BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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僕は先生の腕の中
日時: 2016/11/27 20:22
名前: 乃木 なる美 (ID: wJ5a6rJS)

1
「脱いで、葵」
僕は先生の腕の中だった。
言われた通りにシャツのボタンをはずす。その僕の手を銀縁の眼鏡から見つめている先生。吐息の温度を感じる程に近い。
先生は耳元でささやいた。
「葵、僕は君が好きだ」
心臓が跳ね上がる。
鼓動がドクドクと痛いほどに激しくなる。
それが苦しくて、僕は先生の肩に顔を埋めた。僕も好きです、と返す。
僕は幸せだった。
先生の体温、先生の匂い、先生の呼吸…
僕らは静かに唇を重ねた。
銀縁の眼鏡の奥、先生は柔らかいまなざしで見つめている。
「葵」
先生は微笑んだ。
そして、僕を抱く先生の腕が、いっそう強くなるのを感じて------------


------------ピンポンパン、次は八潮、八潮、お出口は右側です。
シューッという音と共に、僕は満員電車から押し出された。
僕は頭をかく。外は暑い。
「夢かぁ…」
7月。もう蝉も鳴き出す朝。
僕はたった一駅乗っただけであった。
もう末期だ。
「寝言とか言ってないよな…」
思い出しただけでもなんか変な汗が出てくる。制服の襟のところが気持ち悪い。恥ずかしくて僕は下を向いた。

先生と僕…
そんな事はあるはずがない。年の差が八歳もあるし…大体、先生は男で僕も男だ。
どう考えても可能性はゼロ。
先生が僕のことを好きになるはずがない。
そうだ、しっかりしろ!僕!
そう思って、顔を上げると、前のオジサンに思いっきりぶつかった。
「気を付けろよ!」
「す、すみません…」
僕は下を向いて改札を出た。

学校までは歩いて20分。夏だとこれが結構キツイ。特に、文化部歴=年齢の僕にとっては毎朝干からびるような思いなのだ。
僕は額の汗を拭って、スクバを背負いなおす。
不意に左から声がした。
「司馬くん、おはよう」
反射的に会釈をして左を向くと、そこには見覚えのあるスラッとした人がいた。
きれいな白いシャツに、ネクタイ、黒髪で、そして、銀縁メガネ。
まさか。
僕が今一番会いたくない人である。
「なっ、なっ、なっ、中神先生ぃぃっ!!!??
さっきの夢が一瞬でよみがえった。


『脱いで、葵』


「うわぁぁぁつ!」
心臓が止まるかと思った。
一生の不覚、
必死で頭の中の先生を振り払う。僕は深呼吸して、汗を拭った。
しばらくすると、僕は中神先生が唖然として見ているのに気付いた。見渡してみると、僕はびっくりした拍子にスクバまで放り投げてしまったらしい。
…完全にやっちまっている。
「アハハ…」
僕はぎこちない笑いで何とかごまかそうとした。
「驚かせちゃったね…」
中神先生は申し訳無さそうに、僕のスクバを拾ってくれた。
「いえ、その…おはようございます…」
僕が言うと、先生はおはようと微笑んでくれる。なんて爽やかなんだ。一重の目元がいっそう涼しい。僕は胸の辺りがぎゅっとなるのを感じた。
「…顔、すごく赤いけど…大丈夫?具合悪いの?」
急に先生が僕の顔を覗きこんだ。
「え!?えっと…その…全然大丈夫です。これは、あの…」
僕が首を振ると、先生は少し笑って言う。
「さては浮かれてるね。明日からが心配だなぁ、司馬くん。体調には気を付けてね。せっかくの夏休みなんだから」
また少し笑って先生は歩き出した。

先生とこんな近くで話すこと自体初めてだった。そんな僕が一緒に登校するなんて、はっきり言って無茶だ。僕は何度もつまずきそうになって、電信柱には二回ぶつかった。
「司馬くん、ほんとに大丈夫?熱あるんじゃないの?」
「だ、大丈夫です。気にしないでください」
僕はもう緊張で汗だくだった。先生は相変わらず心配してくれる。なんだか申し訳ない。しかもなんだか気まずい空気になってしまった…何か話さないと…何か…
えっと…何話せばいいんだ…?
僕はますます焦る。
「あの…先生…」
先生の方を向いてみる。先生は…黒い髪が風になびいていて…
「それよりさ、司馬くん」
「…………え、あ、はい!?」
いつのまに髪の毛に釘付けになっていた僕。
「この間の期末の数学って、時間余った?」
「えーっと…まぁ15分くらいは…でも、三角関数とか結構時間食っちゃいました」
「それで96点だもんなぁ、やっぱ君にはかなわないや」
先生はくすくすと笑う。
僕の心臓はまた速くなった。
「君は今日の通知表も楽しみでしょ。他の教科も優秀なんだろ?」
「え…それはどうでしょうかね…」
頑張ってるのは数学だけなんです…
なんてことはやっぱり言えない。

