BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

きみの瞳に殺されたい
日時: 2016/12/01 20:40
名前: 葛切り (ID: rn3pvd6E)


はじめまして、葛切りと申します。
こちら、創作BLものとなっておりますのでご注意ください。

拙い文章ですが、よろしくお願いします。

Re: きみの瞳に殺されたい ( No.1 )
日時: 2016/12/01 20:52
名前: 葛切り (ID: rn3pvd6E)


 俺の見える世界は、半分しかない。
 
 
 それでも、それでも。
 
 
 
 貴方だけは、なによりも美しく見えるんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 ***
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 様々な色で汚れた指で筆を持って、真っ白なキャンバスに色をつける。慎重に、慎重に。全ての神経をフル活動させて、一寸の狂いもなく。頭で描いた世界を、忠実に再現していく。灰の筆がありとあらゆる色で染まるこの時間が、俺にとって何にも代え難い至福の時間だ。
 
 絵を描き始めたのは、俺がまだ小学生の頃。絵画好きな母親の影響で、一度だけ美術館に連れていかれた時にみた、ひとつの絵。それが幼い俺の心をひどく揺さぶった。それからは一直線。最初はチラシの裏に、鉛筆で描いた、がたがたの線の犬から始まった。
 安いらくがきちょうに、何度も何度も、幼い俺の小さな目に映った、綺麗な世界を描いてきた。近くにいた野良猫、人気だった漫画のキャラクター、心を奪われた夜空の月。家は貧乏で教室に通うことも道具を揃えることもできず、鉛筆一本でただひたすら絵を描いた。たくさんの絵をみて、技術を盗んで、一人で腕を磨いた。友達は、いなかった。
 
 中学生の時、左目が見えなくなった。
 
 事故ではなく、病気で。
 それでも、絵を描くことはやめなかった。
 偶然テレビでみた、盲目の画家。その人が俺の夢を支えてくれた。俺にはまだ世界がみえる。鮮やかな色がわかる。母親が朝も夜も働いて稼いだお金の中から、少ないけれどお小遣いを貰えるようになった頃。みんなが夢中になった漫画やアニメ、ゲームには目もくれず、お金をこつこつためて画材を買った。その時の気持ちを、俺は一生忘れないだろう。
 
 そして高校生になった今もまだ、俺は筆を持ち続けている。
 
 見えなくなった左目は、医療用の白い眼帯で隠されている。別に傷ついているわけじゃないし普通に瞼を開くことだってできるが、一目で「この人は目がみえないんだ」とわかってもらうためだ。おかげで昔は揶揄いやいじめにあってきたが、いまはひっそり影に身を隠すように生活しているおかげでそういったことはない。まあ、隠れすぎて名前を覚えてもらえていないことがしょっちゅうだが。そのうえ人数が少なく目立たない美術部に所属しているものだから、俺の空気っぷりはなかなかなものである。
 そんな俺がいる美術室は、普段授業で使う教室などがある棟とは別の棟にあるため、人はめったに通らない。遠くから聞こえる運動部の掛け声や吹奏楽部の演奏をBGMに、今日も筆を滑らせる。
 
 ......はずだった。
 
「はあっ......あれ、人いるじゃねえ、か......」
 
 ガラリと無遠慮にあけられた扉と、不自然に途切れた言葉。入ってきたのは、ふうふうと息を整えながらこちらを見るイケメンだった。
 上履きの色からして学年は一つ上、三年生の先輩だろう。......なんだかどこかでみたことあるような気がしないでもない。というかどうしてこっちを凝視しているんだ?
 
「......その、絵......」
 
「......え?」

「あ、いや......その、悪いんだが匿ってくれねえか。女子に追われててな」
 
 突然入ってきてなにを言っているんだお前は。女子に追われている? どこの二次元のヒーローだここは俺のテリトリーだ帰れ!
 なんてこと、地味で空気にも等しい俺には恐ろしくて口に出せず。
 
「............お好きにどうぞ」
 
 誠に不本意ながら、イケメンの滞在許可を出してしまった。コミュ障を舐めないでほしいものである。
 素っ気ない言葉になってしまったことなんて全く気にしていない様子で、イケメン先輩はその綺麗なご尊顔にこれまた綺麗な微笑みをくっつけた。
 
