複雑・ファジー小説

Re: あだるとちるどれん ( No.96 )
日時: 2011/04/05 14:53
名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)




          第七話
       〝忘れられた事件〟


『キミとわたしは同じ。 そうでしょ』
『分からないです、ユーカイされたのは誰なんですか』
『キミだよ。 そんで、わたしも被害者みたいなー』
『僕ユーカイされてないよ』
『……そっかぁ、キミ可愛いねぇ』
『貴女は僕の事知ってる??』
『とっても可愛い事だけは知ってるよ。 わたしの糞親父もね』
『僕、ここから逃げれるのかな』
『糞親父がキミとわたしに飽きたら逃げれるんじゃなぁい??』



——キミとわたしは同じだねって、何度言っただろう。
   拓美もわたしとキミを養ってくれたし。 忘れられた事件の被害者同士、仲良くしよぉ




Re: あだるとちるどれん ( No.97 )
日時: 2011/04/07 15:30
名前: 右左 (ID: 8hgpVngW)








時は僕と依楓さんが初めて出会った、9年前に遡る。
僕が7歳の時だ。


***

「ねぇねぇ、キミ今人生エンジョイしてるー??」

僕は拓美さんの家に住んでいた。
何でも僕のお母さんの弟らしく、身寄りの無い僕を引き取ってやったんだといつも僕に感謝をせがんできた。
滅多に笑う事の無い、人間味が薄い餓鬼だったと拓美さんに言われていた。

縁側に座って、麦茶を喉に流し込んでいた。
拓美さんを訪ねた少女が突然僕の顔を覗き込んできて、麦茶を少し零す。

「ありゃりゃ、零れちった?? 拓美タオル投ーげーてー」

拓美さんと5歳も年が違うのに随分と馴れ馴れしいんだなと呆れた。
拓美さんも文句を垂れているが満更ではない感じだ。
幼子の僕にだって、それくらいは分かる。

「キミ、何年生??」
「小学二年生、です」
「ふうん。 最近の小学生ってこんなに小さいものなんだね」

くふふ、と小動物のように笑う彼女の柔らかい笑顔は僕の眼から見ても綺麗だった。
まるで作り物のような綺麗な顔だなと。

「おねえさん、だれ」
「わたし?? 拓美の恋人でぇ、中学二年生だよ。 二年生同士だね」

僕の顔をすっぽりと体に埋め、抱き心地を確かめている。
頬にちらつく淡紅色の細い髪の毛がくすぐったくて彼女の身体を押しやった。
細い人差し指が、僕の頬を突く。

「えへへ、わたしを押し退けた罰なのだぁ」

やっと投げてこられたタオルが僕の顔を覆い隠す。
顔に乗ったタオルを除けて拓美さんのほうを見ると、第二のタオルが飛んできた。
一枚で良かったのに、と心中で思う。
やっとまともに見れた拓美さんの顔はムカつくほど見下した顔で、「ざまぁみろ」と言ってきた。

「人の女盗ろうとすっからだよ、マセガキ」

鼻で笑ってきた。

「拓美大人げなぁい」

にっこりと笑みを浮かべ、笑う。
そしてスイカを三切れ皿に乗せて僕と少女の間に強引に入り込んできた。

「拓美、ほんとに子供っぽい」

くしゃくしゃと頭を撫でられ、照れてなのか少女の手を払いのける。
少しだけ赤くなっている拓美さんの顔を見て、思わず飲んでいた麦茶を噴出してしまった。
ゲホゲホと咳き込む。

「んだよ」
「拓美さん、その歳の割りにオクテなの??」
「そだよぉ拓美は奥手なの」

語尾に“(笑)”でも付くかのようにからかう。
僕は横に落ちたタオルを拾い、口の周りを拭く。

「わたしね、茅野依楓って言うの。 依楓ねーさんと呼びなさいっ」
「僕、芦原和って言う。 えと、よろしくね依楓ねーさん」

拓美さんは僕達が仲良くしているのが余程気に入らないのか不貞腐れている。
胡坐をかいたその上に肘を乗せて、明らかに気に入らないのを前面に押し出している。
依楓ねーさんはソレを見て笑っている。



拓美さんが依楓ねーさんに近づけさせたくない理由を、僕は知る由も無かった。