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月は届かぬ海に焦がれる
日時: 2026/02/15 23:39
名前: ゆれる (ID: RvHmVj6d)
プロフ: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14055

 主にblですが、百合も混ざる可能性があります。
 ファンタジー世界で、異種族たちの訳ありが集まる小さな街の話。前の話「月が奇麗ですね」に似てるところがあるかもしれません。
 更新遅いです。

1 ( No.1 )
日時: 2026/02/16 18:52
名前: ゆれる (ID: RvHmVj6d)
プロフ: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14055

 月が綺麗だった。
 木々の隙間に零れ落ちていく光は、己の目が焼けてしまいそうなほどに黄金に輝いていた。
 しかし、それはただのスポットライトでしかなかった。
 視線の先で「それ」は、大きく羽を広げた。黄金に黒く映える羽はひどく傷ついていて、片方の羽は途中から千切れ、目を背けたくなるほど痛々しかった。しかし、危うげに揺れる闇を閉じ込めたような瞳、薄い唇から覗く病的なほど白い牙からは目を離すことが出来なかった。
 いつまで見つめていただろう。樹上で羽を広げてぼうっと月を眺めていた吸血鬼は、焦点の合っていない右目で此方を一瞥するとふいっと目を逸らし、木々の中に飛び去っていった。
 おれは、ただそれを追いかけることしかできなかった。
 

2 ( No.2 )
日時: 2026/02/16 23:43
名前: ゆれる (ID: RvHmVj6d)
プロフ: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14055

 気が付けば、真紅の鳥居の前に立っていた。森の奥深く、この世界から取り残されてしまったかのような谷の狭間にそれはあった。
 何かに導かれたかのようにふらふらと一歩足を踏み入れると、そこには真に奇妙な、それでいて美しい街が広がっていた。いや、街というには小さく、集落の様な場所だった。
 きらきらとした小川、青々とした植物たちに健気に咲く花々。今までに見たことのない、それはそれは美しい景色だった。
 どれだけたった頃だろう。現実味のない景色に自分でもわかるほど頬を上気させていると、がさり、と草をかき分ける音がした。
 咄嗟に近くの木陰へと隠れる。
 「(もしかして、ここの街の人?)」
 顔からさぁっと血の気が引くのを感じる。周りに聞こえるのではないかと思うほど心臓の音がばくばくと鳴り、呼吸が荒くなる。震えながらも鱗に指を滑らせる。頬、首、鎖骨にかけて。脇腹。足の甲。おれが“海龍”である証に触れている時だけは心を落ち着かせることができるから。
 「あれぇ、確かに何か聞こえたはずなんだけどなぁ?」
 近くから、のんびりとした男の声が聞こえてきた。荒ぶる心臓を抑えながら耳を澄ませ、ひたすら願う。
 「うーん、やっぱり聞き間違い?」
 そうだよ。
 「気のせいだったかな」
 だから、
 「ま、めったに外からくる子なんて居ないしねぇ」
 早くいなくなってくれ…!

 「あ、やっぱりいた」

 目の前には、狼の耳と尾を生やした獣人の青年が立っていた。
 「海龍の子?珍しいねぇ、初めて見たよ」
 会ってしまった。会ってしまった。パニックを起こした頭がぐるぐるとまわる。
 「ぼろぼろだねぇ。ね、うちにおいでよーー」
 そんな言葉を最後に、フラッシュバックした言葉の奔流に呑み込まれておれは意識を失った。
 

設定1 ( No.3 )
日時: 2026/02/18 22:26
名前: ゆれる (ID: RvHmVj6d)
プロフ: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14055

【 設定 種族1 】
 この世界では、人口のおよそ8割程度を人外が占めている。しかし、異種族同士での交流はあまり活発でなく、たとえ異種族同士で結婚したとしても子供をもうけることはほぼできない。閉鎖的なコミュニティの中では偏見や差別も多い。

海龍→主に海に住む龍の獣人のこと。様々な色の鱗を持つ。海でも陸でも生活できるが、基本的に陸での生活に向いていない。ほとんど龍の者も、人間に近い見た目の者もいるが、いずれにせよ発語は出来る。主人公は後者のタイプ。
吸血鬼→その名の通り、血を吸って生きる鬼。日光は苦手だが致命傷には至らない。血を吸わずに生きることも出来るが、普通の食事ではエネルギーが足りないため非常に身体に悪い。加えて傷の再生もできなくなる。

3 ( No.4 )
日時: 2026/02/20 23:19
名前: ゆれる (ID: RvHmVj6d)
プロフ: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14055

