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二次創作をまとめる(予定)
日時: 2018/01/06 05:20
名前: 利府(リフ) (ID: xiz6dVQF)

突然失礼します。普段はダーク・シリアス掲示板限定で生きている者です。
なに!?ダークシリアス板の長編書けって!?ごめん!!まだ待ってほしい!!!切腹しろと言われたら切腹できるレベルの申し訳なさだけど!

今回書き上げた長文が二次創作ものな上、文字数が多すぎてTwitter等に上げるのも躊躇われるためこちらに提出することにしました。
その上趣味丸出しで書くのでお察しです。私は楽しんで書いているのですが恐らく読む方は楽しめないと思われます。R18を書くことはほぼないと思われますが、もしあったらこのスレとは別にまた新しく作ることにします。
ほんと単発なので、今回上げる長文で更新が打ち止めになるかもしれませんが、まあ一応こういうスレを立てておけば私の性癖をバリバリ公表できるのでは!という謎の願望です。ごめんなさい。
あとイチャコラサッサしてません!闇です!でもこんなものを闇と言ったら怒られるレベルかもしれませんが一応闇の腐女子が書いているのでご注意ください!

こちら取り扱う可能性があるジャンルです。後々増えるかもしれません。
F.G/O(ホムワト中心、あとワトホム以外の探偵受け)
SH現代版(s/jオンリーになるんじゃないかな...)
F/G/Oの方ですが、医者が実装されない限り医者不在のホムワトという地獄絵図を書き続けることになりそうです。お願いですから!実装してください!!
SHの方はS1E3まで履修済みです。S2レンタルしたいけどビデオ店に行きたくない。ニート。


とりあえず今のところそういう感じです。読む際は突っ込みどころの嵐だと思われますのでありったけの雨具を装備して突入してください。ケガしても責任を負えません。

おそらく好き勝手書いていきます。よろしくお願いします。


長編(『ワンダーランド』パロディ) >>1-3

短編
>>4 >>5

Re: 二次創作をまとめる(予定) ( No.1 )
日時: 2017/12/10 19:35
名前: 利府(リフ) (ID: xiz6dVQF)

以下、F/G/Oの探偵で乙一氏の「ワンダーランド」をパロディしたものになります。
こちら前編です。全ての編含めてのCP要素としては、
微量なホムワト/匂わせる程度のモブホム があります。
あれ?ぐだホムなんじゃないかこれ?と思われるシーンがあるかもしれませんが、そこは見ていただく方の想像にお任せ致します。
あとすごくハァ?って感じですが探偵が女装させられています。女装と聞いて期待した人も引いた人もハァ?ってなる作者の考えたダメ女装です。そして探偵がヤクやってます。だって公式が服薬で幻覚とかいう衝撃のワード発してきたんだから......しょうがないやろ......

地雷ラッシュとなる恐れがあまりにも高いですが、それでもよろしければご覧ください。









***




......ああ、まいった。
さっきから、腕の痛みがひどいのだよ。...なんだい?そう、君だよ。君に話しかけてるんだよ。私の腕が痛むって話をしたんだ。無数に刺傷があって、その全てが心臓と直結していて、脈打つ度に痛むといったら分かるかい?それぐらいの苦痛だ。
大丈夫、昔からこうなんだ。じきに治るかどうかは知れないがね。こんな時はいつも、ベッドの中に入って、じっと痛みに耐えることにしているんだ。蓄音機で好きな音楽をかけたりしてさ。でも、こんな状況だからね、さすがに蓄音機は君は用意してくれなかったろう?ここにあるのは、君が前から持ちこんでいた安上がりのCDプレイヤーだけだ。
でも、今音楽を流してしまったら、君がこの空き家に作ったせっかくの拠点からボロが出てしまう。いや、それ以前に確か、電気も通らなかったろう?腕が痛いのだから、ストラディヴァリウスも意味を成さず...そうだね、じゃあ仕方ない。
大丈夫。あんまり痛みがひどくなったら、外の空気を吸ってくるさ。天気予報じゃ、今日の街は霧がひどいとあったからね。ぞくぞくするよ。ロンドンを思い出す。そいつを眺めながら、煙草かパイプでも吸ってくる。

いや、そんなことをしている場合じゃなかったかな。分かっているんだよ。今回もあては外れたんだ。やはり根拠の無い当て推量でそこかしこを動き回ったって始まらなかったね、また猛省しなければならないよ。それでも止められないんだろうがね。
これまでにも何度か、ためしてみたんだよ。そのたびに失敗して、腕の傷は増えていくばかりだ。応じて、探して、うまくいかなくて、死ぬ。そしてまた応じる。その繰り返しだ。
そういう生活を続けている。くたびれたよ。さみしいんだ。せめて、話し相手はほしかった。誰だっていいのさ。話していれば、いつか腕の痛みも弱まるかもしれないからね。
それにしても、静かだね。車の音も、人の声も、聞こえてこない。どんな人間が住んでいたのだろうね。取り壊す資金がなかったのだろう、20年は放置されている。床に溜まっている埃の具合やら、置いていかれた家電のデザインから、そいつは克明にわかってくるのだよ。...君はいい陣地を手に入れたと思う。今更それを言うのかって言いたげだけど、簡単なことだ。私は素直じゃないのさ。

さて、そろそろ出発することにしよう。もう今回の戦争に干渉するのは打ち切りに決めたのだけれど、最後の希望というものは私だって信じている。万一その希望が見つかったら、君の生命活動もきっと多少は長引くよ。でも、本当に万に一つだね。私ですらそう思わざるを得ない。
これがうまく行けば、私の腕の傷なんて取るに足らないものになるんだ。心も体も、ようやく落ち着けられるんだ。私の目指していた場所の扉も、鍵が見つかってようやく開くのだ。
私は扉の在処と鍵の存在を知っていて、鍵の在処を知らないんだ。神は私にそれだけを与えなかったのだ。
神はなんとも愚かで、信じるに値しない奴さ。


***


小学校に行く途中、鍵を拾った。
それは道の真ん中で、きらりと朝日を反射していた。それは至って普通の鍵で、キーホルダーもついておらず、平べったくて、鍵穴に差し込む部分は鋸の歯みたいにぎざぎざしている。
交番にとどけたり、先生に報告をしたりするべきかもしれない。しかし僕は、それほど良い子ではなかったので、それを自分のものにした。

一日の授業が終わり、放課後になって教室を出るまで、鍵のことはすっかり忘れていた。今日は塾のある日だったので、僕はそれに向けてコンビニへ間食を買いに向かった。財布からお金を出そうとすると、鍵の鋸の歯のような部分が指に触れた。おにぎりを買ってコンビニを出て、ふと思う。
そういえばこれはどこの鍵だろう?一度、それを疑問に思うと、気になってきた。
この鍵で開く扉がこの世のどこかにはあるのだ。家の鍵とは限らないかもしれない。車の鍵?ロッカーの鍵?それとも、部屋の鍵だろうか。
塾の時間まではあともう少しあった。単なる暇つぶしのために、僕はこの鍵を差し込む場所を調べてみることにした。

とりあえず小学校の校舎内にある鍵穴に、片っ端から鍵の先を差し込んでみることにした。放課後になった学校内は静まり返り、先生達もおそらくもう教室の鍵を閉め、職員室の中だ。
わかりきったことだが、やはり合致する鍵穴は見つからなかった。当然だ。そうかんたんに見つかるはずがない。
校舎内からそっと出て、今度は駐車場の車や家の扉など。もちろんどれにも合わなかった。
傍から見たら、自分は明らかにあやしい人物だったに違いない。だれも見ていない瞬間を見計らって鍵穴に差していたが、もしも見つかっていたら呼び止められて事情を聞かれていたかもしれない。それでも、楽しかった。探偵気分だ。おそろしいやら、愉快やら、くすぐったい気持ちになる。

塾が終わって、帰宅して夕飯を食べながら、今日の出来事を母に報告した。学校でこんなことがあったよ、だとか、塾でこなした課題についての話をする。父はいつも帰りが遅いので、食卓には僕と母しかいない。
鍵を拾ったことや、放課後の行動についてはだまっていた。何もかも親に話すほど良い子ではないのである。

学校の登下校中に、鍵穴の調査をすることが僕の日課になった。車のドア、コインロッカー、閉店した洋品店のシャッター、自動販売機。あらゆる鍵穴に、拾った鍵をためしてみた。通学路の鍵穴があっけなく全滅すると、いつもとちがう道に入り込んでみたりもした。曲がったことのない角を曲がり、風景の一部として素通りしていた家の扉にも鍵をためしてみる。犬にほえられて、その家に飼われていた巨大な犬の存在をはじめて知る。

鍵はどの鍵穴にもあわず、ほとんどの場合はささりもしない。日を重ねるごとに行動時間は延び、行動範囲も広くなっていった。
ある日、鍵穴の捜査のせいで帰宅がおくれてしまい、お母さんが夕飯にラップをかけて食卓で居眠りしていた。肩を揺らすと母は起きて言った。
「お帰りなさい。勉強、どうだった?」
いつものようにお母さんと夕飯を食べながら一日の出来事を話していると、つけっぱなしになっているテレビからニュースが聞こえてくる。

「気をつけるのよ。今日みたいに遅くなる日は、できれば電話するようにしときなさい。携帯電話を持たせた方がいいかしら?でも、学校や塾の先生にばれないように、そっと持っていかなきゃだけどね...」

