複雑・ファジー小説

Re: 黒白円舞曲〜第1章〜 9曲目執筆中 ( No.101 )
日時: 2011/12/19 20:50
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)
参照: 最近、地球の酸素では足りない気がしてきた…

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜黒白円舞曲〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

                        ————気術————  

  気術とは、魔法力とは違う気と言う力を媒介として発動される稀有なる力である。
  それは、声紋や諮問の様に夫々、違い一つとして同一のものは無い。 
  能力も、千差万別で歴史上、一つとして全く同じ能力は無い。
  似た能力は有っても、似ているというだけで発動条件や限定条件などの細部が違ったり、根底の部分が違うのだ。 
  顕現者の数が圧倒的に少ない事を加味しても摩訶不思議な事と言える。 
  少ないとは言っても、この長い歴史の中で、数億の者達が気術の顕現に成功しているのだから。
  
  気は、五大世界に存在する知的生命体達の全員の中に流れている。
  しかし、力を発動させるには、気の流れを読み取りその流れに逆らい力に転換させる技術が必要となってくる。
  それは、身体能力の強化に直接、繋がって行くので同調率や力をどれだけ引き出せているかは、自ずと理解できる。
  しかし、自分の中に流れている気を修練を重ね、限界まで研ぎ澄ますことが出来るのは極稀である。
  努力だけではなく、才能も関わってくる。 最終段階まで、修行により気の力を引き出せる者は、相応の努力をしているのだ。
  故に、賛美されそれだけで信頼を得る事が出来る。

  しかし、そんな中にも努力や才能なしに、気術を顕現できる者が居る。
  最高の血統書を持ち生まれた瞬間から、完全に気を制御できる状態である者達だ。
  神々の寵愛を受け尖兵である天使族に属するハーレイ一族。 そして、史上最強の能力を有する種族とされる竜族の中でも神々に比肩するとされる竜族の双璧、ベリアーとファルニアスの一族の末裔達だ。 
  ファルニアスの一族の血がイースレイには流れているとされる。

  黒白円舞曲 第一章 九曲目「天使進撃 Part4(激震)」

「どうした……その程度か!?」
「おのれ、調子にのりおって!」

  シャングリ・ラ中央区北部、戦闘の激化によりサイアーとウルブスは、長距離を移動しながら戦いを繰り広げてきた。
  二人の通った場所は、まるで強大な嵐が通り去った道の痕の様だった。 瓦礫が散乱し夥しい量の血が、そこ彼処にある。
  二人の戦いに加勢しようとして、或いは、漁夫の理を取ろうとして逆に殺された多くの天使や悪魔だ。
  シャングリ・ラの非戦闘員である市民の多くは、エルターニャの援助により捲き込まれず非難する事が出来たようだ。
  それからだ。 ウルブスが本来の実力を発揮し始めたのは。
  彼は、シルヴィアに所属する上級天使勢の中でも特に、格闘術に優れた男である。 
  卓越した格闘スキルと瞬発力と俊敏性は全て、最上級天使であるサイアーと渡り合える程だった。 
  否、僅かにしかし、確実に上回っていた。
  気術の発現後も身体的能力は、伸びる。 
  気術とは、元からあった気の力を限界まで高める事により習得する事が可能となる。 
  次に、身体能力を上げるには気の力を上昇させる他、無い。 ウルブスは、気の力を上昇させる才覚に優れていたのだ。
  彼は、元来から魔法力のキャパシティが少ない。 
  それは、詰り、体内に、収納できる気の力の限界が、それだけ多いと言うことに直結する。
  本来、どの種族も魔法力は、割合的に同程度ずつ体内に存在しているのだが、稀にその割合が、通常とは違う者が居る。
  それらが、身体格闘のスペシャリストとなったり魔法戦術の専門家となるのだ。 彼は、前者である。
  天使の男の雷の魔法を回避しながら彼は、男の懐へと飛び込み掌底を食らわす。

「ぐっ! ティコアルトル(巨嵐砲)!」
「あたんねぇよぉ! おらぁ!」

  ウルブスの掌底を腹部に受け、呻き声を上げてサイアーは吹き飛ぶ。 
  吹き飛ぶ彼に容赦なくウルブスは、殴り掛かる。 痛打が、彼の顔面を襲う。 
  既に、非難し誰も居なくなった人家に、彼は激突し建物を崩落させる。
  吹き飛んだサイアーをうるぶすは、睥睨する。 濛々と立ち上る土煙を風の魔法により吹き飛ばしサイアーが姿を現す。
  彼は、何が来ても打ち返すと言う意思表示を示し臨戦態勢に入る。
  何故、戦闘時なのに常時臨戦態勢ではないのかと言えば、如何に百戦錬磨の戦士と言えど永遠に、緊張感を保つ事は難しいのだ。 故に、余裕が有るときにはリラックス状態を造る。
  それが、長期戦をするコツだ。 彼は、姿を現したサイアーを悠然とした態度で歓迎する。 サイアーは、忌々しげに彼を睥睨し光属性の魔法を発動する。
  攻撃ではなく目晦ましの為の魔法だ。 ウルブスは、彼の虚をついた突然の目晦ましに対応しきれず、目を覆う。