-----ピロピロローン♪------
この音、僕の携帯だ。
「三沢から…」
「電話?」
「はい…」
「そっか、じゃあまた学校で」
止まって出なきゃダメだよー、と先生は小さく手を振ってくれた。
行ってしまった…中神先生…
「なんなんだよ三沢のヤツっ!どうでもいいことだったらただじゃおかないぞ!」
よ出来るだけぶっきらぼうに出てやろう、よし。
「はい、僕だよ」
「しばちゃん?今どこ?」
思いの外、焦った声なので驚いてしまった。
「え…学校に向かって歩いてるよ。何?」
「お前の絵、下駄箱のとこに貼り出されてるぞ」
「は」
一瞬、三沢がなに言ってるのか分からなかった。それから、ありありと目に浮かんでくる。僕の一番見られたくない絵が、公衆の面前にさらされるのが。
「えぇぇぇ!?なんでぇぇ!?どーゆうこと!?」
「っるせ!耳つぶれるわ!」
「あ、ごめん……どういうこと?てか、まさか、まさか、あの絵じゃないよね」
「お前がこの前コンクールで賞とったやつたけど」
「はぁぁぁぁぁっ!?」
「おまっ、だからうるせぇって!」
まずい。
ほんとのほんとにまずい。
「三沢、よく聞け、その絵、木枠からはがしてハサミで切ってゴミ箱にすてろ、いいな!!」
「はぁっ?なに言ってんだよ!そんな事したら俺が変な人みたいじゃんか!」
「頼むよー、じゃないと僕もう学校にいけないーー!」
「あぁもう、いいから速く学校に来い!じゃあな!」
「あ、ちょっ、三沢?」
電話が切れた。
どうしよう。
あの絵だけは、絶対に見られたくない。特に中神先生には…
僕は全速力で走った。

あの絵は、あの絵こそ…
僕が大好きな中神先生を描いたの絵なのだ。
中神先生が黒板に文字を書く姿を下から見た構図。その名も「ぼくの好きな先生」
これはアウトやろ!

僕が着いた時には、もう時すでに遅し。
昇降口はざわざわしていて、誰が描いたんだ、とか、これって中神?とかいう声が聞こえた。
下駄箱の前にいくつかパネルが用意され、そこに美術部の絵が並んでいる。その真ん中にはまさかの僕の絵。
そして、それを取り巻く人ごみの真ん中にはまさかの中神先生がいたわけで…

「最悪…」
僕は机にうなだれていた。
1学期最後のホームルーム中である。
半べそをかく僕に隣の席の三沢はため息をついた。
「しょうがないだろ、見られちゃったもんは…」
三沢は僕の肩をたたいて励ましてくれる。でもしょうがないで済むほど僕は単純じゃないんですよ。
「てか、だったら最初からあんな絵描くなよ…」
「でも描いちゃったんだもん!」
「描いちゃったって…俺に当たられてもなあ…」
もう一貫の終わりである。
あんな絵見られて、僕はもう話かけることもできないだろう。
別に両想いになりたいとかそういうんじゃなくて、普通に話たりしたいだけなのに…

「絶対変なふうに思われてるよ…絶対に…うわ…どうしよう…」
「しばちゃん!呼ばれてる!」

「司馬葵くん!」
担任の博多良子先生が僕の名前を呼んでいた。
「あ、はいっ」
通知表だ。僕は小走りで教卓に近寄る。
「司馬くんは…暗記科目もうちょっと頑張りましょうね」
「暗記科目…?」
良子先生から通知表を受けとって見ると、現代文から、4、3、3、4、3、3…
「が、頑張ります…」
分かってたけど、やっぱげんなりする…
「でも数学と体育はいいんじゃない?」
良子先生は声をかけてくれる。
見ると世界史が3、その次が数学10、その次が体育10…
「あ……」
やっぱ、こうなるか…
僕はそれを見て、なんだかもっとげんなりしてしまった。

