複雑・ファジー小説

Re: 黒白円舞曲 第1章 10曲No5更新 12/30 コメ求む! ( No.162 )
日時: 2011/12/31 16:53
名前: 風(元:秋空 ◆Z1iQc90X/A (ID: Me0ud1Kf)

黒白円舞曲 第1章 10曲目「天使進撃 Part6(援軍)」No5



「いっ行きますわよアリス! ノロノロしないでキビキビ前進ですわ!」
「出たよぉ、仕切りやモードぉー」

  
  顔を赤らめながら進むべき道を指差しながら上擦った声でルテは、アリスに指示を下す。
  そんなルテの指示に物言いたげな表情を浮かべながら、文句言ったら言ったで面倒だなとローテンションで従う。
  そんな彼女に対しルテが、渋面を造り説教する。

「アリス! 何ですの、その張りの無い声と顔は!? 私を馬鹿にしていらっしゃいますの!?」

  結局、何かしら指摘してくるのかと溜息を吐きアリスは、表情を改め足を速く動かす。
  それを見てルテは、満足そうに指を立て「それで良いのです」と、偉そうだ。

『ハァ、説教大好き真面目委員長は扱い易くて良いなぁ』

  そんなある種単純な彼女を見て、脳内で一人アリスは呟く。
  口に出したら面倒なことに成りそうだから。

  一方、ゆっくりと進撃して居た彼女達の遥か先を走るブルスマンは、強大な力の奔流に遭遇する。
  その力は、どちらも上等で拮抗しているように感じてしまう。
  つまり、濃度が濃すぎて彼の感知限界を超えていると言うことだ。
  この先で激闘を繰り広げる者達の実力を冷静に測り彼は、後進に手信号を送る。
  全員東側へ迂回して戦力が集中する地点へと進め。彼の手信号を良く理解する部下達がそれに気付き動き出す。
  彼の勇猛果敢な活躍ぶりに魅せられ安心を求め付いてきたガデッサ側の戦士達。
  彼らは、数歩遅れてブルスマンの指揮の意図に気付き彼の部下達を追う。

「それで良い。この先に居る者達は、並の戦士の手に負える者達では無い」

  務めて悠然と部下達の行動をブルスマンを見送る。
  そして、目の前の駆逐すべき敵に全集中力を注ぐ。部下を気遣っていては、相手に出来ない様な強者の威圧感。
  久方ぶりに感じるものだ。彼は、魔界に彷徨いこんで一人で居た頃、何よりも孤独を愛する無頼漢だった自分。
  会う者達は皆、自分より弱く自らの力も分らぬ愚か者ばかり。
  そして、彼に好意を寄せて歩み寄る者達も全て弱く。自らより上の存在を妬む風潮のある魔界では、彼に降掛る災難は多く。
  多くは、彼と腕に覚えのある他者との戦いで捲き込まれるか人質にされて死ぬかのどちらかだった。

  正直、彼は、腐っていたのだ。今の主であるオフィーリアに会うまでは。
  頼れる者は自分だけ。他者との関わりは、心の重荷と行動の重荷の両方を持つ。
  心を鎖す。関わりを持つまいと逃げる。何時しか、他人を威圧し近づけないために髪型を奇抜にして。
  常に自らの武器である巨大な斧を見せびらかすようにした。
  それが、変わったのは自らより強いオフィーリアに会ってからだ。彼女は、自分と居ても壊れない。
  否、それどころか自分を鎮圧することすら出来る剛の者。魅入られた。そして、彼女の強い意志に引き寄せられる。
  何時しか彼女は、神格化され彼女の仲間は意地でも守ると言う信念が、冷めた彼の心にある感情を去来させた。
  何が何でも護れる者は、護ると言う意思。
  ガデッサ側の戦士は仲間だ。天使は必ず倒す。
  
  しかし、彼の行動にはそう言った彼の信念に根ざしたものだけではなく。
  この苛烈な神気のぶつかり合いに彼自身が、強者との戦いを渇望して居たことを思い出す。
  それ故に、彼は、その粗暴な性質を嫌われ神に堕天させられたのだから。
  弱者を護り倒すべき強者を倒す。その二つの彼の中に在る渇望は、見事に消化されていた。