  彼は、機敏な動作でよろめく男の後ろへと回り込み、雷属性の魔法を唱える。
  イスキャンダル(雷槍)と言う其れは、千鳥の様な音を上げ術者の手に巻き付き究極の手刀へと彼の手を変えた。
  しかし、その攻撃は、ウルブスに読まれていた。 彼は、サイアーの攻撃を体を沈め回避し右手でロックし背負い投げの要領で投げ捨てた。 空中へと放り投げられた瞬間、サイアーは、喘ぎ声を上げながら魔法を発動する。 
  フレイムタン(炎槍)と言う技だ。 三角柱状の炎がウルブスの肩に襲い掛かる。 彼の肉厚の肩に其れは、深々と突き刺さった。 そして、ジュワァと言う音を立て肉が焼ける不快な臭いを漂わせながら彼の肉体を蝕んだ。
  彼は、顔を歪ませながら力強く、サイアーを投げつけた。 投げつけられた彼は、家屋へと激突する。
  しかし、直ぐに立ち上がり格下であるはずの目の前の男に果敢に攻撃を仕掛けていく。 ウルブスは、自分より身体能力値の劣る相手の攻撃を確実に回避しながら考える。 何故、得意の魔法で攻めないのだろうかと。 その瞬間だった。
  突然、地面が、隆起し亀裂が走る。 それと同時に、雷の弾丸が発射される。 近距離、そして、高速。 
  それは、如何に身体能力の高い彼でも回避できる物では無かった。 彼の胸板の下部をその神速の弾丸は、貫通する。 
  鮮血が舞い散る。 そして、彼は、上体をぐらりと揺らす。 激痛に嗚咽しながら荒れた息を整える。

  しかし、呼吸を整え体勢を立て直した頃には、第二撃が、彼の視界に入っていた。 回避する事が困難なのは明白だった。
  先程、彼の腹部を貫いた電気の弾丸が、下級魔法だとすれば今回、用意されている魔法は、上級の風属性魔法だ。
  当然、命中すれば甚大な損傷をこうむる事になる。 だが、回避には間に合わない。

「サントリア(雷弾)の味はどうかなウルブス? 次は、ヴォルニアー(嵐刃)など如何かな?」

  久し振りに大きな損傷を与えられたことに、愉悦に歪んだ表情をしながらサイアーは喜ぶ。 
  極限まで高圧圧縮され研ぎ澄まされた風の刃が、ウルブスを襲う。 しかし、それは決定打にはならなかった。
  寧ろ、損傷にすらならず彼を驚愕させる事となる。 確かに彼の魔法は命中した。 目の前の男の左肩を袈裟懸けにするように。
  だが、彼の皮膚を引き裂く事は敵わなかった。 何故なら、彼の気術の力により、今、彼の肉体は、貫通力・説弾力に優れる天使族の上位魔法すら受付けぬ程の防御力を有していたのだ。 身体能力の強化及び肉体改造が彼の気術エンテンジェンションの本懐である。
  気術は、無言で発動する事が出来る。 それは、自らの体内に有る力のみを利用するかららしい。
  だが、気術は、その分、魔法と比べて持続力が短い。 
  攻撃的な気術は、上位魔法を遥かに凌駕する物も多いが、長期戦には向かない。
  彼は、サイアーを相手に戦い気術を用いれば短期戦で決着を付けれると今迄の戦跡から算出したのだ。

「生憎とまともに受けてやる義理はねぇな。 なぁ、サイアー兄さん……歯ぁ、食いしばれや!」

  サイアーは、局部のみに防御力を集中させたためとは言え上位魔法すら、防ぐその気力の強さに感服する。
  それと同時に恐怖を感じる。 彼は、気術は戦闘向けでは無いのだ。 詰り、上位魔法を破られた今、形成は不利と言える。 ウルブスの気術により自分の上位魔法が、防がれなければ展望も有った。 しかし、その望みは絶たれた。
  否、一つ、目の前の男に強烈な損傷を与えられる手段が有りはするが。

