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性別のあれやこれ【オリジナル】
日時: 2019/05/06 15:07
名前: 朝雨 (ID: jBQGJiPh)

気に食わない。

この世界の性別は、男と女…だけではない。
無論、男と女に分かれてはいるのだが、更にそこから性別が枝分かれするのだ。
そしてその第二の性別はα、β、Ω。この3つだ。詳しい事は調べたほうが早い。
自分は男且つその中のβ、極めて多く、普通の人種だ。
同類はわんさかいる。その他大勢に、自分はいつ紛れてしまってもおかしくないのだ。
価値がない、とは違うし、自分を必要としてくれている人間はきっといる。
それでも、その他大勢に紛れるというのは、なんだか、無性に腹が立つ事なのだ。
あくまで、自分からしてみれば、なのだが。

自分は努力した。一生懸命笑い、勉強し、運動し、愛想を振りまいた。結果。
自分はその他大勢に紛れる事なく頂点に上り詰めた。理想通りに。
人気者で、優しくて、なんでもできて…理想のままに、自分は生きる事が出来た。
そして、またおまけのように、周りの人間は自分についてきた。
満更でもない。寧ろ自分の望んでいた姿に成れて、満足していた。しかし。

そこで自分の行く手を塞いだのは、頂点に君臨するαだった。
奴らは、自分の今迄の努力をことごとく崩し、自分達を押しのけていった。
周りの奴らだって、「ああ、結局はαなんだよな」と、あっという間に消えていった。
αに悪気がある訳では無いんだろうけど、自分にはβを見下しているようにしか
見えなかった。βより更に下に見られるΩに、少し同情したくなる。
そんな劣等感に苛まれた自分は、はっきりとαに敵意を向けるようになった。
これが所謂嫉妬であると言われれば、そうなのかもしれない。
けれども、自分は否定し続けた。妬みとは圧倒的に何かが違う。
βな筈の自分は、αに漸く追いつくまで、努力した。そうしていても、やはりαは
自分には目もくれず、同種の中で上を奪い合っていた。
なんと言う理不尽だろう。自分は嘆き、憤った。そんなある日の事。

自分はとうとうαを負かした。純粋な知恵比べだった。皆が自分に注目した。
それが以前の自分なら、途轍もなく嬉しい出来事だと感じていたに違いない。
しかし、今の自分は、それを当たり前だと思った。
これには、自分自身が一番驚いた事だった。驕ったつもりはないのだが。
同じ種のβには好奇の目で見られ、αには憎悪のこもった目を向けられた。
βに関しては特に何も思わなかったが、なぜか、自分はαの目に疑問を持った。
そして、自分はなぜだかこう思った。

《同種なのに》

その日から、自分は自身の性別を疑い始めた。そうして、審査を受ける事にしたのだ。
結果が出た。普通にβだった。しかし担当医は自分に疑問を持ったらしい。
そして、彼女が、実験も兼ねて、自分をとある人物に合わせる事を提案した。
自分はその提案に素直に応じる事にした。

その人物は、至って普通の男性であった。強いて言うなら、背が少し高いだけの。
学生である自身と年は近いだろうか。見た感じでは二十代。
まあ、そんな事はどうでもいい。彼と自分が何故ここに居るのかが分からない。
話すにしても、気まずさの方が勝つ。そして、この甘ったるい匂いはなんだろう。
…まさか。そう思い、自分は意を決して彼に話しかけた。

『………貴方は、もしやΩでは?』

相手は、何も言わずに頷いた。
マスクの所為で顔が隠れている為、表情は分からない。
が、汗が酷いし、心なしか顔が赤い気がする。彼は明後日の方向を見ながら言った。

『…仕方がない、と受け入れられればどんなに良いか。貴方も、僕と同じように、性別を間違われた人間なのでしょう?』

『?性別を間違われた人間?それは一体どういう…?』

『……僕を、Ωだと言いましたね?…違うんです。僕は…αと、申告されたんです。』

『え…?』

『信じられないのも無理はないです。僕も…自分を、Ωだと思っていました。それでも、何をやっても、技能はβや並みのαの上を行くんです。疑問を持って、学生の頃に終えたはずの診断をもう一度受けてみました。…結果は、変わらずαでしたが。』

『抑制剤とかは?…その、ヒートがありますよね?』

『……残念ながら、Ω用の抑制剤は効きませんでしたね。結局、家で篭るしかなくなってしまって…』

苦笑しながら男性は言った。…もしくは男性自身への嘲笑だったのかも知れないが。
それはともかく、彼は、彼の状態は、自分と似ている。性別と体が食い違っている。
あの担当医が彼と自分を合わせた理由がわかった気がする。
男性は話を続けた。

『…………こんな事、他人である貴方に話す事はないのかも知れませんが…一度だけ、なのですが。αと性交した事があります。…しっくりは来なかったですね。其処だけはαなようで。』

