複雑・ファジー小説
- Re: あだるとちるどれん ( No.135 )
- 日時: 2011/06/14 23:02
- 名前: 右左 ◆B.t0ByGfHY (ID: 8hgpVngW)
- 参照: 精神不安定、取り敢えず色々吐き出したい
「和くん、大きくなったね」
18歳になった、依楓さんは僕に向かって言う。
拓美さんはイラつきながら依楓さんに聞こえないように小さく舌打ちをしたが、相も変わらず俯いたままだ。
依楓さんは懐かしさからか僕に抱き着いてきた。
「はあ……依楓さんは、なんというか……」
昔よりさらに伸びた、美しい淡紅色の髪が僕の頬をくすぐる。
少しだけ縮まった身長の差は、月日の経過を懸命に表している。
更に、やけに性格が大人っぽくなっているような。
「六年生かあ。 カノジョとか出来た?」
「出来る訳、ないだろ。 抱き着いてくる女子はいるけど」
自分で言っておきながら、そういえばいたなあと思い起こしてみる。
確か、
「ユズキちゃん、っていう子」
「へえ、ユズキさんか……。 キレーな名前だねっ」
「でもハブられてるよ。 僕は危害も加えずに、じっと見てるだけだったのに、たまに巻き込まれるんだよ。 抱き着いてくるからね、いいメーワク」
ため息をついて、少しだけ目を伏せる。
同時に、依楓さんの手が僕の頭に伸びてきて優しく撫でる。
少しだけ体をこわばらせていると、拓美さんが依楓さんの手を僕の頭から退けた。
「もう、いいだろ」
むう、と依楓さんは小さく零す。
「拓美さァ、別にわたしに構わなくて、いーよ」
「依楓さん? あの、……あ、れ?」
前言撤回。
やっぱり彼女は大人っぽくなんてなってないです。
むしろ、
「猫さんだもん、わたし。 君との〝昔〟は、もう必要ない」
猫さんになってる。
それで、僕の行方は心配されてないんですか?
ちらりと拓美さんが僕を見る。 僕は、何でこんなことになっているんでしょうか。
「わたしには、和がいるも」「あぎゃぎゃぎゃぎゃ、ああああいぎぎうげがああああっ! 痛いっ! 痛いよ、うあ……っ! あああああああああっ」
依楓さんの言葉を遮り、思い切り叫ぶ。
自分の叫びすらも傷を抉る要因となり、どうにかする術を失う。
包丁が腕に刺さっただけだ。 それを、ぐりぐりと押し付けられている〝だけ〟だ。
なのに、なのに、なんで、
なんでかどーして、死にたいような気持ちになる。
逢って数分だぞ? 刺すか? 普通刺すかあぎぎぎっ。
依楓さんは迷いなく、勢いよく、刺した包丁を抜き取った。
「※▽□●#%×⊥……っ!」
叫びたい。 腹の底から、この穢れを吐き出したい。
なのに、声が出なくて、依楓さんが笑っていて、拓美さんが喚きながら依楓さんから包丁を取り上げて。
もういいよ、もう十分だよ。
生きなくてもいいから、死んでもいいから。
早く助けてくれ、兄貴みたいにムゴく死にたくないんだよ。
嗚呼、それだと矛盾してるな、……もう何だっていいよもう好きにしろよ。
——……もういいから。 俺を乗っ取るでもなんでもしてくれ、兄貴。