BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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【BLNL】科学部の奴ら【オリジナル】
日時: 2016/01/09 07:47
名前: 滅子 (ID: XH8153kn)

言わせてくれ、タイトルは狙ったわけじゃない。
のんびりとした心の機微を書いていきたいと思います。ドラマティックでメルヘンチックな展開は少なく退屈かもしれませんが、どうぞ。

注意!
下の人たちは全て高校生ですが、喫煙・飲酒などの表現があります。
今の日本では未成年が喫煙・飲酒をすることは犯罪です。やめましょう。

登場人物紹介

司司戸為義 ししどためよし 182cm 80kg
ムキムキのパツ金おにーちゃん。体脂肪率は12%。外人顔のイケメン。まゆぶと。医学部志望で頭も良い。しかし、釣った魚に餌をやらないどころか釣った魚を餌にして他の魚を釣るようなので、今までの彼女は9割が三ヶ月未満で終了した。満と出会って少し治る。見栄っ張り。面倒臭がり。偏差値は79。
部員で家族を構成すると、上から二番目の、優秀ないけ好かない長男のような立ち位置。

安治川満 あじがわみつる 175cm 70kg
色白ぽっちゃり体型の眼鏡男子。髪の毛は縮毛矯正をかけているためサラサラ。この中では一番お洒落に気を使う男子。女子受けはいいが没個性的な服を好む。八方美人で人から嫌われることを怖がる。しかし、それが表に出ることは少ない。度が強いメガネをかけているため普段は分からないが、外すとくりくりした丸くて可愛らしい目をしている。コンタクトにしたこともある。偏差値は65。
部員で家族を構成すると、情けないが心優しい父親のような立ち位置。

六脚あづみ ろっきゃくあづみ 165cm 63kg
色白で肌がぷにぷにしているが、体脂肪率は25%と意外と低い。Fカップ。初対面の人など、他人に好かれることに重きを置いていないため、ぶっきらぼうに写ることも多々ある。ロリィタファッションを好む。独特な価値観をしているため、部員と衝突することもしばしば。運動は出来ないが、偏差値は76。
部員で家族を構成すると、一番上の自由きままな長女のような立ち位置。

平和佳寿成 ひらわかずなり 165cm 52kg
身長が低いことを気にしている。かなりの痩せ型。フランクでフレンドリー。朗らかでよく笑う。身長と相まって幼そうに見えるというか、まあ、純粋でいい奴である。自他共への好意に気付きにくく、自分に関する色恋沙汰にはとかく鈍感。しかし一度相談されたりすれば、わりと的確に捉えアドバイスをくれるが、そこから人間性への説教が始まることもある。偏差値は67。
部員で家族を構成すると、誰からも好かれる無邪気な末っ子の立ち位置。

依古島嘉一よこじまかいち 169cm 55kg
ベビーフェイスと色白肌と長いまつげで数多くの男女を無意識のうちに落とした美少年。しかし本人はそのことをコンプレックスに思い、マスクを常時つけている。佳寿成と幼馴染で、佳寿成のことを誰よりも慕っている。人見知り。偏差値は70。
部員で家族を構成すると、上から三番目のマイナス思考で保守的な次男。

元善絆 もとよしきずな 158cm 55kg
丸い円を描いたボブヘアで、前髪も丸いシルエットに切り揃えた、卵のような不思議な髪型。顔は平均的だが鼻が小さいので、メイクの腕を生かして美人になれる。Bカップ。原宿系ファッションを好み、デコラ、ネオロリ、その他もろもろを着る。本能で生きるため、地雷を踏んだら一週間家から出られなくなる。反面乙女チックで夢見がちな面もある。どこぞの家元のお嬢様のようだが、本人はそれを明言しない。薺に対しては、甘えたり突き放したりと不安定な愛情をもつ。偏差値は85。
部員で家族を構成すると、下から2番目の奇天烈爆弾次女。

元善薺 もとよしなずな 162cm 57kg
絆の腹違いの兄。絆と同じように個性的な髪型で、サラサラのぱっつんの髪を表面黒、内側サーモンピンクで染めるという、塩鮭ヘア。妹の絆と同じく変人で思考が読めないが、実はそれは自分を除いたみんなが上手くやれるように仲良くできるようにと熟考した結果の行動であることが多い。複雑な家庭だが、絆は可愛い妹であり、並の兄がもつ妹への愛情と変わりない。偏差値は65。
部員で家族を構成すると、皆んなの幸せを願う優しい母親。性別?知るか!

