複雑・ファジー小説
- Re: 黒の魔法使い*敵キャラ募集 ( No.34 )
- 日時: 2011/03/25 15:58
- 名前: 七星 (ID: sicBJpKD)
Episode 20 [銀の鎖]
学校に行くと、悠がいた。
「…………。」
「ん、なんだお前。なんでそこに突っ立ってぴくぴくしている。不気味だぞ。」
「なんでっておま…!」
悠は確か、教団に襲われ、酷い怪我負ったはずだった。確か矢畑が言うには、回復魔法で治療しているはずだが。
「何言ってる。もう休日またいだんだ。治ってるに決まってるだろう。」
「知らねえよっ!」
なぜか半ギレで突っ込むシキト。悠はわけがわからない、という風にシキトを見てくる。シキトはばこん、と悠に向かってでこピンした。何をっと悠はぎろりとシキトを見る。
「暴力はいけないのででこピンしました!」
「意味わからんわ!!」
「うるさい心配させた罰だ!」
怒っているシキトであったが、内心では酷くほっとしていた。
良かった。良かった。本当に、良かった。
泣きそうなくらい、ほっとしていた。
「あーあいかわらず仲良いねー。二人とも。」
そこににこにこと笑顔の緋月が入ってきた。仲良いね。と心のそこから言う緋月に二人は一言。
「「うるせぇ(さい)学年一位。」」
「…まだ根に持ってるんだ。それ。」
眉をハの字に曲げて、笑顔を苦くする緋月。
「そういえばさ、また転入生だって。多いよね。」
「は?転入生?また?」
「うん。外国から。違うクラスだけどね、先生たちが言ってるの聞いたんだ。」
「外国…。」
ぐわ、と悠の方を向き、腕を首にかけて、無理やり顔を近づけ、小声で話す。
「おいおい、まさかまた魔法使い関連じゃないだろな?魔法で情報操作?とかそんなことじゃないだろな?」
「可能性はあるが、とっくにあのドジっ娘がいるんだろう?二人も送る必要はないと思うが。」
「何言ってんだ。あいつだからこそ不安になって、送り込んだとか…、…そしたら矢畑さんが何か言ってくるか。」
そう話しているうちにキーンコーンカーンコーンとチャイムがなる。時間か、と席に向かった。
「本当仲良くなったよね。二人。」
「おかしいか?」
「ううん。嬉しいなって。」
へらり、と笑う緋月。本当、こいつ馬鹿みたいにいい奴だよな、とシキトは思う。それはシキト自身にも当てはまることなのだけれど。
ふと思う。こいつに俺が魔法使いだってこと隠していいのだろうか。言った方が…、そう思いかけて、それを打ち消すように首を振る。
だめだ。こいつのことだから十中八九巻き込まれる。
「不運だな…。」
「え、何、俺のこと?」
こいつには言わないでおこう。そう決めたシキトだった。
帰り。バイトなので早く帰るらしく、走って帰る緋月を見送って、のんびり一人で帰ることにしたシキト。部活動には入っておらず、野球部などの練習を横目で見て、すたすたと歩いていく。
ついこの間、魔者を倒したあのときが信じられないと思うほど、平和で。
「なーんかこえーなぁ…。」
そう、独り言のように呟いた。もちろん返事なんてあるわけないと思ってたのに。
「何が怖いのー?」
「はっ…、」
いきなり声が後ろから降りかかって、思わず振り返ればにこにことシキトを見つめる少女が。
明るく長ながい茶の髪で、横髪を真横で縛るサイドテール。ぱちぱちと長い睫の下にはくすんだ青。蒼、というべきか。
「…誰?」
「誰でしょうっ!あたしのこと、知らないっ?けっこー可愛いって言われたんだけど?」
たんたん、とリズミカルにシキトの方へ歩いてくる少女。にひ、と手を後ろに組んで笑う。
——そういえば。
「…転入生?」
「だーいせーいかいっ!」
くるり、と一回りして、ステップを踏み、シキトを通り過ぎ、その後ろに立つ。
振り向いてみると、夕日を背にした少女が相変わらず笑っている。
「あたしはセラ・リグバートン。自由の国、アメリカ出身なんだよっ!よろしくねっ!」
ひら、と握手を求めるように、手のひらを差し出す。シキトはおずおず、とその手に触れた。
「…それで、俺に、なんの用?」
「えーと、会いたかったから!…、じゃダメ?」
「…。」
「ひっどいなー。そんな怖い顔しないでよー。」
そうけらけらと笑う。セラは一向にシキトの手を離そうとしない。
「ちょっと一緒に来てほしいんだけど。いいよね?」
「…なんで、」
「もう!女の子に理由聞いちゃだめだよっ!」
そう言って、シキトを引っ張って行く。
人通りの多いところから、人通りの少ないところへ。
何をする気だ、と思う。見た目は可愛らしい少女に引っ張られてるのに、嫌な予感しかしなかった。後ろからセラを見ていて、その片方の耳にしている、イヤリングを見つけた。銀が混じった水色のようなもので、目が離せなかった。
「なぁだからどこ行くんだよ。」
「えへへー、おったのっしみー。」
悠との会話が蘇る。
『おいおい、まさかまた魔法使い関連じゃないだろな?魔法で情報操作?とかそんなことじゃないだろな?』
『可能性はあるが、とっくにあのドジっ娘がいるんだろう?二人も送る必要はないと思うが。』
『何言ってんだ。あいつだからこそ不安になって、送り込んだとか…、…そしたら矢畑さんが何か言ってくるか。』
…不自然だった。いきなり現れて、いきなり引っ張って、どこかに連れて行こうとして。
ビリカのようなものだったら、矢畑さんが何か言ってくるはずだ。けれど、連絡無し。
でも、それだけじゃないとした。協会にしか魔法使いがいないというわけじゃない。
それなら、
ばち、とセラの手を振り払う。セラは振り返り、首を傾げた。
「…俺、用事あるから。」
嘘だ。けれど、なんとなく着いていってはいけない気がした。
「ふーんそんなんだー。」
「あぁ、だから…。」
「でも、あたしには関係ないんだよねー。」
にひ、と瞳を細める。瞬間的にやばい、そう感じた。
「転入初日から仕事とかまじありえないよねー。でもさ、こそこそ隠れてやる、とかさ、あたしの性に合わないってかさ、わかる?えへへ。だからさ、いっそのこと、」
ふわり、とその肩にくすんだ薄い緑のローブがかかる。
髪をかきあげる。その瞬間しゃらん、となるイヤリング。
「実力行使?みたいなさ!」
冷や汗が背筋に伝う。やばい。これは、やばい。
「死なないように、気をつけて?」
制服の袖から、銀色の鎖が出る。本来ならしまえないくらいの量が、一斉に出る。
「色は港鼠(みなとねずみ)。では、行きます。」
わざと丁寧口調で喋り、くす、と冷たい笑みを覗かせる。
シキトは全速力で駆け出す。けれどその瞬間、鎖がシキトに向かって飛んでいった。