「甘いなリガルド。魔法を目晦ましに武器を伏兵とした積りだろうが、丸見えだ」

  全力でぶつかるためには馬は邪魔と感じたブルスマンが、馬を止めるとほぼ同時。
  ドッと言う空間を震撼させるほどの大音響が響き渡り家屋が吹き飛ぶ。
  その先には、茶色の短髪の筋肉質で長身の男が居る。羽の色から察するに援助対象だ。
  続いて、冷然とした女性の声。どうやら、神気に聖なる波動を感じる。此方が、敵方のようだ。
  姿を現したのは絶世の美女。
  焔のような真紅と深海のような青の深めの色をしたオッドアイと整えられた黒の長髪。 
  そして、表情の抜けた色白の相貌は、精緻で美しく異性はおろか同性すら魅了するほどと言って差支えが無い。
  ブルスマンは、彼女の要望を見て息を飲む。この美貌で更には、強さすら持ち合わせるとは神は、選り好みするらしい。
  喉でクックと笑い不公平だなと当然のことを改めて実感し彼は、戦斧の柄に手を添える。
  詰る所臨戦対戦だ。

「甘いぜセリス姉さん。伏兵の伏兵さ」
「……それも気付いて居たさ」

  セリスと呼ばれた美女とブルスマンの距離は約三十メートル。彼の移動能力をすれば一秒と掛かるまい。
  しかし、そんな中でもリガルドと呼ばれた男は最後まで援助を嫌うように立向かう。
  家屋と家屋の間の細道から巨大な手裏剣が飛び掛る。
  しかし、彼女はそれを悠然と回避し剣を通し回転力を殺し男に投げ返す。
  男は、その攻撃を上半身を逸らし回避する。瞬間、セリスが大地を蹴り自らの剣で男を全力で突く。
  しかし、その刃は届かない。それどころか澄んだ綺麗な金属音を鳴らし、真っ二つに折れ宙に吹き飛ばされた。
  限界まで気配を殺していたブルスマンの接近に彼女は気付いていなかったのだ。
  否、目の前のリガルドと言う男が、彼女をそれほどに本気にさせる相手だったのが幸いしたといえよう。
  彼女は、飛び退り新手を睥睨する。

「助太刀に来た!」
「……有り難いね。恥かしながら正直、追い詰められてたんで」
 
  少々芝居掛かった口調の男を一瞥しリガルドは、心の底から援軍を有難がる。
  二人の刹那の切りあいに入り込み天津さえ彼女の剣を折ったのだ。目の前の斧使いの実力は、信頼に足るだろう。
  冷静に分析し豪気な笑みを浮べリガルドは、メインの武器である太刀を出出す。
  その二人の強者の姿を見てセリスは、麻薬の極まった中毒者のような狂人的な笑みを浮かべる。
  あれほど作り物染みた顔の造りをしているのに、一体どうしたらあんな表情を出来るのか。
  それ程に破顔して……

「良いわ。今日は、最高の日ね。御機嫌よう素晴らしく強いお方。お会い出来て光栄だ」

  両手を広げ凄絶な笑みを浮べケタケタと笑う。その声は、澄んだ綺麗な声質なのにおぞましく。
  その笑みは精緻なのに狂気が膨大で。この女の魔性は、最早堕天した当時のブルスマンなどより遥かに悪魔的だ。
  なぜ、この女は堕天していない。ブルスマンは怪訝に眉を潜めた。  しかし、そんな彼にとっては虚を突かれた様な光景の中でも青年は、迅速に動く。
  彼女の本性を知っていると言うのも強いだろうがそれ以上に既に、高揚状態なのだろう。
  頭が、完全に戦いだけに向いている。
  彼女が、馬鹿笑いしている最中が好機と容赦ない斬り下ろしを彼女に見舞う。
  セリスは、この攻撃に大仰なジェスチャーをして居たため反応が少々遅れる。
  リガルドの攻撃は、彼女の顎を霞めた。少量の血が彼女の顎から零れ落ちる。

「おい、オッサン!」

  飛び退り久し振りに流した血に彼女は、多少驚く。
  その間にリガルドは、ブルスマンに話し掛ける。
  彼の呼び方にブルスマンは、気分を害したらしく少々眉根を潜め「オッサンではない」と、否定するが。
  彼は、それを無視して告げる。

「いつまで呆けてんだよ! 力が強ぇだけの木偶の坊かよ!?」

  そう怒鳴って一瞬、セリスから目を逸らすリガルド。 
  だが、そんな大きな隙を彼女は見逃すはずがない。
  仕返しとばかりに、集中の途切れた彼に新たに召還したダガーで切りかかる。 
  そんな彼女の腕を横からブルスマンが、握り動きを止めた。
  セリスは、ブスルマンの怪力に驚く。強く握られ神経が圧迫され感覚が無くなりダガーを落とす。
  彼女は、このままではこの二人を相手にするのは無理だと悟り中空へと逃れる。