 目を覚ますと、そこは知らない天井だった。
 「(ここはどこだ?さっきの人狼の家か?)」
 柔らかい寝台に暖かい布団。久方ぶりの温もりを手放すのが惜しく、視線のみをきょろきょろと動かす。
 「(体調が万全になったら逃げ出そう…)」
 「あれ、起きた」
 「うわっ!」
 さてどうやって逃げ出そうか、などと考えているうちに家主に気づかれてしまったようだ。がばっと布団から跳ね起きる。
 警戒しつつ、目の前の男を観察する。灰色の耳と尾。人当たりの良い目元からも同じ色の瞳がのぞいている。見た目だけなら悪い人じゃあ無さそうだが、
 「(いやいや)」
見た目で騙してくる輩はごまんと居る。まずは自分の目で見極めなければ…
 「…おれなんかを連れ帰って、何が目的だ」
 「目的?」
 不思議そうな顔で男は首を傾げる。
 「そうだ。こんな素性の知れない男、普通だったら連れて帰ったりしないだろ」
 恐怖で震えそうになる腕を無理矢理押さえ込み精一杯の虚勢をはる。
 「一体なんだ?労働でもさせるのか?それともイロだったり?言っておくがおれはー」
 「ふふっ」
 「?何がおかしい!」
 青年が急に笑い出す。
 「いや、やっぱりみんな言うことは同じなんだなぁって思ってね」
 「みんな?」
 「そう。…さっき君は何が目的かって聞いたね。強いて言うなら、それは君を助けること、かな」
 「っそんな」
 おれの口元に人差し指を当てて言葉を遮ると彼は続ける。
 「ふふ、信じられない?」
 口を塞がれたままなので、こくりと頷きだけ返す。
 「そうだよねぇ。それじゃあこのまちについて少し話そうか」
 人差し指をすっと離し、彼は語り始める。
 「ぼくは一族の爪弾き物でねぇ。数年前、唯一ぼくと仲良くしてくれた四幻の子と駆け落ち同然に逃げ出したんだ」
 「たどり着いたのが、ここ。必死に逃げるあまり天国にでも来てしまったのかと思ったよ。美しいところだろう?」
 「それから、ここでのんびり暮らしてるってわけ。そんな事情があるもので、似た様な境遇の子がほっとけなくてねぇ。ここで暮らしてる子たちはみんな、何かしらの事情で逃げてきて、ぼくが拾って面倒をみてる。まあ、好きなように過ごす子がほとんどだけどね」
 にわかには信じられない話だった。でも、嘘では無さそう。
 長い間ずっと、おれは一人だと思っていた。でも違うみたい。いつのまにか腕の震えはおさまっていた。
 「それで、君が良ければこのまちで暮らさない?もちろん無理にとはー」
 「暮らす」
 「え?」
 「だから、暮らす」
 食い気味に返事すると面食らったような顔をする。もうとっくにおれの腹は決まっているというのに。
 「…よろしく、お願いします」
 頭を下げる。普段は隙になるから絶対しないことだけど、この人は別。
 「そう言ってもらえて嬉しいよ。うん、よろしくね」
 嬉しそうにふわりと彼は微笑む。
 「お腹空いたでしょ。ぼくご飯とってくるから。だから少し待っててね、ええと…なんて呼べばいいかな?」
 そういえば。お互いに自己紹介がまだだった。
 「…えっと、舞海って言います」
 「おっけ、舞海ね。ぼくは砕牙だよ。タメ語で構わないからね!」
 そう言うと、砕牙はばたばたと下へ降りていく。急いでくれているみたいで嬉しくなる。
 「ねえ、融幻。あの子目ぇ覚ましたからー」
 融幻というのは、さっき話していた四幻の人だろうか。
 そんな事を考えながら再び布団に包まり、心地よさに身を委ねた。



 「体調どう?ご飯持ってきたけど…おや」
 ようやっと目を覚ました龍人の子、舞海に融幻と二人で準備したご飯を持っていくと、疲労からか、はたまた安心からか、すよすよと心地よさそうに眠りについていた。
 「どーしたの?砕牙…あら、寝ちゃったの」
 ぼくの後ろから、ひょこりと融幻が顔を出す。
 「あーあ、せっかく話せると思ったのに…」
 残念そうな顔を浮かべるぼくの愛しいひと。どんな顔でも絵になる。さすが!
 そんなことを考えながらふと視線を窓に映すと、ちょうど黒い羽が遠ざかっていくところだった。
 「今の輝夜?」
 「そうみたい。心配して来てくれてたのかなぁ?珍しいね」
 「そーだな。あいつ、普段無関心だからな」
 珍しいこともあったものだ。
 「(舞海が心配だったなら、直接来てくれれば良かったのに…)」
 
 

設定2 ( No.5 )
日時: 2026/02/21 00:01
名前: ゆれる (ID: RvHmVj6d)
プロフ: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14055

【設定 種族2】
 この世界の人外達は、ほとんどが長寿である。
 天国には天使が、地獄には悪魔が住んでおり、たまに人間界に降りてくる。彼等もまた生き物である。
 また、神と呼ばれる存在もいる。最高神、光、闇、火、空気(風)、水、土の七柱。彼等の下には、森羅万象に宿る精霊や妖精がいる。


人狼→狼の獣人。闘争心の高い個体が多く、種族全体で見ると攻撃的で排他的な性質を持つ。黒狼、白狼、金狼、銀狼など毛並みは様々で、砕牙は白と銀の中間のあたり。肉を好んで食べ、たまに同族や他の種族共々喰らうこともある。この欲求には、人狼である限り抗うことはできない。
四幻→精霊の一種だが、実体を持ち、寿命がある。七柱の神のうち四大神と呼ばれる火、空気(風)、水、土、いずれかの傘下に入っており、その神の魔力で覆われている。魔力が尽きない限り身体が再生し続けるため、寿命以外で死ぬことはほとんどない。融幻は火の傘下であり、火の傘下に見られる特徴として、圧倒的な再生能力を持っている。


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