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直球には直球で挑むべし! 【創作BL】
日時: 2022/02/07 01:47
名前: みっつまめ (ID: CjSVzq4t)

「好き…です」
「おん」
「…つ、付き合ってくれませんか?」

 人生の一大いちだいイベントである告白を初めてした

「うん…ごめん、むり」

 初めて伝えた想いは、ものの数秒でぶった切られる結末となった


―――――――――――――
何でも出来る万能マン後輩の 早坂はやさか れん高校1年
      ×
運が最強の気分屋先輩の 寺嶋てらしま 菊男きくお高校2年

の物語です。
―――――――――――――
早坂視点固定で物事を進めるつもりです。
よろしければ閲覧どうぞ。

Re: 直球には直球で挑むべし! 【創作BL】 ( No.1 )
日時: 2022/02/06 22:10
名前: みっつまめ (ID: BEaTCLec)


「うわあぁ~ん、ひどいですよぉ~」

 先輩の腰に腕を回してしがみついては、涙目で泣くふりをする

「おい、くっつくな、返事は早い方がいいだろぉが!」
「そんな秒で断らなくてもぉ~!!」
「泣くな、みっともねぇ!」

 俺より背の低い先輩の少し強い口調はいつも通りで、さっき俺が告白したのもまるで何事もなかったかのような素振りにプライドはズタズタ。
 先輩から離れて校舎を背に体育座りして小言を重ねる

「断るならすぐじゃない方が嬉しいですよ」
「……」
「俺を意識してもらえるなら一回告ってしばらく時間空けて、その間にデートとかしちゃってさ、ほだされて、やっぱ好きになったみたいな可能性だってあったのに」
「いやえから」
「ほらすぐそうやって期待を裏切る! 先輩のバカ!」
「可能性ないって思ってんのに付き合ってる方が傷つくだろ」

 俺の隣に腰掛けた先輩は、一応話を聞くつもりらしい
 そんな優しいことするから勘違いする
 口調は悪いし、俺の心に矢を射す攻撃は止んでくれないのに、先輩が傍に居てくれるだけで、チャンスはまだあるかもって期待させる

「なんで俺じゃダメなの?」
「なんでお前で俺がオッケーだすと思ったんだよ」
「俺なんでも出来ます」
「おん、万能だな」
「俺結構イケメンだって言われますし、勉強だって悪い方じゃないし、先輩のためなら…なんだってします」
「…なんで俺なの?」

 お互いに顔を見ないで話す。そっちの方が傷ついた心が癒やされていくように感じるし、俺正直言うと先輩の顔見ただけでキスしたいとか思うほど末期マッキまでこの想いが来てるから

「人を好きになることに…理由って必要なんですか?」
「あぁ~いや、そんな深い理由とかじゃなくて、なんつうかどの辺を?」

 先輩は恋と言うより愛派の人間で、好きな人には言葉より行動で気持ちを伝えたいって思うらしい、でもそれは矛盾してて、先輩は無意識で私生活の中に好き嫌いをわけて、周りを、周りが気づかない間にマインドコントロールしている。だから好きな物しか周りに置かない。食べ物や人に関しても「あれ嫌い、コレ好き、あの人は好みのタイプじゃない、あの子かわいい」って無自覚で言ってるの、俺は知ってる。でも自分では言ってないつもりだから相手から直球で「好き」とか言われると慌てて戸惑いの色が見える。先輩は、焦ったとき・困惑してるとき・怯えてるとき・怒ってるとき、無表情になる。怒っていても拗ねているときは膨れっ面をして分かりやすいのに、本気でキレてるときは本当に分からないから、俺としては先輩に振り回されてばかり。それでも毎日少しでも長い時間を過ごすにつれて、雰囲気とか目を合わせなくなるとかで分かるようになってきた。だから、今は俺に「好き」って好意が本物であると伝えられて戸惑ってる

「…どの辺って…全部、ですけど?」
「……」

 黙った先輩をチラッと見れば少し眉を寄せてる、納得のいかない回答だったみたいだ
 でもそれ以外に回答が思い浮かばない、思案していると先輩が口を開く

「お前さ、自分が自覚してるように何でも出来んじゃん?」
「ある程度の話ですけど」
「顔もイイし身長も高いし運動神経も良くて」
「運動神経は先輩もイイ線いってますよ」
「いいから話聞け」
「あ、はい」