母の話をぼんやりと聞きながらニュースを見る。
20代の女性が行方不明になったというニュースが報道されていた。何らかの事件に巻き込まれた可能性があるらしい。画面の下半分に、女性の服装が字幕で出ていた。ベージュのカーディガンに、グレーのワンピース。ブランドものの靴。茶色のバッグ。この服装の女性に心当たりのある人は下記の番号に連絡を、というアナウンスも表示されている。
おどろくべきことに、その人が姿を消したのは、行ったこともないような遠くの土地ではなかった。僕の住んでいる街から車で1時間ほど行った先にある、となり街での出来事だったらしい。画面に映っている映像は、何度か親にも連れられていった公園だった。


***


わかっているんだ。自分がもう欠陥品になってしまったことなら、ずっと前からわかっている。はやいところ、死んだ方が世界にとって助かるのかもしれない。でも、私は残念ながら容易に死ぬ事が出来ないのだよ。ぱっと終わらせられたらそんなに楽なことはないがね。この腕の痛みからも、今度こそ解放されるかもしれない。
さっき君の車のラジオで行方不明者のことを報じていたよ。あの女性、やはり一人暮らしじゃなかった。そう考えないと、警察の動きの早さに説明がつかないだろう?私の経験上一人きりの人間は、いなくなったところで数日間放っておかれるのが常なのさ。しかし、あのマスターは家族にひた隠しにしてでも聖杯戦争に参加せざるを得ない理由があったのだろうか?まあ、どうだっていいか、そんなことは。あの女性に聞いて確認することも、今となっては不可能だからね。

当然のことながら、腕はまだ痛むよ。あの女性の持っていたサーヴァントの情報を確認できれば、今回の聖杯戦争に遣わされたサーヴァントの真名はすべて看破できたのだが、やはり違ったね。今回も外れだったというわけさ。

ところで、あの女性はどうしたんだい?
...なんだって?君、あれを冷蔵庫の中に入れてしまったのか!ああ、ため息が出そうだよ。どうしてこう、埋めるとかそういう努力をしようと考えなかったんだ。馬鹿はたくさんだよ。あの女性を殺めてから、もう2日経っているのだよ?電気の通っていない冷蔵庫の中じゃ、腐臭が漏れてくるのは時間の問題だ。君は哀れなことに、自分の寿命をさらに縮めてしまったのだ。救いようのないところまで来た。

ああ、いや、もういいよ。とにかく私も君も失敗したんだ。あのサーヴァントは、私の求めている鍵じゃなかった。殺す意味もなかったけど、君が殺せと言うから、とりあえず脳天を銃弾で貫いてあげたよ。あっさりと、呪詛もなくすぐに消えてしまった。
これはもしもの話だけれども。鍵が見つかるとする。そうしたら、僕は“帰れる”んだ。扉の場所も知っていて、鍵の存在も知っていて、あとは鍵の在処だけなのさ。
聖杯に頼むなんてお断りだ。彼の複製なんて僕が許さないよ。私がひとりなら、彼もまたひとりなんだから。
鍵が、彼が見つかったなら、僕達は仲良く元の鞘に戻る。そうして互いに寂しさと苦痛から解放されるんだよ。

...知って、いるんだ。ほんとうさ。きみは、しんじてないようだね?

きみは.........。


きみは、いったい、誰だっけ......。
きみは、本当に、存在しているのかい?


.........ははは、嘘だよ。冗談さ。
君はここにいる。当たり前だ。私が証明できる!君とどこで会ったかも覚えている。ただ、薬が少し効きすぎたのかな......。ぼんやりとしてくるのさ。ここに来てから、もう何十本も身体の中に薬を入れてきたんだ。心が安らぐから、ほんの一時だけは助かるのだよ。君もやってみるかい?...嫌か。わかったよ。じゃあこの注射針は私が最後まで持っておく。
まあ、いいだろう。難しいことは、君の頭に置いておくには荷が重すぎる。とにかく私は失敗したのだ。
好き勝手どこにでも召喚されようとする癖を正した方が良かっただろうか?そうだろうね。こんな悪習慣のせいで、興味のない戦争をやらされた。やはり事件の品質は選んだ方がいい。
これは小さな運試しのようなものに思えて、僕達の大いなる運命を試しているのかもしれないね?さすがの僕も、運命に挑んだことはない。生まれ変わっても君は変わらないでくれ、というのは生前に僕が思いついたワードだったが、それを言ったら呪詛めいたものになってしまうし、彼が気味悪がってしまうと思ってやめたのだった。それを伝えておけばまたなにか違ったのかな?......だめだね、過去には戻れないのだ。何度も考えて、切り捨てた考えじゃないか。恋愛も後悔も、僕には必要なかったはずなのに。

いけないな。腕の痛みが酷くなってきた。少しの間、私は横になっておくことにするよ。まだもう少し、この空き家にこもっていても構わないだろう?あと1度くらいは、最後の確認に行くべきだ。もしかしたら、彼の姿形は僕の知っているものとは変わっているのかもしれない......。でも、僕が彼を間違えるはずがない。彼が僕を間違えることは、多々あったのだがね。
要するに、この街と周辺の市街にいる生命は、みんな僕の探している“鍵”じゃないのさ。それを最後に、確証付けに行くんだよ。


***


隣の席の友人が、僕に昨日の宿題をやったかどうかを問いかけてくる。僕はそこから導かれる問いを快く受け入れて、ノートをにこやかに貸してやった。友人は礼も言わずに受け取った。
最初のうちこそ感謝はされたが、僕の真面目な授業態度に変な信頼を置かれるようになってから、これが当然と思われるようになってしまったらしい。そのことをとがめることはないのだが。

授業中、机の下で鍵を握りしめていた。放課後になったら鍵穴を探しに行こう。この鍵にぴたりと一致する鍵穴がどこかにあるはずだ。この世界のどこかに、この鍵で開く扉がある。それがどんな扉なのか、その向こうにどんな世界があるのか、それを見たかった。動機は?どうして?意味は?冒険心?好奇心?あるいは、その向こうに逃げ出したいだけか?
拾った鍵で開く扉の向こうに、アリスの迷い込んだ不思議の国、物語の世界のようなものを期待しているのかもしれない。

鍵を拾った場所を中心に、半径数キロメートルの範囲にある家、アパート、マンション、店舗の扉は調査がすんでいた。
目に付いた全ての鍵穴は、拾った鍵と一致しなかった。錆び付いた金網にぶら下がっている南京錠までためしてみたのだが、鍵の先端部分すら入らない。落胆はしなかった。やり甲斐は、増すばかりだ。
いや。きっとどの扉も開かない、という予感が常にあった。一致する鍵穴をさがしていたのに、心のどこかでは、このまま見つからないことを祈っていた。


その出来事が起きたのは、塾の無い曜日のことだった。
帰りの会が終わって学校を出ると、さっそく鍵穴の調査に向かった。街の北側に大きな川が流れている。今日はその周辺を探索してみる予定だった。
川沿いの地域は民家がまばらで、古い家が多かった。住宅の密集している地域に比べたら鍵穴の数も少ない。通行人が絶えた隙を見計らって民家の鍵穴に鍵を差し込んでは、さっと逃げるというのを繰り返した。
結局、その日も成果のないまま西の空が橙色になった。川沿いに出てみると、視界が開けて、雲の少ない夕焼けが頭上に広がっていた。マンションやアパートが対岸に並んでおり、西日を受けて窓を輝かせている。
土手を進んだ先に雑木林があった。夕日が逆光になって、雑木林は濃い影に覆われており、ほとんど真っ黒な影の塊だった。
よく見ると、その中に民家の屋根がある。
この地域の民家の鍵穴はすべて調べたつもりだったが、その家を見落としていた。
近くまで向かうと、そこが空き家であることが伺えた。玄関まで一面に雑草が生い茂っていて、屋根瓦は一部落下し、外壁の板はところどころ苔に覆われていた。

しかし、本当にここは空き家か?と僕は思った。荒れ放題の庭先にとまっていた白いワンボックスカーを見て疑問に思う。家の古さと比べれば、これは新品中の新品だ。

車内はずいぶん散らかっていた。食べもののかすや、タオルや紙コップ、ペットボトルなどが散乱している。
後部座席の足元に、なぜか有名なブランドものの靴が転がっていた。
そして前方の車席には、どこででも売られているようなシューズが無造作に放置されている。
念のため、運転席のドアの鍵穴に、拾った鍵の先端を差してみる。だめだった。一致しない。
鴉が声をあげながら空を横切り、雑木林の向こうに消えていく。民家のそばは薄暗く、林の枝葉が他の地域からここを目隠ししている。

車がだめなら、家の方はどうだろう。
鍵穴を調べるため、民家の玄関扉に近づいてみる。

Re: 二次創作をまとめる(予定) ( No.2 )
日時: 2018/05/18 22:06
名前: 利府(リフ) (ID: xiz6dVQF)

***


......なんだって?私の、話をしてほしい?
ああ、そうか。伝えるべき話はまだまだあった。意識が遠のきそうになっていてね、でもいつも通りの長話をできるかもしれない。また針を刺したから、いつもの調子に一時だけ戻れているのさ。

まず、確か君にはキャスターという名称のみを授けていただけだったと思うが、
──私の名前はシャーロック・ホームズという。
もう既に驚いているね?ははは、私だって英霊にはなれたのだよ。ロンドンも米国も関係なく、世界に大層お高くとめられたらしい。
なに、...本来なら名前など教えないのだけど、改めて自己紹介が必要だと思っただけだよ。

私は探偵という身分として、まず相手を信用するかどうかという、その観点から君とは異なってくるんだ。すまないね、これは本当に例外など一つもないものだから。私の揺るがない性分なんだ。この要素が失せたら私じゃない、と思ってくれたってかまわないよ。

要するに、私は君のことを全く信用できなかった。
そうさ、だからこそだよ。私はわざと従順にしていたんだ。それだけで君が令呪を使うタイミングも手に取るように理解出来たし、...私は君の欲望もある程度の範囲までは受け入れてきただろう?
だから私はこんなに清楚な姿をとらせて頂いている。いやはや不思議だね、人間だった頃には試さなかった変装だ!