「成程なブルスマン・ハードウェイ。噂に違わぬ勇士だ。貴君とその愚弟を相手にするには私も相応の力を発さねばならぬようだな」

  手で顔を隠し右目だけを覗かす。彼女の癖だ。本気を出すときの合図。
  武勇に秀でた戦士が揃うハーレイ家にあって無双とされる圧倒的な戦闘力を誇る彼女の気術が発動されようとしている。
  その大質量のエネルギーは、龍となり造られた青の世界を貫き天を焦がし朱々と染め抜く。
  甚大な力が、土中から湧き上がり大地が浮ぶ。ビシビシ大音量を上げて。
  想像を絶する光景だ。確かに気術は、上位の者達の切り札である。
  しかし、だからと言って気術を発するだけで是ほど鳴動が起こるのは常識的ではない。寧ろ逸脱しているだろう。
  彼女の力は、ブルスマンが今まで長い性の中で見てきた戦士の中でも一、二を争うレベルだ。
  憧憬の念を感じる主君を超える格。
  対抗馬となりうるのはハリーやガデッサと言った最強の名を冠する資格のある者達だけだろう。
  息を飲む。果たしてこれほどの化物に二人掛りとは言え勝てるのか。

「化物か!?」
「化物さ——第二のガデッサとか言われるほどのな。
だが、気術は、発動の派手さこそあれ戦闘タイプじゃぁ無ぇはずだ……」

  神気が、放出されバチバチと電気のように迸る。圧倒的な力の嵐で今にもリガルド達は吹き飛ばされそうだ。
  第二のガデッサと言うリガルドの言葉にブルスマンは当惑する。其れは詰り、力だけでは無いと言うことではないか。
  ガデッサは、戦士としてだけでも圧倒的だった。しかし、彼にはもう一つ圧倒的なものがあった。
  誰一人としてなしえなかった多重気術の顕現。
  不可能とされた事を彼は、遣って退けたのだ。戦闘タイプじゃ無い能力をこの局面で出す意味が有るのか。
  もしかしたら彼に知らせていない第二の気術を有している可能性もある。
  そう、思わせるに充分な化物だ。
  ガデッサ以来、彼の体験談と修行の仕方を聞き真似した者は沢山居た。
  しかし、それらは皆失敗し命を落としている。

「なぁ、リガルド。私の気術は、戦闘には向かないよな?」
『冷静な分析だ。始めて追い詰められて気がふれて形振り構ってられなくなったってわけじゃないのか? なら何で……まさか?』

  セリスの周りをうねる竜巻が晴れ、彼女の美貌が覗く。
  気術の開放が終了したのだ。それと同時に、リガルドの疑念をそっくりそのまま彼女は口にする。
  彼は、目を見開く。意識が混濁し制御できなくなったのか。
  そこまで取り乱す要素は無い局面のはずだが、そうで無ければ戦闘タイプじゃ無い能力を解放する理由が無い。
  そこで彼は、大きな思い違いをしていると思い付く。
  ガデッサは、長い天使の歴史の中で唯一二つ以上の気術を手に入れた。
  彼女が第二のガデッサと呼ばれるなら——
  しかし、その考えに思いが及んだ瞬間彼は、何かに貫かれ倒れ込む。

「ガハッ——!? 何……だこれ……は!?」
「私は、複数の気術を使える。唯それだけさ——」

  貫かれた腹部から大量の血が流れ続ける。圧倒的な神気を纏った回復困難の一撃。
  想像を遥かに上回る実力の同門の女をリガルドは一瞥する。
  体中が暑さと寒さを連続で訴えた。鉄臭い匂いが鼻孔を支配する。心臓が早鐘を打つ。
  意識が朦朧としてきた。
  そんなリガルドを抱かかえブルスマンは宣言する。

「若僧よ。お前は充分頑張った。もう、休んで良い頃合だ。此処からは私が、引き受ける! 
倒すとは言わずとも彼らが撤退するまでは持たせるのが私の義務だ!」
  
  ブルスマンは、手刀を造り小さく結界の術式を唱えリガルドを護る結界を張った。
  そして、強い意志に満ちた瞳をセリスに向けて戦斧をかざす。
  セリスは、口角を吊上げ臨戦態勢に入る。

「殺し合いの始まりだよ。望んでいたぞ。力と力のぶつかりあうこの世界を!」

  セリスの言葉が終るか終らない位の時に、二人の武器は重なり合う。
  周りにあった建造物を全てその二人の剣戟は薙ぎ払った——





Fin

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