 先輩が俺を褒めてくれるのが嬉しくて先輩も褒め返せば冷たく言い放たれて反省の意を込めて押し黙ると、様子を見て先輩は続きを話す

「あと、頭も良い方だろ、本校ウチは不良がつどうっつっても一応共学だし、女子がいないわけでもない」

 嫌な予感がする。先輩は付き合う相手が男だから嫌なんだろうか

「俺に女と付き合えって言ってるんですか…?」
「そーじゃなくて、俺には勿体ねぇって言ってんの」
「先輩に高く評価されて嬉しい反面、やっぱり付き合えないのは複雑ですね」
「真面目だなぁ…逆に俺じゃなきゃダメって判断はどこでしてんの?」
「え、他に興味がないからですけど」
「こっわ、そんな真顔で言うなよ…」

 ジッと見ていたら先輩がこっちを向いて目が合ったのが嬉しくて、目を細めて微笑む前に顔はまた逸らされた。本当に目が合ったのが一瞬で、ムッとする

「じゃあ先輩は、俺が一回女と付き合って、女性という素晴らしさを体験した後なら俺と付き合ってくれますか?」
「一回とかじゃ分かんねぇだろ」
「回数の問題ですか? それなら何人とお付き合いを繰り返したら先輩は俺と付き合ってくれるんですか?」
「ぐっ…」

 俺の少し強めの口調に逃げ道を失った先輩は苦し紛れに声を出す
 そもそも俺が先輩を好きって気持ちがかすむことなんてないんだから

「無駄ですよ、誰と何人と付き合おうが、先輩と同じ人が現れない限り、俺の気持ちが先輩から他者へ移る事なんてありません」
「そりゃ今はそうかもしれないけ」
「というか、先輩さっき言いましたよね? 可能性がないって分かってるのに付き合うのは相手を傷つけるんでしょ?」
「……男女じゃ障壁の厚さってもんも違うし」
「先輩が傍に居てくれるなら俺はどんな障壁でもへっちゃらです」

 こっちを向いた先輩は少しだけ目を伏せて呆れているような顔で俺を見定めているようで、にっこり笑みを浮かべれば、大きく息を吐いた先輩は無表情で述べる

「…じゃあ考えてみるわ」
「ホントですか!? 俺、期待してますよ!」

 先輩に続いて立ち上がり、先輩の横に並んで歩けば「ただし」と先輩は続けた

「ただし、俺の返事があるまではいつも通りをつらぬけ、いいな?」
「え~? 告白した後なのに、俺いつも通りとか貫ける自信ないですよぉ~」
「だったら、この話は無かったことに」
「ウソウソウソ! 俺に出来ない事なんてないですから! ね?」
「…っはぁ~」

 また大きめの息を吐いた先輩は肩をすくめて、切り替えをするように「腹減ったな」と呟いた


Re: 直球には直球で挑むべし! 【創作BL】 ( No.2 )
日時: 2022/02/06 23:54
名前: みっつまめ (ID: BEaTCLec)

「先輩、なに食べます?」
「焼きそばパン食いてぇ」
「ダメですよ、健康に悪い、定食にしましょ?」
「俺に聞く意味あったのかソレ」

 一緒に学食に行き、食堂の本日のメニューを眺めながら先輩に聞けば、近くにある売店の方を見てる先輩は焼きそばパンを食べたいと口にする。けど、人気の焼きそばパンは昼休憩始まって15分で売り切れるって噂だし、20分も過ぎてるこの時間は人の群れをかき分けて入って行っても、無いことは目に見えているため、先輩に定食を勧めると、俺に呆れながらも定食メニューを見てくれる

「この中なら、焼き魚のB定食なんてどうです?」
「魚は骨があるからな…喉に詰まる」

 はぁ、先輩かわいいな。魚の骨取り除くの苦労するんだ、子どもっぽくて可愛い
 大体、学生に提供するための魚なら、そもそも骨なんて取り除かれてるものを出してくると思うんだけど

