複雑・ファジー小説

Re: 黒白円舞曲〜第1章〜 10曲No2更新 キャラ&コメ求む! ( No.142 )
日時: 2011/12/19 20:58
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)

黒白円舞曲 第1章 10曲目「天使進撃 Part5(援軍)」No3

    「見えましたわよお姉様! シャングリ・ラです!」

     
  東端。 北東の地。
  尋常ではない数の悪魔の集団があった。 それらは、先陣を切る幹部と思しき四人に追従する。 唯、声一つ上げずに。 
  そんな中、四人は、賑やかに言葉を交わす。
  派手な装飾の赤い衣装を身に纏った黒みかかった赤髪と朱色の釣り眼が特徴的な女性が、遠く彼方を指差し声を上げる。
  彼女は、ルテ・ルージュ。 この女は、吸血鬼と言う特殊なカテゴリーに類され面子の中でも特別に眼が良い。
  常に逸早く、遠くにあるものに気付き危険等を知らせる役割も担っているのだ。
  そんな、彼女の言葉を聞き一歩先を走るリーダーと思しき女が、急ぐように命じる。
  その女の命令どおり集団は、自分の足である馬達の走行速度を上げた。
  
    「やーっと見えてきたわねぇ! やっばぁぁいみたいーだから、全力で行くわよおぉ!」


  ルテの言葉を聞き、指揮官らしき女は言う。 昔の同胞、ガデッサの事を思い出して。
  女は、美しかった。 丁寧に手入れされた赤紫色のツインテールからのぞく白いうなじ。
  シャープかつ端正な同性にも好かれそうな顔立ち。 翡翠色と琥珀色の美しい切れ長のオッドアイ。
  そして、魅惑的な唇とスタイルの良さを隠さない軽微な鎧は、限界まで女らしさを引き立てている。
  魔界の北端に居を構える流麗の女王と称される最強クラスの悪魔。
  彼女の名をオフィーリア・デルシオン。 
  ガデッサとの交渉を飲み危険が迫っていることをウルブスの打電により察知し援軍を送ったのだ。
  要請から五時間近くが過ぎ、ようやく彼女達はシャングリ・ラの目前まで迫ってきた。
  先ほどまでは馬の体力に気を使い少しペースをダウンさせていたがすでに距離はほとんどない。
  馬の体力を時間を優先させる。 砂煙を撒き散らしながら万を越える大軍勢が不毛の大地を激震させた。

「行くぞおぉ! 貴様等! これは、憎悪すべき天使どもとの聖戦である! 
愚かしく脆弱な奴等だ! 我等ならば容易く蹴散らせよう! 蹂躙せよ! 圧砕せよ! 我等は圧倒的な神の刃なり!」

  一分が過ぎ二分が過ぎ見る見る間にシャングリ・ラと軍勢の距離は確実に狭まっていく。
  そんな中、先駆する四人の面子のうち、唯一の男性が叫ぶ。 
  追随する部下達の様子を一瞥にして戦闘が徐々に近付いていることに戦慄している者達が居ることを確認したのだ。
  背中に背負う巨大な戦斧。 それを背負うにはあまりにも細身の褐色肌の大人しそうな紫の瞳と青のモヒカンが特徴的な男だ。
  オフィーリアが全幅の信頼をよせる智勇に優れた北端最強の男性戦士。 ブルスマン・ハードウェイ。
  オフィーリアの治める地、カントールにこの人ありと称される攻守の要である。
  その圧倒的強者の貫禄を十分に感じさせる深く力強い恫喝は、戦士達に力を与えた。
  死の恐怖すらこの男が居れば吹き飛ばしてくれる。 彼の細い背中はそれ程に大きく見えるのだ。
  
「ブルスマン、やっぱアンタは良い男よねえぇぇ!」
「私は、唯、私の役目を果たすだけであります」

  常に、オフィーリアの右腕として右側を走るブルスマン。 その背中を彼女は、音が出るほどの強さで何度か叩く。
  そして、鼻高々に彼を褒め称える。
  彼は、それに対して別段、勝ち誇ったわけでも何でもなく唯、憮然とつぶやく。
  唯、自分の信念と立場を弁えた行動するのみ。 彼の瞳は強い意志が滲んでいた。  
  
  一方、二人のやり取りに右端の方を走っていたもう一人の幹部は、妬ましい目を向ける。
  かなりの童顔の茶髪のロングストレートと茶色い快活そうな大き目の瞳が特徴的な女だ。 
  名をアリス・クイーン。 
  ルテとどちらがオフィーリアに相応しいかという名目で常に喧嘩を売るほどにオフィーリアに強い憧憬を抱いた女性だ。
  オフィーリアはその美貌と圧倒的な戦闘力、気さくさから女性人気も高い。 
  アリスとルテは、そんな信者達の中でも熱烈な信者だ。
  実は、彼女達と同程度の戦士は多少ながらいる。 
  少なからず居るそんな強者から彼女等が側近に抜擢され最大の理由は、忠誠心なのだ。
  最も、精神年齢が上であり冷静さのあるルテは、アリスの勝手な嫉妬や敵意など意にも介さないのだが。
  彼女は叫ぶ。 もし、地面に足が付くようなら地団太を踏んでいることだろう。

「があぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 何様!? ブルスマンってばマジ何様なのよ!?」
「…………うるさい女だ。 ギャーギャー喚くと舌かむぞ? お前、下手なんだから」

  彼女の嫉妬丸出しの悪態をブルスマンは、いつもいつも飽きないなと嘆息しながら冷淡な返事で軽くいなす。
  その態度が気に入らなかったのかアリスは益々苛立ち罵倒を繰り返す。
  いつまで構っていてもおなじだと嘆息し彼は、彼女をそれ以上相手にはしなかった。

