BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

紅い糸、白い花。【完結】
日時: 2019/12/20 06:19
名前: 千葉サトエ (ID: .8iTtCTF)

 塀の外から屋敷の中をちらちらと覗いている男が居る。長い前髪に隠れて顔のよく見えない、怪しい男。

 偶々目が合ったから、手を振って微笑んでみると男は走って行ってしまった。

「君の知り合いかい?」

 後ろから声を掛けられた。目の端に紺色の着物が映る。振り替えれば、仲間の一人、忠成が後ろに立っていた。

「さぁ、誰でしょうね。知らない人です。偶に見かけるんですよ」

「ふぅん。雪光君は本当に人気者だね

「……貴方に言われても嬉しくないですよ、色男」

 この男に言われても本当に嬉しくない。昔の戦で失われた片目に眼帯が掛かっていても伝わるほどの美形。

 街に買い物に出れば、娘たちがおまけと称して、いろいろただでくれるらしい。

 この男のお陰でこの屋敷は食べ物に困ったことは今のところ、一度もない。

「そう?ごめんね。……でも、君は僕と違って外に出たりしないのに、凄い人気だよ。女にも男にも。流石だよ」

 別に、どうでも良かった。人気だろうと、そうじゃなかろうと、関係無い。

「そうですか。でも、人気だとしても僕があの人や他の人と話す事はないですから」

 そう、僕が話すのはこの屋敷に住んでいる仲間とだけ。外の人とは話すことなんてない。話す気もない。


__そう、思っていた。


「おかえりなさい、雪光さん」

 部屋にあの男が居る。着物は前と違うが、長い前髪であの男だとわかった。
「貴方、どうして此処に?」

 不審に思いそう尋ねると、男は微笑みながら答えた。

「いえ、お館様が下働きをお探しとのことでしたので。是非、私を雇ってくださいと申し上げたのです。そうしたら、すぐにでも働きに来なさいと言われまして」

 新しい下働き。前任の子を思い出そうとしたが、正直顔もよく覚えていない。暫く顔を思い出してみようとしていると、中から「お部屋にお入りにならないのですか?」と言われた。

 確かにずっと廊下に立っている訳にもいかないので部屋の中に入る。
 すると床に飾られた花に目がいった。白い花……。

「あの綺麗な花も貴方が生けたんですか?」

 花に目を遣りながら男に訊くと、少し誇らしげな声で「はい」と返事をした。

「水仙です。お庭に生えていたので、生けさせて頂きました。気に入って貰えてよかった」

 毎日、庭で見かける花が部屋にあると不思議な感じがする。けれど白い花のお陰で部屋が華やいだのも確かで、嬉しい思いもあった。

「綺麗な花……。有り難う。僕、この花とても好きなんです」

 そう言って笑いかけると、男は何故か耳まで真っ赤に染めながらうつむいてしまった。
 何故だろうと一瞬思いもしたが、その後すぐに用事を思い出した。この後、忠成達とお茶をする約束があったことをすっかり忘れていた。

 慌てて部屋をあとにして、廊下を少し急いで歩く。
 後ろから男の声が聞こえた気がしたけれど、急いでいるから何を言っているのかよくわからない。とりあえず「はい」と適当に返事をして、皆のもとへと向かった。

Re: 紅い糸、白い花。 ( No.1 )
日時: 2019/12/20 09:47
名前: 千葉サトエ (ID: .8iTtCTF)