「俺が取り除いてあげますよ」
「Cのカツ丼にするかぁ~」

 はい、いつも通り~。先輩ってば、全然俺の話聞いてないんだから!
 食券を買ってる先輩に続いて同じ物を買おうと並んでいれば後ろから服を引かれ声をかけられる

「あのっ、早坂くん、ちょっとだけ、時間いいかな?」

 俺よりも先輩よりも背の低い女子生徒。確か隣のクラスで一番可愛いって俺のクラスの男子生徒が声を上げて言っていたことを思い出す。頬を赤く染めて上目遣いしてくる女子生徒に用件が告白であることは予想が出来た。
 嫌だなー、いま先輩と居るのに…先輩との時間邪魔されたくない

「ごめんねぇ~、いまから先輩とご飯だから」
「行って来いよ」
「「えっ」」

 女子生徒に笑顔で断りを入れるとすぐさま先輩から声をかけられる。驚いた俺となぜか女子生徒が同時に声を上げる。思わず振り向いて先輩を見れば、カツ丼の入った器を食堂のおばさんから受け取り、盆に乗せて先輩はこちらを向く。

「ん? 心配しなくても、食いそびれたら何かパンでも買っといてやるって」

 俺が女子生徒から告白されるっていうのに、本当に何も疑問を抱いている様子が無い先輩に苛ついて、歩み寄っては先輩の腕を掴んで引き寄せ、耳元で囁く

「すぐ戻ってきますから、先に食べないで待っててくださいね」
「いや俺腹減ってんだけど」
「絶対ですよ?」
「…遅かったら食う」

 先輩の返事を聞いてから、腕を離して女子生徒の方へ歩み寄り、用が何かと段取り早くするよう促した
 俺の帰りが遅かったら先にご飯を食べると言った先輩。あれ普通は「早く帰って来いよな」って意味に変換されて「妬いてるの? 可愛い」とかなる流れかもしれないけど、先輩の場合そういうんじゃない。俺に負けないくらい食い意地の張ってる先輩のことだから、あの台詞は建前であって、俺が見えなくなれば、そりゃ多少は待つかもしれないけど、3分しないうちにカツ丼に手をつけているに違いない。それで俺が戻ったときには食べ終えてて、俺が食べてるのを少しは待ってくれるだろうけど、自由の束縛が嫌いな先輩は待つのも飽きて、俺を置いてどこかへ散歩に行くのが流れである。だから、さっさと話を終わらせて先輩の元に戻りたい。俺はそう思いながら女子生徒の後ろに着いていった

Re: 直球には直球で挑むべし! 【創作BL】 ( No.3 )
日時: 2022/02/16 13:42
名前: みっつまめ (ID: tnkG6/9W)

「私、入学してすぐの頃に、早坂くんと会ったの覚えてる?」

 わざわざ空き教室まで連れてこられてする話がソレなの? 正直キミのこと全く思い出せないんだけど、早く話し終わらせてくれないかな~
 俺が黙っていると女子生徒は前スカートの裾を両手で握りしめながら続ける

「あっ、覚えてない…よね。 体育館倉庫で男子生徒に襲われそうになってたときに、その男子生徒にボールぶつけて私のこと、助けてくれたんだよ」
「あぁ~」
「思い出してくれた? 私あのとき、すごく嬉しくて、早坂くん優しくてカッコイイ人なんだなって思って」

 あのとき、確か放課後で先輩が「スマホどっかに落とした、さっき体育館倉庫のマットで寝てたからそこかも」って言って俺が取りに行ったらそんなことがあったはず。あれ結局、先輩のスマホは体育館倉庫には無くて、先輩のところに戻ったら鞄の前ポケットに入っていたんだよな。ボンヤリしてる先輩にムカついたけど体育館倉庫に行ったのが俺じゃなくて先輩だったらと思うと、あの輩に武力でも口でも敵わない先輩が行かなくて本当にホッとしたのを覚えてる。そのあと、俺が拗ねてると思ったのか「お詫びにコレやるよ、好きだろ?」なんてみたらし団子をもらった。別にみたらし団子が特別好きなわけじゃないけど、先輩からもらった物は残さず食べた。

