複雑・ファジー小説
- Re: あだるとちるどれん ( No.41 )
- 日時: 2011/03/21 11:03
- 名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)
体重をかけられているのか、甘味は少しだけ嘔吐する。
ハマヤさんがそれを見て、何を思っているのか分からない。
理解、できない。
僕は何をすればいいのか。
誰かを呼べばいいのか。
ハマヤさんの目的が、真意が、読めない——!
「止めてください、ハマヤさん」僕はなだめる。
「止めてくださいって……。 自分の娘でしょ??」僕は疑問を思い浮かべる。
「止めてくださいよッ!!」僕は、叫ぶ。
そして僕の右目から涙がこぼれた。 右目だけ、から。
ハマヤさんに足を蹴って、甘味から引き剥がす。
「何すんだよ。 和ァ、お前の保護者の恋人が傷つけられる様は見たくないってか?? 偽善者ぶんなって」
僕の、保護者の、恋人??
身長があんなにも違うのに、あんなにも依楓さんより無邪気なのに。
依楓さんに、見えるのか??
だから、ハマヤさんはあんなに喜んでいるのか?? 笑っているのか??
それなのに、依楓さんに見えているなのに、酷い事をしているのか??
依楓さんが壊れた原因は、ハマヤさんなのか?!
ハマヤさんの後ろにあるリビングの扉越しに見える真ん中だけ紅くなった扉が、目に付く。
あれ、甘味を虐待した痕跡かな、と思った。
「大丈夫だって。 お前もね、殺すから。 いい啼き声、聞かせてな??」
ニヤリと、口角を上げる。
僕は、ハマヤさんが甘味から足を離している隙に、甘味を取り上げようとした。
僕の下に甘味がいる、その上から物凄い力が降ってきた。
ハマヤさんの足が、僕という物体をはさんで甘味に押し寄せている。
冗談じゃなく、怖い。
「ふ、ぎ……ぃ……っ」
「……ちょっとさあ、何してる訳?? アタシだけだっつったでしょ、シズカをそーしていいの」
柚鬼の声が、後ろから聞こえる。
ん?? 後ろって窓じゃなかったっけ。
「アタシ来てるの気付かなかったんだな?? どんだけムチューなのって話だ」
ふひひと笑った。
僕は、ハマヤさんの足に下敷きになっている為、見れない。
だが、分かる事がある。
さっきから視界の隅をチラつく銀色の光、あれは多分、柚鬼の性格を考慮して考えても、刃物だ。
「柚鬼、だめだよ。 人を殺したら、だめ、だよ……ッ。 ぐ、ぎゃ」
押し潰されるのは案外きつい。
それも、ハマヤさんに体重かけられているから尚更。
僕が、甘味を押しつぶしてしまわないように少しだけ身体を浮かせているから、尚更だ。
「だいじょぶ! アタシね、もー人殺さないってシズカに誓ったからー!」
誓われた覚えは無いけど、それならいいやと安堵の溜息をつく。
あれ、「“もう”人殺さない」?? おかしくね、あれ??
「それにさ、こーんなに汚い汚れきった人間の血なんて、浴びたくないし」
そっちかよ、と心の中で突っ込む。
「あ、忘れてた! シズカに、タクミって人から伝言! “甘味と柚鬼って奴と、一緒に無事に帰って来い”だってー!」
……。
知ってるんじゃん、何もかも。
甘味という依楓さんの子供が存在する事も、それを知ってるならハマヤさんの事も、知ってるんだろう。
そのために、“そういう行為”をした事も。
——依楓さんが“愛した”と胸を張って言える人にしか言葉を交わさない事も。
「別にいんだよ。 俺は」
ハマヤさんが、言う。
「いんだよ。 人を大量に殺したりして、警察行って、死刑になったとしても。 俺が、死んでも」
例えにしては残酷すぎるけど。
「依楓がな、どんなに俺を蔑んでも。 甘味が存在しない方がいいと、俺は思うんだよ」
「てゆーか、どーでもいいからシズカから足離して」
ハマヤさんが話を遮られて、眉根を寄せる。
渋々だが、足を離してくれた。
僕は甘味を抱き締め、ズキズキと背中に伝わる痛みに耐えながら柚鬼がいる場所に行く。
案の定、柚鬼が甘味ごと抱き締めてくれた。
「依楓と何があったかは知らねぇよ。 とりあえずさ、お前ら三人こっから出ろ」
ハマヤさんの奥に、リビングの扉の向こうに、拓美さんがいた。
どーいうこっちゃ。 柚鬼が来るし、拓美さんが来るし。
みーんなタイミングよすぎ。
ハマヤさんは時化たような顔をして、リビングの扉を開けられないようにグッと押さえつける。
拓美さんは怒って、扉をバンバン叩く。
「てめっ、開けやがれ!」
「開けるばかがいると思うのか、ばか」
折角のシリアスムードが台無しだよ。
そう思った時、扉を押さえたままハマヤさんは両手を上に上げた。 “降参”、という事だろうか。
つーか拓美さん力無さすぎでしょ。
「もう参ったよ。 煮るなり焼くなりなんなりしろ」
ハマヤさんは、扉からサッと離れる。
その反動で、ずっと反対から押していた拓美さんは前に倒れる。
「だっさ!」
「うるせぇ! てめーもちったあ協力しやがれ和!」
僕達がギャーギャーと叫んでる間、甘味が僕の腕からスルリと抜けた。
「おとーさんのばっかーっ!」
そう叫んでハマヤさんの頬に平手打ちをする。
「おとーさん、ずっと、わたしとおかーさん?? といっしょにくらせたらいいのにって!
もっとしあわせになりたいって、ふこーはいやだって!
……おかーさんが、「きらい」なものを、かんみを、きえさせるんでしょう……?!」
……え??