「そういえば、新しい下働きが入ったみたいだね。雪光君はもう会った?」

 お茶を僕の前に置きながら忠成が尋ねてくる。

「ええ、会いました。大人しそうな人でしたね。あまり有能には見えませんでしたけど」

「嗚呼、確かにな。今までの下働きとはちょっと感じが違ったな」

 だらしなく横になりながら、忠成お手製の菓子を食べている國吉がそう言った。

 仲間の中でも年長の方なのに、この男は戦の時以外は驚くほど子供っぽい。それなのに、顔だけは美しいため数々の乙女がこの男の外見に騙されている。

「あっ、國吉さん行儀悪いよ!ちゃんと座って!……そっか、まだ顔を見てないのは僕だけかぁ」

 國吉をたしなめながら少し悔しそうに忠成が言うと、不意に障子がすぱんと小気味良い音を発てて開いた。

「忠成、俺もまだ会ってねぇから心配すんな。あと、遅れて済まねぇな」

 そう言って入ってきたのは俊幸だった。

 とすん、と忠成の横に腰を下ろすと茶をすすり始める。
 妙に男らしい話し方をするが、齢まだ14のこの子供は年に似合わぬほど大人びている。

「そっか。俊幸君もまだ会ってないんだ。会うの楽しみだね。」

「嗚呼、そうだな。……ところで貞義は今日は居ないのか?」

 辺りを見回しながら俊幸が忠成に尋ねる。

「貞義さんね……一応誘ったんだけど、仕事が忙しいみたいだから」

「そうか、そりゃ残念だな。まぁ、この四人で楽しもう、な!」

 俊幸のその言葉を合図にしたように、場の空気が一気に明るくなった。皆話したいことがあったらしい。

 他愛もない会話を繰り広げていると、廊下の方から足音が聞こえてきた。
 ふと廊下に目をやると、貞義が歩いてくる。

「あ、貞義。今、茶を皆と飲んでるんです。貞義も少し休みましょう?」

 部屋の中からそう声を掛けると、手に巻物の束を持った貞義が立ち止まった。

「俺は今忙しい。まだお館様に任された仕事が残っているんだ」

 そう言う彼の頬に深くはないが切り傷が出来ていた。

「その傷……どうしたんですか?」

「大したことない。掠り傷だ。棚を片していたら隙間から刃物が落ちてきてな」

 「棚から刃物?なんでまたそんな所に刃物がなぁ」と國吉の不思議そうな声が後ろからする。

「そう……ですか。それは災難でしたね。手当てしましょうか?」

 貞義の頬に触れながら尋ねると、手を振り解かれた。

「しなくていい。俺に構うな」

 そう言うや否やすたすたと歩いていってしまう。

「何だあれ?雪光、お前ら喧嘩でもしたのか?」

 國吉が不思議そうに長い睫毛を瞬かせながら訊いてくる。

「……さあ。何だか最近、貞義に避けられているみたいで。……嫌われてしまったんでしょうか」

「嫌われる?そりゃないだろ!お前さん達が恋仲だと俺は昔思ってたくらいだからな」

 俊幸がけらけらと笑いながらそう言ったあと、真剣な顔で此方を見つめてくる。

「アンタと貞義の問題だ。言いにくいことを無理に言えとは言わねぇよ。でもな、あんまり心配を掛けてくれるなよ」

「ええ、何時も心配掛けてしまってすみません」

 そう謝ると俊幸はまた笑顔になって「何、此方が勝手に心配してんだ、気にするな」と背中をばしばしと叩いてきた。

 ほら元気出して、と言いながら忠成も菓子を沢山進めてくる。

「有り難う。でも、こんなには食べられませんよ」

「じゃあ、何個か俺が貰っちまうな!」

 俊幸が珍しく子供っぽいことを言いながら僕の前に有った菓子をひょいと口に放り込む。

 平和な光景。

 刃物……刃……。貞義を傷付けたのは何なんでしょう。 

Re: 紅い糸、白い花。 ( No.2 )
日時: 2019/12/20 09:50
名前: 千葉サトエ (ID: .8iTtCTF)

「お茶を此方に置いておきますね」

 そう言って茶を置くと巻物から顔を上げて此方に顔を向ける。

「有り難う。よく働いてくれてるね。君を下働きとして雇って良かった」

「いいえ、これくらい誰でもできます。お館様、どうかご無理はなさいませぬ様になさってください」

 私がそう言って部屋を出ようとすると、後ろから「待て」と引き留められた。

「その手の傷はどうしたのだ」

「嗚呼、これですか?棚の整理をしていたら、棚と棚の隙間に挟まっていた刃で切ってしまいました」

「棚の間に……?」

「何てことありません。私のうっかりです」

「……そうか……気を付けろよ」

 はい、と返事をして主の部屋を後にする。

 雪光さんの部屋に向かおうと廊下を歩いていると、向かいから貞義が歩いてきた。
 奴はちらりと私の手の傷を見ると、ぴたりと歩みを止めて私に話し掛けてきた。

「俺はお館様のご意向に口出しする気は更々ない。だが一つお前に忠告しておいてやる」

「……なんですか?私は急いでるのですが」

 早く雪光さんの所に行きたい。こんな奴に構っていられない。

「お前、アイツが目当てで此処に来ただろう。お前にアレは手に負えん。アレはお前が思っている様な男ではないぞ」

 アレ……だと?アレとは何だ?アレとは誰だ?この男は何なんだ?

「……何のことですか?」

「何のことかはお前が一番よくわかっているだろう。幾ら甲斐甲斐しく世話を焼いても無駄だ。アレは何も思わないから何もお前に返してはくれんぞ。早く手を引け」

「……そうですか。ご忠告、どうも有り難うございます。でも、貴方のそのご忠告のお陰で心が決まりました。あの人のことをアレ呼ばわりする奴に、あの人は似合わない。私はあの人から手を引いたりしない」

 そうだ、こんな奴にあの美しい人は似合わない。

 私があの人をこの男から救ってあげなくては。


Page:1 2



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。