「…私ね、早坂くんのこと、ずっと目で追ってて、好きだって気づいたの」

 話はいつの間にか本題に入っていて、女子生徒の告白に「先輩にこう言えば本当の好意が伝わるかな」なんて、台詞を参考に出来るか考えてる、こんな俺、やめておいたほうがいいよ

「もし、よかったら、私と…お、お付き合い…してくれませんか?」

 俺の様子を伺うように女子生徒はまた上目遣いしてくる
 なにその顔、最近上目遣いって流行ってるの? 童顔の上イケメンな俺がやった方が百倍可愛いと思うんだけど

「うーん、ごめんねー、おれ好きな人いるから~」

 笑顔で断りの台詞を綴れば「えっ」と驚きの声を上げる女子生徒は思っていたよりグイグイ来る積極的な子だったみたいで、それが誰かと聞いてきた

「それって、だ、だれ?」
「そこは教えられないよ、その人に何かされたら俺キミのこと容赦しないし、出来ればそういうことさせてほしくないし」
「…なにもしないよっ?…ただ、知りたい、だけで」
「知ってどうするの、キミに良いことひとつも無いと思うけど? 俺がその人のこと諦めることもないし、その人が俺を嫌ったとして、俺の気持ちがキミにいくことも無いよ?」

 やんわり言っても引き下がらないならキッパリ言うまでだと、厳しめにフれば、黙った少女は俯いて肩をふるわせ泣き真似してきた

「うっ、うっ、ひっく…」

 なんで泣き真似するの、引き留めるつもりなら無駄。それ、俺もさっきやったから。この子に好意が向くことは無いから俺は先輩みたいに優しく思わせぶりな態度は一切取らないように心がける

「ごめんね、それじゃ、話は終わったからこれで」

 泣いてる女子生徒を背に軽く片手を振ってその場を後にし、その子から死角に入った位置から食堂へ走った。
 かなり時間が経ったはずだから、先輩はカツ丼を食べ終え、食堂に居ないかもしれない。でも行ってみなきゃ。可能性を信じて、着いた食堂は人数が少し減って見渡しやすくなっていた。

Re: 直球には直球で挑むべし! 【創作BL】 ( No.4 )
日時: 2022/02/14 02:45
名前: みっつまめ (ID: 1CRawldg)

 見渡すと奥の席に座っていた先輩が俺を先に見つけてたみたいで片手を顔の横で軽く振っていた

 うわ、かわいいっ!

 自分がここに居ると意思表示してるだけなのに、無表情で軽く手をこっちに振ってくれてるだけなのに、こんなにも先輩が愛おしい

 すぐに食事の準備をしようと、食券の券売機へ向かうと、目当ての先輩と同じCのカツ丼ボタンは売り切れマークが光っており、仕方なくBの焼き魚にしようと隣へ視線をずらせば、そちらも同様に売り切れマークが光っていた
 かきたまうどんかカレーかAの生姜焼き定食、迷った末にA定食に決め、先輩の前の席に座る

「あらら、焼き魚間に合わなかった?」
「はい…先輩はカツ丼食べ終わっちゃってますね、思った通り…」
「一応5分くらいは待ったぜ?」

 それは“待った”に入るの? 5分で告白終わることある?

 ペットボトルのオレンジジュースを飲んで当然の事のように言う先輩。そんな先輩は「よしっ」と言うとテーブルに焼きそばパンを置いた

「っえ、焼きそばパン…買えたんですか?」

 普段なら購買で絶対に売れ残りでもあるはずのない大人気焼きそばパンが今、目の前にあり、思わず先輩に問いかける

「そうなんだよ、他のパンの下敷きになってたみてぇでさ! ラッキーだよな!」

 嬉しそうに歯を見せて笑う先輩に俺も嬉しくなる
 そのまま封を切った先輩が少し潰れた焼きそばパンを口にする前に「そうだ」と思い出したように隣の椅子から取ったものを俺の目の前に置く

「はい、コレお前に」

 差し出されたのはペットボトルのスポーツドリンク

「え、貰っていいんですか?」
「うん、お前にやろうと思って」
「へっ…? せ、せんぱいっ!」

 俺のことを想って買ってくれたの?