牡蠣沢龍太郎 かきざわりゅうたろう 185cm 75kg
ひょろひょろノッポの眼鏡好青年。切れ長の目と響く声、真面目でクールな性格はサブカル女子に大人気。しかし中味は物理オタクであり、付き合った女が次から次へと離れていく。運動ができるが筋肉は人並み。親がエリート。幼い頃からなんでも出来る故か、常時他人を見下す傾向がある。しかしあからさまに侮辱などすることはない。上から目線で見栄っ張り。しかし根っこはデリケートで平和主義。自分にないところを持つ絆に惹かれ、科学部に入部した。偏差値は75。
部員で家族を構成すると、参謀格で鶴の一声、プライドの高い祖父。

Re: 【BLNL】科学部の奴ら【オリジナル】 ( No.5 )
日時: 2016/01/05 18:35
名前: 滅子 (ID: XH8153kn)

>>3
小悪魔様

はい、そうです。実はこの物語は、私が体験した実話をを交えた八割フィクションとなっております。(私はあづみですが、あづみの外見はとても美化していますので実物ではありません。いいじゃない夢見たって。)
為義のモデルになった彼氏もといライバルは、ドラクエだけでなくファイナルファンタジーのデータも消しました。部活の発表会のデータさえ消しました。あのときばかりはキレました。

Re: 【BLNL】科学部の奴ら【オリジナル】 ( No.6 )
日時: 2016/01/05 16:04
名前: 滅子 (ID: lQjP23yG)

「満、あたし、あんたが好き。」
六脚あづみは真っ直ぐな目をしていた。真っ直ぐ、自立した目をしていた。俺の、ふらふらして、よっかかりぱなしの目とは大違いだ。
「嘘だろ。」
「ほんと。」
昼下がりの、物理講義室。
Angelic prettyのクラシックフェアリーテイルのワンピース、カチューシャ、オーバーニーに、ティーパーティーシューズのブラウン、BABY,the stars shine brightのmignon patit banbi ケープ。茶色でまとめた、シックなコーディネートだ。基調になったのはクラシカルな花柄。可愛らしいバンビが、ふっくらと膨らませられたスカートを一周して、ぐるりとプリントされている。
「ずっと前から。だから満のこと何でも知ってるとは言わないけど、大体のことは分かるよ。」
「誕生日は?」
「馬鹿にしてるの?8月8日」
涼しい顔をして六脚は答えた。
「親父の名前は」
「誠」
「一学期期末テストの物理の点数は」
「63点」
冷や汗が垂れてくる。
「昨日着ていたスウェットパーカーのブランドは」
「WEGO」
「去年の理科研の題材は」
「摩擦係数を測ってみよう」
俺は目をかっ開いて、震える声で尋ねた。拳を握りしめる。
「俺の、恋人の、名前は。」
六脚は変わらない調子ではっきり述べた。
「司司戸為義」
手から力が抜けた。ディズニーストアによっかかっていなければ、間違いなく倒れていたと思う。
「あ、あと、六脚あづみも。」
六脚は相変わらずの無表情だ。
「…六脚。」
「なに」
「為義のこと、誰にも言ってないよな。」
「まだ、ね。まだ。」
「どうやって知った。」
「知られたくないなら、講義室でキスしないでちょうだいよ。裏階段から丸見えよ。」
質問はもういい?と六脚は溜息をつくようにいった。人のプライバシーを思う存分侵害しておいて、失礼極まりないやつだ。しかし実際、六脚ならいいかと思っている自分もいる。
「あたし、今好きって言ったよね?」
「…ああ。でも俺は為義と…」
「口挟まないで。どっちが優位か分かってる?」
ひゅっ。喉が鳴って、言葉が詰まった。六脚は愉快そうにニヤニヤ笑っている。汗が頭皮と額とを覆い囲んで、ぽろんと顎からたれていく。握りしめた拳、手のひらに爪が食い込んで痛い。
「為義とのことバラされたくなかったら、あたしと付き合いなさい。」
屈辱。屈辱。屈辱。
屈辱だ。
「分かってただろうけどね。」
ひとしきり屈辱に浸ったのち、気づいた。
素直に喜んでいる自分がいる。六脚に愛されて、為義とのことを利用してまで愛を求められることに喜んでいる。腹立たしくて許せなくてしょうがないのに、嬉しくて許してしまいそうだ。誰かもわからないのに。
「じゃ、決まり。あんたに拒否権は、なし。」
屈託のない笑顔で俺を脅迫する。ニコニコ笑顔で人差し指を俺の鼻の前に持ってくる。
「満、安治川満、ふふふ。何泣いてるの。」
無慈悲すぎる人差し指が俺を射抜く、胸の奥から溢れる嫌悪感と背徳感!
優しそうに俺の涙をあざ笑う、フリルとレースの可愛い悪魔!
為義、ごめんなさい。お前のために、俺はこいつから逃げられそうにありません。ただ、愛されるのが心地よくて逃げる気がないのも事実でした。
「ぼろぼろじゃん、はい、ティッシュ。」
ただただなにもよくわからないまま、微笑む六脚にティッシュをもらってはなをかんだ。

