BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.14 )
日時: 2022/02/06 20:25
名前: みっつまめ (ID: BEaTCLec)

 部屋に帰ると俊介の周りをウロウロしている少女が机に座っていて、楽しそうに足を揺らしている。俊介のベッドを見れば、俊介は顔の横にスマホを置いて口を開けて寝ていた。大方、スマホを見ながら寝落ちでもしたのだろう。
 上の階へ続く階段を上がっていると少女に声をかけられた。

“ねぇねぇ、お兄ちゃんはアタシのこと、みえてるよね?”

 さっき目が合ったから少女は当然のことのように聞いてくる。チラリと俊介を見て、起きる気配がないことを確認すると小さめの声で会話する。

「そうだね」
“会話もできるんだ! 嬉しい! みんなアタシを無視するし、アタシのこと、みえる人がいても…みんな走って逃げちゃうの…”

 自分のベッドに腰掛けると隣に座る少女。
 確かに、幽霊はみえる人の方が数少ないし、悪戯好きのが居たり恨みや妬みでこの世に留まっているモノも多いから、それの被害に遭った人は幽霊を“怖い”と思ってしまうのも無理はない。実際は、何か思い残すことがあって留まっている霊も居れば、帰る場所も分からず彷徨い続けている霊だって居るから上へ導く手伝いをたまにしている。

「キミ、なんて名前なの?」
“…わからない、なんて呼ばれていたのか、思い出せないの”
「そっか、お父さんとお母さんは?」

 少女は首を横に振る。明るい花柄のワンピースを着た少女の腕は肩から肘にかけて少しだけ黒い。腐敗しているというよりは汚れに近い。

「ここ、少し黒いね、なんの汚れ?」
“えっ?…あ、ほんとだ、なんだろ”

 黒い汚れについて聞いても、初めて気づいた反応で少女は不思議そうにしている。最近、この学校周辺で起きた事故は聞かないし、俺がここに来る前に亡くなっただと思われる。大きい損傷が見当たらないから虐待や火災による死は可能性が薄い。服も濡れてないし肌も普通、川で溺れたとも考えにくい。恐らくは事故死、であるし、腕の汚れはきっとタイヤ痕だろう。小学校低学年ぐらいの歳に見える少女の記憶がほとんどないことからも車に轢かれ頭が潰れたとも考えられる。でも、そんな少女がなぜ俊介に懐いているのか。

「ねぇ、どうしていつもあのお兄ちゃんの近くに居るの?」

 下の階でグーグーいびきをかいて寝ている俊介を指さして問えば、一度俊介の方を見た少女はこちらを向いて嬉しそうに話す。

“あのね! アタシ、家の場所が分からなくて、信号がね、青になってもそこから動けなかったの…そのときね、あのお兄ちゃんがアタシの居るところに、お花を置いてくれたの! そしたら動けるようになって”
「お花かぁ…」
“うん! お兄ちゃん、あのボール蹴りながら離れていくからアタシお花のお礼がしたくて、ついてきたの”

 少女の指さした先には階段下のサッカーボール。
 少女の話を要約すると、少女は亡くなった場所、横断歩道信号近くから動けないでいたところ、サッカーボールで恐らくリフティングをしていたであろう俊介がたまたま通りかかり、何かしらの理由で少女のいるところに花を添えたと思われる。少女は自分の存在に気づいてくれたと嬉しくなったのか、花のお礼がしたいと俊介についてきたと言う。

「お礼って、どんなこと?」
“守るの! お兄ちゃんに何も悪いことが起こらないように、アタシがお兄ちゃんを守るの!”
「うーん、でも、それじゃあキミはずっとひとりだし…寂しくない?」
“…ひとりじゃないよ! だってお兄ちゃんはアタシがみえるし…”
「うーん、でも僕が視えること、あんまり知られなくないんだ」
“どうして?…アタシがみえるのも、嫌?”
「好き嫌いって言うより、みえるってだけで悪者みたいに思われることもあるからだよ」

 基本的には視えない人からすれば、視える人の発言は嘘でしかないし、自分を脅かす存在は自分を傷つけるために存在する物と同等で、視えるってだけで敵意を向けられることだってある。反対に視えるってだけで利用しようとする人だっているんだけど、少女にわかりやすく伝えるためにはこう言うしかなかった。
 黙ってしまった少女の本来の目的は、俊介におれいがしたいということだ。守ることが出来ない代わりにお礼が出来る手段があるのなら少女も成仏できるはずだ。きっと親御さんも少女の若くして亡くした命に悲しんでいるはずだ。

「ねぇ、感謝を伝えたいなら他の方法を試してみるのはどう?」
“ほかの方法?”
「うん、たとえば物をあげるとか」
“でもお兄ちゃん、アタシのことみえないし…”

 俯く少女に提案する。

「僕が代わりに渡してあげる、キミからの感謝の気持ちってことで」
“ホントに!?”
「うん、だから今度あのお兄ちゃんと初めて会った場所に案内してくれる?」
“うん! あの道ならね、覚えてるの!”

 喜びを体で表現するように一階と二階の階段や床を飛び回る少女に微笑む。嬉しそうにしているが、まだ小さい子どもだ。親が居ないことを寂しく思うことだってあるはずで、家が分からず帰れないだけで本当は親に会いたいし、帰りたいはずだ。少女と会った場所を俊介が覚えているかは分からないが、少女からの贈り物を俊介に渡す日に一緒に行くのがいいだろう。贈り物をどうするかも少女と相談する必要がある。だが少女は贈り物を渡すまで俊介の傍から離れない感じがする。俊介も連れて歩くしかなさそうだ。そうと決まれば…

「今度の日曜に感謝のしな買いに行こうか」
“うん! お兄ちゃんと三人で買い物! 楽しみ!”
「さあ、そろそろ僕も寝ようと思うよ」
“おやすみなさい!”
「うん…おやすみ」

 一階に降りていく少女を見送り布団を被って目を閉じる。