 先輩の何だか分からないが俺の為にしてくれただろう気遣いに嬉しくて涙目になりながら先輩を拝めば、慌てたのか眉を寄せて冷めた表情になった先輩は近くの自動販売機を指差す

「ばか、違うっての…さっきソコの自販機でオレンジジュース買ったら当たって、もう一本買えることになったから、スポドリにしただけだって」

 先輩の指差す先にある自動販売機を見る
 飲み物一本買う度に液晶に映る数字四桁が揃えばオマケとしてもう一本買うことが出来る仕組みの自動販売機
 街中でも見かけるけど当たってる人、見たことない、アレが当たったってマジ?

「…先輩、今日運良すぎません? なんか隕石でも降ってきたら怖いんですけど」
「いや、あの自販機でなら何回か当たることあるぜ? 今日も当たったら笑えるなと思ってたら当たったし、オール2!」

 焼きそばパンを口に含んで、人差し指と中指を立てる先輩は無表情で、嘘をついてるようには見えない
 え、マジで言ってるの?この人…何回か当てたことあるってなに?ヤバくね?そういえば、その焼きそばパンも奇跡的に残ってたの買えてるし…

「え、もしかして先輩って結構運が良い方…?」
「さあ? 比べる相手いねぇし、偶然が重なっただけだろ」

 あれ、偶然が何度も重なるとそれは必然、とかいう言葉聞いたことあるな
 俺の質問に首を傾げる先輩は、焼きそばパンを食べながら辺りへ視線を散らす
 先輩の運が良いのは必然? そこまで深く考えてなかったけど、考えてみれば確かにいくつか思い出せる

「先輩がお腹空かして金欠だった時、座ったベンチに500円玉落ちてたし」
「拾って俺が使おうって言ったら、お前“汚いからやめろ”っつってたよな」
「その辺に落ちてる汚い硬貨を握る必要が無いってことだって、その時に話したじゃないですか」
「言い方があんだろ、俺あんとき傷ついたわ〜」
「今度なにか奢りますよ、それよりもほら、この間も」
「お前おれがすぐ物に釣られると思って…」
「確か東校ウチに南校のヤツらが殴り込んできた時も、先輩そいつら巻き込んでタコパしてましたよね!?」

※タコパ=タコ焼きパーティー

 下の階でボカドカ殴り合ってて、先輩が心配になって探したら呑気にたこ焼き器を使って飯なんか作ってて、周りの連中も屋台で出される飯を待つ子供みたいに、声は煩いのに椅子に座って待ってて、俺の目がおかしいのかと思った

「あぁ〜あんときな、大勢で食べると、より美味さが際立つよなタコパって」
「いやいや、わざわざ殴り合いしに来た奴等が敵陣乗り込んでまで飯なんか食らいませんよ!」

 思い出したようにケラケラ笑う先輩に、あの時の状況は有り得ない事だと言えば、先輩は目尻を下げて慈愛のこもった眼差しで空虚を見つめながら的外れなことを呟く

「アイツら腹減ってたのかもな」
「違うでしょって」
「そういえば、生地作るの上手いやつ居たな、アイツ居なかったら旨いモン作れなかった自信ある!」

 先輩、ゆで卵も作るの苦手だもんね…ってか、なんて? アイツ居なかったら?

「は?なに飯に釣られてんすか、俺の方が旨く作れますよ?」
「競ったことねぇだろ?」

 ついムキになって先輩にアピールすれば、目を丸くした先輩が初耳だとでも言うような顔で俺を見て聞いてくる
 その純粋な瞳に少しだけたじろぐ

「競わなくても分かるんです! …大体先輩料理からきしダメじゃん、なんで作れもしないのにたこ焼き器持ってきて、作ろうって思ったの?」
「無性にタコ焼きが食べたくなったから」

 もう、ほんと子どもみたいに欲求に素直なんだから…って違う違う!ほら、その時も、殴り合うことなく旨い飯を食えてる

 先輩と話していると、つい脱線してしまう
 何かがおかしいはずなのに、先輩の鈍感さと生粋の天然のせいで頭が回らない

「はぁ、まぁいいや、先輩が無事でいてくれるなら」
「おれ生命力は高い自信あるぜ」
「はぁ…もう、心配だなあ…」

 口に入れた生姜焼きは冷たくなっていた


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