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- 【ワンピース】永く甘酸っぱい春【ゾロ♀サン】
- 日時: 2016/07/10 17:40
- 名前: ぐるわらの操舵手 (ID: RMr9yeJh)
こんにちは。ワンピースからゾロ×サンジ(女体化)です。毎日連載で今ちょうどグロッキーリングで悶え死にそうです。空軍パワーシュートほんま好きやねん。本誌ではもう3年以上会ってませんね彼ら。あー辛い。
さて注意事項です。
・高校2年生です。あ、だから学パロです。
・サンジは女の子です。
・口調も少し女の子寄りです。
・でもやっぱりサンジです。
・ゾロとは幼馴染です。
・ゾロはいつも通りな感じです。
・でもサンジをめちゃ大切に思ってます。
・ゾロ2年B組。サンジ2年E組。
・ウソップがゾロと同じクラスです。ルフィとナミが中学3年生で、デキてます。
・オリジナルキャラが出ます。プロフィールはあとでネ。
これくらいかなあ。以下、オリキャラのプロフです!
〈オリキャラ〉
エインズワース・ユリア
クラス:2年E組
人物:セミロングの髪の毛を巻いた、ゴージャスな印象の女の子。容姿は男子がみんなメロメロになるレベルに美しく、本人もまたそれを自覚し、鼻にかけている。1年生のときに同じクラスだったゾロのことが好きで、しかし振り向いてもらえる兆しがないので、仲良くしているサンジを妬んでいる。
以上のことをご理解の上で、「どんと来い!!」という心優しい方は、どうぞこの先をご覧くださいませ。↓↓↓↓
- Re: 【ワンピース】永く甘酸っぱい春【ゾロ♀サン】 ( No.1 )
- 日時: 2016/07/10 19:19
- 名前: ぐるわらの操舵手 (ID: RMr9yeJh)
1.約束
「おーいマリモ君、どこ行くの〜」
7月の日曜日の昼下がり。日差しが強いからキャップをかぶってサングラスをかけて、絶対にわかんねえだろうと思ったのに、幼馴染の彼女はそんなゾロを目ざとく見つけたようだった。
「あ? どこでもいいだろアホマユゲ」
「ひっでー、どこに行くにも迷うであろう腹巻くんに道を教えて差し上げようと思ったのに〜」
そう言って笑う彼女———サンジはゾロと色違いのキャップをかぶって、短いデニムパンツなもんだから長くて白い脚がむき出しだ。何やってんだこいつは…、男はみな獣なんだぞと教えてやりたくなる。女子至上主義のくせに、自分についてはとことん無頓着だ。
「で、こんなあっついのにどこ行くの」
「お前こそ」
「私はコンビニ。アイス買おうと思って」
「お、マジか。おれもだ」
「はぁ? じゃあ方向逆だぜ? どこ向いてんだよ」
え、と思わず声をこぼすと、サンジはわかってなかったんだ? と言ってふふっと微笑んだ。ゾロのことを昔からよく知っているから、しょうがないなあ、という意味なんだろう。
ついでだし一緒に行こう、と提案したサンジに、ゾロはああ、と頷いた。
コンビニからの帰り、寄った公園のベンチでふたりはアイスを食べている。特に会話はなかったけれど、突然思い出したようにサンジが声を上げた。
「ウソップにね、誘われたんだけど…。———次の土曜日の夜、夏祭りあるじゃん。1年のときのクラスで行こうって」
ゾロも来るよね? とサンジは尋ねる。ゾロは食べ終わったアイスキャンディの棒をベンチ横のゴミ箱に捨てながら、初めて聞いたぞ、と返した。
「え、マジ? なんでだろ…。まあいいや、そんでどうする?」
「お前は行くのか」
「まあね。浴衣着ていこうかと思ってる。もう10年ぶりくらいか?」
あはは、などとサンジは笑っているが、ゾロはひとりその言葉に震撼していた。
浴衣、だと…!?
