複雑・ファジー小説
- Re: あだるとちるどれん ( No.100 )
- 日時: 2011/04/13 19:15
- 名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)
その日の夕方、コンビニに拓美さん用のアイスを買いに出た僕は帰り道の公園のジャングルジムに上っていた。
眺めがいいと日頃から感じていたが、今日の夕日は一段と綺麗だと思えてくる。
そしてその綺麗さが逆に、僕を不安に陥れようとしているのだ。
「こんばんは、一人でこんなトコいたら危ないよぅ。 悪い人に狙われちゃうかもよぅ」
「……依楓ねーさん」
昼間会ったこの人のように、酷く澄んだ感じが危なっかしい。
にっこりと微笑んで僕がいる場所まで上ろうとする。 落ちそうで、凄く危ない。
僕と一段だけ変わらない所まできて、僕が差し出した手を握ってやっと頂上まで上り詰める。
「えへへ、手ありがとね」
「どーいたしまして」
依楓ねーさんが僕の膝の上にあったコンビニの袋からアイスの袋を一つ取り出す。
というか元より一つだし、それを取られると僕がまた買いに行かなければならなくなるような。
あれ、取られるじゃなくて盗られるかな。
「後でアイス奢ってね、僕と拓美さんの分」
「えっ何ソレ聞いてないよっ」
「自業自得だよ。 ソレ一応僕のお金だからね」
頬を膨らましてアイスに齧り付く。
こうなりゃヤケだーと叫んで、がぶがぶとアイスが依楓ねーさんによって消化されていく。
「冷たい、冷えるよー……」
がっつくからだよ、と依楓ねーさんの手からアイスを取り、大分減ったアイスを袋に戻す。
僕の手が依楓ねーさんの手に触れた時、依楓ねーさんは低い声で呟いた。
「……手、冷たいよ。 死人みたい」
「死んでないからだいじょーぶ」
まさか依楓ねーさんに死人みたいって言われるとは思わなかった。 心外かも。
軽くショックを受けたが、右手を自分の頬に当てた時冷たさが染み渡って、「冷たい」と愚痴を零した。
依楓ねーさんが夕日を地面を交互に見て、最後に僕の方を向いて言う。
「高いねぇ」
「……そうかな」
「うん、高いよ?? だってほら、向こうにある時計があんなに小さ……」
遠くのアパートに埋め込まれてある時計を指差したまま、依楓ねーさんが固まる。
そして、奇妙に笑った。
昼間の小動物的な笑いではなく、もっと壊れたようにケタケタと。
「依楓、ねーさん……??」
カンカンと音を豪快に鳴らしながらジャングルジムを降りていく。
降りた直後に笑いは止み、依楓ねーさんは此方を見て綺麗に笑ってみせる。
「またね、明日も遊ぼぉ」
子供の約束のように言う。
公園を去るときも「明日は拓美と和とデイト♪」と歩を進め続ける。
何だかさっぱりだった。
僕は依楓ねーさんを見つめて小さく呟く。
「バイバイ、また明日」