......おや、理解できなかったのかね?私の得意な皮肉さ。私は、“これになる気はさらさらなかった”のだ。人間として生きていた頃も、自分の曲げてはいけない部分ぐらいは把握していたからね。まあ、この性別を駆使して恋愛など特別した覚えもないのだが。ああ、案ずることはないさ。今となっては、私の本来の中身もほんの小さな摂理だ。肉体そのものを変異させることだって、やぶさかではない。

......ねえ、やめたまえよ。白いものを見ていると頭が痛くなってくるよ。虚無に触れているみたいで嫌になる。君の顔面だって怯えきって蒼白だし、もう少し血の気を足したまえ。ブランデイでも飲むかい?......いらないか、分かったよ。...君ってやつ、本当に面白くない事柄ばかり持ってくる。まあいいのだけどね。

さて、私は君の仕立てた豪勢な罠をくぐり抜けてきた。
令呪はもう残っていない。君の口から漏れる言葉も封じておいた。何だい、そんなにじたばたしたってもうだめだよ。それとも血色が良くなってきたということは、運動をしたいということかい?...なに?ああ、自分を拘束しているこれは何って、魔術の真似事さ。昔の因縁があってね、魔術協会に入り浸ざるを得なかったのだ。俗に言う、非人道的な行為もロンドンを闊歩する悪人並には学んできたつもりだ。
それとも何だい?君は私のそんな部分すら好いてくれるのかね?ははは、流石に違うね。
じゃあ詫びた方がいいかい、ええと、定型文になってしまうが、探偵シャーロック・ホームズは、自らの契約者の喉を薬で焼き──詫びも要らない?おや、それは失敬。

じゃあどうするかい?どうせ互いに終わりが近い身分だ。......おや、また顔色が真っ青になったね。言った通りさ。私たちはここで終りになる。おいおい、そんなに顔を強ばらせるなよ、私はこうやってマスターを殺して回るだけの極悪人じゃないのだ。
ただ、君のような男に聖杯を掴ませたとしても、望むことは知れている。私がめでたく受肉してまた探偵として華々しく働き始めるとしてもだ、それは私を手中に収めるという君の願望しか叶えないだろうさ。これは世界のためだし、私のためでもある。

いいかい、ここに留まってばかりじゃ私は死にながら生きているようになってしまう。ここにいる限り、私はもうお先真っ暗なのさ。それを良いように使わないでくれたまえよ、マスター。こんなにだめになってしまった男でもプライドはあるんだ。

それに伴った精力も程よくある。だからいちおうは聖杯を獲るために戦ってあげたし、あわれなサーヴァントも一人葬られ、サーヴァントをうまく使えなかったマスターも戦争の摂理に従って散ることになっただろ?
ああ、わかってほしいんだけどねえ、君というやつ、中々意地の悪さだけはしぶとく作られた人間だ。はやく楽にしてあげたいんだけど。

知っているだろう?私はうまく処刑ができないんだ。......誰かが絞首刑をやるんだ。同時に誰かがやらされるんだ。それを眺めているのが私なんだよ。私はいつだって傍観なのさ、そんな傍観者には、『暇だから罪人の頭を撃ち抜きたくなる』だとか、そんな欲求がなかったと言ってしまえば嘘の証言になるね。

しかし、誰もいない自室での射撃練習じゃ死に値する罪人の頭は射抜けないし、壁に傷は残るしで完全犯罪には程遠い現場が出来上がる。そんな問題をものともしない完全犯罪を作ってくれる人間も、ここのところなかなか会えない。残念だよ。世界は果てしなく不条理だね。惜しいことだと思わないかい?どんな悪人も人間であるからには死んでいくんだ。だが、人間は死んでこそ人間で済むんだ。人間だった私も、最後の最後に事件を起こすだとかそんな馬鹿げたことをしないで、規則正しく死んだのだよ。そんな優等生を事件もないのに喚び出さないでくれないだろうか?
喚ばれるとしたら私はね、事件のある場所に行きたいのだ。そこに探し人がいるはずだから。

ここは退屈そのものだ。おかげで私の腕には注射の跡が巣食ってる。痛い、痛いんだよこれが。でも打つしかないのさ。だって生きたくないし死にたくもないものね。

......君のせいだよ。これじゃまたワトソンくんに怒られてしまうよ。生きてた頃はその怒鳴り声が心地よかったのに、今となっては幻聴になって僕の中に入り込んでくるのだ。悲しくて泣いてしまいそうだ。それとももう僕は泣いているのかい?感覚が薄れてしまったみたいなんだ。ああ、違う、違うよ。マスター、これは演技じゃないんだ。君が衰弱していくから僕まで弱ってしまったみたいだね。それとも薬が切れてきたのかなあ、あとが恐ろしくなってきた。

また何か言いたげだ。なんだい?...探しているのは誰だって?探してきてやるから助けてくれ、って言っているのだね?うん、当たった。口はもう少し大きく開いてくれたまえ。読唇術はなかなかやったことがないのさ。
さっき言わなかったかい?
ジョン・H・ワトソン。それが僕の鍵。たった一人の友達、僕の誇る最高の相棒で、どんな最後を迎えても、絶対に僕の隣にいてくれる人なんだ。そのはずなんだよ。
最近、あの部屋に帰りたくて仕方がないんだ。
でもずいぶん、遠く離れてしまったね。こんな場所に今更来るなんて、生前の僕なら考えもしなかった。でも、こうでもしてまで帰りたいのだ。ワトソンくんと一緒に、あの部屋に。

僕は、彼がいなきゃベーカー街のあの部屋に帰れない。彼は、殻に閉じこもるような男じゃないんだ。僕が呼んだらすぐに来てくれてね、頼み事をしたら快く受け入れてくれて、僕のやることなすこと一つ一つに感情を露わにしてくれるのさ。
すばらしいだとか、ばかばかしいだとか、良いとか、良くないとか、構わないとか、許さないとか、好きだとか、嫌いだとか。
あの部屋は彼と僕の感情で溢れていた。互いの中身を露わにしていた。僕は、彼との関係に嘘偽りを一滴たりとも残さないようにしなければ、と心に念じていた。そんな生活が幸せで仕方がなかったんだ。喧嘩もしたし、軽口も叩きあったし、僕に面と向かって『それはくだらない』と言えて、僕が『価値が分からない君がおかしい』と言い返せて、それでも仲直りできるのは彼だけなんだ。

何もかも、最後には彼に帰結する。認めよう。僕は彼が愛しかった。彼と居る時だけは、別れだとか、死という概念が欲しくなかった。

でも、彼は死んでしまって、僕も死んでしまった。死ぬのはよかったさ。それが生命活動の規則だ。
でもね、僕が英霊として目覚めたら、彼は隣にいなかった。
英霊の座には僕一人。椅子に座るのも僕一人。ワトソンくん、と呼んでも、何も返ってこない。僕が泣いたって誰も慌てない、僕が突然笑い出したって、興味深そうにその理由を問うてくる人間なんていない。

このままじゃ、もう帰る場所なんてないんだよ。こうやっていろんな所を転々として、世界に留まっているにしか過ぎない。
だから僕はワトソンくんを探してるんだ。僕は事件の有るところにいつだって居た。でも、ワトソンくんがいる場所は不確定だ。もしかしたら、彼は英霊の座に届かなかったのかもしれない。それでも僕は探すんだ。彼がいなきゃ僕はどうしようもない。だから、どんな並行世界だって、剪定事象にだって潜り込んで、どこかで迷っている彼の手を掴んで、ふたりで部屋へと帰るのだ。

...それまで、僕は泡沫の夢を見るしかない。この溶液がその手助けをしてくれるのさ。それとタバコだね。
もう、夢の中でしか、あの部屋には戻れないんだ。僕らには、きちんとした写真も残っていないからね。
目を閉じて、思い返すしかないんだよ。帰れたらいいのにね。あの部屋に。あのころは、まだ何も不安を感じていなかった。どうしてあのころは、理由もなく平気でいられたんだろう。腕が痛むこともなかった。毛布に包まれるような安心感の中で過ごしていたんだ。いつだったろうね、自分の欠陥に気づいたのは。

ああ、そうだ、彼が結婚したんだ。僕の依頼人だった女性と。僕はあの女性も受け入れるつもりでいたんだ。本当だとも。でも、だめだった。
思い出すと、吐き気がしてくる。彼がいなくなってしまうのが恐ろしくて、壊れてしまうくらいに薬に溺れて、結局は彼を必死に呼び戻したんだ。ふつうの人は、ああいうときどうするんだろう。祝福して、おしまい?だめだそんなの、どうやって耐えろって言うんだ!

みんなみんなお互い様の気違いだよ、それとも常人の方が気が狂っているのか?人間ってどこまでも理解不能だ。他人は僕らを永遠と呼んだが、そんな永遠なんて虚構だよ。張本人である僕は孤独だってこと、僕をサーヴァントにした当の群衆は知っているのか?僕らを永遠と呼んだ人間が、僕の愛情を貶すのか!人のちっぽけな独占欲では愛した人ひとりも繋ぎ止められないと嘯くのか、別れが来ればそれで2人はおしまいにするのか!それが分かっているから君だって僕にくだらない情欲を抱いたんだろう!なあ、何とか言ってみたらどうだマスター、こんな僕をそんな薄汚れた目つきで愛でたぐらいだ、僕に同意してみろよ!!