Re: 【BLNL】科学部の奴ら【オリジナル】 ( No.7 )
日時: 2016/01/06 11:31
名前: 滅子 (ID: XH8153kn)

「満それ何食べてんの?」
「クイニーアマン。」
「それくれ!」
「はい。」
「よっしゃ!」
物理サークル。六脚は満からもらった食べかけのクイニーアマンを頬張っている。満も満で、あっさりと手渡した。カスタードクリームが六脚の口の端からはみ出している。
「あいつらあんなに仲よかったっけ?」
佳寿成が、ふっと気が付いたように漏らすものだから、手元が狂ってしまった。
「さあ?」
「まあ、あの2人は元々結構喋ってたからなあ。」


「あ、満ったらあんたに伝えてなかったのね。」
いつものように学校が終わって、いつものようにバスを待っていた。ちょっといつもと違っていたのは、隣にいるのが満ではなく、六脚だったことだ。
「あたしたち、付き合ってんのよ。」



「どういうことだよ!」
為義は思いっきり俺の肩をつかんだ。爪のあとがつきそうなほど、肩を握りしめられる。いつもすかして笑っているような眼が、普段見せないようなほど怒り狂いながら、いまにも泣きそうに歪んでいる。美丈夫が台無し。
為義が嫉妬している。
容姿も成績も運動能力も大体常人のそれを上回っているお前が、俺のような人間に焦がれて嫉妬している。それを意識するだけで、口角が上がってしまいそう。
何も言わない俺に痺れを切らしたのだろうか。手からは力が抜けていった。眼からは怒りがひいていき、やすらぎさえ感じられた。
「…お前、お前ってやつは。」
ため息代わりにもれた言葉は途中で故意にちょん切られた。
「いい。いいよ。もういいよ。」
為義は俺の肩に乗っかっていた手をぱっと退かし、やけに素直な目をして言った。
「お前六脚と一緒にいろ。俺のことはもう何も気にしなくていいから。」
つぶやくような声だが、確かに叩きつけるようにそう言った。
待ってよ。
待ってよ。
待ってよ。
さっきまでの余裕がどこにもなくなって、あの余裕と優越感はきっと一過性のものでしかありえなかったのだなと今更わかっても、俺にはなす術がなかった。俺は情けなく、しょうがなく、為義を追いかけもせず立ち尽くしていた。

