複雑・ファジー小説

Re: 黒白円舞曲〜第1章〜 2曲目執筆中! ( No.14 )
日時: 2011/05/04 19:41
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: 4.ooa1lg)

右左へ
あちらで呼びタメ許可出たので♪
そうでうすかぁ?私は理科大好きでしたけど?


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜黒白円舞曲〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


お前が戦わなかったらお前の愛する世界が滅びるぜ————目の前の男は確かにそういった
高々一人の人間の為に世界が滅ぶ?
何を言っているんだ ありえない 有り得ない アリエナイ!!!有ってはならない…
彼,イースレイは真贋を見極める才能には秀でている方だと自負している。
コイツの言う事は嘘だ!悪魔の言う事など信用できるか!?


だが……其の言葉から月明かりの照らす表情から虚言は微塵も感じられなかった————
だがそれでも態々悪魔の手に落ちるなど許されてなる物か…イースレイは唇を強く噛み締めた。




黒白円舞曲 第1章 2曲目「悪魔は闇?天使は光?」

長い沈黙————
イースレイは疑い深い部類だが長い間悪魔を悪と断じ恨み続けてきた。
時々,耳にする事のある悪魔の一見善意のあるような行動も全て
穿った見方で見詰め糾弾してきた。疑い深いが元来一つの事に囚われがちでもあるのかも知れない。
相手の戦力は分っている。ガデッサと言う男と自らの戦力差は明白だ。
タピスと言う浅黒い肌の猫の様な顔立ちの少女と比べても圧倒的な戦力差が有るだろう。
断った所で無理矢理連れて行かれるか殺されるか……二つに一つだと理解出来る。
"必要としている"と言う言葉から考察するに断ったからと言って抹殺される可能性は低い。
ならば,例え誘拐紛いに無理矢理魔界に連れて行かれるにしてもそれなりの心の準備をしたかった。


『私は……運が悪いのか?』

今までの人生を思い出すと薄幸な自分の人生に思わず深い溜息が出る。
暫し瞑目し何から切り出そうか頭を整理するがとても直ぐには思い浮ばない。
だから少し時間稼ぎする事を決め悪魔を排除したのだから村が戻っている筈だ…村の様子を見たい
と,ガデッサに強請ってみた。ガデッサはニヒルな笑みを見せて了承する。


____村
トールライと言う人工500人に満たない村落だ。
主要産業は北東にある森林帯の木を使っての林業らしい。
悪魔によって生贄を強要され更には悲しみの感情を表す事を制御されている。
恐らくはカースの力も既に解除され彼等はあの気持ちの悪い笑みを浮かべないようになっているだろう
夜でも人はいる。具に確認すれば直ぐに分る筈だ。
だが,村の有った場所についてみると其処には驚愕の風景が有った。



「村が……無い!!?」
「場所は間違っていないよ…最初からトールライなんて村が無かっただけの話だ」
「何…だと!?」

有得ない…
確かに存在した筈なのに悪魔の討伐に出て本の数時間も立っていないのに
村が消滅している。イースレイは思わず腰を抜かし倒れ込んだ。
そんなイースレイの反応を繁々と見ながらガデッサは語る。
"トールライなど最初から存在しなかった''と…更なる衝撃の事実にイースレイは狼狽する。
脳内の情報の伝達が上手く行かないのが分る。頭の中の回線が混濁し困惑している。
思考が追い付かない。幻術系の気術か,いや…ならば何故村長の部屋の扉を開けた時感触が有った。
魔法と気術と言う並の人間を超絶した力を行使できるバスターズの一員であるイースレイにすら理解できなかった。

そんな困惑するイースレイをタピスは何でこんな事で驚くのと言う風情で楽しそうに唯々見詰め
ガデッサは暫く観察するようにイースレイを見詰めながら語りだす。
イースレイの今回の任務の真実を————


————悪魔カースはガデッサの部下であった事。カースはまだ組織に発見されていなかった事。
村の正体は実は唯の幻影だった事。音を使った術を行使できる者と感覚を多少操れる者とそして,幻術の行使者の計三名が関わっていた事。
この地方は,未だ未開の地の部類で組織の目が届き難いが故にガデッサが此処を指定した事————