『…性交、ですか。』

『…貴方の性別は、β…でしょうか?Ωのような体質の僕に当てられないってことは、そういう事でしょう?』

『……その通り、βなんですが…』

自分は話した。
今迄、βとして努力していたこと、αに劣等感を抱いていたのが疑問になったこと、
いつの間にかαを超してしまったこと、そして、自分の性別を疑い始めた事。
黙って頷きながら、彼は静かに傾聴してくれた。
そして、自分の話が終わると、何か考え込んでいたが、暫くしてから、口を開いた。

『…性同一性障害。』

『え?』

『性同一性障害を、知っていますか?』

『…?はい、知っています。あの、アレでしょ?体と精神の性別が食い違う…』

『それです。僕達は、多分それなんじゃないでしょうか?』

『性同一性障害…』

医学の発展した今では余り耳にしないその言葉を、自分は復唱した。
しかし、そう考えるとしっくりくるし、この謎も解ける。なんだか妙な気分だ。
技術ごと精神だけαの体質はβである自分。そして、技術だけαの体質はΩである彼。
違うようで、どこか重なる。突然変異か何かなのだろうか。
一体自分達は両親のDNAの中で、何を間違えてしまったのだろうか。
また、腹の中で、何を置き去りにし、履き違えてしまったのだろうか。
それはもう、誰にも分からないだろうし、正直分かって欲しくもない。
考え込んでいる途中で、彼はまた自分に話しかけた。

『あの…名前を伺っても?こう言ってはなんですが…同種と言う事で。あ、僕の名前は樫本帳カシモトトバリと言います。』

『僕の名前は朱紅聖シュベニヒジリです。…えと、よろしくお願いします。』

幾つかの疑問点は置いておくとして、これから自分はどう生きていけばいいのか。
未来の先の方が、前より少し見えなくなってきた気がする。
それはそれで、面白くもある。
優秀なβでいることに飽きてきていた自分に、この人物は刺激を与えてくれた。
少なからず、感謝している。
そして、仲間が出来たことに安心している自分もいる。
それはそれでいいと思っているし、彼とは分かり合えそうだ。

『……にしても、この先どうすればいいんでしょうかね?』

『受け入れて、順応する事。それしか今のところは出来ません。僕達のような体質の人が、今後出てこないとも限りませんからね。』

『……僕達みたいな人って、どのくらいいるんですか…?』

『はっきりと分かっているのは、世界に5人もいないらしいですよ。それも、僕ら二人を含めて、です。…尤も、体質が鳴りを潜めていたり、気付かなかったり、隠していたりするだけで、もっといるかも知れませんが。』

ほう、と熱い息を吐き出して、樫本さんは話し終えた。
かなり辛そうだ、なんて。他人事のようだけれども、実際に他人だ。
メガネの奥の端正な瞳が、一瞬揺れて、そのまま微笑んだ気がした。
…自分は。自分はそれを見て、胸の奥が締め付けられるような気分だった。
もうこの人に会うことはないのかもしれない。
それでもただただ、その瞳を見つめることしか、その時の自分には出来なかった。

さて。この後どうするかな。
医師の彼女が何やら話しているのが見えた。データでもとったのだろうか。
その時、樫本さんの瞳が、急に変わった。
不安そうな、憤っているような、焦っているような。
それと同時に、彼女が何やらこちらに叫んでいるのも見て取れた。
生憎防音ガラスのせいで、何も聞こえはしないのだが。

『あの…どうかしました?』

『…………マズイです、恐らく医師の彼女は…研究所に嵌められました。』

『…え?』

『逃げましょう。そちらに非常口があります。』

『で、でも樫本さんは今ヒート状態じゃ…!』

『大丈夫ですよ。あくまでそれっぽいだけ。辛いのは確かなんですけど、αとかに襲われても、挿れられる前に相手が大体気付くんで。』

『…そういう、ものですか……』

大体。
その言葉は、深く言及してはいけないと直感で悟った。
もしかしたら、襲われたことが何度もあるのかもしれない。
そして、その時に…なんて、野暮なことは考えてはいけないのだろう。
しかし、人生を悟ったように諦観した瞳の色は、絶望に染まってはいなかった。
そんな彼が、宝石のように美しく、自分の目に映った。

『それよりほら、急ぎましょう?』

軽くでも無く、しかしさして重要そうでも無く。
勘だが、否、殆ど確信めいてはいたのだが。
この人は、自分が思っていた以上に、きっと、強い。
美しく、強い。しかし、触れれば、脆く崩れそうで。
まるで薔薇のようだ。美しい、薔薇。
棘で自身を守っているのに、花弁に触れられたら、直ぐにはらりと落ちてしまう。
純粋に、彼のそんな姿に、自分は憧れ、尊敬した。
手を伸ばして、自分の中に彼を閉じ込めたくなった。
しかし、俺は至って普通に、なんでもない風に頷いた。

『……はい。』

よし、これで良いんだ。
伸ばしかけた腕を、折る勢いで止めて、自分は彼について行った。
あの時の手は、一体何をしようとしていたのか。
自分でも、それが恐ろしくて恐ろしくてたまらなかった。
不思議そうに首をかしげた彼を、自分は真っ直ぐ見ることができなかった。
自分にはうるさすぎた心臓の音は、暫く収まりそうになかった。


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