BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
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- イタい程の接吻を
- 日時: 2020/05/31 00:29
- 名前: 河浦葵 (ID: gln177xE)
好きな人がいる。
年上で、人前でないところでは理不尽な理由で私ばっかりに八つ当たりする。私はそういう人が嫌いだ。話している最中いきなり内容を180度変えるし……
そんな人、好きになる理由がない。
「有原さん、猫、撮影しませんか。」
「えぇ、猫か〜…なんで猫?」
「今、町猫特集の記事を制作しているんです。生憎カメラのインターンさんが忙しいらしくて…ここ1週間協力していただける方を探しているんです。」
「忙しいらしくてってなんだよ…」
有原さんは私が鬱陶しいようだ。
「あの、ですからよければ」
「じゃあ行くか〜、面倒な事は早く済ませた方が楽だし。」
言葉を被せるのもお得意だ。
「ありがとうございます。内容の方なんですが、ざっとまとめました。」
私は手にしていた書類を差し出す。
「このようなルートで巡ります。」
「……へぇ〜………」
髪をいじる癖。相変わらずいじり終わると外にはねるのが面白い。ちょっと可愛いから、心の奥でほくそ笑んでしまう。
結局私が文章を急いで書いたり物資集めに手こずり、夕方から撮影となってしまった。正直先輩にも迷惑をかけたので申し訳ない。
「なかなかいないな。ナメクジとかカラスはめちゃめちゃいるけど。」
「そ、そうですね…。」
空は段々顔色が悪くなっていっている。心配になり、
立ち止まって胸ポケットのスマホを取り出した。
「「台風 接近中」」
「……」
「ん?おい、高橋危ないっ」
「チリンっ」
自転車の過ぎ去る音。二の腕を引っ張られるが私は台風の文字に目が点だ。
「おい、急に立ち止まんなよ。」
「高橋!!」
有原さんに腕をきつく締められた事で意識が戻る。
「…あ、有原さんっ」
「んだよ?」
「ポタッ」
(あ。)
「「ザァァァ…」」
「…遅かったな。」
「すみませんっ…!!!」
だんだん酷くなっていく雨。私たちは呆然と立ち尽くすしか無かった。
- Re: イタい程の接吻を ( No.1 )
- 日時: 2020/05/31 08:46
- 名前: 河浦葵 (ID: gln177xE)
「はぁ〜あ〜折角来たのにな。」
「すみませんっ、手間をお掛けしました…」
私は焦って頭を下げる。
「高橋は予測するっていう能力が無いの?天気予報確認することぐらい出来ないの?」
「申し訳ございません。」
「ったくよ、ヘタレだなぁ〜…」
(あ〜〜、今度は歩道で説教…悪いのは私だ。ちゃんと受け止めないと…)
私はいつもこうだ。失敗を撤回することが出来ない。それなのに失敗は増えていくから、職場の皆から白い目で見られるし先輩にもヘタレと言われる。でも、有原さんはこんな私を唯一引っ張ってくれるから。
怒られている事が何よりもマシだ。
「パサ」
「…え…?」
後頭部にかけられた生暖かい布。
先輩の着ていた肌色のカーディガンだ。ほのかにレモングラスの香りが鼻をくすぐり、急いで顔をあげた。
「さ、どっかに避難するよ。」
たった一言だけで救われるなんて、有原さん位しかいない。
「っはいっ」
真っ白なTシャツと小雨の似合う背中。私はそれを追いかける。
「本当に申し訳ありません。…予報が雨だとは知らなくて。その上コーヒーまで、本当に申し訳ないです。」
「自分で珈琲選んでおいて言うかよ。」
「すみません。」
「…高橋と二人きりになりたくてついてきた。」
カウンターテーブルに隠れた左手を、人差し指でなぞられる。赤らんだ頬を見せた有原さんに動揺が隠せず、たちまち耳が熱くなった。
「あ、有原さんっ!?」
「…なーんてさ。女の子に言ってみたら惚れてくれるかな?」
また、いつものだるそうな表情に戻った。
(何なら俳優になれるんじゃないかこの人…)
