BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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【オリ】 そでふり合うも 【BoysLove】
日時: 2015/12/08 12:59
名前: 伊京-カナハジメケイ- (ID: uumkjDES)

オリジナルのBL小説になります。


あ、初めましての方もそうでない方も今日和。
主に忍たまで二次創作を書いています、
カナハジメケイです。


今回は一年程前に書いた作品を上げさせていただきます。


はっきり言って僕は駄作者なので、
期待はしない方がいいと思います・・・


かなり小難しい話になっている為、
分かりにくい表現など至らぬ点もあると思いますが、
温かい目で見ていただけたら幸いです。


それでは、早速参りたいと思います。


そでふり合うも、スタートです。



追記
雑談スレとかもウェルカムです!!
語りたいだけ語っちゃって下さい!!

プロローグ ( No.1 )
日時: 2015/12/08 12:37
名前: 伊京-カナハジメケイ- (ID: uumkjDES)

其の時は、ただ服の袖が触れ合っただけだった。
擦れ違い様に偶然、ふと触れただけ。




『其れなのに』




其れなのに何故、惹かれてしまったんだろう。
其の横顔に、髪に、瞳に。
まるで昨日の事の様に思い出せる、遠い記憶の中の衝動と強烈な刺激。
そして又、俺は出逢ってしまった。
横顔、髪、瞳......。
あの時と同じ様にして、あの時と同じ衝動と、痛いほどの、刺激に......。







『そでふり合うも...』
write:伊京-カナハジメケイ-





設定 ( No.2 )
日時: 2015/12/08 12:52
名前: 伊京-カナハジメケイ- (ID: uumkjDES)

*姫園山吹-ヒメゾノヤマブキ-
 高校生

 この小説の語り手です。
 そして攻めくん。
 ある日雪見橋の上で出逢った同い年の少年に恋をします。

 

*勅使河原染夜-テシガワラソメヤ-
 高校生

 受けくんです。
 山吹が恋をしたお相手の子。
 可愛らしいよい子です。



*猟谷伊周-カリヤコレチカ-
 高校生

 山吹の友人で良き理解者。
 染夜とも仲良しになります。
 出番はかなり少ないw



*甘粕なる-アマカスナル-
 高校生

 山吹の中学時代の彼女。
 高校生になって学校が離れ会っていなかったけど、
 ある日再会してしまいます。
 二人の関係を邪魔する18782。




設定らしい設定ってありませんね苦笑
作品の中から皆のことを知ってもらえると嬉しいです

因みに皆同い年です!

〜第一夢 韓紅の橋の上〜 ( No.3 )
日時: 2015/12/08 12:55
名前: 伊京-カナハジメケイ- (ID: uumkjDES)

〜第一夢 韓紅の橋の上〜

此処は...何処だ......?
ガス灯が見える...。脇を人力車がすり抜け、馬車が風を切っていく。
嗚呼、帝都の町並みだ。
袴と編み上げたブーツ姿の女学生が、楽しそうに会話を弾ませながら横切っていった。
歩いている。俺は。止まっている訳でなく、何処かへと歩みを進めている。
行き場所は、とんと検討もつかないが、兎に角俺は、歩くのを止めなかった。
呉服屋に唐物屋、古道具屋...、賑わう店店を横目に、俺は少しゆっくりめに歩いた。
途中、橋に差し掛かる。赤く塗られた柵や手摺が、目に鮮やかだ。
其の橋も、俺は一歩、又一歩と渡った。
橋の真ん中辺りだったか......
向かいからやって来る女と、擦れ違い様に袖が触れた。
其の瞬間、俺は息を飲んだ。
陶器の様に滑らかで白い肌、少し寂しげに俯いた横顔、緑の黒髪と呼ぶに相応しい髪の毛は、何処か気品のある結い方をされていた。
何よりも一番に惹かれたのは、印象的な瞳だった。
夜の空の様な闇の色、見とれていれば吸い込まれてしまいそうだ。
俺は其の、ほんの数秒の出来事が、何分間もの長い時間に感じられた。
もう一度、女の姿を見ようと足を止め、俺は振り返った。
すると其処には.........