薄々は悟っていた。
カースはこの男の部下で,自分は誘き寄せられたのだと……だが,信じたくは無かった。
イースレイは此処まで周到に事を運ぶと言う事は彼等にとって相応の重大事項だと悟る。
益々,生かして無理矢理魔界に引きずり込まれる可能性が上がった事を解し顔を引き攣らせる。


「分ったかな?俺は必死なんだよイースレイ____いや,アルファベットZ」


”アルファベットZ''その呼び名は久しく聞かない。
心の奥底に響き体が砕ける様に痛むからその呼び名は止めてくれと嘆願したからだ。
息が詰まる様に痛い。

「痛そうだな…お前は,お前の役目を理解している,その役目は英雄じゃない…苦しくて辛くて重い。
重圧から逃れたい…お前は特別だ。特別過ぎて特別で有る事を止めようとする程に」
「黙れ!!」

特殊体又の名をイレギュラー。主に人間の中に多く存在しそれらは通常の人間とは常軌を逸した魔力を有して産まれてくる。
悪魔や天使,竜族と言った人間より遥かな高みに居る存在と性をまじ合せる事により希に出現する存在だ。
そんなイレギュラーの中でも特別視されているのが“アルファベット”だ。彼等はAからZまでの二十六人と言う指定が有りイレギュラーのエリートだ。
そんな中にも無論等級は有りAがギリギリのアルファベットとするならZは最強のアルファベットと言える。
詰り,最初からイースレイと言う男は世界で最も特別な部類に位置する男だったと言う事だ。

通常この世界に存在する人間は全て母体から生まれると同時に
魔力の高さと血液のサンプルを取られる。それはその子供がイレギュラーの才を持つか否かを推断する為だ。
だが,イースレイはバスターズとして有名を馳せた父の力によりその検査を免れた。
何の因果か然し彼は悪魔と思しき存在の手により家族を失い戦いの世界へと手を伸ばし
アルティマニアの門戸を潜りバスターズとなった。
そして,始めて全てを見る目を持つと呼ばれるアルティマニアの教主"ルーダー"と対面する。
瞳と瞳が重なった瞬間に全てを見透かされた様な感覚に陥ったのを今でも覚えている。
彼と対面した全ての者達がそうだと言う。そう,対面した瞬間イースレイはルーダーに見抜かれた。アルファベットZの名を冠する者と…



               「アルファベットZ 」


あの時だ。心臓の鼓動が突然音を大きくして爆発しそうになって倒れて嘔吐して…
ルーダーに涙ながらに懇願したんだ。そのアルファベットZと言うのを止めてくれ…



『あぁ,そうか…本能が悟っていたのか』


黙れ!猛然と吼えながらもイースレイは体の中の本能を理解した。
そして,目の前の男の言葉の重みも理解できた。苦痛に煩悶とするイースレイにガデッサは尚も言葉を続ける。


「黙らない…俺は必死だと言った筈だぜ?一つ聞きたい…
天使は“善”…悪魔は“悪”それは疑う余地の無い事だと思うか?」


理解している。彼が必死である事はもう…唯の悪魔の賢しい遊びではない事は。
そう,頭の中で考えているとガデッサは突然質問を投掛ける。
其の質問は詰り自分達が悪で天使が従うべき存在だからそれが垣根なのかと言う事だ。
イースレイは逡巡する。幾らこの男が嘘を付いていないとしても如何に郷愁故の行動としても
悪魔は悪,天使は善…その固定概念は拭えないし天使だって悪魔が気付く事なら気付く筈だ。
単純に悪魔の手を引く気には成れなかった。



「一つ下らない話をしよう。
悪魔がお前等の世界で言う一年で世界に到来する回数と天使が到来する回数は
実は天使の方が十倍以上多い…天使は人間達にとって有害なことをしていないのだろう?
そう,天使を信ずるお前は思うだろうが…天使は身勝手な神の欲望が生み出す正義の思うがままに神が邪魔と思う人間を殺しに来てるんだ」

「馬鹿な————」

「本当だニャ…君の真贋を見極める瞳で嘘だと思えた?第一,トールライって村は天使が滅ぼしたんだニャ!」


「な」


イースレイは理解出来ない。
天界の神々は実はエゴの赴くがままに天使を操り邪魔な人間を屠る為に天使を派遣する。
トールライの村は天使に殲滅された。馬鹿な,最もこの世界で情報に精通した組織アルティマニアに居る自分がそんな事に気付けない。
悪魔だって人間を殺す。無差別にだ…否,天使が人間を殺して回っているなど有得ない。凝固まったイースレイは唯瞠目して絶句した。