...............。
......ぁ、あぁ.........痛い。腕が痛い、.........。
すまないね、涙が止まらなくなってきた。...帰りたいよ。彼に会いたい。こんな僕をまた叱ってほしい。それで、最後には、よく頑張ったねって微笑んでほしい。
助けてくれ。帰りたいんだ......。君、さっき、彼を探してくれるって言ったろ?
.........ははは。いいよ、最初から君には無理だって分かっていた。だからそんなに怯えないでくれ。むしろ私の人間性を分かってくれたろう?
なんだい?わからない。もう少し大きく口を開けて、怖がらないでさ......
ああ、一人称が違う......?そうだったっけ?さっきまで、僕.........あれ、確かにそうだ。彼のことを思い出す時も、記憶だけは回帰してるみたいだね。なんだか嬉しいよ。
でも、あの部屋はもう開かないのかもね。いつかは玄関扉もばらばらに砕けて、帰れない私はそこらの凡人よりもひどい末路を迎えてしまうのかな。ふるさとは、ロンドンはどうなっただろうねえ。まだ東の風が吹いていたら、───

まてよ、今、外で物音がしなかったか?


***


電気のメーターは止まっていた。ということは、やはりここは空き家なのだ。玄関扉の鍵穴に、鍵の先端をあてた。しかし、ほんの数ミリだけ鍵穴に入ったところで止まる。それ以上どんなに力をこめても奥へ行かない。
僕は息を吐き出した。どうやらこの家の鍵でもなかったらしい。...今日はもう、帰ることにしよう。遅くなったら、またお母さんを困らせる。

引き返そうとして、足を止めた。
そういえばまだ勝手口の扉を調べていない。

この地区には、玄関扉とは別に、勝手口のある家が多かった。一つも漏らさずに鍵穴を調べておきたい。僕は決めた。念のため、勝手口にも鍵を試しておこう。
家の壁に沿って移動を始める。勝手口はどこだ?雑木林のせいでうすぐらかったが、まだ視界は大丈夫だ。
窓の前を通りかかった時、嫌な臭いを感じた。
食べ物でも腐っているのだろうか?窓は開け放たれていた。においはどうやら、室内からただよってくるらしい。
つま先立ちをして、中を覗いてみる。
どうやらそこは台所のようだった。電気はついていなかったが、何も見えないというほどではない。
汚れた布の塊がまるめられて部屋の隅に寄せられている。誰かの服のようだったがよくわからない。長い赤の紐が部屋の中で存在を誇張し、小さい手帳とペンが転がっていた。赤い紐は本数もそれなりにあり、幾重にも重なっているようだった。
床に土埃がかぶっているが、その上でなにかをひきずった跡がある。黒い染みがところどころに広がっていた。微かに差し込んでくる夕日のせいでそう見えたのかもしれないが、その染みは赤黒い。血が広がって、土埃とまじりあいながら、変色したような色だ。
何かを引きずったような跡は、冷蔵庫につながっていた。冷蔵庫の棚板らしきものが取り外されて横に立てかけられている。なぜ、そうしてあるんだろう?
棚板がはまっているのが、邪魔だったのか?
冷蔵庫の扉に、黒い線状のものが無数に挟まって、たれ下がっていた。どうやらそいつは、きちんと中に入れてもらえないまま扉を閉められたせいで、このように冷蔵庫からはみ出してしまったのだろう。
僕にはそれが女性の長い髪の毛のように見えた。

それを見て思わず、駆け出した。
逃げなければ、と脳内がやかましく悲鳴を上げていた。
そこから離れ、風呂場の前を通ったとき。
風呂場の窓際に、夕日に照らされるロングヘアの長身の後ろ姿があった。
芸術品のように美しいそれは、白を基調とした正装と赤い紐に結ばれたコルセットで彩られ、その首元には洒落たネックレスが輝いていた。


***


......終わりが来たよ。
さて、あの少年、私の顔を見ただろうか?子供というもの、たまに分かりにくかったりするし、過敏だったりもする。たしか、ジャッキー...いや、ジャックという子供のときもそうだったか。あの子は良い。あの歳から兄弟間の確執に呑まれるなんて、とてつもなくすてきだよ。
さて、近いうち警察は呼ばれるだろうね。拳銃を持った敏腕な警官たちがこの家を取り囲む。私はやろうと思えば逃げられるが、君はどうだい?逃げ切れるかい?
私も、これ以上ここにい続けたいという感情は薄いね。一緒に死んであげようか?君の思い通りになるのは癪だが、まあ死に際の依頼人には従ってやっていい。よろこんで心中しよう。
しかし、あの少年がどうなったのか、見届けるのを忘れてしまった。目撃者がいたんだ。車から男が降りてきて、近所の家からもぞろぞろと人が出てくる気配がした。だからすぐに霊体化して、引き返してきたんだ。
もしも人がいなかったら、あの少年にいろいろと話したいことがあったのだけどね。でも逃してしまった。

さっき物音がしたろう?誰かが来たと思って、それで外に出たんだ。勝手口からそっと抜け出して、外壁に沿って移動した。角を曲がったあたりから、息をのむような気配がつたわってきたんだ。ピストルを頭に突きつけられた時と同じような、恐怖で声も出せない時の人間の反応さ。
あの少年は、窓から台所を覗き込んでいたのだと思う。
この数日間、ずっと気にもとめなかったんだが、台所の床には数滴の血が落ちていたし、そして冷蔵庫からは私達が殺したマスターの女性の髪の毛がはみ出ていたんだ。あれを収納したのは君だよ、あれじゃ完全犯罪にはなりゃしないね。
そしてそれを見て、少年はこの戦争の末端のそのまた末端を知ってしまったのさ。

髪の毛が出ていたら、それは怯えるだろうさ。私は慣れていたんだが、死体の匂いも普通の人間なら相当こたえるだろう。だから、ぴんときたのだろう。
後悔しているよ。あそこですぐに飛び出していたら、少年をこの家に連れてくることができたのかもしれない。でも私も君と同じくらい衰弱している上に、薬による計り知れない損傷を受けているのが響いたのだろうね。サーヴァントのくせに、人間並みの速さでしか追いかけられなかった。

彼は悲鳴を上げていたよ。言葉にもならないようなわめき声だ。追いかけているうちに、彼が小学生の男の子であることがはっきりと分かった。可哀想だと思ったけれどね、それでも追いかけるしかなかった。殺しはしないから、と叫べばよかったかな?

最近は霧がかっていた外が、今日は夕焼けに染まっていたよ。風にふかれて、ゆっくりと雲が動いていた。西の空は、ずいぶん暗くなって、星がかがやいていた。まるで宇宙だ。薬を使った時に見る景色とはまた違う、とても美しいものだった。バイオリンの美しい旋律を聞きながらその光景を見られたら、どんなに幸せだっただろう。

追いかけてくる気配が伝わったのだろう、何度か彼はこちらを振り返っていた。そういえば、私の顔は見たのだろうかね。夕日を背にして追いかけていたから、逆光で見えなかったのかもしれないね。その上、必死に走っていたらシルエットすら捉えられたかも怪しい。
少年は叫んでいた。命乞いみたいで懐かしかったよ。あれを見れば、死にものぐるい、という表現がぴったりだってワトソンくんも言うだろう。

でも、民家のある地域にはいってすぐに追いかけっこは終わった。
ドン、という音がして、少年の体が、はじきとばされたんだ。急ブレーキをかけて車が停車した。全速力で走っていた少年は、車が来ていることに気づかないで十字路を直進しようとしたんだよ。私も数瞬早くそれに気付いて、思わず「ああ!」と小さく声を上げてしまった。それから少年はどうなったのだろう。死んでいなければ、それに越したことはないのだけれどね。

もうこの戦争も終いかな。
君も死ぬしかないよ。私だってくたびれてしまった。早いところ楽になりたい。でも、まだこの世界のことをよく見回ってないから、ワトソンくんがここにいるかどうかがよく分かっていないんだ。捜索はしてみる価値はある。君も、警察が来たら、聖杯戦争のためだったって言えばいいじゃないか?そうしたら、慈悲をいただけるか、絞首刑のどちらかに絞られるよ。最後の二者択一だ。どきどきするね。

ああ、そうだ、僕は、どうすべきかな...。

このまま彼を探して、見つかったとしたら、僕はぼろぼろになったままで彼に抱きしめてもらうことになる。それは......なんて嬉しいことだろう。彼と一緒に、疲れた身体を治すんだ。部屋にもどって、食事をとるんだ。そうなったら、また僕は泣いてしまうね。
そうだ!この冒険を伝えるために、早いうちに書き留めておけばいいのではないか?大丈夫、手帳とペンは僕がいつも持ち歩いている。でも、早くしないとすぐ忘れてしまうような...。

.........手遅れだったね。僕を最初に喚んだマスターのことも忘れてしまいかけているな。必要が無いと思ってしまったらしい。なんて欠陥品なのだろう、今の僕は.........
僕は、生きていくべきなのかな?もうこのまま座に閉じこもりきりになって、緩やかに死を望むのがいいのかい?

ねえ、.........君の姿が薄ら見えるよ。ぼくは君を求めて、今までなんとかやってきたんだ。会いたいよ、きみといっしょに帰りたいよ。あ、......そうだね、腕かい?痛いのに、痛くなくなってきた。
薬がきれて、もうよくわからない.........。きみは、本当にこの世にいたのかな。


ねえ、きみ......きみは、どうおもう?