ゾロはもうサンジと10年以上一緒にいるけれど、彼女の浴衣姿を見たのは小学校低学年のときが最初で最後だ。なのに、長いときを経て、成長した彼女が浴衣なんて着たら、インパクトがでかすぎる。
が、しかし、不覚にも見たいと思ってしまうのだ。
「…あー、おれも行くわ」
極力、表情は変えない。
「じゃ、決まりだな! 明日ウソップに言っとけよー」
「おう。…お前が浴衣なら、おれは着流しで行くか」
「ほー、それは楽しみ! じゃ、また明日!」
ぽい、とゴミ箱にアイスの棒を捨てて、にっこり笑いかけてきたサンジの後ろ姿を、ゾロも手を振って見送る。
彼女を想い続けて10年。その気持ちを伝える気は、ない。
- Re: 【ワンピース】永く甘酸っぱい春【ゾロ♀サン】 ( No.2 )
- 日時: 2016/07/10 21:57
- 名前: ぐるわらの操舵手 (ID: RMr9yeJh)
2.気遣い
翌日。今日も今日とて暑いと思いながら、ゾロはうちわで自分を扇ぐ。だらしなく椅子の背もたれにもたれて、時折ワイシャツのえり部分を掴んでパタパタと空気を胸の方へと送り込む。そんな彼の様子を見て、女子がかっこいい、などときゃあきゃあ騒いでいるのを、彼自身は気づかない。
「よっ、色男」
そのとき、長鼻の男が教室に入ってきて、ゾロに声をかけた。おう、と返事をしてから、その彼、ウソップに首を傾げて問う。
「色男ってなんだよ」
「なーんだよ、気づいてねえのかタチ悪ぃな。さっきから女子たちがお前をチラチラ見てきゃあきゃあ言ってるぞ」
「へぇ、そうかい」
「お前、本当にそのへん興味ないのな」
ゾロの前の席の椅子に逆向きにまたがって、ウソップは溜息をついた。ゾロとしては、自分が女子にモテるとかそういうのはどうでもいいのだからしかたがない。だって、自分が想っている相手に振り向いてもらえないんじゃ、モテたって意味がないと思うのだ。
「おお、そうだウソップ、おれも夏祭り行くぞ。———つーかなんで教えてくれなかったんだ」
「お、行くのな、了解! ———なんでってそりゃ、おれなりの気遣いよ」
「気遣い?」
ふふん、とウソップは鼻を鳴らす。もともと高い、というか長い鼻をさらにぐっと伸ばして、だってよ、と続ける。
「夏祭りの話、サンジから聞いたろ?」
「ん? あ、まあ…」
「それ見ろ。おれのおかげで彼女とのおしゃべりの機会も増えたっつーわけだ」
ウソップは、ゾロがサンジのことを好きだということを知っている唯一の友人だ。まあ、気持ちを伝える気がないゾロは、余計なことを、と思うだけだけれど、彼なりに応援してくれているのだろう。
「で、どうだよ? 一緒に行こうなんて約束、したんじゃねえ?」
「してねえよ」
「してねえのかよ! しろよそこはぁ!」
「だって、夏祭りの場所近いだろうがよ。わざわざ約束するまでもねえ」
「うわー、淡泊だー」
おれの小さな気遣いを無駄にしやがってー、とウソップがうなったとき、がら、と教室の扉が勢いよく開いた。あまりにも大きな音だったので、教室が静まり返る。カツ、カツ、と足音が響いたので耳障りに思うと、入ってきたのが知った顔だということに気づいた。
「ゆ、ユリアちゃんだぁ…」
「今日も麗しい…」
男子の息を呑む声が聞こえてくる。ああ、そうだ、そんな名前だった。そう思ったとき、彼女がゾロの前で立ち止まった。
「ロロノア君」
凛とした、美しい声でユリアと呼ばれたその生徒はゾロを呼んだ。まわりの男子はその声に身震いするほどに聞き惚れてしまうというが、ゾロの心は少しも揺さぶられない。
「なんだ」
「今度の夏祭り、行くんでしょう? 私、浴衣を着ていこうと思うの」
「へぇ」
「…感想、ちょうだいね」
「はぁ」
彼女の用件はそれだけのようで、静まり返った教室を後にした。彼女の姿が見えなくなって、教室が一気に盛り上がった。何人かの男子がゾロにどっと押し寄せてくる。
「お前ぇ、麗しのユリアちゃんに話しかけられたな!」
「羨ましい!! 緊張したのか? あの反応はよ!」
「まあ普通そうだよな! おれだったら美しずぎて失神しちまう!」
こいつら、色々勘違いしてやがる…とゾロは思って、思わず溜息が口から漏れた。なんだよ、とそいつらが言うと、ゾロはうっとおしそうな顔で言う。
