複雑・ファジー小説
- Re: 【Ultima Fabura—終焉の物語—】返信数三百感謝! ( No.307 )
- 日時: 2011/07/24 20:52
- 名前: Aerith ◆E6jWURZ/tw (ID: Ma3wYmlW)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/draw.html
>>302 Before shot >>310 After shot
SHOT 2 呟き
水色じみた白銀のエネルギー弾が剛速球で向かってくるのをフェルドは辛うじてかわす。しかし近距離で回避してもそれを取り巻く風圧に押され、少なからず身体が飛ばされる感覚があった。風圧に眩暈を覚えながらも体勢を立て直す。
風球を発した後や大きく成長させている間は相手に隙がある。しかし大きく、完全に避けるのは難しい。成長させている間近づくのは可能だが察知されれば少量であっても回避は難度が高かった。
どうする。
鋭利な風刃を大量に飛ばし何とかバハムートの気を逸らす。急接近し、腕の刀で斬りつけた。どうにか傷付けたものの奴にとってはカッターで多少傷ついた位だろう。そのまま地に着地するが横殴りに尻尾が向かってきて身体に激突した。
「くッ・・・!」
吹き飛ばされた先で渦巻く水に激突し地面に直線落下した。唇を噛み締め、フェルドにしては無謀にもバハムートへ向かって突っ走った。自分の召喚獣と対面し、彼は既に痛烈なほど知り得てしまった。
自分は、無力だ———と。
頭脳明晰? 冷静頓着? そんなものが何だ。結局は力だ。何かを守る為の力。戦いに必要なのはただ勝利を貫ける目的。仲間を守る、大切な人を守る力。冷静な思考に従ったからって心の中の奥底に秘める想いとそれが相反する時だってある。心を偽ってまで冷静な思考に従って判断を誤ったことだってある。
もうそんな思いはしたくない。
幼き頃はもっと素直だったはずだ。旅立つ兄にすがり行かないで欲しいとせがんだ事を良く覚えている。いつからだったか、心を偽り始めたのは。
ああ、そうか——。兄が何も言わず、出て行ってしまった日からだ。
以来今日までの間、最初で最後に感情的になったのはヴィルと初めて出会った日だった。2年前のことだ。まだ軍に所属していて、とある森の魔物退治をしてくるのが任務だった。入った者は誰であろうとも戻ってこれない。そんな所以があるほどだった。
そこに当時、優秀と呼ばれた自分が派遣された。
今思い返せば吐き気がする。何が優秀。何が軍力。結局は軍の至らない戦力の所為だったではないか。俺の当時のあの程度で〝優秀軍人〟か。昔の軍人からしたら・・・。ライシェルが知れば軍も堕ちたものだ、と吐き捨てるだろう。
「はァあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
風の刃が蒼く燃え上がり、腕脚に備えた刃物が大きく拡大する。急性な動きに対応しきれず、バハムートは一瞬狼狽した。その躊躇の隙を突き、フェルドは身体を捻り精一杯の追撃をした。
咆哮に近い悲鳴を上げ、バハムートは傷を負って地面へと落下する。抉られた胸を押さえながら上体を起こしつつ唸るような低い笑みを響かせ、バハムートは普通の者ならば畏怖の念で心を竦ませる威圧的な視線を向けた。
銀と蛍光色のようにはっきりとした色合いを見せるシアンに輝く傷口はバハムート自身の掌から発せられた鮮やかな菖蒲色の光の前に一瞬にして塞がった。
『・・・見事だ』
低くそう言うと手を差し出す。大きなそれの灰銀の爪は鋭く逞しかった。何故か心の何処かがフェルドに教えていた。為すべきことを。フェルドはその教えに従い、バハムートの前に一歩踏み出た。
灰銀の爪に自らの額を当て、ゆっくりと瞳を閉じる。瞼の向こうで温かな光が生まれ、小さく縮んでいくのが解った。やがてその光も静まるとようやくフェルドは瞼を開いた。
彼の手にあったのは先刻まで触れていた爪でなく、小さな石柱が風の刃に包まれたような形状をした銀水晶——紛れも無い召喚獣の召喚石、大いなる魔力を秘めた聖なる石だった。
———〝銀竜〟シサンタルバハムート。その存在は竜族の一部のみにしか知られていない———
それを使役する資格を得た。微かに淡い光を発するそれを手にしたまま仲間達を起こしにかかるが皆熟睡しているようだった。こっちは命がけで戦っていたというのに呑気なものだ、とフェルドは呆れると共に安堵した。
「おい、起きろ」
強力にヴィルを揺さぶる。起きない。溜息をつき、頬を抓ったり足でヴィルの頬を踏んづけたりするが全く起きる気配は無い。他の仲間達も起こしにかかったが皆起きる気配が無かった。
「一体、どうなってる・・・?」
その時、背後で地響きを感じたフェルドは全身から血の気が引く感覚に陥った。
海底と周囲の海との感覚が狭まりつつあったのだ。海の水の中でも勢いの強い部分が溢れ始め、下からも水が滲み出始めていた。バハムートを従えたは良いが、彼の魔力の効果が薄れつつあるのだ。
「力を貸せ、シサンタルバハムート!」
クリスタルを高々と放り、落下してきたそれを跳躍して腕の刃で斬りつける。弾けた様にクリスタルは粉砕され、光の粒子となった。それは再び集合体となるとその場に閃光が走り、光の柱が地をも貫いた。
召喚の輝きより舞い降りた銀竜は地に足をつけ、フェルドはその背に跨った。旋風が巻き起こり仲間が全員背に乗せられる。風の魔力は自らでしがみ付く余裕の無い彼らを優しく保護した。
海面よりも僅かに上へと飛翔したバハムートの背後で待ちきれなくなったかのように海水が先刻まで居た穴へ注ぎ込まれ、怒濤の奔流となって渦巻いた。
「危なかったな・・・」
風の煽る少し長めの黒髪の感触を感じながらフェルドは背筋が少なからず凍るのを別の感覚で実感し、思わずそう呟きを零した。視界の端では銀翼が力強く逞しく羽ばたき、涼やかな風を送ってくれている。それに包まれてフェルドはしばしの安息に重くなりつつあった瞼をその重力に抗う事無くゆっくりと閉ざした。
「シサンタルバハムート・・・。十六番目の飛竜、か」
銀竜の背で腕組した腕を枕にして寝ながら仲間の一人が寝たふりをしていた瞳を薄く開け、憂いを秘めた声で呟いた。
呟きは銀竜の起こした優しい風に乗って流れ、風となって消えた。