 ああ、さらば、俺の至福の時間。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「......なあ、お前、目見えないのか?」
 
 俺がすすめた椅子に腰掛け、なぜかじっと見つめてくるイケメン先輩に背を向けて、その視線にたえながら筆をひたすら動かしていた時。恐る恐るといった様子で、そんなことを聞いてきた。まあ、気にするなっていうほうが無理な話か。
 小さくため息をつき筆を置いて、先輩のほうに体を向ける。どうやらずっとこっちを見ていたらしく、ばちりと目があった。近くでみると本当にイケメンだなこの人。
 
「片方だけですけどね」
 
「......それ、全部お前が描いたの?」
 
 先輩が指さしたのは、俺の後ろに置いてあるキャンバスだった。なんてことない、森と湖の風景画だ。しかもまだ完成していない。
 
「......そう、ですけど」
 
「へえ」
 
 脈絡のない質問に内心戸惑いながら、先輩の顔を訝しげにみつめた。
 さらさらの赤みがかった茶髪。ふさふさのまつ毛の下には、蜂蜜をとろとろに溶かしたような金色の瞳。その金にじっとみつめられると、なぜだか心の奥底を見透かされているようで、落ち着かない気持ちになる。そろりと目から視線をはずした。それでも整った顔立ちは視界に入ってくるものだから、俺の心はズタボロである。ああ神様、どうしてあなたはこんなにも不平等なのでしょう。イケメンは滅べばいい。
 先輩はまじまじと俺の顔と絵を交互にみたあと、
 
「......うん、気に入った」
 
 そう呟いたかと思いきや、先輩は突然立ち上がった。先輩の影が俺を覆う。身長もでかいとか、神様はこの人に弱みでも握られているのかなんて思いながら、その整った顔を呆然と見上げた。自信ありげにあげられた口角。蜂蜜色の瞳はきらきらと輝いて、俺はそこから目が離せなくなった。
 そして先輩は、その綺麗な唇を開いて......
 
 
「お前、俺の専属絵師にならないか?」
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
「............はぁ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 これが、俺達のはじまり。

Re: きみの瞳に殺されたい ( No.2 )
日時: 2016/12/28 02:30
名前: 葛切り (ID: cA.2PgLu)


 なにを言っているんだろうこの人は。イケメンって頭まで常人とは違う作りになっているのだろうか。やっぱりイケメンは滅んだほうがいいと思う。
 
「最近、感受性を豊かにするため云々だのよくわからん理由で定期的に絵画鑑賞することになったんだけどな、芸術なんて俺にはさっぱりだし、なに見てもびびっとくるものがなかったんだが......お前の絵をみて心臓がこう......きゅっとなったんだ」
 
 そんなよくわからん理由を俺に説明されてもさっぱりだが、つまりあれか、俺に絵を描けと。なんだろうこの人、実は馬鹿なんじゃないかな。定期的に絵画鑑賞なんて金持ちみたいな発想......というか金持ちなんだろうなおそらく。そんな人がみる絵なんて、プロが描いたに決まっている。それこそ名高いダ・ヴィンチやらミケランジェロやらフェルメールやらの、世界の巨匠たちの絵だろう。
 そんな素晴らしい絵と俺のちんけな絵を比べて俺の方がいいなんて、馬鹿なんだなきっと。
 
「......馬鹿なんですか?」
 
「はあ!? 失礼だなお前。テストは毎回学年トップだぞ」
 
 やっぱりこの人馬鹿だ。頭のいい馬鹿だ。
 はあ、と何度目かわからないため息をつく。大体俺はそんな定期的にぽんぽん絵を描くことができない。一つの絵に何ヶ月もの時間を要するのだ、そんなんで専属絵師など務まるはずもない。
 
「お断りします......というかなんで俺なんですか。プロどころかど素人ですよ」
 
「お前がいいと思ったから」
 
 なんだこのわがままイケメンは......! イケメンだからってなんでも許されると思ったら大間違いだからな!
 込み上げてくるイケメン先輩への嫉妬は置いておいて、本当に専属絵師なんて無理なものは無理なんだ。勘弁してくれ。
 
「まず定期的にとか無理ですし」
 
「お前の絵が完成したらでいい。そこは俺から言っておこう」
 
「......展覧会とかコンクールとかに出さなきゃいけないし」
 
「終わってからでいいぞ」
 
「............上手く、ないですし」
 
「俺がいいと思ったから言ったんだ」
 
 ああ言えばこう言う......! なんなんだこの人は!
 