「緊張なんかするかよ。だいたい、わざわざ報告するようなことでもなかっただろ? あれにどう反応しろと」
「な、こいつなんつーことを!! ユリアちゃんの浴衣だぞ! お前、それが見られるんだぞ! 羨ましすぎか!」
こいつらは皆、涙を浮かべて羨ましがっているが、ゾロにはその気持ちがわからず、怪訝な顔をする。その一連のやりとりを黙って見ていたウソップは、やれやれと首を振った。
「眼中にない、か」
その呟きは、呟いたウソップ本人にしか聞こえていないようだった。
- Re: 【ワンピース】永く甘酸っぱい春【ゾロ♀サン】 ( No.3 )
- 日時: 2016/07/10 23:18
- 名前: ぐるわらの操舵手 (ID: RMr9yeJh)
3.夏祭り
いっつも迷うんだ。そう言われるから、不本意だけれど、いつもよりだいぶ早く家を出てみたら、案の定迷ってしまった。それがゾロの今だ。
「あー、くそ、これで遅れたらまたあいつに笑われんな…」
下駄を鳴らしながら、知っているような、知らないような道を宛もなしに———いや、宛はあるのだが———とりあえず適当に歩く。と、そのとき、後ろでドテ、と音がした。ん、とそちらを振り向くと、見たことのある女がこけたようだった。
「何してんだ、お前」
「…ロロノア君。こけちゃったの」
エインズワース・ユリアだ。こけちゃったの、じゃねえよ、そりゃ見たらわかるだろ。そう思いながら、一応大丈夫か、と声をかける。
「ええ…でもちょっと、足をくじいちゃったみたいで」
「あ? ちょっと見せてみろ」
くじいた、と言うからその足を見てみれば、ひねった様子もないし、どこも腫れていない。痛むといってもこれだけ経っていればもう殆ど消えているはずだが。スポーツ万能で怪我も多いゾロの目は騙せないのだ。
「ひねったりした様子はねえ。なんともねえだろう。ほら、立てよ」
「…ええ、ありがとう」
ゾロが手を差し伸べると、ユリアは妖艶に微笑んでその手をとり、すっと立ち上がった。妙なマネしやがる、と思いながらも、「レディには優しく!」というあいつの声が頭にちらついて、勝手に体が動くのだ。
「おい、神社どっちだ」
「どうせ目的地は一緒じゃない。一緒に行きましょう」
ひらり、と浴衣の振袖を大きく振って彼女は言った。まあ、そうするしかねえ、とゾロは頷いたのだった。
神社に着いたとき、すでに半数のメンバーが揃っていた。そのうちの男子が、ゾロがユリアをエスコートしてきた(ゾロ自身にその気はない)ので、荒れるに荒れたものだ。
「お前!! ユリアちゃんとあんなことやこんなことをぉ〜」
「するわけねえだろ、何言ってんだお前ら」
ぎゃあぎゃあと騒いでいると、あれ、ゾロじゃん! と聞いたことのある声が耳をかすめた。
「ん?」
「あら本当!! ゾロ〜!」
そちらを見てみると、麦わら帽子の少年と、オレンジ色の髪の少女がこちらに手を振っていた。
「ルフィ、ナミ!」
「にしし! 夏祭りデート中だ!」
「もう、恥ずかしいこと言わないでよ! …あれ、サンジくんは?」
ルフィとナミは2つ下の幼馴染で、弟や妹のような存在だ。幼少期はサンジも一緒によく遊んでいたけれど、中学に上がってから後は全然会うことがなかったから、なかなかレアな機会だ。
「あいつはまだ着いてねえみたいだな」
「ゾロが先に着いたのか!? 雪降るぞ!」
「雪どころか雹でも降るんじゃない!?」
「…きわめて心外だ…」
じゃあおれたちもう行くから! と、ルフィたちは仮にも年上のゾロに対して失礼なことを言いまくっただけでその場を去った。
そのすぐあとだ、サンジが来たのは。
「おー!? どうしたの、緑ゴケが時間通りに来てるなんて!」
「本当だ、どーしたお前ぇ!」
ウソップと一緒だった。言ってきた言葉も含め、クソ腹立つな。
やればできるじゃん、と着くなりサンジは自分に近づいてきた。その動作に、思わずゾロは息を呑む。
だって彼女は今、浴衣姿なんだ。
