がないこともあるんじゃないかなって」
随分ずいぶんそっち側の意見言うんやな、なに えとんの?」
「なんとなくですよ。 先輩は?」
「なんや」
「先輩は、幽霊とか信じます? ると思います?」

 それとなく先輩からの質問をかわして問いかける。
 振り返った先輩の気だるげに下がった瞼から小さな琥珀色の瞳が光り俺を捕らえる。記憶の中で似たような質問をしたときの“サトシ兄ちゃん”と重なった。

~~回想~~
 トンネルに入る直前、薄暗い闇の中にひっそり佇む人が居たりトンネルの道の真ん中で円になって座った人たちが笑い合ってる。他にも動物の声や世間話をするようなヒソヒソ声に恐怖で立ち止まる。トンネルの中はおびただしい数の気配に前を歩くサトシ兄ちゃんの服の裾を引っ掴んで留める。
「…そこにいる」
 振り返った兄ちゃんは不思議そうに首を傾げる。
『お? 前から思っててんけど、なんか見えるん?』
「うん…やっぱりサトシ兄ちゃんにも見えてない?」
『う~ん、オレにはなんも見えんけど…怪獣とかけもん、妖怪的な、そんなんか?』
 そういうのはまだ判断つかなくて「わかんない」と答えると兄ちゃんは無表情で俺を見つめた。サトシ兄ちゃんにも信じてもらえないことが怖くて、その琥珀色の瞳が俺の恐怖を見透かすようで声が出せないでいると兄ちゃんが先に問う。
こわいん?』
「…うん…でも、兄ちゃんが近くに居たら寄ってこないし消えちゃうのもいるから」
『ほんなら、オレと一緒にればええんちゃう?』
 サトシ兄ちゃんは服の裾を掴んでいた俺の手を服から離して握りしめる。平然として言う兄ちゃんに、もしものことがあると思うとそれも怖くて首を横に振る。
「っでも、兄ちゃんには見えてないんでしょ? 何かあったら怖いよ」
『何かありそうになったら声かけてくれたらええやん お前もるし、大丈夫やろ』
 どこからくる自信かは分からなかったけど、それよりも“俺が見えること”を否定しないサトシ兄ちゃんに恐る恐る聞いてみる。
「俺がみえてること、ウソだと思わないの?」
『ウソなん?』
「いや、ホントだけど…」
『ほな、なんも問題あらへんやん、行こか』
 俺の手を引いてゆっくり半歩前を歩く兄ちゃんにまだ信じられなくて繋いだ手をギュッと握れば、振り向いた兄ちゃんがボソッと言う。
『オレはなんも見えんけど、ツルるてうならるんやろ』
「えっ…?」
ツルうてることなら信じるうとんねん! 黙って隣歩かんかい』
 と言って握った手を引かれて隣を歩けば、そっぽを向いた兄ちゃんは唇を尖らせていて薄暗いトンネルの中なのに兄ちゃんのオーラのせいか、兄ちゃんの頬や耳は赤くなっているように見えた。
~~~~~~

 当時は“みえること”を信じてもらえた嬉しさがまさって他に何も考えていなかったが、そういえば「ツル」と呼ばれていたんだったと思い出す。

慧斗けいとって名前は毛糸けいとにも勘違いされそうだからって毛糸から連想される「鶴の恩返し」から取って「ツル」と呼ばれることに決まり、そう呼ばれていた。

 今思えば、イントネーションで「毛糸」って思う人は少ないだろうとか、なぜ「毛糸」から連想されるのが「鶴の恩返し」なのか「鶴の恩返し」は「毛糸」ではなく「糸」で織物をしていたはずだとか、そもそもなぜ違う呼び方で呼ぼうとしていたのかなど疑問はたくさんあるけれど、当時は年齢が近く親しい友達関係を築けるだけで嬉しかったから呼び方などこだわってはいなかった。

サトシ兄ちゃんは“自分はえないけど、視えると言う人がいるなら、存在するのだろう”と“居ることを信じる”と言った。
先輩はどうなんだろう…見るからに非現実的なものや科学で証明されていないことを認めない現実主義者みたいだから「おるわけないやろ、んなもん」とか言われるだろうな…それならそれで“サトシ兄ちゃんとは違う点”として挙げられるから嬉しいんだけど

 そんなことを考えながら、負けじと先輩と見つめ合って数秒。シャワールームから木崎さんが出てくる音がする。先に視線を逸らした先輩は興味なさげに答えた。

るって言う人が視えんねやったら居るんちゃうか、俺は見えんから信じてへんけどな」
「は…?」

なんでそういう思わせぶりな返答をするのか…