複雑・ファジー小説

Re: 黒の魔法使い*55話更新 ( No.127 )
日時: 2011/06/11 12:20
名前: 七星 (ID: sicBJpKD)


Episode 57 [消えた協会]


「行くの?」
「当たり前だろ。」
答えなんて初めから決まっていた、とでも言うように呟く。緋月は一瞬だけ柔らかな笑みを浮かべ、すぐにきゅっと眉をしかめるような顔になった。
ごそごそと懐からなにかカードを入れるための袋を取り出し、中から一枚とってシキト手渡す。今にも走り出そうだったシキトはなんだ?と少し焦りながらそれを受け取る。
「…魔方陣?」
「うん。」
手渡されたそれは、小さな紙の中に複雑に書き込まれた紋様。ビリカや悠の際に見た魔方陣そのものだった。
なんでこんなものを、と緋月を見つめる。
「あのねシキト。書くだけなら魔法が使えない人だって出来るんだよ。つまり、それにどう魔力を込めるか、文字列になぞった魔力を込めれば、魔法として完成というわけだよ。魔方陣ではそもそも詠唱はいらないんだけど、わりと現代では不完全、不安定になっているようでさ、そのおかげで、時間も消費されてしまっているようだけど…、」
「ちょ、ちょっと待て!つまり、その、どういうことだっ!?」
「この文字列にそのまま魔力を込めればあっという間に協会に行けるってこと。」
「でかした!!」

なんでそんなこと知っているんだ、とか。いったいどうこでそんなこと。とか。どうしてそれを、とか。言いたいことはあったのだけど。

「行っけええぇぇぇ!!!!!!!!」

シキトは紙に魔力を込めながら、ばしん、と地面に紙を叩きつけた。瞬間、地面に大きく丸い紋様が広がる。地面が文字になぞって発光し、辺りを光に包む。
緋月は一瞬大きく目を見開いたが、すぐ元の顔に戻り、シキトの真下に浮かぶ紋様の中にひょい、と入り込んだ。シキトが何か言う前に二人の姿は消えた。


「なんで来るんだよ!」
「いやだって置いてくじゃんシキトのことだから。その前に。」
しゅん、と二人の体が現れた瞬間、先ほど言おうとしていた言葉をシキトは叫んだ。でもどうせ俺場所知ってるんだけどね。と言う緋月の言葉にうっと詰まる。

「…で、この光景はなんなんだろう、か。」
ぼそり、と独り言のように、緋月はシキトと違う方向を見て呟く。訝しげに思ったシキトは同じ方向へ。本来なら教会があるべき場所そこには、

何も無い空き地が。

「…っ!」
何で、何で教会が無い?場所を間違えたのか、と思ったけれど周りの風景から、ここで合っている、という絶望的な確信を持たせる。
「どういうことだ…?」
「どうって…、攫われちゃったみたいだね。協会ごと、全部。」
「なんでお前はそんなに落ち着いてんだよ!」
「酷いなシキト。俺これでもすごく焦ってるんだよ?頭の中考えっぱなし。」
先ほども似たような会話をした…気がする。けどそんなこと考えている暇は無い。
おい悠!ビリカ!と見知った名前を叫んでみる。返事は無い。
どういうことだよ、おい。

「…空間魔法に関する転移系魔法、エフィス・クルード著、83ページ第三章、建物に関する転移魔法…。」
「…緋月?」
ぶつぶつと何か呟いている緋月に、訝しげにシキトは視線を向ける。
「ねぇシキト、移動したんじゃないかな。協会は。」
そう数秒の後、緋月は答えた。