「俺達,悪魔は堕ちた存在?神々の余りの悪行に堪えられなくなって神々に反発したら翼を捥がれてこの様だ。
俺達は人間が愛しい……元来,天使には天使から出来た存在として人間を慈しむ情がある。
良心の呵責に限界を感じそんな事は間違っていると神々に反発した天使が堕ちた悪魔だ」


理解できるか?最初に現れた時の余裕綽々だったがデッサは今消えている。
唯,必死にイースレイを説得しているようだ。一刻を争う事だと言う様に。
"理解出来ない"イースレイは唇を噛み締める。血が出るほどに…
我欲に取り付かれた神々に天使は翻弄されていて其れを嫌った天使が神々に反逆したら神々は怒り其れを追放したと言う事だ。
今まで聞いた事も無い事実。考えた事も無い事実…何故事実とイースレイは考えるのか。
男の言葉に何一つとして嘘は無く全ての言葉に真実の響きが有ったからだ。


「私は如何すれば良いんだ」

どうせ,逃げる事は出来ない。
だが,世界が掛っている等と言う大それた事を出来るのか。そもそも話から察するに天使達が人間を滅ぼすと言う雰囲気だ。
全くその様な予兆を彼は感じて居ない。唯,何も考えずイースレイの口からは困惑の声がでるだけだった。



「多分,イースっちはさっきの言葉の真偽が分らないと思うんだニャ…
だからタピス達の世界に来ると良いニャ!世界では絶対に見えない真実が見えてくるから…」
「一つ聞きたい…悪魔だって人を殺すよな」

イースっちと言う渾名に反応する余裕も無く我慢できなくなったのか割って入ったタピスの言葉を聴く。
世界と天界や魔界は本来交わらざる遠い地平だ。存在は把握しているが何をしているのか等まるで知る由も無い。
彼女らの世界に行かなければ曇った眼鏡で見たい物を見ているに過ぎないのだろうとイースレイも危惧した。
だが,天使が人を殺そうとしているなら悪魔だって殺しているではないか。
現に,イースレイは人を殺し貪る悪魔を幾度も見て鉄槌を下してきた。


「それは後天的な悪魔だ……俺達は堕とされたがそれは天界で生きる権限を奪われただけだ。
俺達は魔界と言う空虚な世界に神々の目に映らぬ様にと閉じ込められた…
何故,殺さず閉じ込めたのかって質問は無しだぜ?神々はイカれてる…さて
此処からが本題だ。
人を殺すのは後天的な悪魔って言ったな…俺達,天使…世間一般にして堕落した天使である悪魔にも当然寿命はあり
交配もする…その交配によって産まれた道徳も正義も無いまっさらな赤子の頭には魔界に存在する魔気は毒なんだ。
上位に至ると大体がその魔気に打勝つがそれまでは大概が悪意の力を…衝動を止められない。
故にお前等の世界に来る悪魔は中級までが精々なんだ…」

其れに対してガデッサがイースレイの質問に答える。まず,神々により悪魔になった天使達は魔界へと追放された。
何故目障りなら殺さないのだろうかと言う疑念があったが其れはガデッサ自身も知らないらしい。
そして,魔界で堕ちた天使同士が交配すると魔界の魔気に充てられた性で歪んだ悪魔が生まれた。
正確には是が人間に本当に悪魔と呼ばれる存在な様だ。そして最初から悪魔として産まれると悪意の本能に抗えず殺戮衝動にかられるらしい。
然し,其れも上位まで至ると元来あった天使の力が魔気に耐性を持ち始め理性を有し道徳を学ぶ。
故に理性を手にした悪魔は人を襲わないと言うことだ。

「魔物と言うのはならばなんだ?」

だが,一つの疑念がある。
彼の言葉から察するに魔界は元々は何もない魔気に満ちた不毛の地。ならば魔物とは何故存在するのか。
悪魔が造った眷属か。

「俺達,天使から落ちた上位の悪魔でも魔気には恐怖する。それが要因となり魔気が具現化していったのが魔物とされる。
最も,その中にも自らの存在に抗い道徳と規律を手に入れようと人型になろうとする者が居るが…」

