複雑・ファジー小説

Re: 黒白円舞曲〜第1章〜 10曲No2更新 キャラ&コメ求む! ( No.135 )
日時: 2011/12/19 20:56
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)

黒白円舞曲 第1章 10曲目「天使進撃 Part5(援軍)」No2

「何だ? なんなんだこの鳴動は!?」

  大地が揺るぐ。 シャングリラの大地が震撼する。
  強大な力の本流が止め処なく続き光となっては明滅をくり返し全てを飲みこむ。
  そして、その地鳴りは否応なく戦いの中で瓦解しかけた建物を崩落させていく。
  そこにあるのは、厳然とした絶望的なほどの力。 
  イースレイとカナリアは、その力を数十メートル先で直に受けていた。
  圧倒的な怒涛の圧力を直接的に感じ彼は、理解する。 
  その力の感覚が、みずからの家族の命を奪った存在に似ていることを。
  率直な絶望的な力量差にかんする感想と同時に感じていた。
  
  明滅が収束し体中に掛かっていた強大な圧力が無くなって行くのを感じ二人は、恐る恐る後ろを振り向く。
  その力の正体を確認するために。 走りながら緩やかな動作で。
  二人の首が後方の状況を確認できる程度に方向転換したときだった。
  二人の首に何者かの腕が接触した。 触れれば感じる。 先ほどの大地を鳴動させるほどのオーラを放っていた存在。

「よぉ、見ろよカナリア。 俺の羽をよ。 黒く染まってるぜ」
『両翼とも黒! 勘違いか?』

  嬉々とした声で男は語る。
  そう、茶色の立った短髪の赤と青のオッドアイ。 それは、まさにイースレイとカナリアの前に先ほど現れた男。
  リガルド・ハーレイ。 羽の色は黒。 両翼とも漆黒だった。
  あの時のイースレイの眼に焼きついている光景。 彼の家族の全てを引き裂いて血の海に沈めた存在。
  今でも鮮明に思い出せるその存在の気配と酷似していたリガルドだが、姿は、違う。
  あの男は、片翼が悪魔でもう、片方が天使だった。 たいして彼は、両翼とも悪魔のそれだった。
  堕ちたと言うことは、目の前の男は天使を裏切り悪魔に肩入れすることを決めたということに相違無い。
  そうでなければ堕天することはできないからだ。
  しかし、彼の中には本当に信用して良いのかという言葉と、仇敵に最も近い類ではないのかと言う疑念が渦巻く。
  唯、両翼が、差異を造り天子の羽と悪魔の羽に変化するのは少し時間がかかると言うだけかも知れないのだ。

「リガルド兄さん。 なんで……なんで天使を裏切ってしまったんですか!?」
「そうしないとお前と戦うことになるからだ……簡単な理由だろ? 我ながら笑えるほどだ」

  イースレイは、唯、リガルドを注視し黙考する。
  二人の関係の深さ。
  彼が、強く彼女を擁護していることにたいする推察などという彼の仇とは関係のないところまで思索が及んだところで強い力が出現する。 空の上から無数の槍が落ちてくるかのようなプレッシャー。 それを感じ、三人は空を見上げる。

「あっ……あぁっ、セリス姉様!」

  上空。 
  天使だ。 明らかに上級に属する天使が、凄絶な力を放ちそこには、存在していた。
  その存在感、威圧感はまるで、宮殿に鎮座する神のごときものだ。
  堕落し覚醒した瞬間のリガルドに匹敵するほどの圧倒的な存在感をみなぎらせている。
  外見も人並みはずれて美しく存在感を増す要因となっているように感じられる。
  焔のような真紅と深海のような青の深めの色をしたオッドアイと整えられた黒の長髪。 
  そして、表情の抜けた色白の相貌は、精緻で美しく異性はおろか同性すら魅惑するほどと言って良いだろう。
  清楚な白を基調とした服装が栄える美女だ。
  怯えるように眼を潤ませるカナリアを安心させるようにリガルドが「大丈夫だ」と呟く。

