BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.24 )
- 日時: 2022/05/23 03:01
- 名前: みっつまめ (ID: 8pAHbekK)
俺は10年ほど前、事故にあって以降、日記に綴られた〝鶴 〟という子の記憶だけがポッカリとなくなった。
兄貴が言うには、その日は雨で、学校から帰ってきた俺はカバンを部屋に投げ捨てて傘をさして、いつも通り外に遊びに出かけたらしい。
その1時間後、俺が事故にあって病院に行くことを両親から知らされたと話していた。
なんでも、家主が無くなり廃墟化していた建物の敷地に入り、朽ちた外壁の木柱が目の前に落ちてきたことに驚いた俺は転んで、転んだ拍子に、飛び出ていた岩に後頭部を強打したらしい。
それを、たまたま一部始終見ていたオッサンが言うには、俺は「黒猫を追いかけて敷地に入って行った」とのこと。
だが、俺自身も家族ですら、猫にそこまで執着がないため当時の俺が何故黒猫を追いかけたのかは未だ謎だ。
その後、退院してからも少女と会うことはなく、俺は親の都合で2年おき又は3年おきに転校を繰り返した。
当時、担当してくれた医者は「特に大切にしてた物とか出来事とか人とか、何かしら失っている可能性は否めません、が、ご両親やご兄弟のことは覚えていますし、勉強にも問題ないようであればご心配はないかと」と適当めいたことを言ったようだ。
確かに、身内の事や授業で習った事、読んだ本や観たアクションドラマも全て覚えていて私生活になんの支障も無かった。
ただ、心残りがあるとすれば彼女のことについてだった。当時綴られた日記を読めば彼女との思い出ばかりで、それが俺にとって〝 特に大切にしていた出来事や人〟だったとすると、忘れたままにするのは納得できなかった。
あれからずっと、心のどこかに穴が空いてるような感覚で、日々の生活は楽しかったり驚きがあったりするが何か物足りなく感じてしまう。
この学校を選んだのも、俺が記憶を失くした地域に1番近い寮付きの学校だったから。
何かしら手掛かりは必要になるはずな為、実家から当時の日記を持ってきてたまに読み返す。
そんな中で、写真が出てきたのは大きかった。
何故、この写真を結衣が持っているのか。
「……これ」
「聡志に会いに行く言うたら、これ渡してっておばさんが…」
結衣にとってのおばさんは、自分の母親のことと理解出来た。その写真を受け取って、まじまじと見つめる。
写真に写る黒髪青眼の美少女は確かに俺の初恋の人かもしれない。けど、記憶が無いから断言出来ない。一緒に遊んだ記憶も会話をした記憶も、写真としてこうして残っていても思い出せない。ただ、幼少期に書いた日記に綴られた、鶴って子との楽しい時間や将来自分が彼女を守ると決めた当時の想いに、どんな子だったのか、今はどうしているのか、1度だけ会って話したい。ただそれだけの為に、ずっと捜している。
写真を見つめたままの俺に結衣は続ける。
「…鶴ちゃんに会えたん? この学校入ったら会える気ぃする言うて家出たって聞いたけど、おった?」
「…まだ…そっくりなんは居った」
「っ、ほんなら、その子で決まりやん!」
「そいつ男やで」
「分からんやん! 鶴ちゃんかもしれんやろ? 名前は?」
「名前に鶴は、いっこも入ってへんかったわ」
結衣は俺の返答に分かりやすく肩を落とした。