.........そうかい。君はそれを選ぶのだね。
さて、やはり、私は完全に死んだ方が良いのだろうか?でも、ワトソンくんに会いたい気持ちは変わらないんだ。
そうだね、まだ、死ぬのはよそう。最後のコンタクトだ。あの少年にもう1度会ってくるよ。
この卑しい洋服を脱いで、君が私のご機嫌取りのために買ってくれたコートを最後に着てみるとしよう。偶然を装って彼に会うんだ。それでどんなリアクションをしようとも関係はない。危害を加えない意思を見せて、それでどうにかなればいいけどね。
それでもいいさ。あんな少年でも、希望は希望だった。彼は、私の素敵な依頼人になってくれるかな。まあ、どっちだって構わない。彼が私の願いを聞き入れてくれるマスターなら尚更良いが、取り敢えずの糸をかけるフックを首尾よく見つけ出せて良かったと思う。

行動は早いほうがいい。
じゃ、さよなら。行ってくる。もう私のことなんて忘れたまえ。私も、君の名前なんてもう忘れてしまったからね。





.........。


腕が痛い。

注射の痕さ。今となってはひりひりと焼けるように熱いし、この傷痕ひとつひとつが心臓に直結しているようで、脈打つ度に痛むんだ。
まったく、ひどい痛みだよ...。

Re: 二次創作をまとめる(予定) ( No.3 )
日時: 2018/05/18 20:40
名前: 利府(リフ) (ID: xiz6dVQF)

***


目がさめた時、僕はベッドに寝ていた。自分のベッドではない。周りにある機械を見て、そこが病院だということがわかった。傍に母がいて、僕が目覚めたことに気付くと、あわててお医者さんを呼んでくれた。
はじめのうち、頭がぼんやりして、何も考えられない状態だった。頭を掻こうとしたら、包帯が巻いてある。母が状況を説明してくれた。僕は交通事故に遭って頭を打ち、半日間、気絶していたらしい。つまり、一晩を病院のベッドで過ごしたことになる。
頭痛がした。
車にはねられて、頭をひどく打ったらしい。
医者から様々な診察を受ける。
目がきちんと見えることと、耳が聞こえること、自分の名前をはっきりと言えることがわかって、お母さんはほっとしていた。
病室でお母さんと二人きりになる。

「そう言えば、この鍵ってなに?ずっと大事そうに、にぎってたけど......」
母が鍵を取り出す。キーホルダーもついていない。どこにでもあるような銀色の鍵だ。僕はそれを受け取ってながめた。

「拾ったんだ。どこの鍵かはわからないけど、もしかしたら、だれかの大事な鍵かもしれない」
「そうか。それなら、交番に届ける?」
「届けた方がいいのかな?」
「でも、もうきっと複製されているんじゃないのかな?鍵なんて、すぐに作り直せるもの」

母が微笑むので、僕はまた鍵を受け取って、大事に握りしめた。それから連絡を受けた父がやってきて、僕の表情を見てほっとした表情を見せた。

お医者さんが両親に僕の容態の説明をするために、二人を別室に呼び寄せ、僕はまた病室に一人きりになった。
僕は、あの空き家で見たものを思い出す。
冷蔵庫の中の死体。そして、風呂場にいた人間。

風呂場にいたあの人は、女物の洋服を着ていた。白い長袖のワンピース、袖口には控えめのフリル、スカート裾は膝まで。首元にはネックレス。お嬢様のような身なりで、外を歩けば一定の視線を集めるであろう美しい背姿だった。
窓際にいたその人はいかにも清楚で、見ているだけで清々しくなるような色素の薄れた後ろ姿だったが、その服には血の数滴が滲んでいた。そして彼女は、誰かに語りかけているようだった。
僕はあのときぞっとして、後ずさりもできなくなりかけた。
そのほっそりとした体つきを誇示するように、腰にはきつくコルセットを巻き付けている。白磁のような白い肌は下手に触れれば跡を残してしまうようで、彼女の心に留めきれなかった神経質さが溢れているようだった。あの家では既に一人の人が死んでいた。そしてあのような美人がなまぐさい血の匂いをまとって、真っ赤な夕焼けに照らされたまま、誰かと話しているのが、ひたすら恐ろしくなったのだ。

言葉も交わさなかったし、顔も知らなかった。それでもあの姿と形が、濃く脳裏に刻まれていることを日々自覚していった。
あの人はどうなったのだろう。あの部屋で犯人の手にかかって、死んでしまったのだろうか?
だとしたら、僕は彼女を置き去りにしたも同然なのかもしれない。
病室で、僕はそっと彼女の無事を祈った。


***


しばらくして、両親がもどってきた。僕は二人に警察を呼ぶよう頼んだ。まだ、僕が関わった恐るべき事件のことは伝わっていないのだ。彼女を救い出すためにも、警察の力を借りなければならない。しかし両親は首を横に振った。

そして僕は、二人の口から事件はもう終結を迎えたことを伝えられたのである。

その火災が起きたのは、僕が病院のベッドで眠っていた深夜の時間帯である。夕方に交通事故の起きた十字路から百メートルほどしか離れていない場所で火の手は上がった。
雑木林に囲まれたその民家は、二十年ほど前から空き家になっており、普段は目立ちもしなかった。
炎の勢いは凄まじかったが、幸いその家が他の家と離れていたこともあり、火災の範囲は消防の想定内のその下で収まった。
そして、僕が病院で目を覚ましたのと前後して、二人の人間の遺体が焼け跡から発見された。
僕が見た冷蔵庫の死体は女性のものだと判断できたらしい。冷蔵庫内に入れられていたため、損傷もさほど見当たらなかったことが功を奏したという。
もう一人の遺体については損傷が激しく、性別すらもわからなかったとのことだった。そのもう一人は出火元の中心に横たわっており、ガソリンを自らかぶり火をつけたのだと推測されている。
しかし、部屋の隅に、冷蔵庫の遺体のものではないハイヒールや衣服の残骸、そして黒ずんだネックレス、焼け焦げたコルセットとその紐が転がっていたことから、この遺体の性別も女性なのではないかという意見が多く挙げられているらしい。
空き家の庭先に車がとまっており、これも燃えて真っ黒な残骸になっていた。その燃え方がひどいことから、犯人が証拠隠滅のために車内にガソリンをまいたのではないかと言われている。
犯行の理由については、なにもわかっていない。そして、身元不明の遺体は、まとっていた衣服と靴、アクセサリーだけを残してこの世からいなくなってしまった。

警察は、二つ目の遺体が犯人の焼死体だと断定した。
そして、僕の関わった大いなる事件を、犯人の自殺というラストで閉じた。

僕はその話を聞いて、ぽろぽろと涙をこぼした。両親は、安心して泣いているのだと思って顔を綻ばせていたが、いいやそれはとんでもない勘違いなのだ。
僕はあの女性を救えなかった。見ているだけで気の狂いそうな美貌の女性を、犯人に殺されて、その上犯人の意のままの操り人形として汚名を着せられてしまったのだ。


学校に復帰するのにそう時間はかからなかったが、しばらくの間僕は彼女のことを思い出して憂鬱になっていた。だけど、それを見かねた友人達が僕を気にかけてくれたことで、憂鬱さも少しずつ取り除かれていった。

徐々に僕は元の生活に戻っていく。時間が経つにつれて事件のことを話す人も少なくなり、この街は日常を取り戻した。そんなある日のこと、僕は学校で課せられた宿題をこなすために、資料を求めて市立図書館にやってきた。
宿題が終わる頃には迎えに来るから一緒に帰ろう、とお母さんが言ってくれたので、その日は久々にお母さんと帰ることになった。僕は、気分が多少浮ついた感じになった。

資料として持ってきた本のページをめくってお目当ての点を探していると、後ろから「あら?」という声が飛んできた。
振り向くと、見知った顔の職員さんだったので、僕はにこやかに会釈をした。

「こんにちは。勉強に来たの?」
「宿題が出たんです」
「大変な目にあったって聞いたけど、もう大丈夫なんだね」
「はい、なんとか」

その時、職員さんの足元が視界に入る。彼女の履いている靴に見覚えがあった。

「どうかした?」
「......いや、別に」
話題にするほどのことではない。僕が口を閉ざすと、妙な沈黙がつづいた。職員さんは誤解したのか、焦ったように言った。

「へ、変かな!この靴、ちょっと前に叔母さんから譲ってもらったんだけど......やっぱり、変かな!」
「ああ、いや、変じゃないです!ただ、ちょっと、前にも見たことがあって......この前の事件で、空き家の中にそのヒールと同じものが転がってたんです」

思い切って打ち明けてみた。あの空き家の中に、ちょうどこの職員さんが履いているハイヒールを見つけたのだ。色、素材、形、すべてがそのハイヒールと一致している。

「きっと、......僕は認めたくないんですけど、その、犯人だと言われている女の人が履いていたのだと思います」
「なんだ、そうか。心配した。あ、多分そのヒールね、犯人さんのものじゃないと思うよ」
「え!?」

僕は反射的に立ち上がった。あのヒールが、彼女のものじゃない?

「だって、犯人の足のサイズとヒールのサイズが一致していないって、ネットニュースで言ってたから」
「そうでしたっけ...?」
「うん。でもそれを報じてたのはそこだけだから、本当のところはわからないけどね。もしそれが本当だったら、なんだかミステリーじみた話になっちゃうけど」

そういえば、庭先に止まっていたワンボックスカーの車内をのぞいた時、ブランドものの靴と一緒にシューズが置かれていたのを見た気がする。そちらの靴は、一体誰のものだったのだろう?

