BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 不器用なボクら 【創作BL】 ( No.7 )
- 日時: 2022/01/23 04:25
- 名前: みっつまめ (ID: Btri0/Fl)
菊池 俊介side
慧斗が転入して2ヶ月ほどが経った。同室で過ごす上で特に不満は無かった。慧斗は自室に居るときは、基本あまり動きたがらず自分のベッドで横になっているか俺の勉強机の近くに置いてる椅子に座って俺の漫画を勝手に読んでいたり、疲れた日なんかは上にあがる気力が無いからと俺のベッドで寝こけていたりしたこともあった。
間延びした口調やゆったりしたマイペースな動きが争いを好んでいるようには見えず、自分と同じタイプだと思うと嬉しいし、何よりあの柔らかく崩れる笑顔が人をダメにするみたいに怒りも吹き飛ばしてくれた。
そんな慧斗は最近よく自室から出て行くことが増えた。寮生活に慣れてきたこともあるからだろうと思っていたが、どうやら向かう先は俺たちの部屋の向かい側、清水先輩と木崎先輩の部屋が大半らしかった。らしいって言うのは寮生が部屋に入るところを見たと口々に言うからだ。やましい事があるとか慧斗の動向が知りたくてとかじゃなくて、消灯時間に慧斗が居ないことが多くて俺が探し回ることが増えたせいで寮生が慧斗を見かけると「アレしてた、コレしてた、ドコドコにいた」と消灯時間関係なく報告してくるようになったからである。その寮生の中には「イケメンと仲良くなりたい」なんて考えてる奴もいるもんだから「イケメンは大変だな」と同情するレベルだ。
でも気になるのは、なんであの2人の先輩の部屋なのかって事。慧斗は入寮の初日に「人違い」で清水先輩に声をかけていたし、いくら見た目がそっくりだからってそんな性格も合うから一緒にいるなんてことあるか? いや、木崎先輩と仲良くなってるならまだ分かる。って言っても木崎先輩も筋肉バカなとこあるから細くて筋肉の少ない慧斗が自分に懐いているとあらば「一緒にランニングに行こう」とか「ダンベル、持ち上げてみないか?」なんて言いそうだし、筋肉ムキムキってわけでもない慧斗を見ると…やっぱり清水先輩に会いに行ってると考えるのが妥当だ。
ひとり自分のベッドに腰掛けて両膝に肘を乗せて悶々と考えているとシャワールームから下着のみを履いた状態の慧斗がタオルで髪を拭きながら出てくる。「ふぅ~」と大きく息を吐きながらゆったりとしたTシャツを着てズボンを履く。お湯を浴びた後の頬がほんのり赤く染まり拭いきれなかった滴が髪から顔の輪郭に沿って首筋を流れる。なんだか良い匂いがしそうな白い肌に少しだけ暗めの青い瞳が俺を見た。
「…水も滴るイイ男…」
「え?」
呟くように零れたどこかで聞いたことある言葉は慧斗には聞こえなかったらしい。俺が見ていたことを全く気にも留めず首にかけたタオルで髪を拭きながら俺の目の前を通り部屋を出ようとドアノブに手をかけた慧斗に思わず声が出た。
「あ、慧斗!」
「ん?」
「どこに行くんだ?」
ドアノブに手をかけたままこちらを向く慧斗に「どこに行くか」なんて分かっているけど聞いてしまう。当然のように慧斗の口からは「先輩の部屋」と返ってくる。「先輩って誰だよ」なんて質問は愚問でしかなくて、他の質問を頭で必死に考えた。
「先輩の部屋って……え、な、なにしに?」
「…ドライヤー借りに行くだけだけど、俊介も何か用があるなら伝えておこうか?」
「あ、なんだドライヤー…ドライヤーね、ははっ」
「俊介?」
「あぁ~…そうそう、俺もこのあと風呂入るし、ついでだからドライヤー借りてきてくんね?」
「ん、りょーかい」
そう返事をした慧斗は今度こそ部屋から出て行った。何をしに行くか聞いたとき、どんな返事が欲しかったかは考えてなかったけど「ドライヤーを借りに行くだけ」と返事が返ってきたときは、なぜかとてもホッとした。そういう理由なら行っても良い…じゃあどういう理由なら行ってほしくないのか。
俺は頭を左右に振ってその先を考えるのはやめた。
頭につけたカチューシャを外して勉強机に置けば、下着だけ持ってシャワールームへ向かった。
シャワーを終えて、びしょびしょのままシャワールームから出る。
「けぇーとぉ~?」
慧斗を呼んでみるが返事が無い。下着を履いてチラッと上の階を見上げるが人の気配は無く、まだ帰ってきていないことが分かる。衣服ケースから出したタオルで髪と体を軽く拭いて服とズボンを身につける。
そういえば、ドライヤーって来間先輩も持ってたよな?
と思ったが、慧斗がすぐ帰ってくるだろうと思うと入れ違いになっても面倒になるため、大人しく慧斗を待っていようと自分のベッドへ横になって暇つぶしに携帯端末でゲームをする。
だがそれも一時。
慧斗と初めて会ったときは「すげーイケメンが来た」って思った。清水先輩との通称「兄ちゃん事件」もあのときは「慧斗の人違い」で話は終わったけど、そもそも「サトシ兄ちゃん」って誰だよ、と考えてみるとなんだか心臓の付近がモヤモヤしてくる。慧斗は授業中にもボーッとして別のところを見ていたり、何も無い方向を向いてブツブツ言ってることがあったから、正直「あれ、こいつちょっと変わったところのあるイケメンなのかな」って思うときもあったけど、話してみれば普通で社交的なイケメンだった。
今までは、こんなに深く考えるまで疑問に思うことは無かったけど、思い返してみると慧斗はやっぱりなんかちょっと変で、なにか隠してるのかもしれない。
何を隠しているのかは分からない、何も隠していることは無いかもしれない
そうなれば、そうなったときに謝れば良いだけだ
俺にこれ以上を考える頭はないし…もう慧斗が帰ってきたら直球で聞いてみるしかないかー…
慧斗を待つ間に何かやろうという気にもならず、ひたすら時計の秒針が動く音を聞きながら仰向けで天井を眺めた。