  彼は、形成がウルブスに有利で有る事を悟らせないために自らには切り札が有るのだと自信満々な表情をする。
  しかし、そんな彼の表情など無視しウルブスは、筋力を肥大化させ彼を思い切り殴り飛ばした。
  目にも止らぬ神速の打撃が、サイアーを襲う。 十数棟もの建築物を軒並み薙倒しながらサイアーは、吹き飛ぶ。 そんな吹き飛ぶサイアーに、気術の力により手に入れた俊足で余裕で追いつき彼は、サイアーの脳天に踵落しを食らわそうとする。
  家屋との激突により発生した大量の粉塵により視界を塞がれていたサイアーは、突然現れた踵に瞠目する。
  既に、回避できる距離ではなく彼は、其れを直接、受ける。 圧倒的な衝撃が体中を奔り激痛が、頭の芯から足の爪先まで伝達される。 強烈な衝撃が、彼の体を直接伝わり地面を陥没させ捲り上げさせる。 近くに有った住宅郡が均衡を崩し崩落していく。

「まだ、死んでねぇな……見た目によらず頑強な野郎だ。 まぁ、それでこそ殺し甲斐も有るが……な」
  
  地面にめり込むサイアーの姿を見詰めウルブスは、凄絶な笑みを浮かべて心にも無いことを言う。
  彼は、一人、虚しく一族から離れ孤独な放浪の旅をしていた。 シャングリ・ラは、そんな荒んだ狼を優しく受け入れてくれたのだ。
  彼にとってシャングリ・ラとは、景観ではない。 住居でもない。 暖かく迎え入れてくれた家族達だ。 
  故に、彼は、シルヴィアに所属する他の誰よりも仲間思いで率先して危険な戦いに身を晒す。 特攻隊長などと呼ばれる程に猪突猛進な所をガデッサには買われているのだ。 
  護る事もできず、或いは、自分の攻撃によって捲き込み殺した者も居た。 彼の中には、大きな自責の念があった。 護れるはずの存在を失ったのだから。 彼は、悪魔を仲間を糾弾する全ての天使を憎悪の目で見ていた。
  事実、堕天した天使が、シルヴィアに加入する時、最も反対するのは常に彼だ。 カナリアの時も無論、猛反発した。
  最も、彼は、諦めも速くそして、感情移入能力も高いから何だかんだで上手く付き合うのだが。

「止めを刺すぜ。 ヘイルドリル!」

  血を噴出させるサイアーの頭部を一瞥し更に、脚部に力を居れ彼が、直ぐに起き上がれ無いように地面にめり込ませる。
  そして、ウルブスは、上空高くへと跳躍する。 跳躍し空中で両足を合せ爪先を重ねあう。 そして、エンテンジェンションの力によって両足をドリルのように高速回転させる。 そして、一気に、空中から落下する。 凄まじい回転音が響き渡る。
  悶絶していた彼は、損傷の回復を確認し直ぐに回避行動に移る。 無理矢理、減り込ませられた頭部を抜き取り前へと走り出した。 その瞬間、ウルブスの足が、地面に接触する。 
  尋常ではない衝撃が大地を震撼させる。 半径二km近くの建物が崩壊する。
  全力で回避したウルブスの攻撃を回避した彼は、直ぐにウルブスの着地点を見詰る。
  そして、異空間に隠して有る自らの愛剣アストラルを顕現させる。
  武器を握った瞬間に気力と魔法力の全てを剣の切っ先に集中させ、全力の突きを放つ。
  気力と魔法力の両方を純粋に攻撃力に添加させることが出来るのが武器の最大の利点だ。 
  全力の彼の突きは、確かにウルブスの影を捕捉していた。 視覚的には、確実に彼の腹部を貫いていた。
  しかし、不思議な事に手応えは無く、サイアーの武器を持っているほうの手に激痛が走っていた。

「何だ……と? エンテンジェンション、その様な事まで出来ると言うのか?」

  大量の粉塵が、少しずつ風に乗って晴れていく。 視界が良好になるに連れて、信じ難い光景が、姿を現した。
  彼の剣は、ウルブスの腹部に作られた空洞を通過し彼の手は、腹部に作られた大量の牙に食まれていた。
  傷口から止め処なく血が流れる。 物質が、回復を拒む。 彼は、背筋を氷塊が滑り落ちるような感覚に襲われる。 完全に捉えられたのだ。 手を切断して逃げるしかない。 しかし、その間に相手は、何もしてこないだろうか? 否、戦いである。 有り得ない。
  サイアーが、混乱している間にウルブスは、巨大な両刃の斧を召還する。 恐らく、全力の彼の武器の一撃を受ければ、如何にサイアーと言えど再起不能の損傷を受けるだろう。 形振り構わずサイアーは、自らの腕を火属性の魔法で爆破させ切り捨てるが時既に遅かった。

  回避は不可能と悟り、彼は、死の瞬間を見る事を嫌がり瞑目する。
  その瞬間だった。 ウルブスの体が、土属性の三つの爪を模した魔法に、膾切りにされたのは。 
  彼は、突然の不意を着く攻撃に、瞠目し倒れこむ。 ゆっくりと倒れ込み血飛沫が、彼の体を染めていく。
  民達が非難してから始終有利に戦っていた彼の最大の損傷だった。 一体、何者だと怪訝に眉根を潜め彼は、攻撃の来た方向を見る。

