複雑・ファジー小説
- Re: あだるとちるどれん *\参照100突破/* ( No.20 )
- 日時: 2011/03/06 15:17
- 名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)
昨日、あんな事を言っておきながら僕は拓美さんのストーカーを丁重にお断りしておいた。
僕は“<<自称不幸少年>>と出会ったら拓美さんに伝える事”を約束とし、柚鬼とブラブラお散歩していた。
僕は<<自称不幸少年>>の事を知っているが、所詮は中学生時代(それも一年生だった時だけ)。
今はどんなになっているかとんと検討がつかなかったので言わない事にしておいた。
多分、拓美さんより重度の変態になっている事だけは正解しているだろうけど。
それでも、僕ではない他の人へ興味が移っているかもしれない。
……考えすぎて頭痛くなってきた。
元々そんなに良い方ではない頭だから、考えすぎるのも程ほどにしないとな。
疲れを紛れさせるために、ふと隣を見た。
隣では、柚鬼が僕と手を繋いでへらへらと笑っている。
そんなに楽しいのかねぇ、僕と並んで歩くのは。
少しだけくすぐったい気持ちになった。
柚鬼が僕の視線に気付いたのか、此方を向いた。
「どうした?? さては照れてるのか、アタシと手ぇ繋いでるから!」
柚鬼はふひひ、と奇妙な笑い声を出してまた前を向いた。
僕は柚鬼の言葉に「そうかも」と返事をし、顔を前へ戻した。
そこには例の、<<自称不幸少年>>が歩いてきていた。
黒いパーカーで身を包み、フードを被って顔が見えない仕様になっている。
ズボンは、普通にジャージだった。
少年は僕達に気付いたのか、小走りになり寄ってきた。
「久しぶりだな、元気だったか和」
少年はフードを取り、首を振る。
出てきたのは鮮やかに染まった緋色の髪。 ぷっくりとした女性のような桃色の唇。
長い睫に深緑のカラコンが入った瞳。 頬にちらつく天使の羽根の刺青。
僕の周りの奴らは、男女関係なく綺麗な奴が多いな全く。
オキタ
沖田 ハマヤ。
多分僕の一つ上か二つ上くらいの年齢の少年(と呼んでいいのか)。
僕が中学一年生の時ストーカーされていた、怪しい奴。
「お前誰?? ——あー……和の、カノジョサン??」
首に手を掛け、余所余所しそうに柚鬼に話しかける。
一方の柚鬼はそんなハマヤさんの問いかけに応じる様子もなく、逆に睨んでいた。
「ウン、雰囲気で伝わったわ。 それにしてもマジ不幸」
やはり、不幸が口癖のようだ。
多分間違いないだろう。
「突然で悪いんだけどさハマヤさん。 あの、茅野 依楓さんって知ってます??」
ハマヤさんはそこでその名前が出てくるとは思ってなかったのか、目を丸くする。
それから僕の横を通り過ぎようとする。 聞かれたくなかった事なのだろうか。
それでも、赤の他人が依楓さんを知っている事からおかしい。 隠したがるなら、尚更だ。
「知ってるんですね」
これは言葉を発してもらう為の、言わば起爆剤に過ぎない。
これで、ハマヤさんは大体「不幸不幸」とか言って何ら反応してくれるのだ。
だてに一年間ストーカーされてないぞ、こっちは。
「あー、もうマジ不幸! 何なんだお前ら!」
案の定、キレて下さった。
反応してくれるとは言ったけど、まさかキレるとは。
しかも、後ろから僕の膝を蹴ってきた。
世間で言う「膝カックン」の、サッカーのエースストライカーがボールを蹴るくらいの強さ……。
うん、表すのは無謀と見た。
それにしても、大変な事をしてくれたなハマヤさんは。
僕を苛めたら柚鬼が黙ってるわけないのに。
その言葉どおりに、柚鬼はハマヤさんに近寄っていく。
あれ、僕に近寄って「大丈夫」とか言ってくれないんだ。
それは、流石に予想外だぞコラ。
「ねえ、シズカに何してんの! シズカ苛めていいの、アタシだけなんだよ! アンタ誰!」
「そっち?!」
思わず声が出てしまった。
てっきり僕を助けてくれるのかと思ったのに!
まさかの「アタシの怒りのやり場」宣言きましたか。
もう本当に僕の周りの人の頭はどうなってるんだよコンチクショーめが。
「依楓、ね。 何?? お前とどーゆー関係??」
ハマヤさんは柚鬼を無視して、僕を見下した目で見てきた。
やっぱり知ってるみたいだ。
……それにしても、名前呼びかよ。
「僕の、ほぼ親代わり。 今の“保護者”の恋人だったんですよ」
ハマヤさんはそれを聞いても反応を示したりしない。
でも、小さな声で呟いた。
「アイツ恋人いたんかよ……」
僕にも、聞き取れなかった。
でも顔は歪み、真剣に考える顔になった。
そして、僕の一番聞きたくなかったかもしれない言葉が、ハマヤさんから返ってきた。
「 」
……は。
嘘、でしょ。