複雑・ファジー小説
- Re: 黒白円舞曲〜第1章〜 10曲No3更新 12/6 コメ求む! ( No.149 )
- 日時: 2011/12/26 23:13
- 名前: 風(元:秋空 ◆Z1iQc90X/A (ID: G9VjDVfn)
黒白円舞曲 第1章 10曲目「天使進撃 Part6(援軍)」No4
「ふむ、昔より尚、腕前が上がったなオフィーリア。 しかし、まだまだ! 軽いぞ!」
大地を砕くほどの踏み込みで草食のない巨大な無骨な剣を振り翳すオフィーリア。
その大剣の一撃を手投げ斧で容易く壮年の男、現天使軍最強の戦士ハリーは受け止めてみせる。
鋭く速く正確に練磨されたその剣筋を褒め称える姿は、昔を懐かしむようだ。
そんな彼の余裕綽々とした態度に苛立ちオフィーリアは舌を打つ。
「あーぁー! 何その目! 全然、闘いに身が入ってないぃじゃぁないのおぉぉ!?
嘗めてんのかあぁぁぁぁぁ! ロートル相手だからって手厚く優しく母性溢れる慈愛の天使演じてくれるなんてえぇぇ……くっ!」
「失敬。命のやりあいで手を抜くなど侮辱以外の何でもないな。手加減はせぬ。
然らば小娘。お前も全力を掛けねばなるまい? ディアスリグリオ(千辺乱鋭風)!」
更に、男の慈愛すら感じる瞳を見て歯軋りし声を張上げる。
気に食わない。本気で殺しに掛かっているのにもう、同胞でもないのに何をこの男は!
オフィーリアは、怒りを顕にしながら怒鳴る。昔馴染だからと手加減してくれるとでも思っているのかと。
無論、目の前の男が、今の地位につくには厳しい経験や良識を捨てて駆け上がってきたと言う事実を知った上で。
だからこそ、気に食わないのだ。ハリーは、唯、強き戦士に賛辞を述べているだけなのだが。
気の短い彼女の神経は、逆立てされるばかりだ。
それを理解した彼は、苦虫を噛んだような表情を一瞬して当然かと小さく呟く。
そして、会話の最中の彼女に容赦なく攻撃を浴びせる。会話中に攻撃とかデリカシー無いわねなどと彼女は毒づく。
しかし、彼は、そのような言葉は無視して本気で戦うことを宣言した。
圧縮された苛烈な力の本流が天を貫く。それを見てオフィーリアは、愉悦に頬を歪めてみせる。
その瞬間、呪文と共に尋常ではない量の針のように先端の細い圧縮された竜巻が出現した。
それらは、彼の右手の一振りにより全て彼女へと向かっていく。
「何よおぉぉ!? この馬鹿げた数はあぁぁ……逃場……ないじゃないのおぉぉぉぉ!
ったく、ちまちまとした攻撃いぃぃぃ、しやがってんじゃねぇわよおぉぉぉ!
薙ぎ払いなさいシン・フェリアアァァ(火神の焔鎚)!」
ディアスリグリオは、強大な力の持ち主ほど大量に発生されることができる。
目の前には、見たことも無いほどの膨大な量のそれが存在していた。改めてオフィーリアは、彼に敬意を評す。
だが、派手好きな彼女としては、数で押すこの魔法は好きではない。
すぐにざっくばらんで身勝手な性分が呼び戻され強烈な怒りとなって爆発する。
彼女は、握り拳を大地へと打ち据えて甚大な威力を誇る天使族の使う炎属性魔法最高位の一つを発動させた。
巨大な炎の柱が全てを薙ぎ払う。彼女へと接近していた全ての暴風が一瞬にしてかき消され……
うねり大気すら焼き千切るのではないかと思える光景。それが過ぎ去った空間は、何一つ存在していなかった。
二人の甚大な神気に充てられ行動不能となり退避できなくなった天使数名が、無情にもそれに飲み込まれ消失する。
大地が削げ巨大なクレーターがそこにはできた。
「相変わらず派手好きだな。ふむ、我が部下も何人か飲み込まれたか。許せカイゼル。息子が逝ってしまったよ」
「部下の心配なんてえぇぇぇぇ! 戦場でするもんじゃねぇだろおぉぉぉがあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
シン・グリオランスウゥゥゥゥ(火神の宝槍)!」
それを微動だにせず黙視していたハリーは冷厳と口を開く。
そして、昔のままだと感慨深そうにしながら、実力は高くなったが性格的にはかわらないのなら戦い易いと思索する。
その傍ら、自分の指揮能力の埒外で死んだ部下達に哀悼の意を口にし悼む。
その中の一人は、彼の同期の数少ない生き残りの息子だった。
そんな彼に忌々しげに瞠目しながらオフィーリアは、最強の炎魔法の一つを惜しげもなく発す。
しかし、戦場は、仲間の死を嘆く暇など無い。
シン・グリオランス。シン・フェリアの横バージョンと言った所だ。
その伝家の宝刀は、大地を焦土へと変えながら凄まじい速度でハリーへと飛来する。
彼は、それを鋭い目で睨みつけ強大な神気を巨木のような手に集中させ、強引に炎の槍を握り拳で殴りつけた。
炎の槍は、彼の拳に当った瞬間に歪む。そして、拡散しハリーの前の大地を深く抉り消滅した。
強力、相手の魔力以上の魔力で魔法の力の進撃を防ぐオフィーリアと比べても、なお巨大な力。
彼女は、澄ました顔をしているが内心この化物にどう勝つか逡巡している。額から汗が滲む。対峙して未だ数分なのに。
『うむ、妙だ。如何にこの千年でオフィーリアが強くなったとは言え……
思えば昔から感じていた。ガデッサが弱くなったのだ! 本来なら小生すら奴を止める事など不能!