「……ヴァネッサ・ハーレイ!」

  自分の体に損傷を与えた存在を確認し彼は、名前を呼び咆哮を上げる。
   しかし、彼が、咆哮を上げた瞬間に既に、右腕を切り離し新しい手を再生させたサイアーが、攻撃に転じていた。
  先ずは、対象の左肩から袈裟懸けに一撃。 更に、炎属性の魔法の弾丸で彼の胸部中央辺りを貫いた。
  焼き焦げた臭いが辺り一面に立ち込める。 慣れた風情でサイアーは、更に彼の腹部を真一文字に切裂いた。 しかし、目の前の男は、倒れず果敢に攻撃を仕掛けてきた。 彼は、構わずウルブスの手を剣で切り捨てる。 ウルブスの顔は、苦痛に歪んでいた。

「止めだウルブス。 ヴァネッサ……救援、感謝する」
「いいえ、兄上。 我々は仲間です。 助け合うのは当たり前です。 そもそも、家族を助けない者が居ますでしょうか?
天使とは、正義を司る神の刃。 仲間を家族を救わない事は正義とは真逆……そうでしょう?」

  ウルブスは、立っているだけでもギリギリの状況のようだ。 畳み掛けられる攻撃に再生能力が負い付かなくなったのだ。
  幾ら、生命力の高い魔族とて回復行動を行わなければダメージは蓄積される。 彼は、連続で喰らって良い損傷の限界へ到達していたのだ。 そんな立っているだけでやっとの男を見詰ながらサイアーは、妹の援助を喜ぶ。
  彼の感謝の言葉に対しヴァネッサは、それは、当然の事だと平然と言う。 愛する者を助けるのは当たり前だと。
  その彼女の言葉に彼は、珍しく優しげな笑顔で答えた。 そして、ウルブスに止めを刺そうと剣を振上げた。 

「さらばだ。 戦闘部隊隊長殿よ」

  しかし、彼の振り下ろした刃は、ウルブスに届く事は無かった。 彼の剣は、突然、現れた仮面の巨漢の腕に当りそこで動きを止めていた。 少しも剣は、その巨漢の腕に減り込んではいない。 詰り傷を造っては居ない。 二人は、その男のことを知っていた。
  ガデッサを除けばシルヴィア最強の戦士である男だ。 明らかにサイアー異常の実力を有している。 
  瞠目するサイアーに雷属性の小規模の爆発魔法を放ち彼は、サイアーを吹き飛ばし、地面に膝を付いた状態で回復行動を行っている同胞を抱かかえ移動を開始する。 尋常ではない脚力で一跳躍で数百mずつ彼は、ウルブスを抱えながら移動した。

「へへっ、旦那……情けねぇ所見せちまったなぁ」
「生きていた事を感謝する。 生延びた住民の収容を完了した。 是より篭城を開始する。 ゆっくり休め」

  途中で口を利ける程度には傷を治癒させたウルブスが、ゾッドに感謝の念を述べる。
  其れに対して、彼は、機械的な声で応じ非戦闘員の救助が終了し次の行動に移ることを示唆する。
  其れを聞いてウルブスは、少し落ち着いたような表情をした。 彼は、元々、ゾッドが苦手だ。 彼は、人懐こく人見知りしない男だが、ゾッドは、取っ付き辛く無感情で得意になれなかったのだ。 何跳躍かしている間に、シルヴィアの本部が見えてきた。
  多くの天使が、ガデッサの補佐官的立場であるエルターニャの気術によって造られた人形達と光線して居た。
  恐らくは、一番、体力的に消耗しているのは、気術を長時間使用し続けているであろう彼女だろうと考察しウルブスは、彼女に感謝するのだった。 シルヴィア陣内に入り彼は、直にベッドに送られた。 そして、光属性の魔法、即ち回復魔法を使える物に託される。

「貴方は、戦闘の中軸です。 速く良くなって貰わなければ困ります」
「…………分ってるよ」

  回復のスペシャリストである緑の無造作な髪型の色白の童顔の男。 元天使の回復部隊隊長であるヴァザートと言う男だ。 
  彼は、傷だらけのウルブスを見て冷たく言い放つ。 彼にとっては、ウルブスは、戦争の主翼の一つでしかないのだ。
  詰り、言い換えれば戦う道具としてしか見ていない。 そんな、彼の性格は重々承知だからかウルブスは、唯、早くしてくれと促した。
  彼の言葉にヴァザードは頷き、彼の損傷部分に手を翳す。 そして、治癒魔法を発動させる。 神々しい光が満ちる。
  元天使故に出来る回復術だ。 天使族は、元々、光属性に明るい。 光属性の魔法は、全八属性で唯一、回復の特性を持った属性である。 悪魔にも光属性の魔法を得意とする者は、多々いるが悪魔達の光魔法に回復系の物は無い。 
  先天的な悪魔は、光属性の回復魔法を習得できない。 詰り、堕天した元天使のみが魔界では、回復薬として成り立つのだ。
  シルヴィアでも堕天使の数は、ガデッサとエルターニャとカナリアを含めて二十人に満たない程度しか居ない。 
  そんな堕天使達の中でも最も回復魔法に優れているのがヴァザードだ。 当然、自負が有る。 
  ゾッド程苦手としているわけではないが、彼のそんな自尊心の高い所がウルブスは苦手だった。
  
