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隣の席の不良さんにガン飛ばされているんですが。
日時: 2017/06/02 18:21
名前: みりぐらむ (ID: UPSLFaOv)

僕の名前は矢野 柚希。
しがない男子高校生である。
よく他人に名前からも顔からも女の子に間違われるのがコンプレックスな僕には現在、そんなみみっちいことなんて吹き飛ばすくらいの大きな大きな悩み事がある。
それを作り出している本人は僕の隣で、授業をちゃんと受けているんだかいないんだか分からない態度で大人しくじっと座っている。
それだけなら全然無害なんだけどね。
名前は不良さん(僕命名)。
なぜ名前が分からないかはさておき、不良さんがなぜ『不良さん』であるかを説明するなら、もちろん名前の通り不良のような背格好だから。
目つきが控えめに言ってきつい。ここまで鋭い眼光の人は少なくとも僕の周りには1人もいない。
制服は着崩してるし、いっつも無表情で、廊下で繰り広げられる熾烈な口論の中で先生に食ってかかる時の彼は竦み上がるほど怖い。
でもすごく美形で、よく言うヤンキー顔とはちょっと違う。
至近距離では(ちょっと怖すぎて)あまり顔を見ないようにしているけれど、遠く離れたところでじっと見てみると、芸能人みたいな顔立ちとスタイルになんだかものすごいオーラがあって、とても近づけない。
しかしながらいわゆるイケメンだからか、怖い風貌でもそれなりに需要があるようで、気の強そうな女子のグループが不良さんのことで盛り上がっていた。むう。同じ男としては羨ましい限りである。でももう少しだけでも愛想よく笑えれば爆発的に人気が出るんじゃないかと思う。
…ちょっと上から目線かもしれないけれど、でも本当に綺麗な顔をしているんだから、もったいない。
だからますますなぜこんな普通科の高校に来たのか全くもって気が知れない。
しかも、同級生たちがまことしやかに囁いている噂が本当ならば、どうやら彼は結構ないい所のお家で、つまりお金持ちで、私立に通っていたものの面倒事を起こし、なぜだか私立には行かずに、権力にものを言わせ普通科で共学の中ではまあまあ頭がいいここに編入されたんだとか。
編入試験も難なく通過されてしまい、拒否する理由がこれっぽっちもない。さらにバックが学校のパトロン、生徒のほうもさっぱり手がつけられないとなれば、結果は誰しも一目瞭然だと思う。
とにかく、まったく違う世界の人で、一生僕が関わらないような存在だった。
…はずだった。
だったのに…どうしてでしょう。
皆さん、お気づきだろうか。
後回しにしていたことがあることを。
なぜそんなにも印象的な人物であるにも関わらず、名前が分からないのか。
詳しく言うならば、知ってるんです。
知ってるはずなんです。
…言えないだけ、分かんないだけ、なんです。うう、僕最低。
結局誰にも聞けず、タブーというか、名前を言ってはいけないあの人というか、暗黙の了解というか…もう今更聞けなくなってしまった、不良さんの本当の名前。
なぜ名前が分からないのか、というと…それは不良さんと僕との出会い──不良さんが転校してきた朝のSHRにて。
何も知らされてない僕たちと、何かに怯える担任の竜ヶ崎先生。
名前は立派だけれどいつも胃を痛めていて、見てて痛々しい人だ。親身になってくれる所が竜ヶ崎先生の美点だと思う。
そんな先生が青い顔で出欠をとり、今日1日の予定を述べた後弱々しい声で「転校生を紹介します…」と言う。
今にも倒れそうな様子に、怯えているのはこのことかとすぐ合点する。
何だか悪い予感がした。
僕の反応を尻目にクラス内が歓喜に満ち溢れる。
慌てて先生がみんなを宥めていると、急にドアが乱暴に開けられた。
水を打ったような一瞬の静寂の中、一身に集められる視線をものともせずに颯爽と歩み出てきた彼は、威圧感のある雰囲気を纏わせながらでこちらを見据える。
すごく澄んだ深い青。
興味無さそうに周りを一瞥して、ふと僕を捉える。
ばちりと目が合って、動けなくなった。
結構な長い時間見つめ合っている(この表現には語弊がある気がする)と、目を眇めてふいと外され、また視線を寄越された。
戸惑う余裕もなく、突然舌打ちが聞こえてくる。
幻聴じゃない。だって分かりやすくわざと音を立てられた気がするから。
そのまま固まっていると、形のいい眉が少し歪んで、睨みつけられた。…気が、する。
僕、なんかしただろうか。
それからちょっとして、なんともいやな静寂が訪れた後、それぞれがロートーンで会話をし始める。
ぼそぼそと話している内容はよく聞こえないけれど、ちらちらと彼を見る目つきや仕草からからしてあまりいい話ではないと思う。
そうやって頭では冷静に考えていても、さっきから身体が思うように動かない。
まさに蛇に睨まれた蛙状態だった。
先生に言われたのか彼はやっと僕から目を離すと、チョークを手に取って黒板に何かを書き連ねている。
意外と繊細な字で、多分名前を書いた…けど、よく黒板に焦点が合わなくて、結局諦めた。
ぼーっと話を聞く。
彼は人形のように突っ立っているだけで、何を言ってもまったく答えることなく、どこか凛とした表情で青く晴れた空を呑気に見ている。その様子に先生の心が折れたようでとにかく席につかせようとしている。
「えっと…とにかく転校生、君は1番後ろの席になる。矢野、お前がサポートするんだぞ、俺は…見守ってるから!」
泣きそうな顔で突き放され、こっちも泣きそうだ。
しかもまたしても視線を感じる。そのまま貫かれそうなほどに睨みつけられている。誰からかは今までの一連の出来事でいやでも理解させられている。
これは俗に言う、ガンを飛ばす、というやつじゃないだろうか。
因縁をつけられる覚えはなかったが、因縁をつけるほうは理由なんてないのだろう。
そして僕に浮かんだ感情は、諦念だった。


そうやって僕は、授業中ずっとガンを飛ばされるという生き地獄を毎時間体験することになる。
不良さんはじっと座って大人しくしている。
授業態度は比較的いいほうだ。
ちゃんとノートもとっているようだし、よく寝ているけど授業についていけないなんてことはなさそうだ。
ただいかんせんめちゃくちゃ視線を感じる。
僕の方が教室を抜け出てしまいそうだ。
これが前週からずっとだ。
耐えられるだろうか。
ガンを飛ばされ続けるという特異な状況が日常化しつつある。
遠く霞んで消えていく、あの代わり映えのない日常。
穏やかで終わりのない毎日。
あまり楽しいとはいえないけれど、一定の安寧が保証された日々。
そんな生温い『平凡』にどっぷり浸かっていた僕は今、容赦なく冷水を浴びせられた気分だった。
刺激が強いよ。
初心者にはちょっとつらいよ。
リタイア、してもいいですか?
もちろんそんなことは許されるはずもなく。
何でこんなことになってるんだろう。
…神様、僕本気で死にそうです。
今も俄然進行形で視線を感じながら、慣れるしかないのだと、僕はため息をついた。


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