薄紅色の下地に白い撫子をあしらった、あまり夏っぽい柄ではないが美しい浴衣に、天使の羽根が大きく広がったような帯、それで少し強調されるふくらんだ胸、そして、さらさらの金髪には彼女の目と同じ海色の石で彩った大きめの髪飾りがある。少し厚底の黒い下駄は、彼女の足の白を際立たせていた。
はっきり言って、今のサンジは、色気に満ち溢れている。
「お、お前…」
「この格好か? ちょっと気合い入れたんだ。どうだよ?」
似合う? と詰め寄ろうとした彼女がつまづいた。あ、とそのままゾロ側に倒れ込み、ゾロは慌ててその身体を支える。ごめん、とサンジの口から声が出るより先に、
「似合う」
「え?」
「だから、似合ってるって言ってんだ。綺麗だぞ」
普段なら絶対に言わないセリフを言ってやった。今言わないと、絶対にその機を逃すと思ったから。すると、まさか言われるとは思わなかったのか、彼女の顔がポッと赤くなった。そのまま少し目線をそらすと、慌てたように彼女は言うのだ。
「た、たまに柄にもねーこと言うよな! でも、その…あり、がと…」
「…いや」
「ゾロも、なんか雰囲気違って…かっこ、いいと、思うよ…」
「!!」
爆弾が投下された。しかも、サンジは緊張しているのか、ゾロの着流しの袖を掴んで放そうとしない。ああ、これはやばい。
元クラスメイトたちと少し離れた場所で、祭りの喧騒にまぎれて行われていたそのやりとり。ひとりの元クラスメイトが妬みを帯びた目で見つめていたなんて、ふたりは知る由もなかった。
- Re: 【ワンピース】永く甘酸っぱい春【ゾロ♀サン】 ( No.4 )
- 日時: 2016/07/12 23:47
- 名前: ぐるわらの操舵手 (ID: RMr9yeJh)
4.悪女
一緒に回ろう。
ゾロがそうサンジに言おうとしたときだった。ゾロの腕にするりと絡まるものがあった。ん? とゾロとサンジがふたりしてそちらを見ると、ユリアがゾロの腕に自分の腕を巻き付けている。
「ねえロロノア君、ふたりで回りましょう?」
「え…、あー…」
「お、おー、ユリアちゃんに誘ってもらえるなんて、よ、よかったな! あはは、行ってきなよ、私はウソップと回るわ」
待てよ、とゾロは離れていくサンジを止めようとしたけれど、彼女はあっさりと掴んでいたゾロの袖を放してしまった。追いかけようとしたゾロの腕を、ユリアががっちりとホールドして、追わせない。おい、とユリアに呼びかけると、ユリアは上目遣いでなぁに? などと問うてくるので、じわじわと苛立ちが湧いてくる。
「ヴィンスモークさんを追いかけるの? 何のために? 彼女、あの長鼻君と回るって言ったじゃない。あなたは私と回るの」
「それを決めるのはおれだろうが」
「いいえ、私よ」
知っていたものの、ユリアのこういう自己中心的な考え方はどうにも理解できないし、苦手を通り越して嫌いの域にまで達しつつある。彼女は自分が男子にモテることを鼻にかけ、誰にでもそれが通じると思っているようだ。しかも、ここまであからさまだと鈍感なゾロでもわかるが、彼女はどうやらゾロに気があるらしいのだ。そして、ゾロが彼女を向くように、幼馴染の女であるサンジを遠ざけようとしているのも見え見えだ。サンジは女子至上主義だから、女であるユリアやその取り巻きに言われたらyesとしか言わないのも知っているとしたら、悪趣味な女だ、とゾロは思う。
「…どこに行くんだ」
ゾロはこの女を許容したわけではない。さっき言ったように、むしろ苦手な部類の女だ。しかも、ゾロの個人的な事情としては、恋路まで塞がれようとしている。この女はゾロに自分のことを好いてほしいらしいが、とうてい無理な話だ。
10年分の片想いを、今更ひっくり返せるかっつーの。
それでも、いや、だからこそ、「レディの頼みは聞いてやるんだぞ」と念を押すあいつの顔が浮かんで、この女に対してまでも、許容と受け取れるような言葉を投げてしまう。「ゾロのそういうところがたらしなんだぜ」とウソップに注意されたのを思い出した。
「花火まであと30分あるわ。とりあえず、出店を回りましょっ」
とたんに機嫌のよくなったユリアを見て、都合のいい女だな、と思う。大片、「ロロノア君も、私の女王様オーラにしてやられてしまった」などと思っているのだろう。
というか、花火まで一緒に見るつもりでいるのか?