自分の部屋の天井があった。

「......夢?」

俺はムクリと体を起こす。
霞んだ目を擦りながら辺りを見回す。
俺はどうやら、夢を見ていたらしい。

「ったく...夢落ちか...」

寝惚けた自分自身に呆れて、俺は溜め息混じりに呟いた。
其れにしても、夢とは思えない位、現実味のある夢だった気がする。
周りの雑踏、移ろっていく風景、速く波打つ鼓動に、あの人の髪の毛、横顔、瞳......
全てが実際に体験した事の様に思えて仕方がない。
が、残念ながら俺は、しっかりと平成の此の世に生きているので、明治時代の記憶なんて、ある筈もなかった。

「......そういえばっ」

今は何時だ?
八時を過ぎていれば、バッチリ遅刻のペースだ。

「七時五九分......」

ギリギリで八時は超してなかったものの、超したも同然の時間だ。
俺は飛び起きてさっさと着替え、牛乳だけを胃に流し込んで鞄をひっ掴み、せかせかと家を出ていった。





「あーくそっ...間に合わねぇ」

走っても間に合わないのは解っていたが、少しでも早く学校に辿り着く為に、俺は全力で走っていた。
体力には幾らか自信があったから、此れ位は余裕と言う範囲に入る。
今は七月の真ん中。
明日を乗り切れば、もう夏休みだ。
未だ午前中とは言えど、きつい日差しが俺の背面から照りつける。
汗が首筋から伝った。
加えて此処等辺は、かなりの田舎だ。
見渡すと目に入るのは、田畑と、川と、ぽつぽつと並ぶ民家だけ。
影を作ってくれる大きな建物など、建っている訳も無かった。
そんなこんなで俺は、未だ青い稲穂が揺れる田園風景の中を右に曲がり左に曲がり、そしてまた右に曲がり...を繰り返した。
橋が見えてきた。
雪見川に架かるあの橋を渡れば、もう学校だ。
俺は更に加速した。

「...ん?」

橋に近くなるにつれ、橋の上に誰かが立っているのが見えてきた。
此の橋に誰かが居るなんて、珍しい事もあるものだ。
もう橋までは十メートルもない。橋の上の人物の顔も、はっきり見えてくる。
其の顔を見て、俺は驚くと共に、思わず息を飲んだ。
黒い髪に物寂しげな顔、そして......真夜中の闇の様な、漆黒の瞳......。
『夢に出てきた彼女』と、何から何までそっくりだったからだ。
ただ一つ、『彼女』と『コイツ』には、決定的に違う所があった。

(......?コイツ...男...?)

『コイツ』が『男』である、と言う点。
『コイツ』が『女』だったら、紛れもなく夢の中の『彼女』と同一人物だったろう。
しかし、至近距離で見る程、『コイツ』と『彼女』が同一人物にしか思えなくなる......。

(何だ、此の感じ...)

早くなる呼吸と鼓動、走っている所為だろうか?
いや、此れは少し違う。
頭の中が、ぼんやりと熱くなる感じ、強い刺激と衝動。
よく解らない感覚に、身体を支配されながら、俺は『ソイツ』の肩を掠めて雪見橋を走り抜けた。
ふと振り返る。
『ソイツ』は此方を向いていて、ほんの少しだけ笑った......様に見えた。





「.............。」

結局、俺は遅刻した。
担任に見付かって、小言も吐かれた。
けれども、五月蝿い中年女性の説教...と言うか愚痴はほぼ無視し、俺の頭は登校中の事を考えていた。
橋の上で擦れ違ったヤツの事。
改めて思い出してみる。
中性的で繊細な、整った顔立ち。
緩く癖のある少し長めの黒髪。肩の少し上位まではあったと思う。
何よりも、印象的な目。
吸い込まれそうな程黒くて、物寂しげな瞳に、俺は釘付けになった。
変な気持ちだ。
今まで他人に、こんな気持ちを抱いた事はない。
形容し難くて、掴み所のない霧の様な感情。
此れが何なのか、俺には解らなかった。

「ヒーメちゃんっ」

急に声を掛けられた。
振り向くと、其処にはニコッと笑顔を俺に向ける猟谷が居た。
猟谷が俺を『ヒメちゃん』と呼ぶのは、俺の名字が『姫園』だからだと思う。
下の名前は『山吹』。変わってるな、と自分でも思う。

「おう、猟谷か」
「どーしたの、ボーッとして?いつものヒメちゃんらしくねーぞっ」

猟谷は俺の肩をバシバシ叩いた。正直、痛い。

「...な、どうしたんだろうな、俺......」

自分がどうなったか、自分でも解らない。
いつもと違う自覚はある。
原因も粗方解っている。
其の原因が、どう作用したかが解ってないんだ。
猟谷が肩を叩くのを止めた。