妙だ。年か? 否、有り得ぬ。ならば、病か……? 否、それも有り得ぬ。 一体、何が? そもそも奴は……』
一方、ハリーはオフィーリアを目の前にして全く違うことを思案して居た。
それは、魔界開闢以来続く堕天使と天使の終る事ない闘争の歴史の中で幾度と無く感じていた違和感。
天使族の歴史上最強と謳われたガデッサの実力。今でも充分強いと言って良いが可笑しいのだ。
本来ならハリーですら勝負にならない強さを持っていたのに今や目の前の彼に劣る女性にすら力負けしているのだ。
強者両方の神気を充分に感じ測定できる恵まれた状況だからこそ、疑念が湧く。
一体、何故。拭いきれない違和感。
一方、その頃、オフィーリアにハリーの件の全てを任せシャングリ・ラ本営内に突入したブルスマン達は。
敵と遭遇し各々の戦いを繰り広げていた。天使の残党を常に背負う戦斧で薙ぎ払うブルスマン。
敵軍指揮官の一角を二人掛りで手玉に取るアリス達。
その他、指南役を務めるブルスマンが、手塩に掛けて育てた精鋭達による蹂躙。
戦況は、一気に傾き均衡。或いは、僅かながらガデッサ側に傾いていた。
「死にたく無くば退くが良い! 雑魚の命など興味は無い!」
「はっ! モヒカン野郎! 愉快な髪型で薬でも決まってン……ガッ!?」
旋風の如く疾駆するブルスマン。その通過した後には、無残な屍が累々と積み重なっていく。
そんな別次元の相手に並みの戦士達は、恐怖と無力感で体を竦ませ逃走を図っていた。
ブルスマンとしてもこの様な将軍格の居ない僻地は、できれば速く通過したい。有り難いことだ。
しかし、どのような場でも愚か者は居る。青い髪の粗野な雰囲気の若者だった。
彼は、彼我の実力差も理解できず大仰な手振りでブルスマンを挑発する。
瞬間、何事も無かったようにブルスマンは彼の横を駆け抜けた。鮮血が盛大に舞い散りタイルで舗装された道路に花が咲く。
「戦場では、弱く愚かなことは罪だ。一つならばまだ良い。しかし、両方揃っていると手に負えぬ。
強者の愚かな強攻は、時に敵を驚愕させ弱者の賢き逃走は、危険への道標となる。
しかし、両方揃っていては文字通り何も有るまい」
誰に言うでもなく疾駆しながらブルスマンは呟く。
長年の戦役の中、経験と現実を直視し手にした思想だ。
だからこそ彼は嫌悪する。弱く愚かな者を。だからこそ彼は、部下にも厳しい。それは、モチベーションが高いと言うこと。
彼は、手を抜かない。何時何時も思索し部下を愚かと弱さの両方を持った詰らぬ者に育てまいと手を尽くす。
常に部下達の心情や抱えている悩みに耳を貸す男なのだ。
しかし、敵対者、こと愚かで弱き敵対者に関しては容赦は無い。
彼は、戦場では、悪鬼と化し所属する組織では、実に賢き指導者となる。
「凄い! 何と言う戦士だ!」
「やっと、増援が来たぞ!」
「あの人に続けえぇぇぇ!」
「俺達、助かるのか!?」
「ブルスマン将軍だ!」
そんな頼れる男の到来に、多くのシルヴィア所属の者達は歓喜した。
彼らを発見した戦士達は、殆どがブルスマンの近くへと移動する。彼の実力を知っているから。
彼の傍にいるのが一番、安全だと知っているから。一方、ブルスマンはそんな彼らの行為を弱いと斬ることはしない。
彼らの行動は正しいからだ。すなわち愚かではないからである。
「ひゃあぁぁぁ、ブルスマンの奴、野郎に囲まれまくってるけど嬉しいのかねぇ?」
一方、瞬く間に大集団と化した同胞を一瞥し憎たらしげにアリスは言う。
戦闘中だが、元々実力の拮抗する程度の奴を相手に二人掛りで挑んでいるので余裕のようだ。
ブルスマンが見ていれば愚かなことをと水を差すだろう。そんなことを考えながらルテは、嘆息しアリスを諌める。
ちなみに彼女の口から出たのは、そんなことを言ったら男性戦士は皆ホモになってしまうのでは?