  ウルブスが、ゾッドにシルヴィア本部に搬送されてから三十分が経過した。 
  その後も外で戦っていた同士や幹部達もようやく、本部に入り強力な結界が張られ、篭城が開始された。
  そんな中、二人、危険回避のため地下の奥底に閉じ込められたカナリアとイースレイは、座り込み会話をして居た。

「あれは、僕が、天使族の戦士として戦闘部隊に入隊して初めて神様に会った時、いや、会った後だったかな? 
僕は、神様の気に当てられて神様の部屋から出て直に倒れこんだんだ」

  遠い過去を思い出すような瞳で何も無い天上を見ながら彼女は続ける。 イースレイは、胡坐をかきながら唯、静かに聞く。
  神々の塔の守護をする近衛兵は、戦士として選出された日、神々と謁見する許可が与えられる。
  神の居する宮殿の警備になれると言う事は、天使族にとってこの上ない喜びだ。 無論、彼女にとってもそうだった。
  彼女は、当時、神を敬愛し神のために神の造った人間を庇護する事を彼の前で誓った。 その時、強大な力が発されたらしい。
  当時の彼女の心の中には、当然、人間への愛着があり寧ろ、それは、神への敬意を上回っていた。
  彼は、其れを悟り危惧したのだろう。 彼女は、そう、考察したそうだ。 ならば、何故、彼は、人間を愛する事を拒絶するような態度を取ったのだろうかと考えると彼女は、其処から動けなくなったそうだ。 それが、災いしてか幸いしてか神々の会話を聞く事となる。
  その話によれば、自分は、彼等にとって邪魔になりかね無いと言うことだった。 滅ぼす対象に好意を持ちすぎる存在は、邪魔だと。
  彼女は、恐怖した。 彼女を神に推薦したのは、親戚に当るサイアーだった。 基本的には、神自らが選抜するが、ハーレイ家の者の言葉は指物、神も耳を傾ける。 それだけハーレイ家の力は、絶大なのだ。 特に、彼の住処はサイアーの守護する場所だ。
  彼と親密な関係に有る神は、彼女を迷わず選抜した。 其れに対しイースレイが、口を開く。

「それは、まさか……サイアーと言う男の計略か?」
「…………サイアー兄様からすれば、唯の清純な小娘である僕の反応を見て神々の真意を……知るとかそう言う事?」

  彼の言葉にカナリアは、瞠目する。 そして、唖然としながらしばし、逡巡し有り得ないことも無いと結論付ける。
  サイアーは、彼女の身内だ。 疑いたくは無い。 しかし、彼は、策略家で上昇思考が強い。 疑念を抱くのも当然だ。
  そんな疑念と同時に、イースレイの中には、天使族が人間を滅ぼそうとしていると言う事実が明確化していた。
  ガデッサの言っていた事は、正しかった。 発起し強くなり悪魔と手を組み天使達と戦わねばならないと覚悟を決める。

「なぁ、カナリア……同胞を討つ覚悟は有るか? 人間のために家族や親戚を失うかも知れない」
「絶対……凄く後悔すると思うんだ。 リガルドとかサイアー兄様と戦う事になる。 凄く嫌だ……
でも、邪魔になったから壊すってそんな勝手な事、僕は嫌だ……」

  真摯な瞳で彼は、カナリアの瞳を見詰る。 彼女はその瞳に気圧され目を泳がせる。 
  その目の方向はあえて追わず彼は続けた。 今まで仲間だった存在を深く触れ合った存在を失う事になると。 覚悟が必要だと。
  そんな彼の言葉に対して、彼女は、覚悟に満ちた瞳で決意を表明する。 
  何より許せないのは、そんな神の暴挙に立向かわない仲間だと。 彼女の瞳は、強く語っていた。
  彼女の強情さにイースレイは、爽快感をなぜか覚えた。 思ったより遥かに、好みの女だと彼は、小さく呟く。
  カナリアは、其れに対し頬を赤らませた。 若い女性らしい反応に彼は、微笑を見せた。