「…きっと振られますよ、有原さん。」
私は皮肉じみた返しをする。
「冗談だよジョーダン。何耳真っ赤にしてんだ。ヘタレ。」
先輩は変なところで嘘や冗談を言い、内容も私が信じてしまいそうなことばかりだ。私の気持ちをあげようとしているのか、馬鹿にしているのか気になる。
「お待たせしました」
大きめのティーカップに半分注がれた珈琲とミルクの入ったステンレスカップが乗せられたお盆が2つに並んで置かれる。
「あ、どうも…」
「ありがとうございます。高橋、砂糖入れる?」
「大丈夫です。」
(そうやって人前では偽る…)
「…でも、私は落ちちゃいますね。先輩がこんなに優しくしてくれるんですから。」
「……」
有原さんは私の応えが気に入らなかったようで、面倒そうに頬杖をついて話しだした。
「そうかよ。でも残念ながら俺は男にも女にも興味が無いんだな、これが。」
「女の人なら分かりますけど、男?」
「最近増えてるでしょ、同性愛」
「あー…同性愛者の結婚議論、ネットでも話題になってましたね。」
「な。」
「うちの会社もいるっつう噂で、今までは社内恋愛禁止にしたけどさ。同性愛者同士の結婚認められてから大分オープンになったよな。」
先輩はカウンターテーブルに突っ伏す。
真っ黒な珈琲が揺れて少し焦った。
「はあ〜ぁ〜…伏木ちゃんと中村ちゃん。今頃楽しくやってんだろうねぇ…」
以前退職してしまった彼女たちは、きっと恋人同士だ。
「はは、目の保養がなくなって悲しいですか?」
「悲しくねぇーよ。むしろ、どんどん怖くなってってんの。」
有原さんはテーブルに置かれたまだ熱い珈琲を宥めてから、中央にある角砂糖を五、六個ティーカップに入れる。追加した量も多いのでもう何個か分からない。
「男を好きになるって、今じゃ当たり前って見られてるからさぁ…気がついたらお前のこともそういう目で見ちゃうかもしんないだろ。」
せせこましく掻き混ぜる音が広がる。雨の音が微かに上から伝わって、嫌気がさした。
「あ……確かに、それはそれで困りますね、見る目がせばまれるというか…」
「そーそー。だから俺は女も男も好きにならない。」
今度はミニカップの中に入ったミルクを注いで、「ミルク使わないの?」とあっけらかんに聞いてきた。先輩は強気な性格と反して苦いもの嫌いだ。私は先輩にミニカップを渡しながら話を続ける。
「もし、私が先輩を好きと言ったら、先輩はどうしますか。」
「え、無理。気持ち悪いじゃん。」
即答。
きっとこの回答には同性愛を否定するのも、私を拒絶する意味も入っているのだろう。。
「そうですよね。…困りますよね。」
苦い珈琲を口にして、自分をまた責める。
「でもまあ、試してみる価値はありそうだな。」
「高橋みたいなヘタレに言われても信憑性に欠けるけどな。」
有原さんは見るからにして甘ったるそうな珈琲を口に運び、一口飲むと口角を上げて、
「付き合ったら案外…いや、きっと楽しい。」
なんて捨て台詞を吐くのだ。
馬鹿みたいだ。こんなに好きになってしまっている自分がバカバカしい。
「そんなこと、他の社員には言っちゃダメですよ?」
「え、何でだよ。」
湯気の中に、ひとかたまりの愛しさを落とす。
「恋に 落ちてしまいますから。」
雨はまだ、止みそうにない。
- Re: イタい程の接吻を ( No.2 )
- 日時: 2020/05/31 22:07
- 名前: 河浦葵 (ID: gln177xE)
私たちは時計の針がどちらとも下を向くまで地下で暇を潰した。店員さんとも話しが合い、会話が一通り盛り上がっていた「はず」だった。
「あの、そろそろ店閉めるんで」
「あ、はい」
あっさり追い出されました。
「…止まね〜な」
「そうですね、雨、止みませんね。」
唯一の救いで、八百屋の屋根は私たちを大雨から守ってくれた。
私はスマホで適当に現在の状況を調べる。大雨警報が出されたようで、そろそろ竜巻注意報も出る模様。
(もうこれはみぞれと言っていい_)
「雨がみぞれみたいだな。かき氷のみぞれ。」
「え」
(意思疎通??)