「つまり、君がその日に見たヒールは、犯人のものじゃなかったのかもしれないね。何らかの理由で、冷蔵庫に入っていた女性が持っていた二足目だったりして」
「そんなこと、あったとしたら......」
「もしくは、もう一人あの家にいたとか?」

僕がその言葉に対して驚愕の表情を見せたので、職員さんは思わず飛び退いてしまった。かなりの剣幕だったらしく、僕が平謝りすると、たじたじとしながらこちらに再びにじり寄ってくる。どうやら本人にとっては、冗談で告げたことだったらしい。

「僕、お、同じことを......考えているんです。
犯人だと言われている女性は、実は被害者のひとりで、本当の真犯人は逃げおおせてしまったんじゃないかって」
「な、なるほど......!」

職員さんが感心している中、僕はずっと頭の中で考えていた。
本当に、三人目がいるのだとしたら。

犯人に協力していたのか?
冷蔵庫の中の女性と同じで、拉致されていたのか?
次に殺されるはずだった被害者候補?
それとも、あの日の僕みたいに、偶然、隠れ家を発見してしまって、つかまった人?

「もしかしたら犯人は、話し相手が欲しかったんじゃないかな?さみしくなって、誰かをそのために利用していたとか」

職員さんがそう言った。
そうだとするなら、その人は、手足を縛られて、何も喋れない状態にされて、どこかに監禁されていたとでもいうのだろうか。そこで、犯人の身の上話を聞かされていたとでも。

「あるいは、トカゲの尻尾かな?自分が逃げおおせるために、身代わりにしたくて三人目を使ったとか」

.........僕は一瞬だけ、頭の中が真っ白になった。
彼女が、あの部屋で、何かを語り続けていたことを思い出したからだ。

まさか、



「あッ、お母様!」
職員さんがぎくりとした声を上げたので僕も振り向いてみると、お母さんが苦笑いをしながら僕を見ていた。

「宿題はまだ終わってないの?」
「ご、ごめんなさい!」
「お母様、私が話に付き合わせてしまったせいで!」
「いいのよ。お話はすんだみたいだから、今日は三人で宿題をやりましょうか」

お母さんが優しく微笑むのを見て、僕も職員さんもちょっと気が緩んだ。それから三人で同じ机について、資料を見ながら問題を解き始める。和気あいあいと疑問点を出し合って、ああそこは明日先生に聞いてくるよだとか、私が調べてあげようかとか、優しい声が上がる。
僕は、先程までの会話を頭の片隅にだけ置くことにした。

そうだ。
そんなことあるわけが無い。
三人目なんて、いるわけがないのだ。
これは空説なのだ。


***


宿題がすんで、お母さんと二人で図書館を出る。
既に西の空は赤みを帯び始めていて、僕達の影も長く伸びている。街灯が明るくなって街を照らす。
商店街を抜けるとき、スーパーの買い物袋をさげた主婦や、部活帰りの中学生の集団とすれ違う。人通りが多く、賑やかな通りだった。僕はそっとポケットを探って銀色の鍵を取り出し、それを眺めて歩いた。数歩歩いたところで、お母さんの名前を呼ぶ快活な声が露店の方から聞こえてくる。どうやら顔見知りらしい。お母さんはそちらに向かっていった。
......鍵に一致する鍵穴は、結局どこにあるのだろう。
最近では鍵穴の調査もしなくなってしまったな、と僕は思い出に耽った。

それからずっと、鍵を眺めながら歩いていたせいで、僕はいつの間にかお母さんとかなり離れてしまっていたらしい。でも、きっとどこかで買い物をしているだけだから、一つの場所にとどまっていればいつか見つけてくれるだろう、と思って、商店街の片隅で立ち止まる。
するとその瞬間、歩いてきた背の高い青年が僕にぶつかってよろけてしまった。
その時の青年はぼうっとしていた表情をしていたが、僕の姿を認めると表情の色ははっとしたものにかわった。どうしたの、と思った時には、僕の持っていた鍵が地面に落ちて澄んだ音を立てていた。

「わあ!ごめんなさい!」
青年はおろおろとする僕を見て優しく微笑んだあと、すらりとした長い脚を折りたたんでしゃがみ込み、アスファルトの上に落下した鍵を神経質そうな指でつまんだ。彼は青がかった黒髪をオールバックにして、冬に似合う黒いコートを着ている。そんなに暖かそうなのに肌は白く、赤みもさしていなかった。どうやら外国の人らしい。
こちらを見つめる瞳は冷えた碧色で、目を合わせるだけで鳥肌が立ちそうなほど芸術じみている。彼の瞳の中の僕もたじろいでいた。
美しい人だ、と僕は思い、同時に空き家で見た女性のことが頭をよぎった。あの人も、この青年と同じ外国の人だったのだろうか?

「はい、どうぞ。これは坊やのおうちの鍵じゃないね?」
「あ、いや...その......そうなんですけど、でも、僕の鍵です」
「そうかい。こちらこそすまなかったね、疲れてて碌に前が見えやしないのだ。...しかしこれは、盗んだのじゃなくて拾ったものか......」

僕はぱちぱちと目を瞬かせた。なんて流暢に日本語を話すのだということもあったが、それ以前にどうしてこの人は鍵のことを知っているのだろう?

「ああ、ごめんね。私は警察の人じゃないけど、推理が好きな探偵さんなのさ。そうだね...きみ、なにか人の生命に関わるような事件を抱えていたりするね?」
「う、うん」
「もしその事件が、きみが大人になるまでまとわりついてきたとする。その時はほら、これを使って私を呼びたまえ。呼び方にもコツはあるが、きみには“回路”が備わっているから、どうにかなるだろうさ。ああ、それは擦っちゃいけないからね」

青年はポケットからマッチ箱を取り出して、僕の手にそっと握らせた。箱は軽く、中にさほど火種が残っていないことを感じさせる。
僕は正直、事件のことを言い当てられたこともあるが、彼の言動に少し人ならざるものを感じていた。

「あの、お兄さんは......」
「ははは、勘が鋭いね、坊やは。おじさんで構わないよ。坊やが思っているよりも、私は歳をとっているからね」

やはりだ!僕は思わず目を輝かせた。鍵といい、どうして僕はこんなに不思議な事柄ばかり呼び込んでしまうのだろうか。
僕は青年に率直に問いかけた。

「でもお兄さんに見えるんだもん。お兄さんは、本当に僕のこと助けてくれるの?とっても頭がいいのに、助けるのは僕のことでいいの?」
「ああ、本当だとも!君の依頼はきっと格別なものになるって、私は知っているんだ。最近退屈でたまらなかったから、君のような依頼人を見つけられてよかったと思っているよ」

...『頭がいい』と言われた時、青年が生気のなかった顔を少し綻ばせて、頬を赤くしたのが僕にとって何よりの感情の吐露だった。それから青年は本当に嬉しそうに微笑んで、僕の頭をそっと撫でてくれた。僕もそれに抗わず身を委ねることにした。

「そら、早くきみのポケットの中にでも隠しなさい。
...よし、いい子だ。大事に持っておくんだよ。他人に渡ったら大変だからね。そういえば、きみのことを誰かが探していなかったかい?」

青年がきょろきょろと辺りを見回していると、遠くからお母さんが僕を呼ぶ声が聞こえてきた。そのまま遠くから走り寄ってくるお母さんに青年は小さく会釈をして、僕の背をぽんと押して早くお戻りと言うかのような意思表示をした。

「すみません、うちの子が...!」
「いいえ、マダム。謝罪すべきはこちらです。この坊やはいい子ですね。この子にぶつかったのは私の不注意だというのに、私に謝ってくれたのですから」

お母さんがやってきたので、そこで他愛もない会話は打ち切られる。青年はそう述べながら目を細めて、また僕の頭を撫でた。
僕は彼を、慈愛のような男だと思った。ふわふわの黒いコートからは柔軟剤に混じってほんのりと薬品の匂いがして、実は探偵じゃなくて、ふだんは病院で働いているのではないかということを思わせた。海の向こうからやってきたカウンセラーなのだろうか、とも思った。そんな秘密の人物との邂逅に、僕は口元の笑みを隠しきれなかった。

「お兄さん、鍵、ありがとう!」
お母さんに手を握られてその場を後にしようとした時、僕は青年に感謝の言葉を伝えた。青年は僕の視界から外れるまで、にこやかに手を振っていた。

帰り道には、夕焼けがしっかりと見えて、オレンジの光にさらされた雑踏の数が増していく。
空の高いところで、星が一つ際立って輝いている。紫色の雲がまるで、天体写真集に掲載されている星雲のようだ。神様がいるとしたら、きっとああいう場所にいるのだろう。

お母さんと一緒に手を繋いで少し歩いたあと、僕はふと得体の知れないものを感じて、そっと後ろを振り返ってみた。

青年はまだ先ほどの場所にいて、見定めるような鋭い瞳でじっと僕を見つめているかに見えた。だけどそれも一瞬のことだったので、今となってはわからない。
振り返るとほぼ同時に彼は僕を見るのをやめてしまって、代わりに自分の腕をもう片方の手でぎゅっと握りしめた。どうやらそこが痛むらしく、彼の頬を一筋の涙が零れ落ちていくのも見えた。
そして彼が口だけで誰かの名前を呼ぶのが見えた瞬間、彼の姿は人の群れに呑まれてしまった。

夕焼けに紛れて、金色の光が空に帰していく様子が見えた気もする。
僕は前を向き直し、帰り道をたどっていく。
マッチ箱がポケットの中で小さく音を立てて揺れた。








***

以上です。イカれた探偵を書くことがこんなに楽しいとは。
ほとんど原作丸写しなシーンもありましたが、必死にヤバい探偵を書けるように努力しました。
僕のヤバい探偵。いや決して僕のじゃねーんだけど。
是非「ワンダーランド」、読んでください。乙一氏の『箱庭図書館』の中に収録されております。
それではありがとうございました。f/g/oをやってる方、どうか顧問探偵をよろしくお願いします。

Re: 二次創作をまとめる(予定) ( No.4 )
日時: 2017/12/14 01:28
名前: 利府(リフ) (ID: xiz6dVQF)

