複雑・ファジー小説

Re: あだるとちるどれん ( No.104 )
日時: 2011/04/27 17:20
名前: 右左 ◆B.t0ByGfHY (ID: 8hgpVngW)







「デイトォー!」

朝早くから大きな声で叫びつつ、依楓ねーさんはやってきた。
庭で猫にエサを与えていた僕は、そこからでも聞こえる依楓ねーさんの声をBGMに猫を見つめていた。
拓美さんは起こされた事と寝不足が相成ってハイパースペシャルイライラしている。
……わけわからん。

「おいおい、頼むぜぇ! わたしはこーんなに朝早くからこーんなにノリノリできたのによぉー」

依楓ねーさん、ハイテンションすぎてキャラ違う。
拓美さんもそれにつっこんでいた。

「てめーはカツアゲでもしてぇヤンキーかよ……」
「ノれよぉ、ノれねぇのか? 拓美ならきっとノれる!」
「うっせえ、うっせえ! ノれるかバカッ」

依楓ねーさんのノリノリ感に、拓美さんはますますイラついていく。
ついには依楓ねーさんの胸倉まで掴んで睨みつける。

「うっせぇんだよ、犯すぞ。 犯されてぇのか、あ?」
「はいはいー、分かった分かった」

依楓ねーさんは仕方ないと言った風に頬を膨らませる。

「依楓ねーさん、外雨なんだけど。 …………行くの?」

庭から上がり、タオルを握りしめながら僕は声が交差する部屋へと入っていった。
猫って餌のためなら雨でも来るんだね、マゾなのかな、と空を見上げて呟いていた事がまだ記憶に新しい。
依楓ねーさんはカーテンを開け、外を見る。 僕を見る。 外を見る。

「あれ、さっき降ってなかったよ?」
「今降り始めたんですよ?」
「え、え、それ、ホントなの」
「外見てください。 嘘だと、思いますか?」

依楓ねーさんは小さくため息をついた。

「依楓、和貸し出すから二人でどっか行って来い」
「んなっ」

あっちいけ、と拓美さんは手を振りながら布団の中に戻る。
依楓ねーさんはやったぁと声を上げて僕を引っ張っていく。

「借りてくぜ、拓美さんきゅう」
「な、な、なあああっ!」

大きい声を出しながら、僕は紐のようにズルズルと連れて行かれた。







***







——助けて、助けて拓美ィ……!


そんな声が、聞こえた気がした。





布団から顔を覗かせ、後ろを見たけれど。


そこには空虚感しか残っていなかった。