「どうしてかなリガルド……こうなるとは思っていたんだ。 力だけの愚弟として抹消せねばならないとは、悲しいことだ」
「姉さん。 俺は、カナリアだけを護れれば良いんですよ」

  そんな、リガルドを見て憐憫の目を向けながらカナリアにセリスと呼ばれた女性は、始めて声を発した。
  その声は、容姿に違わぬ優美さと無感情さの両方を感じられるような落ち着いた声音。
  しかし、彼を案じているような寂しさがあった。
  そんな彼女の言葉に恋に燃えて周囲の見えない状態の彼は、耳を貸そうとはしない。
  唯、自分の信念を貫くような真っ直ぐな瞳を向け武器を手にし臨戦態勢を取る。

「リガルド兄さん! まさか……まさか、セリス姉様を!?」
「……まぁ、倒せはしないだろうさ。 安心しろよ。 そもそも、俺が殺したいのは自堕落で身勝手な神様どもだ。
彼女は俺が相手する。 お前は、カナリアを頼むぜ? アルファベットZ! 
二人で並んで走ったんなら少しは護って見せやがれ!」

  この先の状況。 血みどろの身内同士の殺し合いを想像しカナリアが声を上げる。
  リガルドは、そっと指を立て彼女に言い聞かせる。 自分が何を許せないのかを。
  そして、彼自身が彼女と互角に戦う事はできても勝てるほどの実力を有してはいないと言う事実を。
  セリスは、ハーレイ家でも指折りの実力者だ。 頭脳、武術両面において圧倒的な才を有している。
  今、当主候補筆頭とされるサイアーと比べても何一つ劣るところは無いほどだ。 
  唯、性別が邪魔をしているだけと言っても良いだけだろう。 
  それにたいしてリガルドは、唯の期待の若手と言う程度だ。 
  堕天により鎖されていた才能が一気に湧き上がり力が上昇したが、それでもまだ、彼女を相手に勝利するには足りない程度だ。
  その隠された事実を察知したカナリアはさらに言い募る。

「リガルド兄さん! つまりそれは……兄さんが危ないと……」

  心配するカナリアの言葉をイースレイが、手を出して制止する。

「なぁ、カナリア。 女は時には、男のことを立てたほうが良いんだぜ?」
「イースレイさん……」

  少し頬を上擦らせてイースレイは、普段の彼からは想像も出来ないようなことを口にする。
  その発現にカナリアは、面くらい沈黙する。 
  そのさまを見たリガルドがイースレイを一瞥し「感謝する」と一言、礼を述べる。
  彼のその言葉を聞くやイースレイは彼女の手を握り走り出した。
  彼の意思を汲み彼女と自らの命を護るというイースレイにとって最良の選択を取って。

「なぁ、姉さん。 俺ぁ、昔っから貴方とは本気で……一度だけで良いから戦いたかった」
「そうか……数分前のお前なら何の苦も無く叩き潰せたろうな。 少しは、遣り甲斐が有りそうになったよお前」

  リガルドとセリスは、数々の分派の存在するハーレイ家の中でも同じハーレイ系クロース派と呼ばれる集団に在籍している身だ。
  人間年齢にしてリガルドは十代後半でセリスは、二十代後半。
  年齢こそ離れているが互いの才を認め合い切磋琢磨してきた仲だ。
  そんな中、今まで一度も彼らは、本気の激突をしたことが無かった。
  彼らが二人で暴れれば道場が崩壊する恐れがあるということで意図的に避けられていたのだ。
  彼の純粋な言葉に彼女もまた、純粋に頷く。
  そこには、同じ派閥の中で圧倒的に輝いていたナンバーワンとナンバーツーの大きな差が、見て取れた。
  だが、しかし、今は違う。 リガルドは、異端の力を借りたとは言え彼女に限りなく近付いたのだ。
  それゆえに彼女は、感じていた。 この闘いが厳しくなるということを。

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