ヤバいレベルで短いやつ。
FGO時空で、医者のことが好きな探偵とぐだなのかよく分からん女の話です。なんか探偵が星属性(人類史に大きな影響与えた)なのすげー好きなんです。わかってほしい。CP要素についてはわかんない。微量にホムワト?あと相変わらず医者不在です。なんてこったい。

***





コカインを打ち終えて、満足気なため息を漏らして、椅子に力なく腰掛ける彼の気だるげな視線に射抜かれる。
そして、私が何を考えているかも筒抜けだと言うかのように、彼はひとつ微笑む。それから少し振り返るようにして、
「ワトソンくん、そのあたりに置いた手紙を取ってくれないか」と言った。
私はその一連の流れには慣れている。

「ワトソンくんはいないよ、ホームズ」
「知っている。未だいないのか、もういないのか。幻覚に悩まされるのもうんざりだ。僕の心が安定しない」

至って真面目な顔をして問うてくるが、たぶんこの人の露わにする感情は本物じゃないのだと思う。知っている。
シャーロックホームズは、腹の内を見せない。明かされないそこは果たしてどす黒いのか、それとも人が怯えるほどの虚無なのか、私には分からない。
ただ、それじゃ、この人を星の開拓者たらしめる英雄らしさ、偉人らしさは説明がつかないだろう。でも、ほんとにそうなのだ。度し難い外道は、いつまでも腹の内を明かさずに微笑んでいるのだ。希望の星のふりをして。

「どうして君たちはこんな私を人類史の明かりにしたんだ。
そのあたりが、私には理解しがたくてね」
シャーロックホームズは珍しく、私の目をじっと見てそう囁いてきた。

「星のようにあなたの生きざまが美麗だったからでは」
「ふーん、...そうかい。私を明かりや星だとして、救ったものなどないように思うがね。私は依頼人から託された役目を果たした。そして重ねて、私の衝動に従順でいた。君たちの社会に蔓延っている人々と一致しているのではないか?」

どうしてもシャーロックホームズは、自分が謂れもない「人類の希望」として扱われるのが嫌なようだった。むず痒いというよりは、表情に色濃く現れているのは正に嫌悪だ。

「そもそもあなたは、誰かの希望でいたかった?」
「ノーだ。そんな気はさらさら無かったと思うがね。強いていえば、退屈極まりない人生を送っていた私の希望か。事件を求める私を、私の好奇心と浴びせられた名声が手助けしてくれたのかな」
「要するに、自分の星」
「それはイエスと言わざるをえないね。自分自身を理解するのは自分、とかぎったわけじゃないのだが、それでもよそ者よりは分かっているつもりだろう?君もさ」

探偵はもういいだろうと言いたげに、今度はパイプをやりだした。人間だった頃と喫煙の頻度は変わっていないのだろうが、もう体力も心配することがない分煙に身を預けていることが多くなっている。
人類史の星はまた一つ雲隠れをする。そうやってまた死んでいく。
幻滅結構とばかりにまた部屋が煙たくなる。

「あなたが星らしくなったらワトソンくんもあなたのことを見つけやすくなるんじゃないの?」と私が言う。ただのジョークとして投げかけたものに、会話の打ち切りを決め込んだはずの探偵はくすりと笑ってくれた。

「僕の親友はね、僕がだめになったら、最後にはちゃんと助けに来てくれるのさ。それを信じて待っているんだ」
「代わりに、あなたが見つけに行くのは?」

それを問うた時、探偵はうつろな目つきをして、晴れた夜の窓の外を眺めていた。

「知ってるかい。僕の大好きな一等星はね、世界にとっては二等三等らしいんだよ」


死んだ星はじろりと満天の星空を睨んでいる。

Re: 二次創作をまとめる(予定) ( No.5 )
日時: 2018/01/06 12:07
名前: 利府(リフ) (ID: xiz6dVQF)

ホームズお誕生日おめでとう!!!!!!出遅れ野郎だけど睡眠時間バリバリ削って愛を表現した所存!!(寝ろバカ)
ホームズが渇望する死に方の話です。なんかよくわかりません。いつものことながら、いやこれいつもよりわかりません。ダメだこれ。
CP要素相変わらず薄い。ただホームズがワトソンくんのこと大好きです。やはりホム×概念ワトだよ......

そして重要項目ですが、FGO第2部序章のネタバレをがっっっつり含みます。第1部クリアしてない人が見たらいろいろと泣く構成です。ネタバレなんかいくらでも食うぞ!って人は大丈夫ですがそれ以外の方本当にやめておいた方がいいです。自分の目で確かめてください、探偵のかっこよさ(下手くそステマ)
あと、シャーロックホームズ原典「最後の挨拶」のラストシーンを多く話に絡めてきます。読んだことない人もいると思いますがそこはフィーリングで行ってください。というか原典読んでください。ホムワトのしんどさがマッハです。

今回ぐだ視点1本通し。マシュとダヴィンチちゃんがいます。


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晴れたカルデアの夜空のもと。
セイレムの特異点修正を終えた数日後の夜、管制室でマシュと会話していた時のことだった。管制室に一本の電話が入ってきて、電話の主が開口一番にこう言い放ったのである。

『至急だ。来てくれ。思い立った』
「何を!?ワトソンくん以外にはわからないんだよそれ!というかホームズ、またシミュレーション戦闘の時のモニター観測の仕事サボったでしょ!?シルビアがなんか泣いてた!つらいって!人手不足つらいって!!」
『私が出る幕ではないのだよ。じゃ、要件を告げていいかい?メモを取るべき内容でもないし、むしろ最初の私の一言に了解とだけ返して、電話を切ってくれても構わなかったのだが。
誕生日プレゼントを前借りしたい。私の部屋に来たまえ。1人でね。では』

そこで電話が切れた。恐る恐るマシュの方向を見て、受話器を置いてから、ワクワクドキドキの視線を向けてくるマシュの耳元でつぶやく。

(ねえ、ホームズが今のうちに誕生日プレゼント欲しいって......)
「え、ええーーーーーー!!!そ、そんな、ミスター・ホームズが......」
「声おっきい!わかるけどしっ!」
「はっ、はい......よっ...予想外です、先輩!それに、あの大探偵に差し上げるプレゼントだなんて、とてもスケールの大きいものになるのではないかと......!」

興奮するマシュの背中を撫でながら、落ち着け落ち着けと念じつつ私も同じく呼吸を整える。まさかホームズがプレゼント要求だなんて。そんなびっくり。

マシュにひとりで行くことを告げると残念そうな顔をされたが、ホームズの指示なのだから仕方ないことなんだろう。ごめんよマシュ。お土産話はいっぱいする。
かたく誓いながら管制室を出た。


*****

ノックをしても返事がないのはいつものこと。
部屋の中に入ると、探偵は何を思ったか、手先で器用にぐるぐるとペンを回していた。文明の利器は天才の指にも馴染むらしく、最近は万年筆よりもこの黒インクのペンの方を好み出したのだ。

「マスター。プレゼントの話からしよう。私はこの小さい手帳と黒インクのボールペンしか持ちえないのだが、例えば他の色のペンはあるだろうか」
「えっ、あるよ。前に赤ペンとか職員の人が使ってなかった?赤ペンとか青ペンとか、存在を知ってるものとてっきり」
「青いペンの存在だけは記憶に留めていたが、カルデア内にあるかを聞くのを忘れていたものでね。うっかりしたことに」

記憶、と聞いて思わず自分の表情に苦笑いが出た。だがそれもそうである。
何故なら、シャーロックホームズの記憶はまさに部屋であるからだ。彼の倫理観だとか諸々を含めた『ふるい』にかけられて、必要のない記憶は記憶の部屋からゴミ箱に容赦なく押し込まれる。彼が挙げなかった赤ペンも、彼にとってはまるで不思議の世界のものだ。だって忘れているのだから。
おそらく聖杯戦争において聖杯の与えるサーヴァントの予備知識も同様。お手上げである。

「君が言っていたペンの種類だが、赤いペンはいらない。青いペンと不要になった書類でもプレゼントしてくれ。書類は小さいサイズがいい、何なら刑部姫とやらの持っている折り紙でも構わないがね」
「えっ......それがプレゼントでいいの?何か描くの?」
「私なりの塗り絵だ。幼子めいているかい?」
「いや、...その、シャーロックホームズは絵を描いたことがあったか、わかんない」
「ははは、君はまだ“私”を読み終えていないのか!じゃ教える事は出来ないね。まだまだ真相は私とワトソンくんの胸の内だ」

ホームズが珍しく声を上げて笑ったので、私は余計ムッとなった。長編ふたつだけ読めてないと言い訳を言っても火に油だろう。大人しく青いペンと不要な書類を求めて廊下からスタッフ達の元に向かうことにした。身近なシャーロキアンであるマシュならホームズのことなんて何もかも存じているだろうか、と報復を考えながらの退室だった。

*****

「ただいま。はいどうぞ、ハッピーバースデー」
「ああ、ありがとう」

探偵はこちらを一瞥して、さほど大きくもない声で感謝を述べた。青ペンと書類をホームズに渡しながら思ったが、うーむ、査問官ならキレてる。

「もう自室にでも戻ってくれたまえ」
「えっ、絵は?描くんじゃないの?」
「その真相は明かせないね。ミス・キリエライトならまだしも、俄かな知識の君の前で描くのは私の信念に反する」

探偵はそう言ってにぱっと笑った。査問官ならキレてるスマイルと命名したい。退室を余儀なくされたので私はぶっきらぼうにおやすみを告げて部屋を出たが、扉を閉めるために振り返った時には、ホームズは目を閉じて両手の指を突き合わせ、目を閉じて椅子に深く沈んでいた。
邪魔するな、の意思表示も同然である。
私はそのまま何も言わずに部屋を出た。彼の傍にあるミニテーブルに転がされたペンと白い紙が、彼にはどうにも似つかわしくないものに見えた。