Re: 【BLNL】科学部の奴ら【オリジナル】 ( No.8 )
日時: 2016/01/07 16:30
名前: 滅子 (ID: 06in9.NX)

「為義」
「はい…」
「話きいたかんじ、お前、クズだな」
「おっしゃるとおりだ」
散らばるビールの空き缶、水位が下がったワイン瓶、食べかけのチー鱈、ゴミ箱にぐしゃぐしゃに詰められたお菓子の袋。油臭い部屋。洗っていない髪。昨日のままのスタジャン。
「わざわざ夜中におれのいえに押しかけてまで、自分クズ宣言をしにくるお前ってなんだろうなあ。」
佳寿成はヒャハハハハァと笑い出した。完徹して酒を飲んで休んで飲んで休んでを繰り返しているので、頭がどうにかなってしまったらしい。
「笑ってくれよ、いっそ」
「ま、その話をきくおれも大概だよなぁ」
笑いながら、佳寿成はショットに注いだワインを一気に呷った。
「ビールは喉、ワインは舌っつったのはどこのどいつだ、おい。」
頬をべったりつけて机に突っ伏すと、テーブルの上のお菓子のくずがよく見えた。よく見ると、テーブルに接してはいないのだ。いや、接しているが、ほんの僅かだ。しかし、そのほんの僅かのために、くずはテーブルの上にいられる。心地よくはなかった。
ずびずび。
佳寿成が鼻をすすっていた。
ぼたぼた。
ショットグラスの横に、とても小さな水溜りができていた。上を向いたら、佳寿成の目が潤んでいた。
「他人事で笑ったり泣いたり忙しない奴。」
「うるせぇぞ。」
潤み濁った声でようやくでた反抗の言葉は幼稚で、吹き出した。
「ワインって、葡萄酒だよな。」
「そうだろ。」
「葡萄酒ってさ、やたらキリスト様のお話に出てくんだよ。おれ、今なら、キリストさんになれんじゃねぇかなぁ。」
「ん?酒って禁止じゃないか?」
「呑んでも呑まれるな、なんだってさあ。」
「無理だな、お前、もうべんろべろだもん。完璧に呑まれてるよ。」
佳寿成はヒャハハハァとまた笑った。涙と鼻水で汚い顔で笑った。俺はうすぼんやりと痛む頭を抱える。
「キリストさん、平等、博愛、内なる信仰。まるでお前みたいだなあ、為義。」
さきいかをくちゃくちゃ噛みながら喋る。
「どういうことだよ。」
「あのなあ、相対的に見たらぁ、誰も愛してないのもぉ、みんな平等に愛してんのも同じじゃんかよお。お前はさあ、満だけを愛するのがあ、重くてしんどくてぇ、突き放しちゃってさあ、世の中の人間全員同じに見えるようにしたかったんだろお。本当の本当の内側のところでさあ、まだまだ満が好きなくせにさあ。だからおれに愚痴りに来たんじゃねえの?」
「違う!」
思わず手元のアルミ缶を潰してしまった。ガグシャッ、と音を立てて潰してしまった。
「俺は、そんなんじゃ…」
涙も乾かぬうちに、佳寿成はまたヒャハハハと笑った。腹立たしい。
「あ、こんなのと一緒にしたら、キリスト様に失礼かあ。ま、それはそうと、俺の推測が間違ってたなら、本当のところどうなのさあ?決別のお手伝いなら喜んでやるけど?」
ニヤニヤ笑う佳寿成は、もう一杯、さぞ気持ちよさそうにワインを飲んだ。俺は冷や汗を垂らしていて、さっきトイレに行ったはずなのに尿意を催した。冬の早朝の空気のつめたさにも、ようやく気付いた。
