複雑・ファジー小説
- Re: あだるとちるどれん *\参照100突破/* ( No.16 )
- 日時: 2011/03/04 22:00
- 名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)
「ばかだろ、ばかなんだろお前」
帰るなり“保護者さん”こと篠崎 拓美さんに怒られてしまった。
怒られる、というより呆れられるの方が正しい表現かもしれないけど。
僕は拓美さんの部屋のベッドの上に横になっている。
上を見ると少しだけボロっちい木製の天井。 左を向くと白い壁。 右を向くと拓美さん。
「ばかなんです、どうせ」
どうしてもこの説教モードの空気から逃れたくて左腕で身体を支えて起き上がろうとする。
しかし、腕の激痛に耐え切れなくて、またベッドにボフンと舞い戻ってしまった。
拓美さんはベッドの横の椅子から立ち上がり、仰向けになっている僕の上に乗る。
拓美さんの両手は僕の両肩にある。
そのまま、顔が近づいてくる。
「ちょ、ちょっとちょっと! 僕にそんな趣味ありませんから! もう逃げないから離して!」
「よーし、言ったな?? 逃げんなよ」
そう言って拓美さんは僕から離れて椅子に座る。
それから、少しだけ考え込むように手を顎に添えて、眉間に皺を寄せる拓美さん。
そして椅子から立ち上がった拓美さんを見て、また僕の上に来るのかと思い、警戒して身を固める。
人間は学習する生き物なのです。
だが僕の予想は案外簡単に崩され、拓美さんは部屋に端にある棚の引き出しから手帳を取り出す。
手帳、というよか手帳サイズのノートのようだ。
「……自称不幸少年」
「ん……、え??」
拓美さんが独り言のようにぼそっと呟いた。
僕は耳が凄くいいのでどんなに小さな声でも聞こえてしまう。
そう、地獄耳と言う奴だ。
「この手帳、依楓の、日記みたいなもんなんだけど」
カヤノ イフ
茅野 依楓。
拓美さんの恋人だった人だ。 今はもうすでに亡くなっているけれど。
とても綺麗な淡紅色の髪をしていて、寝顔が印象的な人だ。
というか、ほぼ一日中寝ている人だったのでそれしか印象に残るものがないのだ。
それに、凄い子供っぽかった。
「お前は知らねえよな。 この不幸少年とか言う奴」
「つーか、知る心算なんですか」
拓美さんはやる気無さそうに“おー”と答えた。
「依楓の死因、精神崩壊っつーのが納得いかねえんだよ……」
そう。
依楓さんは精神が壊れて、壊れて、何度も何度も崩壊を繰り返して。
更には最愛の人にも裏切られたらしくて。
最期に笑って、依楓さんは自分の華奢な身体を何度も刺して死んでいった。
あれ、話ずれたな。
この話をするのも依楓さんに申し訳ないので、一旦切るよ。
「そこら辺歩いてたら見つかると思います、その人なら」
「あ゛?? オイ、何で知ってんだ??」
僕はあからさまにしまったという顔をした。
わざと、だけど。
その人とは中学生の頃、下校中によく会っていた。
というか、待ち伏せされてる感じだった。
毎回変なタイミングで出会うんだ。
「知り合いと言うか、絡まれたと言うか」
「お前なあ……そーゆーのは、俺に一言くらい話せ。 ソイツ殴るから」
……、
…………、
まあ、何と過保護なんでしょう拓美さん。
「え、」
「何だよ、なんかおかしいか??」
いやいやいや。
本気だったよこの人。 なんか失礼な事したな。
「いえ、過保護だなって」
苦笑いで拓美さんを見る。
拓美さんは真っ白になっていた。
呆れからなのか、悲しさからなのか、なんで真っ白になってるか知らないけど。
「まあ、いい。 んで、どこ行きゃソイツ殴れる」
殴る前提なんだ!
殴る気満々だったよ拓美さん。 本来の目的忘れてるよ、依楓さんどうなったんだ。
「僕をストーカーすれば会えると思います」
「よっしゃ、分かった」
……あれ。
ここツッコむところじゃないの。 なんか僕間違えた??
人生の分岐点間違えた気がするんだけど僕。
「24時間お前に張り付いといてやるから。 じゃー、風呂はいるか一緒に」
凄くニヤニヤしながらこっちを見てくる。
完全にからかわれてるよな僕。
絶対言い方間違えてるよな僕。
一緒に風呂はいるかとか聞こえたんだけど耳垢ありすぎなのか僕!
「嘘です、まじでほんとに嘘です! お願いだから独りで入らせて!」
その後。
結局(拓美さんが無理矢理入ってきたので)仲良くお風呂に入りました。
それも、僕は泣きながら入ったし。
拓美さんには、軽くセクハラされたといっておこう。