と、さり気なく酷い言葉だ。
無論、組織にはルテにもアリスにもオフィーリアにもファンクラブが存在するし生粋の同性愛者など指で数えられる程度なのだが。
「馬鹿なことを仰っていないでさっさと殺しますわよ。速くこの殿方の血を味わいたいですの」
「ひっ! なっ、何を言っている!? このリベンサイス家の第四王子である私に!」
話の合わないアリスを諌めルテは、気軽な口調で残忍な事を口にする。
全て本音だ。彼女は、吸血鬼の血を受け継いでいて気術すら血に関連する生粋の血液愛好者。
対戦相手全ての血に興味を示す。不味い血も美味い血も直接飲んで見なければ分らないのだ。
涎を流しながら目の前の長身の銀髪オールバックの高貴そうな男性を見詰める。
その様を見てもっと、相手を弄びたかったのにとアリスは毒づく。
そして、溜息をつきながら気術を発動し男の心臓に強く触る。相手の胸が圧迫され声が出るほどに強く。
「ポイズンリースト……貴方は、苦しんで死ぬのがお好み? それとも断末魔も上げないで一瞬で死ぬのがお好み?」
「どっどちらも……嫌いだ! 当たり前だろう!? 死にたく……」
ポインズンリースト。自分の掌に強く触れた物に様々な種類の毒を浴びせる事ができる能力。
毒の精製や性質は彼女の気分次第だ。
無論、酸で溶かすように皮膚を焼くこともできれば出血熱の類のように血を噴出させて殺すこともできる。
今回は、体が徐々に冷たくなっていく毒だ。相手が、一瞬で死にたいと言わなければ彼女は、常に残酷な殺し方をするのだ。
子供が、虫を潰すように。残酷に。純粋に楽しんで————
「嫌だ。私は……死にだく……な゛……ヒィ」
「おい、ボンボン。情けねぇ声出すなよ? 末代までの恥だぞ?」
寒さに体が耐えられなくなり徐々に青白くなっていくリベンサイス。
それをルテは、内心苛々しながら見ていた。
こんな奴に時間を掛けていられないと言うのと冷たい血は、余り美味しくないのが原因だ。
しかし、力関係では多少アリスが上なため安易に口答えはできない。
それに、冷たい血は冷たい血で味わいがあると彼女は諦めることを知っている。
サティズム全開なアリスを見ながら速く終れと念波を飛ばす。
念じ始めて数分、ついに男は呼吸を停止させ絶命した。
「終ったよぉルテ!」
満面の笑みでアリスが言う。
ルテは「遅いですわ!」と、毒づきながら男の死骸を抱き起こし血を啜る。
「うっくっ……はぁ」
「ど、だった?」
そして、お嬢様のような上品な容姿に似合わぬ豪快な音を立てて一気に血を吸飲する。
一気に、一リットルは飲んだだろう。
口内に残る濃い血の味を確かめながらルテは、目を瞑る。何時だってこの瞬間は極上の喜びだ。
ドロリとした口触りと僅かに酸味の利いた血液。喉越しも重厚。それなりの味だと評価する。
しかし、アリスに声を掛けられて快楽の世界から呼び戻され不快な顔をして彼女は答えた。
「いっ今一でしたわね!」
「嘘吐き」
本来なら上質な地にありつけた高揚感で小さなことなど気にすることも無いのだが。
何だか今日はアリスが自棄に腹立たしいと思うルテだった。
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