複雑・ファジー小説

Re: 黒白円舞曲  二千突破です! ( No.175 )
日時: 2012/01/12 13:23
名前: 風猫(元:風 ◆Z1iQc90X/A (ID: SqbaeWwr)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜黒白円舞曲〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  オフィーリア達の援軍の甲斐あって戦況は、徐々に拮抗しつつある。
  天使群の主翼は、以前余裕を保っているが彼らは、カナリア奪還という目的に賛同した数少ない者達。
  形成が大幅に傾いた今では、撤退を選ぶ可能性が高い。
  最も事の首謀者であるサイアーは、狡猾な反面ハーレイ一族の中でも最も家族を第一に考える男だ。
  形勢が圧倒的に悪くならなければ逃走は図らないだろう。

  シャングリ・ラに光が射し世界が輝く。周りは、天使悪魔関係なく死骸の山。
  常人が見れば反吐を吐いて倒れこむほどの光景が広がっている。
  しかし、戦いは続く。
  主軸である上位の力を有する者達の戦いは熾烈を極め、最早シャングリ・ラの外観はほとんど失われていた。
  ファンペルと戦うガデッサは、自らが設計し全力を懸けて構造した城砦が壊滅していくさまを無感動に眺めている。

「のぉ、ガデッサ? 何とも思わんのか?」
「思ってどうするんですか? 所詮壊れることを前提に造ったものですよ?」

  その様子を一瞥して武器をまじ合わせながら禿頭の老兵は問う。
  少しでも揺らいで隙ができればという魂胆だが、ガデッサには通用しない。
  彼は、怜悧さの漂う無感情な目で感情の伴い声で答える。
  これほど精緻でこれほど近代的な造りの都市が、壊滅を前提に作られた物なのか。
  老兵は、瞠目し一瞬逡巡した。その隙をガデッサは逃さない。

「ラグ・ロー(雷槍)」

  一瞬、ガデッサの掌が光を発したと思ったら槍のような形状の雷撃が発される。
  咄嗟にファンペルはこれを防ぎ体重を逸らし受け流す。老練された動きだ。が、しかし遅かった。
  行動が、一瞬遅れた事により大きな損傷を負う。これ以上の戦闘は不可能なほどの。
  だが、倒れこむ彼は思う。頭を過るのは疑念だ。手合わせした瞬間から思っていたこと。
  否、手合わせする前から部下が一瞬で惨殺された光景を目にした時から。
  目の前の男が、あの程度のはずが無い。この男は、老兵ファンペルの知る限り会うごとに弱まっている。
  精神状況や体調などを加味しそれでいて最弱の値を算出しても、彼がこれほど弱いはずが無い。

  何しろ天界に居たころは、神掛かっていた。
  総数四つの強力な気術を有し八属性中実に七つの魔法を使いこなす。
  怪物と呼ぶに相応しい。神々の寵愛を一身に受けた天才。それは、武器や素手の戦闘にも恐ろしく秀でていて……
  ファンペルの全盛期、旋風などと異名されていたころの彼を物ともしなかった。
  そればかりか現在、天使軍全軍を統率する強者ハリーと二人掛りで戦いを挑んでも何も出来なかったのだ。
  そんな目の前の男が、今回は老衰し力おとろえた自らと互角に立ち回る。

  無論、まだまだ、年齢で力が落ちるような域ではない。
  訝しむファンペルは、しかし考えるだけ無駄だと頭を振るう。
 此処が戦場である限り、自分は止めを刺されるであろうことは明白だからだ。
  彼は、瞑目し今までの記憶に思いを馳せる。
  家族との思い出。仲間と馬鹿騒ぎした思い出。数々の武功。走馬灯のように駆け抜ける。
  しかし、止めの一撃は来ない。
  幾ら何でもまだ痛みを感じる程度の体力は残っているはずだ。
  再度、彼は訝しがった。そして、恐る恐る目を開く。

「ファンペルさん……アンタには生きて欲しいんだよ。
老人は老人らしく家の中で余生を暮らせよ?俺からのアドバイスだ」

  老人の目に映ったのは花束を投げるような仕草をしているガデッサ。
  恐らくは、別れの挨拶だ。止めを刺す気は無いらしい。
  それとも動くことが出来ない状態になった相手に攻撃するのもエネルギーの消費だと算段したのかもしれない。
  何故、生きて欲しいのか。ファンペルは呆然として彼の後姿を見送るしか出来なかった。
  老人扱いされた怒りが途端に湧き上がりファンペルは舌打ちする。
  地面を殴りつけてやりたかったが生憎と手も動かないから。

「くうぅ、あんの小僧がぁ! まだまだ、某は現役じゃあぁぁ!」

  罰の悪い表情を浮べファンペルは喉を鳴らしながら小さく毒づく。
  そして、直ぐに周りを見回す。此処は敵地だ。
  幾ら的に見逃されたからと言って他の者にも見逃してもらえるなどという保障は全くない。
  彼は、感覚を研ぎ澄まし五感と神気察知の両方で敵兵の有無を確認する。
  周りに敵兵の気配は無い。既に激戦区に皆が集合しているのだろう。
  兎に角、彼は目を瞑り気配を消し死んだフリをする。
  敵対者が着て攻撃されたらどうしようもないからなるべく攻撃されない状態をつくらなければいけないのだ。
  最も、仮死状態は長く行っていては本当に生命活動が止ってしまうので老人は冷や冷やである。
  一刻も早くどちらの勝利でも良いから……なるべく天使軍の勝利に終ってほしいが。戦いが終結する事を願う。



第一章 十一曲目「天使進撃 Part5(終幕)」Part1



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