BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
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- 野良猫とごま油。
- 日時: 2017/12/12 00:14
- 名前: たいやき。 (ID: PNtUB9fS)
俺がこの家に住み始めてもう何か月くらいたっただろう。
「侑〜」
俺を呼ぶ声。
最初は違和感だらけだったこの名前にもそろそろ慣れてきた。
「何?」
「ごま油、入れすぎちゃった」
同居人が持ってきたのは、ゴマ油まみれのサラダっぽい食べ物。
「…サラダにごま油かけないでって何回言えばわかるんですか?」
「いや、加減すればいいのかと思ったんだよ」
「加減できてないじゃないですか」
「…ごめん」
この人とのこんなくだらないやり取りも、日常のワンシーンになってしまった。
ため息をひとつ吐いて、ベッドに潜る。
「また寝るの?」
「やることないんで。」
俺の日常。
とりあえず寝ること。
わざわざ一人で外になんか出たくない。
「たまには出かけたら?」
あんたも行ってくれるなら行ってもいいよ。
そんなこと、俺には言えないんだけどさ。
「いやですって」
毛布の中で、素直になれない自分を呪いそうになる。
今、仁さんがどんな顔をしてるのかなて、容易に想像できた。
困ったような、呆れたような顔。
もう見飽きた。
「外に出たらさ〜」
生来の夢を語るように、ゆったりと話し始めた。
落ち着く声。
大好きな声。
「侑と一緒に外に出たら、
僕と一緒に服を買おうよ」
「服?」
「そう。
いつも同じような服着てるでしょう?
僕がセンスのいい服選んであげるよ。
侑は、僕が選んだ服を試着するの。
きっと楽しいね」
仁さんは、柔らかくふふっと笑う。
俺もそうやって笑いたい。
でも、俺は…。
「そうかも、しれないですね」
上手く言葉でつながらない。
俺は、仁さんが想像するような人間じゃないんだよ。
人を傷つけて生きてきた俺が、こんな素敵な人に拾ってもらって、良かったのかな。
「仁さん」
「ん?」
「俺で良かったんですか?」
「どーしたの突然」
「俺、仁さんが考えてるような人間じゃないかもしれないですよ?」
何言ってんだ俺。
「仁さんが天使だと思って連れてきたのは、薄汚れた黒猫だったかも」
「そんなことないよ。
侑は天使だったもん」
仁さんは、よく俺に「天使みたいだ」と言う。
拾われたあの日も、泥だらけの俺に向かって「天使が落ちてる」なんて言うもんだから、呆気にとられたことを覚えている。
「侑はさ、まだ自分が見えてないんだよ、きっと。
俺には真っ白でふわふわの天使に見える。
どんだけ悪態ついても
どんだけ悪口言われても
お前は俺にとってみれば天使なんだ。」
天使天使って…。
恥ずかしくないのか。
「ちなみに恥ずかしくないよ」
「…エスパーか」
「ふふ」
毛布の中で、仁さんの顔を想像する。
柔らかい表情を浮かべて、いつも腕を開いて待っててくれる。
あんたこそ、俺にとっちゃ天使みたいなもんだったよ。
「外、行こうかな」
「え!」
この家に来て、初めての外出宣言。
そりゃ驚かれるよな…。
「どうしたの!
毛布被ってたから、暑さでやられちゃった!?」
「そこまでか」
毛布から出て、仁さんの方を見る。
仁さんの顔はやたらとニヤついていた。
ムカつく。
とりあえず仁さんの横腹に軽くグーパンチを食らわせる。
「いたっ!
何で?!」
「なんとなくです。
そのニヤけた顔にイラっと来たんでつい。」
仁さんは「そっかそっか」と言いながら、未だにニヤついている。
顔面の筋肉をコントロールできないのかあんたは。
まあ、そんなとこもすきなんだけどさあ。
「ほら、早く行きましょうよ。
ちょっとでも曇ったらもう外出たくないです。」
「え!ちょ!
今日午後から曇りだよ?!
早く着替えなきゃ!!」
仁さんはバタバタと慌ただしく部屋を出ていった。
部屋に一人。
俺も着替えるか。
そう思って、立ち上がる。
そうだ、今日は仁さんの服を借りよう。
仁さんの服で、仁さんとデーt…。
いや、散歩。
散歩だ。
あくまで散歩。
親に捨てられて、何度も道を踏み外しかけてしまったけど、そんななか出逢った、かけがえのない運命の人。
出逢ってすぐにこの人と一緒に居なきゃだめだと思った。
こんなことがあるなんて思ってなかったけど、あったんだ。
本当に。
あったけど、これはあくまで散歩。
忘れないようにしよう。
そう心に決めて、仁さんの部屋に向かった。
【すみません。すごくわけわからん話になりましたね。】