「見せろよ〜」
ホームルームが終わると、三沢が通知表を奪いに来た。
「やだよ。なんで見せなきゃいけないんだよ。」
「水くさいぞー!親友だろぉ〜」
べたべた着いてくる三沢を僕はひらりとかわす。が、しつこい三沢はついに抱きついてきた。
「おいっ」
「いいじゃん、ねぇー、しばちゃん!」
「き、キモイ〜…いい加減に…」
僕はエネルギーを貯めて……
「しろーー!!!」
チョーーップ!
三沢は頭にくらって撃沈した。
「はっはっはー!この司馬様に立ち向かうなど1万年はやいぞー!」
「くそぉ…脳細胞1億個しんだわ、これ」
うめいてる三沢を背に、僕は通知表をそそくさと鞄にしまおうとする。
…って、あれ?
僕、通知表持ってないじゃん…
「ふうむ…どれどれ…」
「あぁぁっ!!いつの間に!」
目の前にはスカートの下にジャージはいてる茶髪女子。(女子と呼んでいいのかな?)紙切れをヒラヒラさせながら机の上に脚を組んでいた。下田 ゆき。なにかと僕や三沢に絡んでくる結構面倒なやつだ。僕が推測するに、たぶん狙いは三沢。
「こらっ、下田っ!」
「ほれほれ、とれるもんなら取ってみな!」
「おい!」
下田は餌で魚を釣るように紙切れを上下させるので、通知表を奪おうとする僕の手は空を切った。
「司馬の成績は…なになにぃ〜、うわっ…3ばっかじゃん」
「見るなよー!」
「どれ?」
三沢までもが通知表を見始める。
そして、唖然とした表情。
「うわっ、しばちゃんこれ大丈夫かよ」
「…うー……」
大丈夫なわけない。
1年のときも留年ギリギリだったんだからな…
「まぁ数学はさすがだけど…」
「てかさ、司馬って体育出来たっけ?」
下田の指摘にドキッとする。
「し、知らなかったの〜僕、これでも中学んときはサッカー部だから」
「は?しばちゃんが?んなわけないだろ、万年美術部が…」
言い終わるかどうかの瞬間、三沢の目が丸くなった。
「じゅっ、10っ!?」
教室に叫び声が響く。
「ね、ね、びっくりでしょ!?」
三沢は呆然とした表情から徐々に苦笑いの顔になった。
「うわぁ…藤河も、ここまでやっちゃうか…」
「はぁ…やっぱそう思う?」
「うん、不公平極まりない。」
「うーん…」
「藤河がどうしたの?」
下田が乗り出してきた。
「いや、こっちの話。あー…俺でも9なのにな…」
ごめん三沢、僕のせいで…
陸上部エースの三沢が 、僕より下だなんてあり得ない。
しかも、三沢はスポ選狙いだから…
ほんとに申し訳ない。
「えー、なんか怪しい!藤河となんかあるの?そういえば司馬って藤河と変に仲良いし〜」
下田の言葉にヒヤッとする。
僕は手にも汗をかいている。
「は?変って…なにが?藤河は去年担任だったんだよ」
「ほんとにそれだけ〜?」
「そ、それだけだよっ!」
下田は詰めよってくる。
「もしかして…」
「…なんだよ…?」
「…ワイロとか?」
え…
「違います!!そんな事しません!!」
「まあまあ、下田、あんま変なこと言うなよ。こんな柴犬みたいなしばちゃんがそんな事出来るわけないだろ」
「まあ、それもそうか〜」
三沢、ナイス助け船。
「きゃ〜っ」
「先生〜かっこいい〜」
突然、黄色い歓声が教室に響く。
ドアの所には、背が高くいわゆるモデル体型の男性教師。
「あ」
「噂をすれば」
「藤河せんせいーっ!?」
藤河先生はなぜか女子に超人気だ。茶髪で日に焼けてて、顔は何かの俳優ににているような感じ。今はジャージを着てるからあれだけど、卒業式とかでスーツ着てるときはなんかホストである。
「司馬いる?」
僕はドキッとした。
「しばちゃん…」
三沢は僕の背中を強く一回たたく。
「司馬ならここにいますよーー!」
下田っ!!
先生は気付いてこっちに来る。
「司馬、話があるから部活終わったら俺んとこ来い、いいな」
「はい…」
「よし。待ってるから」
先生は白い歯を見せて笑った。

先生が行ってしまってからもクラスの女子どもはなんだかザワザワしている。
下田は興味深々でちょっと興奮ぎみ。
「うわ〜なんか隠してるだろ、ワイロは良くないぞ〜いくら家が金持ちだからってさぁ」
「だから違うって!」
「…おい、そんくらいにしといてやれよ、下田」

僕は色々なことがありすぎて部活も集中できず、デッサンで描いた彫刻もなんか変な顔になってしまった…

つづく


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