「本当に満が嫌い?なら愚痴なんか吐いてないよな?」
「…好きだよ。」
「本当か?」
「本当だよ。」
「本当に好きならさあ、なんであづみに満を任せられねえの?なんでわざわざずっと俺に愚痴吐いてたわけ?満に男との恋愛をさせるのが悪くて、女との恋愛をさせて満を幸せにさせたかったのならあ、お前は万々歳じゃねぇの。」
言葉に詰まった。15分前にガブガブ溺れるように呑んだのに、酔いが抜けたように頭が覚めている。考えること全てが口から垂れ流されるように、壊れた印刷機みたいに素直に告げる。
「なんでお前、なんだお前、満が好きでも嫌いでもないのかよ、俺は。支離滅裂だよ。くそ、その質問にはなんの意味があった、俺を混乱させるためか?ああそれなら大成功だ。でもよ、俺をもうこれ以上、かき乱さないでくれよ…」
頭がズキズキしてきた。酒のせいだと思う。
「な、どっちつかずで苦しいんだろお前。答えは好きと嫌いの両極端だけじゃないって気づいたら、楽だぞ。」
佳寿成が呑気にバリバリ柿の種を食べる様子を見て、腹が立ってきた。
「…俺に『満のことなんかどうでもいい』って言わせたいのかよ!」
「そんなわけじゃねーよお、俺が言ってんのは単純にぃ…」
ガァン!!
金属製のドアが大きな音をたてた。
「為義!」
バイオレンスなくらいのメルヘンチックな柄とフリル、レースの量。乱れた髪、傾いたミニハット、シワのついたワンピース。だらしない。
「六脚ちゃん。そんなに怒ってどうしたの?」
佳寿成がのほほんと手をひらひらと振る。六脚は膝をつき、俺の胸ぐらをぐいと掴んだ。
「あんた、少しは真面目にやれよ!」
「は?」
「あんたがいなきゃどうしようもねーの!」
「えっ、えっ、なに、なに、なに。」
佳寿成をちらとみるも、彼はのんきにマッコリを飲んでいる。まだ飲むのか、こいつ。
「満の将来だか幸せだかなんだか分かんないけど一人で考えつめてさあ、あたしとバトりもせずに勝手に土俵から降りるなんて承知しねーつの!」
ものすごい剣幕で一息に話す声が大きくて、二日酔いの頭にぐわんぐわん響く。耳から入った六脚の声が針になって、俺の頭の中を縦横無尽に駆け回る。頭痛が酷くなって、ぶわりと胃の中のものがこみ上げてくる。
「ちょっと、六脚ちゃん。待ちなよ。こいつさっきまで酒飲んでたんだ。乱暴したら死んじゃうよ。」
佳寿成がようやく六脚に物申し、彼女は手を俺の胸から離した。俺はジェットコースターに乗った後のようなふらつきを感じ、覚束ない足取りでトイレに向かった。
「為義、お前俺んちで吐くなよ。」
佳寿成も、言葉とは裏腹に呑気そうだ。六脚が慌てて心配そうな顔をしてビニール袋を持ってきたが、断った。息を詰めて喉の奥のものをせき止める。
六脚がトイレのドアを開けてくれた。俺はようやく息を吸った。入ってきた空気の分だけ体から何か出てきそうで、たまらず、嗚咽を漏らして吐いた。やかんのように怒っていた六脚さえ背中をさすってくれた。苦しいのと、情けないのと、悔しいのと、申し訳ないのでぼろぼろ泣きながら吐いた。