「......?ホントにらしくねーな。何か悩んでンだったら、俺に言えよ?一緒に悩んでやるぞ」

いや、一緒に悩まれても困るんだが......
けど此れは、猟谷なりに俺を気にしてくれてるんだと思う。
其の気持ちが有り難い。

「サンキュ、いつか話すかも。」

少し口の端を吊って、俺は猟谷に笑い掛けた。
猟谷も大きく頷いてくれた。

「勿論...あ、そうだ。次の時間、生徒手帳使うらしいんだ。ヒメちゃん、持ってきた?」
「持ってきたも何も、生徒手帳は常に携帯してるものだろうが......」

俺はそう言いながら、スラックスのポケットを探った。

「あれ?無いな...胸ポケ?内ポケだっけか?」

身体中のいたるポケットを探るが、生徒手帳は何処にもない。
家を出る前に持っていた記憶は確かにある。
と言う事はつまり......

「生徒手帳、落としたかもしれない......」

行きにあれだけ急いでたんだ。
気付かなくても、落とした可能性は大いにある。

「えーっヒメちゃん、其れはヤバイよ個人情報だって書いてあるし」

猟谷の言う通りだ。
一刻も早く探しに行かなければ、誰かに拾われてしまう。
運良く学校か交番かに届けられれば良いが、持ち去られてしまったらひとたまりもない。

「ああ...。下校する時に大捜索するしかないな。」
「そだね。で、ヒメちゃん、次の時間なんだけど、担任だよ、担当」

猟谷に言われて気づく。
次は学活だ。担当は其々のクラスの担任。

「はぁ...また愚痴を吐かれるのか......」

案の定、生徒手帳をなくした俺は、担任の中年女性にグチグチと小言を吐かれたのだった。





第一夢 続き ( No.4 )
日時: 2015/12/08 12:57
名前: 伊京-カナハジメケイ- (ID: uumkjDES)

「まずいぞ...見つからない...」

汗だくに為って校内を探し回ったが、結局手帳は見付からず、俺は肩を落として帰路についた。
其処でもまた、手帳を探し歩く。

「あー......落ちてねぇなぁ...」

学校の周辺は、何処を探しても見付からなかった。
軈て、雪見川の橋に差し掛かる。
右を見て左を見て、何方の端にも落ちてないのを確認し、落ち込むのを繰り返した。
もうすぐ橋が終わる、と言う時、

「姫園...山吹......君?」

と、不意に前から話し掛けられた。
凛とした声に顔を上げる。
すると、目の前に居たのは......

「おまっ.........」

朝、調度この橋で擦れ違った『アイツ』だった。
憂いを帯びた闇色の瞳が、微かに笑む。

「此れ、君の?」

差し出された物に目をやると、ソイツが手にして居たのは紛れもなく、俺の生徒手帳だった。

「どうして、此れを......」
俺は、手帳を受け取りながら言った。

「朝、君が落として行ったから拾ったんだ。もしかしたら...また此処を通るんじゃないか、って思って」

微笑から、まるで大輪の花が咲いた様な満面の笑みに変わる。
眩しい笑顔、って恐らくこう言う事を指すんだろう。

「お陰で助かった、ありがとな」
「お礼を言われる程の事でもないから、ねっ?」

鈴のみたいに透き通った声が、鼓膜を擽っていく。
安らぎを覚えると共に、其れは俺の鼓動を速まらせる。
小刻みに心臓が鳴った。

「雪見高校...って、あの学校かい?」

奴が俺の背後に聳える校舎を指差して、訪ねた。

「ああ、其の通り。」

俺は振り向いて、白い四階建ての校舎を見上げ、答えた。

「へぇ......。夏休みは未だなんだね?」
「明後日から。暇な一ヶ月の幕開けだ」
「其れは僕も同じさ」

クスクスとヤツは笑った。

「そう言えば、此処等辺のヤツじゃないよな?何処から来たんだ?」
「東京から。祖父の家に遊びに初めて此処に来たんだ。此の歳で遊びに、って言うのも、変だと思うけどね」

『ソイツ』が微苦笑を浮かべる。
其の表情がとても綺麗だと、俺は素直に感じた。

「そうだ、僕の名前、教えてなかったね。僕は『勅使河原 染夜』。染夜、で構わないから」
「じゃあ改めて、俺は『姫園 山吹』」
「山吹、で構わないね?」

俺は首を縦に振り、了承した。
嬉しい、染夜は一言、そう言った。
しかし其処から会話は続かず、互いに互いの様子を見合ったりして、掛ける言葉が見付からない。
染夜はとうとう、俯いてしまった。
此れはまずい、何か話さなければ.........そうだっ...