さすがにそれはねえな、と呟きそうになるのを必死でこらえた。だって、ゾロにはすでに先約があるのだ。絶対に破れない約束だ。
ゾロは、今から30分後にどうやってこの女の視界から外れるか、そればかりを考えながら、出店が並ぶ道をユリアを前にのらりくらりと進んでいった。
なんか、うちのゾロさんは、苦手なひとには頭の中で酷いことばっか言ってますね…。すみません。
- Re: 【ワンピース】永く甘酸っぱい春【ゾロ♀サン】 ( No.5 )
- 日時: 2016/07/17 23:56
- 名前: ぐるわらの操舵手 (ID: Zc6VdX3i)
5.花火
ユリアは楽しそうに出店を回っている。キツネのお面なんかつけて、にこにこと笑いながら、ゾロより先を鼻歌混じりに歩いていくのだ。
「そのお面、似合ってんな」
「そう? ありがと」
皮肉で言ったつもりなのだが。機嫌よく笑った彼女を見て、花火まであと5分を切ったな、と思った。
「悪ぃ、ちょっと便所行ってくるわ」
「え? 今から? 花火が始まるわよ」
「あー、悪いが、おれじゃねえ誰かと見てくれ」
「ちょ、待っ」
止めようと彼女が動いたが、華麗に無視して、トイレとは別方向に走る。決して方向音痴だからではない、別の目的があるのだ。
あと2分。あいつはもう来てるだろうか。
息を切らして、目の前、祭りの明りにかすかに光る水面を見つめる。
ここは、神社のすぐ隣に流れる川のほとりだ。人は滅多に来ない場所。でも、ここはどこよりも綺麗に花火が見えるんだ。それに———
「おーマリモ、今年もここに来てんのな。律儀なことで」
すぐ横で、さらりと金髪が揺れるのを感じて振り向く。そこには、幼いころから見慣れた、優しい、サンジの笑顔があった。
「おう、もはやお約束だろ」
「ははっ、違いない!」
薄紅の振袖を揺らしながら、サンジは少し控えめに笑った。だって、大きな声を立てては、『秘密の場所』がばれてしまう。
そう、ここは、幼い日から、毎年ふたりで花火を見に来ている場所だ。ここがとても綺麗にそれが見えることを、他に知る人はいない。ふたりだけの『秘密』なのだ。幼いある日にふたりでここを発見してからは、別に約束するでもなく、ここでふたりで見に来ている。
1年で、唯一、本当にふたりきりになれる場所、というわけだ。
「想いを伝える気がないってのはよ、少し勝手がすぎるんじゃねえか?」
夏祭りに行こうとサンジに誘われた2日後、火曜日。いつものようにゾロの前の席、別に彼のものではないのに我が物顔で座ったウソップがそう言った。
「あぁ!?」
「まあまあそう凄むなって。だって、10年もその想いを燻らせてんだろ? 持て余すっつうのはどうなのかって思うんだよおれは」
「そりゃてめーにすでに彼女がいるからだろ」
信じられねえことに。
ウソップには女子校に通うお嬢様の彼女がいる。しかもさらに信じられないことに、告白はその彼女からだった。
「いやあだって、このままじゃお前、誰とも付き合えねえし、サンジだってお前が変なムシつかねえようにって気張ってるから他の奴らは近寄れねえんだぜ。そのせいでサンジの奴、自分がモテないなんて言って落ち込んでる」
「うっ…」
自分が辛いどころか、自分はサンジのことが好きなくせして言わねえのに、あいつには誰とも付き合わせねえから、そんなことになっている。考えれば至極勝手な話だ。ウソップの言い分もわかる。
「だから、夏祭りっていう最高の舞台があるんだろーが」
「は?」
「いや、は? じゃなくて、そうだろ。花火の前とかで、いっちょまえにコクってみろよ! 応援するから!」
「な、そんな急に…」
「じゃあいつやるんだよ! あいつ待たせんなよ!」
「別にあいつ待ってな…———あーもういいよ、わかったわかった、やりゃいいんだろ」
ウソップが極限まで近づいてくるもんだから、了承してしまった。まあいい、いい機会だ。ここでケリをつけてやる。
ヒュルルル〜、ドォン!!
1発目が上がった。うわあ、と目を輝かせている彼女は、昔から変わらない。花火に照らされて輝く金の髪も、花火の映るその綺麗な碧い瞳も。
花火より綺麗だ。絶対に言ってやらねえけど。
「…サンジ」
いつぶりだろう。しっかりと名前を呼んだ。えっ、と彼女が少し驚いたように振り向く。その頬に優しく手を添えて、ゾロは、少し息を吸い込んだ。
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