  その頃、回復を終えて自室待機しているウルブスの所に、アンリが現れた。 同部屋の妹に用が有るのだろう。

「やぁ、アンタが大人しいなんて珍しいね」
「…………いつも騒がしくて悪かったな爽やかボーイ?」

  皮肉っぽく完全回復間際のウルブスにアンリは、言い捨てる。 そんな、彼に、ウルブスも皮肉で返す。 日常だ。
  そんな日常的な会話を一頻り行いアンリは、自分のベッドで眠るタピスを見付ける。
  そして、彼女の体を強引に揺さ振り起した。 彼女は、眠たそうに目を擦りながら兄を見詰る。
 
「心配掛けてすまないニャ……タピス」
「うーぅ、タピスは、そんな事よりお兄ニャんが傷だらけなことの方が悲しかったニャ。 
お兄ニャんがタピスの事を庇って逃した事が悲しかったニャ。 タピスは、お兄ニャんにとって唯の足手まとい?
唯単なる拠所……? タピスだってお兄ニャんと一緒に戦うために強くなったのに」

  頭を下げてアンリは、タピスに謝った。 しかし、彼女は、聖母の様な優しげな瞳で謝る必要なんて無いと言う。
  彼女は、心配掛けた事を謝って欲しいのではない。 寧ろ、自分が謝りたい。 自分が、弱くて彼に迷惑を掛けているのなら尚更。
  涙に潤んだ真摯な瞳に彼は、沈黙する。 彼女の言いたい事は分る。 心配性な彼を心配させないためにいつも彼女は、努力していた。 しかし、彼は、それでも幾ら力をつけても彼女を心配する事を止められなかった。
  彼にとってタピスは、何時までも幼くドジな昔の姿のままなのだ。 それが、溜らなく彼女は、切なかった。
  どうにか払拭したいと思い続けていた。 実力は多少劣っても気術を習得し実力も上位となった。 
  背中を預けてくれても良い頃のはずだ。 アンリ自身理解していた。 しかし、彼は、彼女を心配する事を止められなかった。

「泣いてるだろうが……少しはてめぇも省みる点が有るぜ? タピスは、いっつも言ってた。
心配しなくて良いって……自分の事をもっと楽しんでも良いってお前を気遣ってた。
お前の言葉……タピスより先に死なないとか、タピスの盾になって死ぬとか矛盾してるよな?
あれこう言う意味だろ。 タピスより先に死なないは、彼女を見守って死ぬため……タピスの盾になって死ぬは、コイツを痛い目に合せない為……一体どっちなんだよ……お前、唯、コイツを悲しませない一時凌ぎを言ってるだけだぜ?
妹を馬鹿にするのも大概にしろよ……矛盾がバレバレなんだよ!」
「アンタに言われなくても分ってる! でも、僕は、彼女を悲しませないと……護ると」

  涙を流すタピスをアンリは、静かに見詰た。 その表情は哀愁に満ちていて今にも泣きそうだった。
  そんな、二人をしばらくの間、見詰続けていたウルブスが、見兼ねて喋りだす。
  タピスと彼は、同部屋で良く会話をする。 精神的に大人な彼は専ら聞き手に周り彼女の悩みを聞いてきた。
  彼女は、アンリの言葉が全て自分を保護している言葉だと理解していた。 もう少し肩の力を抜いて勝手に生きて欲しいと思っていた。
  一時凌ぎの本心では無い言葉だと分っていたのだと説得する。
  其れに対してアンリは、唇を噛締め怒鳴り声を上げる。 
  そこには、どう接したら良いのか分らないと言う悔恨の念が滲み出ていた。 彼の肩をウルブスは、軽く叩く。

「肩の力抜け。 
少しはコイツを信じろ! コイツは、お前が思うほど馬鹿でも弱くもないって事だ!」
「……僕には、無理です」

  落ち着いた口調でウルブスは、言葉を続ける。 他人が見ていて辛くなるほどに自分を押し殺すのは良くない事だと諭す。
  しかし、彼は、目を背け無理だと断じる。 唯、謝った事に優しく答えて貰えれば良かったのにと彼の表情が語る。
  ウルブス自身、そんな簡単に長い時間を掛けて形成された性格や習慣を変えろというのは無理な事だと分っている。 だが、今の彼らの状況をもどかしいと思う気持ちは強い。
  彼は、顎に手を当て思案毛な表情を造る。 今の日常とは掛け離れた状況で兄に対するタピスの心配の感情は、増大しそれを抑えることに限界が来ているのは明白だ。
  此処で何とか妥協案を提示しなければ、二人の関係はこじれる気がした。   
  そんな逡巡する彼を横目にタピスが動き出す。 先程まで成行きを見守り沈黙していた彼女が。
  いつもと違う哀愁に満ちた表情の義妹にアンリは、頬を染める。 彼女は、そんな彼を無視して彼に寄りかかり話し始める。

「お兄ニャんがタピスの力を信じられないならそれでも良いニャ。 そんな直ぐに変れって方が酷な話なのニャ!
でも、一つ、約束して欲しいのニャ。 
いっつもタピスの言う事を聞いて寝る時間まで減らしたり自分の感情を殺したり、そんな事はしないで欲しいのニャ!」
「自分の心配も少しはしろよって話だ」

