複雑・ファジー小説

Re: あだるとちるどれん ( No.60 )
日時: 2011/03/25 11:23
名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)





「いい、天気だね」
「そうだね! アタシの心もいいお天気、ハレバレ! 和といるからねー!」

ベランダで日向ぼっこ。
僕が左に座って、柚鬼は右に座っている。 手は、勿論繋いでいる。
柚鬼が僕の安眠を邪魔しにきたので早朝からお話に付き合わなきゃならない。
柚鬼の足は裸足で、少し泥がついている。 そのまま上がられたので、家の床は柚鬼の足跡だらけ。

勢いよくハマヤさんのところから去ったけど、何しよう。
具体的には決めてない。
とりあえず、真昼さん探しは休憩に入る。

「和はさー、サツジンキどう思う??」
「はあ??」

想定外の話題にびっくりする。
柚鬼の頬が膨れる。

「アタシがサツジンキと居てピーンチッだったのに気付いてくれなかったんだ、ひっどい! オーマイガー!」

頬に両手を当てて、ムンクの叫びのように口を細く縦に開ける。
ついでに、繋いでない方の手で僕の肩をバシバシと叩いてくる。

「居たんだ?? 一緒に」
「ううん、見てただけだよ。 何かねー、袋に人を押し込んでた」

口を尖らせながら言う。
この子、平気で僕の事刺したりするくせに“もう人は殺さない”だからな。
そんな人を見ても、何も思わないのかな。

「ニポン、平和だよねー」

ニホンかニッポンだろ。 ニポンってオイ。
僕は柚鬼の脳内が一番平和だと思うよ。

「知ってた?? ニポンが平和なのは、“シ”が周りに沢山あるからなんだって」

“シ”の変換は、知らないけど。

「四季の“4”とか。 あと、方角も“4”じゃん??」

方角は日本に限らず4方位だし、探せば大量にあるし。

「あと、おめでた〜い桜の季節、にゅーがくしきも“4”月!」

そう考えれば、そうだな。
桜の下には死体が埋まってるとか言うけど、おめでたい時期なんだからそんな噂流さなきゃいいのにな。
何時の間にかの桜の話題。

「だからさ、ニポンには“死”が他よりも少ない?? “シ”は多いよ!」

確実性ないな、絶対。
柚鬼は立ち上がり、手足を伸ばして僕の方を振り返る。

「行くよー、和! ビューチィープリチー柚鬼ちゃんは見た! サツジンキ篇ー!」
「ノリノリだね」
「ノリにのりまくるー!」

クルクルと回りながら、僕が開けた大きな窓からリビングへ入っていく柚鬼。
その後を綺麗な乾いた雑巾を持ってゆっくり追いかける僕。
勿論、泥を拭くためだ。

「明日はお天気晴れがいいね!」
「今日も晴れだよ」

そう返すと、柚鬼が足を止め、此方を振り返ってくる。

「何言ってんの。 “今日曇りだね”って言ってたじゃん和」

……また、コレだ。
言ってもない事が言った事になってたり。
柚鬼との意見の、意識のすれ違いが多すぎる。


——僕の他に柚鬼とまともに話せる奴がいるんだろうか。


自意識過剰、ってハマヤさんとかに笑われそう。
まあ。

基本オカシイ奴なら話せるか。

「和、もうろーかしてきた?? でも大丈夫! 和がお爺ちゃんになってもアタシが支えてあげるからねっ」

僕は介護が必要なお爺ちゃんじゃないぞ。
つーか絶対老化しないと心に決めておこう。

柚鬼の介護は、怖すぎて安心できない。

「ありがと。 気持ちだけ受け取っとく」

気持ちだけ。

「あ」

柚鬼が思い出したように言う。
口を開けて、「ふひひひっ」と笑い出す。
止まらない、笑いが。

そのうちピタリと止み、僕に視線を移す。

「アタシ、そろそろ帰んなきゃいけない。 またね、和」

バタバタと駆け出し、足についている泥が跳ねる。
迷惑、全くの。

「何だったんだろ」

気にせず寝る事にした。
柚鬼がオカシイのは、元からだし。