「…コンビニ、行ってきます。ワンコイン下さい。後で支払うので。」
「え、今?」
「ビニール傘とみぞれを」
「みぞれは食いたいけどビニール傘は要らん。」
「ですが…」
「俺の上着、頭に被っときゃいいだろ。」
「先輩の心配をしてるんです。」
「大丈夫だって、俺風邪ひいたことないし。バカは風邪ひかないって
言うだろ?」
「…先輩…」
(それ、自分で言っちゃったらおしまいのやつです。あと、馬鹿は風邪ひかないってのは、バカだから風邪をひいたことに気づかないんです、先輩…。)
有原さんはどこか抜けている。ヘタレな私が言えないけど、偶に(常に)変な発言をする。そういうとこ、案外好きかもしれ
「「目黒駅 運転見合わせ」」
あぁ、どうして。
「ん?高橋、目がモアイ像見てぇだけど。」
「せ、先輩」
「あ、時間内に帰れなくなったとか。」
「はい、…人身事故で。」
「よりによってそっちかよ。」
先輩は手のひらをお椀にして手首だけ屋根から出す。
「…世の中色々あるもんさ。」
「天気のせいだと信じたいです。」
人身事故がある度思い出す。自分が乗ろうとしていた電車が目の前で揺れて、血肉が飛び散ったこと。思い出すだけで、吐きそうだ。
「…びちゃびちゃっ」
先輩のお椀がくずれる。
「高橋、」
「は、はい」
「…お泊まり会しようぜ」
「いや〜、洗濯物も台無しだわこりゃ。」
(有原さんの部屋…広い。そしてなんかやたらと生活感がない。テーブルに未開封の酒だらけだし…怖っ)
「高橋ィ、カメラ取って。」
「あ、はい」
「カシャ」
「ありがとよ。でも違うんだわ。」
「すみませんっ、ぼーっとしてて…」
「そんなに引きずんなって。自殺とかはしょうがないだろ。」
「いえ、その人の怨念が電車の中に入り込んだかと思うと…」
「随分ヘタレだなぁ…」
「や、やっぱり今日はタクシーで帰りますっ、お騒がせしました。」
「何でだよ!待てって。いいじゃん、社長から今日は帰っていいよって言われたんだし。」
先輩が私の左腕を引っ張る。
「…手ぇ震えてんじゃん。カーディガンじゃ足りなかったならそう言えよ。」
有原さんからカービィに似た騎士がでっかくプリントされたブランケットをもらった。温かいけど、出されたマグカップもその子の時は流石に言わずにはいられなかった。
「有原さん、女子高生と同居してるんですか?」
「人の好みひとつで変質者扱いするな」
「何だか全て信じられなくなってきました…」
「上京してきた時に妹からもらった。彼女さん喜ぶよってさ。」
「彼女、さん…?」
「嘘ついたんだよね、彼女いるからここには来んなって。」
「あ〜…」
「妹の彼氏すっげぇ怖いんだよ。シックスパック。」
「俺と妹が同居したら寝取られるって思ってたらしくて、上京前呼び出された時はマジ死ぬかと思ったわ。」
「妹さん凄いですね…色んな意味で」
いつの間にか先輩は私が口にしていたマグカップを持っている。
間接だ。
男同士だけど、貴方だから恥ずかしくて、キッチンの方を向いた。
それと同時に、有原さんが私のこめかみの近くの生え際を無双座に触る。本当にこの人は変だ。
「ぐしゃぐしゃぐしゃ」
「な、何でしょうか。くせっ毛ですが何か。」
「…なんも知らない犬っころみたいだなぁ〜って。」
(馬鹿犬って言いたいのか?)
とか、思っているけれど嬉しい方が何倍も勝ってしまっている。
先輩は私の髪をクルクルいじりだした。
「そっから好きになったんだよね、星のカービィ。」
「何だか馴れ初めみたいですね。」
「新婚さんいらっしゃいだな。」
「4色の玉用意しなきゃですね。」
ヘンテコな話と窓の軋み、雷の
共演。これ以上にどうでもいい話しってあるのか?
「先輩、暇してません?」
「べ〜つに?…こういう会話、俺は好きだけどな、落ち着けるし」
先輩は急に私を見つめる。雨でも広がらないサラサラとした髪に、むにょんとした口元。時間を止めて触れてみたい。それか、先輩からされたい。強引且つ魅力的に…
「…高橋?」
「っわ!?す、すみません私ったら」
「いや、気にしてないけど…案外可愛いもんだな。」
「えっ」
「後輩。いや、お前のこと言ってんじゃないから。「後輩」っつう立ち位置の奴らが、案外可愛いなってことだからな。」
「は、はぁ…」
「とにかく。」
「ちょっと期間伸ばして、また俺と行こう。猫、めちゃくちゃ撮ろうな。」
「…はい。楽しみですね、」
今日、1人の尊い命が消えた。
こんなに他人事に済ませていていいのだろうか。
先輩はそのことについて、私とどうでもいい話をしながらもずっと考えているんだろう。
あの焦げ茶の髪の奥深くで、ひとり会議を済ませているのだ。
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