複雑・ファジー小説

Re: あだるとちるどれん ( No.121 )
日時: 2011/05/25 16:53
名前: 右左 ◆B.t0ByGfHY (ID: 8hgpVngW)
参照: お兄さんにだって悩みはあるよ? でもお兄さんは君を気に掛けるけどね







杖を貰い受け、倒れなくなったのはいいが。
小学二年生の男の子が、杖を突きながら廊下を歩くという行為はどうだろう。
また、だ。 また、傍を通る女性たちに笑われる。
本気で心配してくれてそうな人も少しいたが、やはり笑う人が多いようだ。 ……倒れるよりはマシだけど。

「つうかまじで屋上への階段て何処だっけ」

病院のロビーへ行き、院内の地図を見る。
拓美さんはまだ気付いてないのかなあ、と軽く笑いながら言う。

「……あ、」

右に感じた見知った気配の方に向く。
そこには髪をいい感じに脱色した中高学生くらいの男の人が立っていた。
ううん。 正確には学生ですらないんだけども。

「何してんの? 杖、持ってるし。 ムチャクチャ面白いね、最先端ファッションなの?」

次々と短く言葉を繰り出してくる。
彼は、柊真昼さんという。 最近僕に絡んでくる、僕の知り合いでは一番真面かもしれない人だ。

真面だからこそ、話が通じ合って嬉しい。
一応この人も何所か螺子は外れているけど、それでも僕よりはマシなんだろう。

「最先端なら、お爺さんお婆さんはいち早く順応しますね。 検診ですか?」
「うん、もう終わったんダケド。 和は何してんの?」

丁度いい、この人に屋上の場所を聞こう。
きっとこの人も僕に屋上の場所を教えるために生まれてきたっぽいからね!
……笑えない冗談、ご静聴ありがとう。

「屋上に行きたいんだけど、道分からなくて。 拓美さんは先々行っちゃうしね」
「連れてってあげよーか? 教えても、和また迷子になりそうだし」

大きなお世話だ、と思ったけどその通りだと自分でも思う。

屋上への道中、世間話に花を咲かせつつ暇なしに歩いていた。
拓美さんが煩いだとか、拓美さんがしつこいだとか、拓美さんが……とか。
当然拓美さんの話をしていると、依楓さんの話も出てくる。 恋人だからね。
犯罪スレスレだけどね?

「いっちゃん、今日は居ないんだね」
「田舎に帰ったそうです。 僕も巻き込まれて入院しました」
「あー、そーゆーこと。 びっくりしてたんだよね、別段運動しない君が入院するなんて可笑しいと思ってた」

失礼な、と苦笑いで返す。
いっちゃんというのは依楓さんのあだ名。 可愛いあだ名を思いつくもんだ。

「いっちゃんのお父さんが、暴力振ったんでしょ? 巻き込まれた小学生男児はやっぱり君だったか」

薄々は思ってたけど、やっぱりそうかとため息をつく。
拓美さんが屋上に移動する理由が事細かに分かった気がする。

というか、僕の性格上小学生男児っぽくないけど。
とても二年生には思えないと言われなかったことはない。
100人切りなんてゆうに達成してる!(意味が違う)

「この階段を上に上るとつくよ。 いってらっしゃい」
「ありがとうございます」
「いっちゃんの事、何か分かったらお兄さんにも教えてね。 伝えられたら、お兄さんはずっと味方だよって言っといて」

にこやかに笑う。
この人の一人称はお兄さんだったんだなあと、初めて認識した。

「さよなら」
「うん、ばいばい」

柊真昼とは、この時以来会っていない。


——彼と会ったのは、今日、この時でおしまいだ。