「何なのよ!? 無視!? こんな可愛い女の子を無視すんのかリア充かてめぇ!?」
「お姉様、シャングリ・ラの北門に天使の小隊を発見しましたわ。 どうやら、恐ろしく強そうなお方がお一人」

  ルテ以外の面子でもシャングリ・ラの全容が完全に把握できるほどの距離に到達するまでの十分間。
  アリスは、捲し立て続けた。 
  そして、ついには、鬱陶しくて無視されているということにようやく気付き、無視されたことにすら彼女は腹を立てた。
  流石に唖然としてブルスマンは小さく、お前は子供かと心の中で漏らす。

  一方、そのとき、ルテの声が響き渡る。 どうやら、新たなる情報を察知したようだ。
  控えの天使の軍勢の中に尋常ではない戦闘力を備えた戦士がいることを認識したのだ。
  それは、歴代の戦士、現天使軍最強の男、ハリー・ディロードに他ならない。
  幹部勢、しいては戦士全体の中でハリーと面識があるのは、元天使であるブルスマンとオフィーリアの二人だけだった。
  そのオーラの強さと感覚を感じて二人の全身が泡立つ。 ハリーの存在を悟ったのだ。
  更に、距離を詰めると彼らの目でも鮮明にハリーの姿を確認できるようになる。
  
  壮年の深みのある顔立ち。 浅黒い肌。 恰幅の良い体つき。 そして、山のような巨体。 間違えようもなかった。

「あららぁ、あらあらあらあらっっ! 本気ってことみたいねえぇぇ」
「お二人はあの男のことを知っているのでございますね?」

  冷や汗を流しながらオフィーリアは、うそぶく。 
  表情に余裕はなく今の自分で勝てるかどうか。 そんな値踏みをしているようだ。
  彼女の表情を敏感に察知し少しでもリラックスさせたいと思い会話をしようとルテが言葉を投げかける。
  そんな彼女の言葉にオフィーリアは、一瞬硬直し口を濁す。
  しかし、何れ知ることだと考え直し彼に対して知っていることを全て話す。
  現天使軍の指揮官であり最強の男だということ。 
  それだけでは無く、騎士道に溢れながらも狡猾さも持ち合わせた陰陽併せ持った厄介な人物であることも。
  彼の実力の一端を言葉という形で聞き彼のことを知らない彼女達は、瞠目する。
  唯の言葉だから実感が湧かないなどと言うことは、実物が直ぐ近くに居るのでありえなかった。

「なるほど……つまり、つまる所、あいつが天使軍で最強ってことでしょ?
あれで五番手とか六番手とか言うんだったら本当の絶望だけど……まだまだ何とかなるって逆に思えてきたな!」
「そうですわね! 天使というのはどんな化物共かと実は、過大評価していましたの。 大したことなくて安心ですわ!」

  だが、二人は、今、戦うというのに戦慄を覚えていてどうすると己を叱咤する。
  十分に背伸びして強がってみせるその姿に、オフィーリアは「馬鹿ねえぇ」と小さくつぶやく。
  そして、馬を全力疾駆させ一気に跳躍しハリーの元へと巨大な槍を叩き込んだ。
  
「久し振りねえぇぇ? ハリー司令官様!」
「…………なるほど、貴様も我等に反旗を翻すか!?」

  数人の兵士たちが吹き飛び肉片と化している中。 狙い撃ちされたはずのハリーは、ほぼ無傷だった。  
  彼は、光の防御呪文“シルアラド『封滅光壁』”を咄嗟に発動させ難を逃れていたのだ。
  手傷を負わせれればと多少なりと期待していたオフィーリアは、小さく舌打ちして新たな槍を召還する。
  そして、槍の先端を彼に向けて宣言する。

「あーったりまえでしょー——————!? これは、悪魔全体と天使の戦争なのよおぉぉぉ!」
「なるほどな。 だが、理解すべきだ。 お前等など天使から見ればまだ、成熟していない赤子に等しいということを」

  眉を少し吊上げ怪訝そうな顔でハリーは、オフィーリアの言葉に答えた。
  それは、ある種、傲慢に見えるが現実的な戦力差と長い年月により培われてきた技術の差を加味すれば当たり前のことだ。
  しかし、そんな至極全うな意見に彼女は、沈黙するほど馬鹿でもお人よしでもない。
  彼女は、更に続けて叫ぶ。

「だーっからあぁぁぁ! 何だってんだよぉぉぉ!? 世界がてめぇら中心にまわってると思ってんじゃねぇよおぉぉぉ!」

  彼女が、力強くそう、叫んだ瞬間、ハリーは、話し合いでの解決は不可能と判断し巨大な剣を顕現させる。
  その横を、ようやく追い付いたブルスマンたちが駆け抜けていく。
  瞬間、二人の目が交錯し無言の会話がかわされる。
  ブルスマンは、理解した。 彼女は、ここは私に任せろと言っているのだと——————

「ご武運を」
「そっちは、頼んだわよおぉぉぉん」

  ハリーの戦闘スタイルと気術の能力を考えると数を増やすのは得策ではない。  
  それを理解しているブルスマンは、一緒に戦うとオフィーリアの一見無謀な特攻を見逃せないルテたちを制しながら疾駆する。
  痛みを歯噛みして。 絶対、彼女が生きて帰ってくることを祈って。

「良いのか? 死ぬぞ?」
「ばっかじゃないのおぉぉぉ!? 最初っから殺し合いでしょうがあぁぁぁぁぁぁ!」

  冷淡な声でかつての同士を慮るハリー。
  そんな彼の行為が果てしなく腹立たしくてオフィーリアは苛烈なる力を爆発させた。
  唯、それだけで数人の天使が吹き飛ぶほどの力を…………
  


   戦いは、最終局面へと移行する。


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