  何時の間にか、義妹に心配を掛けていた事に気付いたアンリは一瞬の間、放心状態になった。
  低い抑揚に掛けるウルブスの声で正気に戻り彼は、疲れた様な顔を見せながら「何時の間にか成長するものですね」と一人ゴチた。
  そんな、二人の絆にウルブスは羨望の目を向ける。 
多くの仲間をシャングリ・ラに来て得たが彼には、最も心を置ける仲と言う者が居ない。 
  誰とでも仲良くなれるが誰を相手にしても踏み込めないで居た。 だから、責めて幸せな者達の手助けをしたいと強く願う。
  其れが、彼の此処での生き方だった。
  

  一方、義兄妹二人が一応の和解をした頃、外では動きがあった。 篭城を開始して二時間以上が経過した時だ。 タピスやゾッドにより要請を受け承諾した援軍の面々が、来るまで後一時間を切っている。
  物見櫓で相手の状況を見る兵士達には、此処が、最大の危機と認識できる。 上空に、傷を回復させたリガルドが出現したのだ。 
  多くの天使達が、防壁へと思い思いの攻撃を仕掛ける。 
  ガデッサと死闘を演じていたファンペルも何とか永らえ攻撃を繰り返していた。 無論、サイアー達もだ。
  町全体を覆っていた結界には及ばないとは言え、このシルヴィア本部を覆う結界もまた急造の代物ではなく相当の硬度だ。
  如何に、天使軍のエリート達が集うと言っても援軍が来るまで持たないとは、誰も思わなかった。
  しかし、リガルドは、圧倒的な力で其れを覆す。

「一人、上空に飛んでアイツは何をする気だ? 上空は、結界の効果が弱いとでも思っているのか?」

  見張りの兵士が、完全に油断しきった様子で言う。 そんな、兵士達の様子を見て彼は、憐憫の眼差しを向け力を解放する。
  病み上がりの体には、気術の解放が、負担となり彼は、一瞬、悶絶して倒れこむも踏み止まり気術を発動させる。

「馬鹿共が……俺の力を見ろ! テラ・イクスペンドラ!」

  ガデッサが精製した擬似太陽が顔を出し少しずつ白む空が、突然、赤々とした炎で包まれる。
  その拡散した炎は、一瞬のうちにリガルドを中心に、収縮し圧縮され高濃縮されたエネルギーの紅い槍へと姿を変えた。

「なっ! 何だ! あれは!?」
「うろたえるな! 如何なる攻撃力だろうと一撃でこの結界を壊せるはずが無い!」

  発せられる圧倒的な存在感に、見張りの兵士の一人が戦慄する。
  一方、見張りの首領格と思われる男が、うろたえるなと声を張上げる。 しかし、彼も声音は震えて顔は恐怖に、歪んでいた。 
  今、上空に居る天使が放とうとしている物は常識では測れない桁違いの威力を有している。 直ぐにそれが、理解できた。 

  見張りの男は、通信機器を使い結界が破られる可能性が出た事を通達する。 その瞬間に、リガルドの攻撃は放たれた。
  圧倒的な質量が、迫ってくるのが分る。 そして、その紅く輝く槍は、結界へと命中する。 四散する事も無く結界と反発を繰り返す。
  バチバチと言うエネルギー同士が激突しあう音が、響き続ける。 結界内では、反響音が凄まじく何人かの見張りの兵士が倒れた。
  数十秒もの激突の後、ついに結界に破傷が生じる。 唯の一撃に、長年に渡り構築されてきた結界が破れた瞬間だ。
  その波紋は、一気に広がり決壊は、一瞬の内に皹だらけとなり砕け散る。 そして、結界を貫通した紅い槍は、更に硬化する。
  ついには、シルヴィア本陣を貫通し使用者が指を鳴らすと同時に、爆発を起しシルヴィア本営は、大崩壊を起こす。
  無論、本拠地の外郭で敬語をして居た戦士達は、ほとんどがその衝撃波に捲き込まれ骨も残らず消え失せた。

「見付けたぜ」

  リガルドは、視界に自らの重い人であるカナリアを捉え翼を大きく動かし急接近する。
  彼の攻撃により多くの負傷者が出てシルヴィアの面々は混乱を極めていた。
  誰一人、彼の急接近を気にする物は居ない。 彼は、容易く彼女の下に降り立ち迎えに来たという旨を伝える。

「リガルド兄さん…………僕を迎えに来たの」
「そう言っているだろう。 カナリア、俺と一緒に戻ろう。 
まだ、間に合う。 此処で戻らなかったらお前は、敵と見なされる事になっちまうぞ?」