Re: 【BLNL】科学部の奴ら【オリジナル】 ( No.9 )
日時: 2016/01/08 17:52
名前: 滅子 (ID: v8Cr5l.H)

「吐くだけ吐いてすっきりしたろ。」
「頭痛は酷いけどな。」
「オルゴールでもかけようかぁ?」
佳寿成はまだちびちびのろのろ呑みながら、スマホをいじっている。俺は着替えた六脚(着替えたと言っても、キャミソールとドロワーズだけになっただけである。上着を脱いだという言い方がよりふさわしい。)の膝に寝っ転がり、六脚の冷たく白い腕を掴んでいる。自己主張しない体温だ。
「あづみ、俺の家に押しかけて為義を吐かせてまで何が言いたかったの?」
佳寿成はマッコリを注いだ。あづみは唇を噛んだ。
「満が為義のこと愛してるのに適当な一言だけ置いて逃げようとしたことが許せなかった。」
「俺のこと愛してるんじゃねえんだもん、あいつ。」
俺がボソボソ言ったら、佳寿成とあづみは俺に視線を向けた。佳寿成は視線をすぐにそらしてマッコリを呷ったが、あづみは俺を好奇か叱責か、ずっと見つめ続けている。
「あいつ、俺に愛されてる自分が好きなんだ。自分を好いてくれる俺に恋してるだけなんだよ。俺、それに耐えられなかったんだよ。」
はっきり口に出すと、情けなくて悔しくて悲しくて、涙が出てきた。歪んだレンズを通して見た二人の顔は、普段とあまり変わらなかった。シュールにくにゃくにゃ曲がる線が面白くて、何度もまばたきをした。
「はは、男なのに情けねえな。」
鼻をすすり涙を拭こうと腕を動かしたら、六脚に優しく止められた。やはり、自己主張しない体温だった。彼女はハート型のバッグから白いレースのハンカチを取り出し、俺の目頭を押さえた。
「男だから、とか、大嫌い。もしかして、私のロリィタファッションを褒めたのは、女らしい服装だから?」
そういえば、初めて六脚がロリィタファッションをして学校に来たとき……即ちそれは高校一年生の五月……俺たちの学校は入学して一ヶ月の間は出身中学校の制服を着るよう義務付けられている……で、クラスメイトどころか一部の部員さえ好奇の眼差しで見ていた。彼女は元来他人の言うことを気にしない質であるから、全く気にしてなさそうだった。それでも、俺が「似合うね、六脚らしいよ。」といったときは、色白で目つきの悪い顔を可愛らしく歪ませてにっこり笑った。
「そう。私がロリィタファッションを選んでいるのよ。周りがお洋服を選ぶわけではない。もちろん、ロリィタファッションが私を選んだわけではないけれど。」
六脚がロリィタファッションをして来た翌日、絆と薺も原宿系ファッションをして来た。
「六脚、アタシ目から鱗だったよ!ホントに!」
レモン色のスポーティなスウェットにビビットピンクのパニエを履いた絆はにこにこ笑って、六脚に抱きついていた。真っ黒いレザージャケットにパステルピンクのサルエルパンツを履いた薺はきらきら目を輝かせて、六脚の手と手を繋いでいた。
「そんなわけ、ねぇよ……あんな暴力的なまでのレースとフリルの量、誰が女らしいと思うんだ。」
「あら、なんてやつなの。」
そういう六脚の顔は、なんともないようだった。ああ、彼女の好きなものを冗談といえど侮辱したというのに、俺は六脚の心に波さえ起こさないのか。いや、ついさっき怒ってここに来たんだった。ああでも、あれは満のためを思っての行動か。
「俺は、単純にお前に憧れたんだ。自分というものを表現するために、ファッションという手段を自ら選びとって。流行り廃りを追いかけ回し乗り回し捨てる俺らとは違う。妥協しないんだ……お前。」
六脚は満を愛している。でも満は俺を好きで、それは俺が満を好いているからで、しかし当の俺は六脚に憧れを抱いていて。
違和感。はまらないパズルのピースを無理矢理はめたような。
憧れ。憧れ。憧れ。そうだこれは憧れだ。憧れ以外の何でもない。これ以上の質量ではない。質量ではない。質量ではない。
「為義、貴方また何を泣いてるの。」
「え?」
俺の声は上ずっていた。俺はまた鼻を何度もすすっていた。六脚のハンカチはびしょびしょにぬれていた。
「為義、お前六脚のことさあ、好きだろ。」
佳寿成が俺にカシューナッツの袋を向け、本当に何でもなさそうに尋ねた。俺より先にそれを発見されたのが悔しくて、「いや、好きじゃない。」とはっきり述べた。
「俺、六脚のことを愛してるんだ。」
涙を拭いたとはいえ、言葉は情けなく潤んで意地汚い。六脚は、豆鉄砲食らった鳩の顔。


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