複雑・ファジー小説

Re: あだるとちるどれん ( No.69 )
日時: 2011/03/28 11:44
名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)





          第五話
       〝両手に抱える錘〟


『あれ、ハマヤじゃん。 久しぶりだね』
『おー、真夜センパイ。 あれ、チェーン、ないケド』
『にゃははー、旦那に逃げられちゃったー』
『旦那じゃねーだろー。 あと、痩せた??』
『劇的にね。 全然食べてないしぃ』
『食べてないの?? じゃあ、俺とどっか食べに行く??』
『真昼居ないと食欲ないし。 つか、わたしを誘うなんて一億年早いっちゅーの』



——真昼が居ないなら、わたしは何もしない。
   彼女の両手の中に、真昼だけが入らなかったから。



Re: あだるとちるどれん ( No.70 )
日時: 2011/03/28 12:59
名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)





柚鬼は日本が、僕達のいるトコが平和だといっていたけど。
実際は僕達の見えないところで“死”が行われていたりする。
柚鬼がいる時は極力テレビを見ない事にしている。
見るとしても、子供番組くらいだ。 そう、さんちゃんねる。
テレビのニュースで“死”に関連づくものを見せない為だ。
数日前言っていた一言以来、見せないように気を使っているのだ。


——人殺す人、アタシがサツジンする。 前ね、こーゆー人、サツジンしたの。


意味が分からなかった。
でも、“サツジンしたの”という事は、柚鬼が人を殺した事になる。
僕は、呆れて言葉も返せなかった。

「なーんか、引っかかるなあ」

時計が昼の12時を指していることを確認する。 柚鬼が帰ってからもう6時間かと思いつつ欠伸をする。
布団から這い出て、傍にあった眼鏡をかける。
こう見えて、眼鏡をかけているのだ。
ずっとかけてなきゃいけない程ではないのだが、やはり見えにくい。
そして、玄関に出て新聞を取り、すばやくリビングのソファに座り、バサッと新聞を広げる。
一番に目に入った見出しが、僕の脳に届くまで約三秒。
届いたのに、思考が働こうとしない。
最近糖分取ってなかったとか、そんなんじゃなくて。

「まじかよ」

短く声を漏らす。
死にたくなるよなこーゆー記事見るとさ。

真昼さんを探すのをサボらずにちゃんと探せばよかったと反省する。
反省しても、この人は戻らないだろうけどさ。

「殺人事件勃発ー。 柚鬼が見たのは本当だったんだねぇ、怖いこわ、、、」

犠牲者の名前を見て、目を見張る。
嘘だ嘘だと、心の中で思う。
僕はこんな事になってほしかったんじゃないのに。

柚鬼に昨日、黙読させた紙に書いてた事を遂行させたのに結果がこれなのか。
足掻いた結果がこれか。
僕が昨日、彼を探さなかった結果がこれなのか。

「は、コレ、まじで言ってるわけ」

誰もが予想できるのは知ってる。
犯人がこの人だって事はもう、心の準備も出来ていたし、驚きはしない。
でも、何で犠牲者にこの人が入ってるんだよ。
この人が何か悪い事でもしたのか。

何ですぐにこの街から離れていかなかったんだ。
病院に行って、愛する子を見に行ったりでもしたのか。

僕はその場で嘔吐した。
カーペットが僕の吐瀉物で汚れていく。
視界が揺らぎ、歪み、世界が壊れていく。

「なンで……っ」

僕は、汚れて濡れたカーペットに手をつく。
涙も混ざる。 聞こえなくなる。
何も無い暗闇に、独り残された気分になる。


僕は、叫んだ。










——犠牲者の一人、沖田ハマヤ。