BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
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- 月が奇麗ですね
- 日時: 2024/11/04 20:43
- 名前: ゆれる (ID: fMHQuj5n)
- プロフ: https://www.kakiko.cc/howto/about/faq/index.html
訳ありの二人が出会い、奇妙な共同生活を始めます。最初は少し暗いです。
いきなり始まります。
「大っ嫌いだ」
こんな世界なんて。
そう呟き、海に足首をつからせた。終わらせるつもりだった。
だったのに。
「そうか」
そんな声と懐かしい暖かみを感じる。
何故だか、酷く安心した。そして、僕は意識を手放した。
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重い、重い瞼を開ける。薄っすらと空いた目の隙間から見えるのは、見覚えの無い天井。
「っ、⁉︎」
ガバッと体を起こす。
焦りの中辺りを見回してみると、どうやら知らない家のベッドで僕は寝ていたらしい。窓の外はかなり明るく、もう昼のようだ。今まで使ったこともないような柔らかで、暖かいベッド。こんな時間まで寝てしまう訳だ、と1人納得する。
いや、今はそんなことを考えている暇は無い。一体ここはどこなんだ。とりあえず、逃げなければ。
「やっと起きたのか」
ドアが開いて、この家の主人であろう男が顔を出す。考え込んでいて、足音に気が付かなかったらしい。
「調子はどうだ?」
「…」
あまり感情の読めない顔と声色で話す男。
「お前、余りにもボロボロで、今にも消えそうだったからな。…昔の俺を思い出しちまった」
僕をまっすぐに見つめて話す男。彼の目は、月の無い夜の様に真っ黒だった。
「…僕を家に入れて、どんなメリットがある」
正直、僕はこの男を信用していない。当然だろう。見ず知らずのこんな餓鬼を、ただの同情心なんかで世話するような物好き、いるはずが無い。今までもそうだった。
「ん、やっと喋ってくれたな」
そう言いながら、僕の方に手を伸ばしてくる。
その手を見て、思い出してしまう。
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『怖く無いから、こっちにおいで?』
ねっとりとした声。熱を帯びた目。無理矢理にでもひっぱっていきそうな手。
怖い。こわい。コワい。厭だ。
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「ッっ、やめろ!」
男の手を叩き落とし、恐怖心のまま叫ぶ。
「みんな、僕を変な目で観る!
気味が悪い物を見るような目!
自分の快感しか考えていないようなまとわりつくような目!
僕が何かしたの?なんでなの?何が悪かったの?なんで?なんで?なんでなんでなんで─」
ギュッ。
「…へ?」
「すまない。怖がらせてしまったな」
男が、僕を抱きしめていた。不思議と、気持ち悪さは感じなかった。どこか懐かしい、安心する暖かさを感じた。
「質問に答えよう。俺がお前を連れてきた理由は、俺と重ねてしまったからだ」
「…僕と、お前を?」
その言葉に、男は頷く。
「ああ。あのまま放っておいたら、昔の俺みたいに消えようとしちまうんじゃないかと思ってな。…俺も、ワケアリなんだよ」
さっきと変わらない、まっすぐな視線。不思議と怖さは感じなかった。
「そうだったんだ…。その、さっきは、手、叩いてごめん」
彼は驚いたような顔で、
「別に気にしてねえよ。むしろ、さっきはすまなかったな」
といった。その優しさに、なんだか顔が熱くなった。
そんな僕を見て、彼は微笑んだ。
「じゃあ、聞かせて。…俺の家で、一緒に住んでくれませんか?」
「…喜んで!」
ようやっと笑えたような気がした。
そうだ、と彼が言う。
「お前、名前なんだ?これから不便だろう?」
名前。僕に名前はない。親の顔だって知らない僕は、そのときそのときに合わせて名前を変えてきた。
僕が黙ってしまったのを見て察したのか、彼が口を開く。
「…じゃあ、俺がつけようか?」
「…え?」
意外な言葉に、戸惑ってしまう。
「もちろん、お前が良いならで、無理にとは─」
「お願い、しようかな?」
僕の言葉に、今度は彼が戸惑う。そっちから言ったのに、と少し可笑しくなってしまう。
「付けてもらいたいんだ」
「…ならよかった」
安心したように彼はつぶやく。そしてぶつぶつと言いながら考え始めた。
彼の顔をまじまじと見つめてみる。
癖の少し付いた黒髪に、長いまつ毛。切れ長で涼しげな目。尖った八重歯。よくよく見ると、かなりの美形だ。しかも僕のタイプの。意識してみると、鼓動が速くなるのを感じる。
「…あっ!」
「ふぇっ⁉︎」
急に大声を出す彼に驚いて、変な声を上げてしまう。
「名前!良いの思いついた!」
興奮気味の彼を前に心臓を宥めながら問う。
「…それで、どんなの」
「舞うに、海で、舞海!どうだ?最初に会ったのが海だし、お前にぴったりな名前だと思うぜ」
「それ、、めっちゃ良い!ありがとう」
舞海。素敵な響き。それに、彼がつけてくれた─
「そういえば、僕もそっちの名前教えてもらって無いんだけど?」
僕はふと気づきそう問う。
「…あ。俺も名前ないんだったわ」
本当に忘れていたかのような反応に少し呆れてしまう。人には散々言ってたくせに…
「いや、何せずっと一人だったんで…」
まあその気持ちはわかる。
「じゃあ、僕が名前、つけるよ」
そう提案する。施されっぱなしは性に合わない。
「良いのか?舞海」
「良いに決まってる!勝手に決めちゃうからね?」
戸惑う彼を尻目に思考を始める。
彼といえば、なんだろう。一番印象的なのは、闇夜の目だろうか。でも、闇ってあんま良くないかな…なら僕が─
「うん、きめた!」
「なんだ?」
彼の表情が明るくなる。少しずつ、彼の感情がわかるようになってきたのが嬉しくて、ついつい微笑んでしまう。
「月に、夜で、月夜!僕が君の月になれたら良いなって…」
今になって恥ずかしくなり、口調が尻すぼみになってしまう。どうだろうか。僕なりに精一杯考えたつもりだが…
「最高じゃねえか!本当にありがとな、舞海」
「えへへ」
彼…いや、月夜の反応は思ったよりもよく、ひとまず安心した。
ほっとすると、急にお腹が空いてきた。
キュゥゥゥとお腹が鳴ってしまう。恥ずかしくて俯いていると、月夜がふっと笑って
「舞海が腹減ってるだろうと思って、飯、準備してあっから。台所、案内するな」
と言った。
そんな彼の笑顔は、今まで見た何よりも綺麗だった。
「ありがとう。これからよろしくね、月夜!」
「ああ、よろしくな、舞海」
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ああ、
僕は、
俺は、
彼とならば、
世界を好きになって行けるのかもしれない─