「な...なあ明日...其の...時間あるか...?!」
「...え...?」

染夜は驚いた様に顔を上げた。

「いやっ...無いならいいんだ...別に...。会ってそんなに経ってないし...迷惑だった...よな......」

顔を上げた染夜の代わりに、今度は俺が下を向いた。
恥ずかしい、思わず積極的に為ってしまった。
他人に対して、こんなにも積極的に為ったのは初めてな気がする......。
コンクリートの灰色が目一杯に広がる中で、不意に染夜の顔が視界に飛び込んできた。
闇色の瞳が、優しく俺を見詰める。

「あるよ」
「.........は?」
「明日、時間あるよ、山吹...」

輝くばかりの笑顔。
夏の日差しに照らされる向日葵みたいだ。

「本当か」

俺は一気に顔を上げた。

「嘘ついて、どうするのさ」
「だったら明日、此処等辺の案内をさせてくれないか!?初めて来たなら、よく解らない事の方が、多いと思うし」

嗚呼、又此の感じ...
頭が熱くなって、鼓動が早まっていく。
全く...今日だけで何度目だろうか?

「君が学校終わってから、だよね?」
「午前終わりだから、此処で十二時半に待ち合わせで良いか?」
「勿論、待ってる」

やけに顔が近い。
もう少しでも近付けば、睫毛が触れ合ってしまいそうだ...。

「其れじゃ、」

はっ、と我に返る。
自分でも気が付かない内に、染夜に見とれてしまっていたらしい...。

「今日は此の辺で。此のまま炎天下の中に居たら、僕達溶けてしまうよ」

たたた、っと、染夜が高校の方面に駆け出していく。

「早く、明日に為って欲しいや」

其の一言を残すと、彼は振り向く事無く、ゆらゆら立ち上る陽炎の中に走っていった。

「...俺も同じさ......」

一人残された橋の上、俺はポツリと、そう呟いた。


〜第二夢 みるくほぅる〜 ( No.5 )
日時: 2015/12/08 13:15
名前: 伊京-カナハジメケイ- (ID: uumkjDES)

〜第二夢 みるくほぅる〜


漂う珈琲の香りと、薄暗い照明が俺を包む。
大きな蓄音機から流れる落ち着いた音楽が好きで、俺は此の、帝都東京の片隅にあるカフェに通っていた......んだと思う。
ドアに取り付けられたベルが鳴って、お客が来た事を知らせる。
何気なく振り向いて、俺は驚いた。
韓紅の橋で擦れ違った、『彼女』だったからだ。
浅葱色の着物を纏い、着飾っては居ないのに、其の姿には目を惹くモノがある。
『彼女』は俺を見付けるや否や、俺の側に駆け寄って来、隣の席に座った。
手に下げていた巾着から、何やらごそごそと取り出す。
そして手渡されたのは......なんと昨日から探していた、小さな手帳だった。
俺は其れを受け取り、感謝の言葉を口にする。
『彼女』も応えてくれる様に、上品に笑った。
闇色の瞳をスッと細くし、薄紅の唇の端を少し吊って、其れは美しく笑った。
其れから俺達は暫し談笑したが...内容はよく覚えていない。
ただ、誰かが俺を呼ぶ声がする。

「...メ....ん....」

其れは次第に大きく為り、遂に......