*****


そこから先は、存じてのとおりだ。
あの後、カルデアは崩壊した。
ホームズが使っていた部屋も例外なく踏み荒らされ、凍結させられただろう。それは私の部屋だって同様だ。
生き残った人間は、虚数空間に浮かぶ箱舟に身を任せている。
それでもいつだって、私たちは希望の一手を探している。箱舟のハンドルを面倒くさそうに握っている探偵だって一緒だろう、と私は思っていた。

ダヴィンチちゃんがマシュ含めた職員たちとの談笑の時間をとるため席を外していた時、私はダヴィンチちゃんの椅子を少しだけ借りてみた。

「ここって、人間が座っても大丈夫?」
「無論、今まで座らせたことがない。が、君がそういう口をきけるなら大丈夫なのだろう」

探偵はこちらをちらりとも見ようとしなかった。当然のことだ。これが私達の仲である。私が死のうが構わない、のかもしれないのが彼だ。私が唯一の打開策だと思っているから、今こうやって利用しているも同然なのかもしれない。だが、そんなこと承知でこうして向き合っている。

「座っていいんだ。そうか。じゃ、そのハンドルは私が握っても?」
「それは許し難いね。君がハンドル一つで人理焼却を解決できたと豪語するなら別だが」
「でも、ホームズは運転下手って言われてた。馬車と汽車ばっかりだったもんね、ホームズの移動手段は」

そう私がいびると、探偵は横目でほんの一瞬私を見て、それから珍しいことに他人にも分かりやすい笑い声を上げた。

「はははは、それは反論のしようがない!それを言えるということは君、僕の結詞はしっかり読んだのだね?どうだい、ご感想は」
「ジョン・H・ワトソンの寛大さ、あなたの偉大さを実感した」
「それは僕も彼も報われたね。あの結詞にはサー・アーサー・コナン・ドイルの感情も含まれていると言って構わないだろうが、それを滲ませながらも我々の進む方向をあの結びによって確立させたのだ。君の抱いたそのイメージは、彼の思い描いていた僕達のイメージと少なからず合致することだろう」

ホームズは窓の外に広がる虚空に思いを馳せるようにして、既に地に還ったであろう自らの生みの親を回想していた。死の国も同然のここで、虚無と実在の狭間に生きる彼が輝かしい冒険を思い起こしているのだ。


「ホームズ、生きてた時、楽しかった?」
私はふとそれを聞いてみた。ホームズは満足気な笑みを浮かべながら、それでもまだ回想に思いを傾けているようだった。

「思い返せば、なんと楽しかったろうね。こんな常人ならば気が狂いそうな状況下も中々味わい深いものだが、やはりこの状況下においてワトソンくんの存在がいかほど必要だったか、君にすら計り知れないだろう。ほら、だからこれをここにまで持ってきてしまったのさ」

ホームズは片手でハンドルを握ったまま、傍に置いてあった手帳の中から小さく折りたたまれた青い紙を取り出して私に見せた。
私がそれを広げてみると、紙の2分の1程度は青色で浸され、残りは白が埋め尽くしているようだった。裏面にはびっしりと文字がある。これは......やはりあの書類?

「何も知らない者からしたら、紙を青いペンのインクで浸しただけのものだ。芸術性はないと断言されて然るべきだね」
「これは.........?」
「僕の故郷だよ。あの日見た海を描いた」

故郷と呼ぶにはあまりに殺風景なそれを見て、私はホームズの真意がなかなか理解できそうになかった。確かに、ホームズの物語は海の前で終幕を迎えていたが。

「工房で画材を借りてもよかったのだが、その際ダヴィンチに何をするか聞かれるのも癪だったからね。だから、管制室にダヴィンチがいないタイミングを狙って電話をかけただけだ。ペンと書類を持ってくるのは誰でも良かったのだよ」
「えっ......なんかその夢をぶち壊しにするような......」
「私にユーモアとデリカシーを期待するなよ。女は嫌いだ。それに心からの甘い言葉をかけることなんてさらさらあるものか。悪く言えば、全ての人類にとって自らの思う他人など皆手駒に近いからね」

私がため息をつきながら書類を返却すると、ホームズは大事そうに書類の上に片手を置き、それをじっと見つめた。

「ロンドンの特異点で、一人で海を見た。その時はもうバベッジ卿の依頼を引き受けていたから、ロンドンに長居はしなかったんだがね、海だけは見たんだ。あれはまだ1888年の海だというのに、もうそこには東の風が吹きすさんでいる。私はロンドンの死など見たくはなかったから、それからすぐに別の特異点へと移った」
「だから、故郷を思い出して?」
「そうなるね。ただ、僕が見たかったのは平穏で揺るぎのないロンドンの海だった。他の国にはさほど興味もなく、調査対象が既にないと感じたらすぐに別の場所へと跳んだ。そうして、ぼろぼろの霊基でカルデアにたどり着いて、これを描き上げた」

書類の上に鋭いボールが走った痕跡を白い手袋が撫で上げて、探偵は感慨深そうに平面の海を見つめる。

「12月31日、カルデア閉館の日だね、最後に僕が海を見据えたのは」
「あの時、最初は海に突っ込む気だったでしょ」
「そうだよ。そして、あの時ペーパームーンの使用に失敗して万事休すに陥ったとしたら、君はどうするつもりだった?」

いきなりとんでもない質問を投げかけられたのでムッとした表情になってしまったが、ホームズが薄ら笑いを浮かべているのを見て何となく気分が揺らぎ、私の口から言葉が滑り出てきた。

「そりゃ悪あがきするよ。みんなを守りたいもん。もしかしたら、そうすれば最悪の状況下でも生き延びられたかもしれないし」
「それこそ君らしいね。僕もそんなマスターに守られることを光悦至極だと思っている。だが、ペーパームーンの発動前、僕はぼんやりとあの海に飛び込むこと“だけ”を考えていたんだ。本当にぼんやりとだけれどね」
「え、」

さすがにその発想にはギョッとした。私はたじろいで見せるが、彼のその碧の瞳にはどんな茶化しを目にしても真剣さしかなく、その信念のおぞましさを知らしめるように冷徹と夢想で満ちているばかりだった。

「僕のプレゼントの話はしたが、僕の抱く夢の話はしていないね?」
「う、うん」
「教えよう。僕は死ぬなら海が良い。あの瞬間、彼の不変を感じながら結詞という言葉のとおり死んでいくのが、まさに“物語”冥利に尽きるのさ。物語のエピローグに置かれる、最高のプレゼントだ」

ホームズはにこりと笑って、また書類を撫で上げる。

「ジェームズ・モリアーティはおぞましい滝を揶揄するが、ジョン・H・ワトソンは慈しみの海を揶揄するものだ。おおらかで、時折天候に苛まれることこそあれどその命と信念に傷がつくことなどない。不変さ。物語の祖の分身としてこれ以上ないほどのものじゃないか」

彼は元から虚構しか見えていないかのように、自らの親友の存在価値を語り始める。熱意と軽い狂気がごちゃ混ぜになって変になりそうだというのに、本人はそんなの薬で慣れてしまったからとばかりに私に話すのだ。

「じゃあ、このプレゼントは自分の臨終を期待して描き上げたってこと?」
「そうなるね」
「前借りしたのはこれを予期して?」
「イエスだ」

なーーんなんだこの男はーーー!!
マシュに向かって叫びたくなるが、ちょうどダヴィンチちゃんと話してる所に水をさすわけにもいかない。
うう、でもこの男は何があっても揺るぎなくこういう歪んだ信念だけ持ち合わせているのだな、ということを、マシュが知ったらどうする。

「筒抜けだマスター。邪魔になる、椅子から立ち上がりたまえよ。そろそろダヴィンチの助力も必要になってくる場所に入った」
「え、ええ......?最後に聞いていい?今シラフ?」
「今日はモルヒネにした。ワトソンくんが今ここにいないことだけは分かる。それで十分だろうと思ってね」
「はあ............」
「はははは!よければ私の手帳に絵を畳んで入れておいてくれたまえ、ただしそれを持ち帰ることは許さないよ」

あんたってひとは......!と呪詛を残しながら絵を小さく畳んで手帳に挟み、私はその場を後にした。
そのすぐあとにホームズのダヴィンチちゃんを呼ぶ声が聞こえ、小さなダヴィンチちゃんがとたとたと操縦席に走り寄って行く。
まったく、こんな狂気の思考に等しい状態のホームズが言った台詞、信じた方がいいんだろうか。というか誰だホームズにヤク渡してるの。おいまさかムニエルか?


「長話だったじゃないかホームズ。どうしたの?」
「薬のせいで世間話が与太話になっただけさ。薬は常用すべきものでもないのかもしれないな」
「ふうん。いや、でもそろそろ醒めてきたみたいだね?私にもわかるぞ」
「そうかい」

ダヴィンチちゃんがよく分からないと言いたげな返事を返すと、ホームズは早く席に座れとばかりに手で促した。そして彼女が眠りにつく前に、静かに語りかける。

「ダヴィンチ」
「なんだい?」
「故郷に帰りたいかね」
「うん、そうだね、確かにそうだ。カルデアも、私の故郷ということにはなる」

微笑むダヴィンチちゃんを見ながら、薬から醒めはじめたホームズは静かに優越に浸ったかのような悦の表情を浮かべた。

そうしてまた白い手袋で手帳を撫でてから、安らかな死に溺れたがる物語は、箱舟のハンドルを握り直すのだ。


1月6日、箱舟は今日も虚空の奥の海を目指している。


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