BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.13 )
日時: 2022/01/31 17:12
名前: みっつまめ (ID: kI5ixjYR)


「は?ってなんやねん 答えてくれた優しい先輩に失礼やろ」

 無表情のままの先輩に頭を軽くはたかれる。全然痛くないけど、頭を叩く必要のなさについて聞けるほど今の俺は余裕を持ち合わせていない。

「いやいやいや、はい? 結局先輩は見えないから信じないってことですか?」
「そーや、幽霊は居らんやろうけど居るって言う人間は見えてるから信じるっちゅーことやな」

それは“幽霊が居るってことを信じる”って意味じゃないの?

「…っもぉ~ワケわかんないんですけど」

 先輩の回答に困惑して頭を抱えると先輩は立てた片膝に肘を置いて頬杖しながら「要約すると」と続けた。

「俺は自分の目で見えてるもんしか信じんちゅーことや」

 顔を上げれば、愉快そうに俺を見下ろしている先輩と視線がかち合う。俺をからかって楽しんでるように見えるその表情にムッとする。それ以上言葉を発さない先輩の様子から「お前はどうなんや」と問われているみたいで、俺も仕返しに笑顔で返してやる。

「へぇ~奇遇ですね、俺もそうなんですよー」
「なんや、意味深やなぁ」
「先輩と同じこと言ってるだけじゃないですかぁ」

 ニコニコ笑顔で返せば、先輩はまた無機質な無表情へ戻り俺をジーッと見てくる。その逸らされないジト目が、ついてもいないのに俺に嘘をつくなとチクチク刺さってくる。そのうえ沈黙されると変な冷や汗が出てきて、今度は俺が視線を逸らす番だった。

「…あの、あんまり真正面から見つめられると恥ずかしいんですけど」

 顔を逸らして焦りを隠すために笑いに変わりそうな台詞を言えば、先輩の腕が伸びてきて俺の頭に触れる。突拍子もない行動に柄にもなくドキッと心臓が跳ねる。驚きで言葉が発せないでいると先輩の手は俺の髪をかき分けながら頭を撫でつける。

「イケメンのくせ、見られただけで恥ずかしなってどないすんねん 髪ボサボサやで」
「…先輩よりボサボサじゃないんで」
「お、喧嘩うっとんのか?」

 いつもより少しだけ落ち着いた口調で話す先輩が俺の頭を優しく撫でている事実に頭が真っ白になる。先輩の頭をいじればいつも通りの口調と言葉が返ってくるのに、すぐ傍に先輩がいると思うと俯いた顔が上げられない。
 だからといって「近い」なんて言えば、先輩を変に意識してるって思われるのも嫌だし、先輩から“からかうと楽しいオモチャ”扱いされたら何を言ってしまうか分からない。
 行き詰まった俺に一筋の光が差し込む。

「おっ、なんだ、慧斗まだ居るじゃねーか」

 下の階から聞こえた木崎さんの陽気な声にハッと我に返り、目の前の清水先輩を突き飛ばして立ち上がる。口早に「もう帰ります」と言えば、ベッドに手をついている先輩から「声でか」と聞こえてくる。そのまま下の階へ階段を足早に降りていると、慌てていたからか階段を踏み外した。

「うわっ!」

 しまったと思ったときには遅く、体勢が崩れて顔面から床に強打することに備え、目をギュッと瞑った。

 しばらくしても顔を床にぶつけた痛みが襲ってくることはなく、床の冷たさもない、にも関わらず顔には何か暖かいものがあたっている。

「あっぶなかったな~、大丈夫か? 慧斗」
「…木崎さん」

 なんとたまたま階段下に居た木崎さんが俺を抱き留めてくれたらしく、俺の顔面は木崎さんの胸板にぶつかったらしかった。危機一髪、安堵のため息を零せば俺を離した木崎さんから「怪我はないか?」と問われ足首を捻って確認する。痛む箇所もなく木崎さんにお礼を言う。

「平気です、木崎さんのおかげで痛むところもありません。 ありがとうございま」
どんくさいやっちゃなぁ」

 俺の言葉に被るように上の階から先輩の呆れた声が聞こえ、またカチンとくる。遠回しにでも先輩をディスってやろうと清水先輩に聞こえる少し大きめの声で木崎さんを褒める。

「ほんと、木崎さんがムキムキに鍛えてくれてたおかげで俺が助かりました~、きっと細くて筋肉足らなかったら結構身長もある俺を抱き留めるなんて無理ですもん 共倒れしてますから~」
「え、そ、そうか?」
「そもそも慌てて駆け下りんかったらそんな事態にはならんやろ、なにがあってん」

 褒め言葉を素直に受け取る木崎さんに、俺の攻撃なんて微塵もあたってない様子の先輩からは慌ててたことも気づかれてて、その原因はなにかと聞かれる始末。ぐうの音も出ないこの状況から一刻も早く逃げ出したい。

「そういえば明日提出の課題、まだ終わってなかったの思い出したんで、失礼します」
「おう、それなら早めにやらねぇとな!」
「…分からんとこあったら手伝おか?」

 「頑張れ」と応援してくれる木崎さんと違って、小馬鹿にしてくる清水先輩に「分からないとことかないんで!おやすみなさい!」と叫ぶように大声で言って先輩たちの部屋の扉をバンッと閉める。
 静かな廊下に出ると、落ち着くことができて先程までの自分の言動に後悔する。はぁ~と深いため息をついて先輩たちの部屋の扉を背にその場にうずくまる。

サトシ兄ちゃんと清水先輩の違いは1つあった
清水先輩は、すごく意地悪だ、口も悪いし、俺にアホアホ言う
あんなに似てるのに、やっぱり…違うのかな?
先輩の前では冷静で居られない自分が嫌だ。あの琥珀色の瞳でジッと見られると緊張するし、俺から寄るのはいいけど寄ってこられると息が詰まる。感情的になって先輩の台詞1つにイライラしちゃうし行動1つにショックも受ける

 感情的になって声を張り上げたのなんていつぶりだろうかと考えていると冷静を取り戻せて、立ち上がっては自室の扉を開いて帰った。