  彼女は、親しい家族に会えた喜びとイースレイとかわした決意が、既に揺らいでいるという情けなさに彩られていた。
  彼は、そんな彼女の表情を性格に汲み取り優しい笑顔で手を翳し彼女に戻ってくるように諭す。
  彼は、心底彼女を求めている。 彼女の優しい心に癒しを感じていた。 否、今も感じている。 
  自分には彼女が必要なのだと必死で訴える。 訴えが通じなければ無理矢理にでも連行する覚悟だ。

「彼女は、お前等と戦うと言った」
「何だ……アルファベットZか。 生憎だが、てめぇなんて眼中にねぇぞ?」

  そんな時だった。 イースレイが、彼女の代わりとでも言うように反論する。
  其れに対し彼は、邪魔だとばかりに殺気立った目をイースレイに向ける。 圧倒的な殺気にイースレイは愕然とするも食い下がる。
  そんな、彼にリガルドは、沈黙する。 リガルド自身、人間を滅ぼすと言う神の意向を理解している。 リガルドは、カナリアと同じ反対派だ。 しかし、神々に対抗するには圧倒的に力が足りない事を悟っている。 
  それは、悪魔側が、イースレイの力を最大限に引き上げ人間側と共闘してもと言う意味だ。 現状、どう転んでも勢力的に敵わない相手と戦うなど馬鹿げている。 愛した女をそんな馬鹿げた事で失うなど不甲斐無いにも程が有る。 彼も譲れなかった。

「カナリア……人生は、諦めが肝心だ。 俺と幸せに過ごそう。 大丈夫だ……人間が滅んでも長い人生の間に忘れられる
時には、決断が必要だ。 如何に俺達が、人間を愛する本能を持って居ようと直接、触れ合った事も無い存在を擁護する必要は無い! 一緒に、二人で幸せになろうカナリア!」

  身振り手振りを加え彼は、思い思いの言葉を並べる。 彼の言う事は、正しい。 
  このままの勢力図では十中八九、人間は殲滅され彼女も元同族の手によって滅ぼされる。
  しかし、彼女は、人間を救いたかった。 慈愛の心の強い彼女は、大きな罪を犯したわけでもない人間達が、神々の勝手な都合で虐殺されるなど許せない。 差し伸べられる手を彼女は、振り払い強い反抗の意思を滲ませる。
  彼女には、神々を打ち破り家族を失わないという愚かしいまでの信念が芽生えていた。

「僕は、それでも人間を護りたい」
「…………そうか、なら、護れないと言うことを証明してやる!」

  何を言っても彼女の意思は覆らない。 彼は、其れを理解した。 元々、気弱に見えて芯の強い女性だった。
  彼自身、そんな所に羨望の念を抱いていた。 だが、今は、それ所では無い。 急がないと増援が来るかもしれない。
  彼は、強硬手段に出る。 目の前のイースレイと言う人間を滅ぼすことで心を折ろうと考える。
  自分が、彼女にどれ程残酷な事をしているのかは理解できる。 しかし、彼女を欲する彼は、心の暴走を止められない。
  彼は、巨大な手裏剣状の武器を召還しイースレイ目掛けて跳躍し子刃を振り翳す。
 
  しかし、結果は意外な方向に進んだ。 リガルドの腕は吹き飛び彼は、リガルドの後方に居た。
  そして、リガルドの腹部には、巨大な剣が刺さっていた。 彼の武器だ。
  
「そうか……なら、女に護られるほど無能でもない事を証明してやる」

  彼は、リガルドに向かい皮肉のように言い放つ。
  元々、他者に護られてばかりなのは好きじゃない。 それは、彼の本音だった。 

『見えなかった……何て速度だ? そして、人間が持っているなら唯の武器のはずだぞ?
何でこんな苦痛が? 天使族や悪魔族が持つ武器より遥かに…………』

  体中を駆け巡る激痛に苦悶の表情を浮かべながらリガルドは、倒れこんだ。 腹部から血が滴る。
  荒い呼吸で彼は、考える。 最上位天使を上回る級の速度。 そして、通常の人間の武器では有り得ないほどのダメージを与える武器。 何もかもが不可解だった。 彼の腕を切断し腹部を貫いた時、イースレイは、確実にアンリと修行していた時より速くなっていた。
  否、アンリの最高速度より遥かに俊敏な動きをして居た。 一瞬とは言えアルファベットZの潜在能力を示した瞬間だった。
  無論、リガルドに大きな損傷を与えたのは、彼の気術ディサイアスによるものだ。
  彼は、苦悶するリガルドを一瞥し生存を確認し次第、ディサイアスの発動を終了させ納刀する。
    彼を生かしたのは、イースレイが彼女を悲しませたくなかったからだろう。 
  そして、彼女の家族を失わず神々を倒すという無理難題な覚悟を理解したからだろう
  そして、カナリアの肩をそっと抱え走り出した。 彼女は、ずっと、リガルドを見詰ていた。 見えなくなるまで……——


Fin

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