複雑・ファジー小説
- Re: あだるとちるどれん ( No.73 )
- 日時: 2011/03/30 09:54
- 名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)
その日、一頻泣き叫んだ後、拓美さんに連絡した。
ハマヤさんが死んだ事と、暫く家は留守にさせて貰う事を。
当然家が空っぽになるから拓美さんは了承してくれなかった。
ただ、その後に一つだけ。
——そんなに、アイツが死んだ事が堪えたのか。
その言葉を聞いて、うしろめたくなった。
だから電話を切った。
ハマヤさんが死んだ事が堪えたと、自分で分かり切った事なんだ。
これ以上何かを言うと、拓美さんにバレそうで。
……いや、きっともうバレている。
「柚鬼、何してるかなあ」
僕は柚鬼が住む家へと足を踏み入れた。
合鍵を貰っていたので無断で入れる。
ドアを開けた瞬間足元に何かが滑り込んできた。
柚鬼だった。
「和! おかえりなさい!」
……気分はもう新婚ってか。
いつの間に僕はこの家の住人になってしまったんだろう。
柚鬼ワールドの住人ではあるかもしれないけどこの家の住人になった覚えはありませんぞ。
「何で滑ってくるの。 どこか擦ったりしてない??」
「だーいーじょーぶー! 和が心配してくれるから直った!」
ぺけーと笑って僕に抱きついてくる。
今頃になって僕は何を柚鬼と新婚ごっこをしているのだろうと思い改める。
真昼さん探しにきたのに。
でも、拓美さんに見つかる可能性大である家はもう空にしてきたし。
……あれ、でもその事を拓美さんに言ったら意味なくね??
おいおいおいおい、やらかしちゃったぜコンニャロー。
僕が頭を抱えて溜息を吐いているとお嫁さんの柚鬼が心配してくれた。
「和、悩み事ー?? 柚鬼に言ってくれたら何でも解決してあげるよ! でも柚鬼以外の事で悩んでたら潰すけどー」
「……怖いッス」
なら僕は潰されるなともう一度溜息。
「柚鬼ってさ、サツジンキさんを何処で見かけた??」
「ショーテンガイの路地裏ー! ゴミ捨て場みたいなトコー!!」
柚鬼さん、それはゴミ捨て場じゃなく不法投棄というんですよ。
路地裏にゴミ捨て場ってどんだけゴミ捨てんのめんどくさいんだよ。
「ん、ありがと」
それを言及しない僕。 やっさすぃー。
「じゃあちょっと出かけてくるよ」
「いってらっしゃいませごじゅしんさまー!」
……言えてないし。
柚鬼パワーも補給したので、行くとしますか。
パーカーについているフードを深く被り、持ってきた眼鏡をかける。
柚鬼の家のドアを閉め、商店街の方へ歩き出す。
この街で殺人が起きた事により、道路に人も、車も見かけない。
唯一見かけた女性は、見た事のある顔立ち。
「真夜、何してんの??」
「……芦原クン??」
- Re: あだるとちるどれん ( No.74 )
- 日時: 2011/03/30 10:17
- 名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)
「あはははっ」
僕が声をかけた瞬間笑い出す。
僕が吃驚していると、僕の鼻先に真夜の指が伸びてきた。
「なーんで眼鏡なんかかけてんのー??」
そこかよ、と心中で呟く。
「真夜こそ、何でこんなトコ歩いてんの。 危ないじゃん」
「……お互い様じゃないのよー……」
さっきまでの笑顔が曇る。
“真昼さんを探しているんですね”と言おうとした矢先、真夜に遮られる。
「ハマヤ、死んじゃったね……」
心臓の鼓動が速まる。
焦って、冷や汗が首筋を伝う。
「真昼が、犯人なんだろうね」
やっぱり、双子は分かるんだなと思った。
というか二人離れた時点で何か起こる事は想像して欲しかった。
「あはっ、何で事前に止めなかったのかって顔しないで」
この人、何もかも分かってるじゃん。
沢山物事を経験してたらこんな風になっていくのかな。
あれ、そういえば今日長袖——??
いつも、年がら年中半袖のクセして長袖を着ている。
「何で長袖なの」
「え、あ、いや、これ、その、ねぇ??」
あたふたしてる様はいつもの真夜だ。
「ま、別に構いませんけど……」
「う、うん、そうそう。 構わないで」
真夜は手を胸の前で振る。
少しばかり下を向いて、それから僕の方を向く。
「真昼を探すつもりなら、止めてっ」
泣きそうな瞳で此方を見る。
顔を両手で覆い、泣く。 僕に訴えながら、泣く。
「わたしが……っわたしがハマヤに真昼を探してって頼んだの! だからハマヤ、殺されちゃったっ!」
真夜は続ける。
しゃがみ込みながら、話し続ける。
「わたしの所為なのっ! わたしが、真昼にしつこいから……! 真昼と喧嘩しただけなの! 芦原クンを巻き込みたくないっ」
立ち上がり、僕の細い身体に抱きつきながら、僕のパーカーを涙で濡らす。
引き剥がそうとしたけど、震えている肩を見て、やめた。
「真夜」
僕が呼ぶと、ゆっくりと顔を上げこちらを見る。
「僕は真夜に何と言われようと行くから。 ハマヤさんが死んだ以上、僕にとってもう他人事じゃなくなったと思って」
そう言って、真夜を僕の体から離す。
「僕はハマヤさんが別段好きなわけでもないし、逆に嫌いでもない。 それだけなんだよ」
「なら、余計に探しちゃ……っ」
「でもね、僕はハマヤさんの娘を、甘味を、引き取ったから。 家族のようなものだから。 だから、探しに行くんだ」
真夜は歯をカチカチと鳴らしながら言う。
「フ、ザけないで……っ。 これはわたし達の問題なの! 入ってこないでええええっ!!」
さっきとは違う、怒りの入り混じった声で叫ぶ。
「フザけてなんか毛頭ない。 もう、帰ってよ真夜。 君は疲れてるんだよ」
真夜は大きな声で泣く、叫ぶ。
僕は真夜が立てるまで待ち、見送る。
無事に家に帰れたかとか、そんな心配をしながら僕はなおも商店街に向けて歩を進める。
「真昼さんは、僕の日常に足を踏み入れすぎたよ」