「タピスもそうなのニャ♪」

其れに対してもガデッサは細かく答えてくれた。
始めて魔界に送られたときは上位悪魔でも魔気に恐怖したらしい。その恐怖の感情と魔気がなぜか共鳴し彼等の中にある黒い存在たちを顕現したと言うことだ。
無論,元は天使だった存在の心の中から顕現した存在であるためか良心を秘める物も有るらしく人型の悪魔への特に上位悪魔への転身を望む物も居るらしい。
その成功例がタピスと聞いて道理で変な耳をしている訳だと諦めの入っているイースレイは一つの謎が解けたと言う清清しい気分になった。



イースレイは瞑目し是が気術により嘘を隠している可能性を考察しながらも一応の納得をする。
運命には敵わないのだと心に言い聞かせる。


「魔界,さっさと行こうか」


渋々ながら承諾したと言う言葉をイースレイは言う。
あのまま何の抵抗もなく魔界に行くよりは余程良かったと思う。
タピスが万歳して体全体で喜びを表しイースレイに抱きつく。イースレイは困った表情でガデッサを見る。


「良かったぁ…一応の納得はしてくれたみたいだな。諦めとも言うが…全然納得しないで嫌がる奴連れてくのも癪だし…仕方ねぇが」

ガデッサはと言うとイースレイが柔軟な対応を見せてくれた事に相当,安心していたようだ。
彼らにとってやはり重大事項らしく無理矢理でも連れて行く覚悟だった様だが…
一頻り喜んだ後,ガデッサは二回ほど手を叩く。
突然二人の影が現れる。どうやら隠遁していた仲間を呼ぶ合図だったらしい。


「お兄にゃん♪」
「よっ,良く僕の言付けを護れたね♪偉い偉いニャァ♪」


イースレイに抱き付いていたタピスは親しいのか現れた二人の一方に抱きかかる。
白の長髪で猫耳,スラッとした細い肢体で色白。モスグリーンの瞳で冷たそうな印象の顔立ちの男だ。
どうやらタピスと同じく猫の魔物から転身してきたらしい。兄弟の様な関係と見える。
そんなハンナハンナ兄妹を横目に
透き通るような白い肌が特徴的で儚げな水晶の様な青い瞳とエナメルの様な輝く青髪が特徴的な胸と腰を包帯で隠し靴を履いている程度の露出度の高い美女が悠然と通る。
どうやらガデッサと親しいようだ。

「ご苦労様ですガデッサ様」
「ん?まぁね…お〜ぃ,エルターニャもアンリもイースレイ君に自己紹介したって?」

女性はガデッサを労う様な言葉を掛けて跪く。
彼女の労いに対してガデッサはフランクに答えて彼女達に自己紹介をしろと命じる。


「私はガデッサ様の組織した「シルヴィア」の副司令官の一人であるエルターニャキューエルだ。馴れ合う積りはない」


ガデッサに命じられたから渋々と言う風情で女性が先ず自己紹介に応じる。
どうやら,ガデッサは自らの力で組織を築いているらしい。
次にタピスと抱擁しあっていた細身の男アンリと呼ばれた男が自己紹介に応じる。


「アンリ・ハンナハンナです。魔界の事で分らない事が有ったら聞いてくださいニャ♪」


彼もまたエルターニャと同様冷たそうな顔立ちだがどうやら,冷淡な雰囲気のエルターニャと比べて幾分友好的なようだ。
敬語が様になっているようだが猫だった頃の記憶が払拭しきれないのか矢張り語尾にニャを付ける事が有る様だ。



一頻り自己紹介も終わり腹も括った所で突然イースレイの立つ世界が鳴動する。
振り向くと空間が歪み異空間への扉が開かれていた。
タピスの手招きを見てイースレイは意を決して足を運べる。世界との離別を感じた気がして惜別の情が込み上げる。
そして,魔界への入り口へと遂には足が入る。



「魔気の心配はご無用ですニャ…シルヴィアのあるシャングリ・ラは魔界の中でも魔気の汚染を完全に洗浄した理想郷ですから」


魔気に対する怖れが有るのではないかと気を回したアンリが心配は無いと言う。
是から行く場所は人間に害のある魔気は存在しないと…
少しだけ心が軽くなった気がした————





               気を許すな____真贋を確かめるまでは………





その親切心から来る言葉への感謝という甘えをイースレイは心の奥底へと無理矢理仕舞い込んだ。
この疑うと言う行為が何を産出すのだろうか…この頃のイースレイには想像も付かない。




Fin


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