「金も出すぞ。希望の金額はあるか? なければこっちで決めるが」
 
「は!? いやいや、お金とか受け取れないですって! てかやるって言ってない......!」
 
「? それ相応の対価を払うのは当たり前だろ。俺が頼んでるんだから」
 
 変なところで真面目というか誠実というか、でもこんなところで発揮しなくていい......!
 
「ほんとにいりませんから! プロでもなんでもない俺の絵にそんな価値なんてないし!」
 
 正直お金は喉から手がでるほど欲しいが、たかだか一学生が描いた絵なんぞに払う金など一銭もない。しかも俺の絵だ、そこらの落描きと変わらない。
 少し苦しいが、バイトをすれば生活できる。
 
 俺が絵を描くのは、ただの自己満足なのだから。
 
「いや、そういうわけにはいかないだろ? 親御さんとは会えるか? 話がしたい」
 
 その問いに、思わず顔がひきつる。
 
「......いません。父親は元々いなかったし、母親も死にました」
 
 生まれた時から、母親しかいなかった。
 汗水垂らして、ただでさえ少ない睡眠時間を削って必死に働いていた母。絵を描くきっかけをくれた母。いつだって俺の夢を応援してくれていた、優しい、母さん。
 過労死だと、医者は言った。高校にはいってからすぐのことだった。
 
「......わるい。お悔やみ申し上げる」
 
「ああ、いえ......ご丁寧にどうも......」
 
「......ということはいま一人暮らしか」
 
「そう、ですね、はい」
 
「失礼だとは思うんだが、あまり金はないだろ?」
 
「そりゃ、まあ」
 
 ふむ、と考え事をするように先輩は目を伏せた。嫌な予感しかしない。
 
「俺の家に住まないか?」
 
 ほらやっぱり! 本当にこの人変なことしか考えつかないな!
 
「......もう、なんというか......一周回ってどうでもよくなってきました......なんでそこまで......」
 
「だからさっきから言ってるだろ、お前の絵がいいんだ」
 
「だからどうして、俺の絵が」
 
「前にこの美術室に入った時、この絵が置いてあったのをみたんだ。その時から、俺はこの絵が頭から離れなくて、ずっとこれを描いたやつに会いたいと思ってた」
 
 とろりと溶けそうな蜂蜜色の瞳が、真っ直ぐに俺をみつめてくる。
 ああ、やめてくれ、そんな目でみないでくれ。断れなくなるじゃないか。
 恨めしい思いでじっと睨むと、先輩は美しい笑みを浮かべた。
 
「決定だな。俺の家に来い。そこで絵を描いてくれ、環境は整えるから......ってそういや、名前は?」

「......若葉。七嶺若葉です。先輩は」
 
「俺のこと本当に知らないのか? 自分で言っちゃなんだが有名なほうだと思ってたんだが......橘怜だ。ついでにいうと演劇部部長なんてのもやってる」
 
 演劇部の、部長。たちばな......れい......
 ああ!
 
「演劇部のプリンス!」
 
「......そのさっぶいあだ名はやめろ」
 
 自覚はあるのか。
 ......というかどうりで見たことあると思ったら、そりゃそうだ。演劇部の演目で何度も見かけたことがある。
 抜群の演技力とルックスで、この人から主役の座を奪えた部員はいまだにいないという。そんなこんなでついたのが『演劇部のプリンス』という本人もさっぶいと言うほどの寒いあだ名。プリンスのファンクラブまであると風の噂で聞いたが、まああるのだろう。
 
「......まさかほんとに王子様だったりは」
 
「しないな。ただの金持ちのドラ息子だ」
 
 金持ちの息子はただの息子じゃないんですけどね。
 
「まあ、とりあえずこれからよろしく、若葉」
 
「......よろしく、お願いします......橘先輩」
 
 おいおいなんで名前じゃないんだなんていう先輩の戯言は聞こえないフリをして、ほっと息を吐き出す。
 
 
 さようなら、俺の静かな青春。こんにちは、騒がしそうな青春。


Page:1



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。