「ヒーメちゃんっ」

俺を現実へと引き戻した。

「っ...猟谷...いきなり脅かすな...」

どうやら俺は、早めに学校に着いて時間があったから、うたた寝をしてしまっていた様だ。

「うたた寝してたヒメちゃんが悪いちゅーか、やけに幸せそうな顔して寝てたけど、そんなに良い夢でも視てたの?」

猟谷が小首を傾げて言った。

「良い夢だったよ...俺的にはな」

俺は率直な感想を述べた。
きょとん、とした表情を、猟谷が浮かべる。

「ヒメちゃん的には?なんじゃそりゃ」

解んなくて良いよ、目を閉じて、俺は言った。

「ま、よく解んないけどさ。あっ、ねえねえヒメちゃん今日ヒマ?」
「何で?」
「今日部活ねーから、どっか行きたいなー、って」

白い歯を見せて、にっこり笑う猟谷には申し訳無いが、生憎今日、俺には用事がある。
破れない、大切な用事が。

「悪い猟谷、今日はちょっと用事が入ってるんだ」

すると猟谷は、あから様に落ち込んだ様子を見せた。
大袈裟に肩を落とし、大きな溜め息を吐く。

「えーー?!ヒメちゃんに予定が入ってるなんて、どう言う事?」
「こう言う事だ」
「なら残念、仕方無いねぇ〜...」
「ああ。悪いな、ほんと...」

猟谷とも久々に遊びたいと言う思いがある。
けど今日は、どうしても染夜に会いたい。

「染夜...」

猟谷には聞こえない様に、俺は小さく呟いた。





学校が終わり、俺は全速力で家に帰った。
背中を流れていく汗も無視し、照り付ける太陽の下を走る。
そうして飛び込んだ家の中は、天国の様に涼しかった。
電気代の事を此れっぽっちも気に留めず、朝からクーラーを付けっぱなしにして居た甲斐があった。
俺は適当に、食パンやら味噌汁やらどうしようもない滅茶苦茶な組み合わせで昼食を済ませると、私服に着替えて再び炎天下の外に繰り出した。
今度は流石に、クーラーの電源は切っていく。
何だかんだ急いで、今は正午。此れなら、歩いても余裕で、半には橋に着くだろう。
.........そう思った矢先だった。

「あれ?姫園じゃんひーめーぞーのーーっ」

俺は、何が何でも会いたくなかったヤツに、神の悪戯的な程の偶然で会ってしまった。
中学時代、所謂若気の至りと言うヤツで付き合って居た女子、『甘粕 なる』だ。

「あ...甘......粕........」
「超久々じゃん?かれこれ一年ちょっとぶり?」

やけに作っている様な喋り方と言い、明らか媚売ってますと言うオーラと言い、コイツは悪い意味で変わっていない。
出会ったあの一瞬は狼狽えてしまったが、更に会話を続けようとする甘粕を、俺は無視して歩き出した。

「無視なんて酷いぞ、姫園」

甘粕はそんな俺に構わず、後から追ってくる。

「ねえねえ、此れから何処行くの?アタシも付いていって良い?」

あの頃のウザい性格も、まるで変わっていなかった。
何で俺は、こんなヤツと付き合ったりなんかしていたんだろう?
中学時代の自分を、心底罵ってやりたい。

「却下」

一言吐き捨てて、歩く速度を上げる。
が、甘粕は小走りで俺の横にぴったりと付いてくる。

「そんな事言わないで♪別に良いでしょ?」

俺に拒否権はないのか

「駄目だ。付いて来るな」
「固い事言わないの!」

全く、此の頭の使えないヤツは『退く』と言う行為を知らないらしい。
結局其のまま、俺は甘粕を無視して歩き続けた。
雪見橋が見えてくる。
雪見橋の上には、もう既に染夜が立っていた。

「染夜っ」

染夜に声を掛けながら、俺は側に駆け寄った。

「待ったか?」
「全然。むしろ、僕の方が遅いと思ってた」

染夜は涼しげにはにかんだ。
夜空の瞳、靡く黒髪、染夜の全てが綺麗だ。
鼓動が速くなっていく......。
此の癒しの瞬間をぶち壊したのは、如何にも作っている様な、あの声だった。

「姫園ってば、速すぎ」

甘粕、コイツの声だ。

「?山吹、此方は?」
「赤の他人だ、気にすんな」

甘粕を切り捨てて、まだアイツの事が気になる様子の染夜の腕を取り、スタスタと歩き始める。
強引過ぎただろうか...少し驚いたみたいだったが、染夜は俺に引かれるがままに、素直についてきてくれた。
華奢な腕、細い手首、誰かに守られていないと、壊れてしまいそうだ。
肌は白くて、スベスベとしている。
夏なのに、汗をかいている感じが殆ど無い。

(磁器人形-ビスクドール-か、コイツは)

本気でそう思った。

「あの...山吹」
「どうした?」
「腕...」
「え?あっ、悪い」

染夜に言われ、俺はずっと握りっぱなしだった染夜の手を離した。

「悪い、少し強引だったよな...。痛くなかったか?」
「うん、平気。ちょっと驚いちゃって...ああ言う風にされたの、初めてだったから」

友達って、こんなモノなんだね、ポツリと染谷が言った。
染夜を見る。
染夜は耳の先を真っ赤にさせていた。

「と、ところで...」

染夜が話題を変える。

「此の娘...どうするの?」
「?...うわっ」

染夜の後ろに隠れていたのは、

「...甘粕......」

何処までも俺をストーキングする気満々の甘粕だった。

「っ〜.....はぁ...。勝手にしろ」

俺は再び、染夜の手を引き、そして甘粕をほったらかし、目的地に向かって歩き始めた。



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