複雑・ファジー小説

Re: 【Ultima Fabura—終焉の物語—】小説大会参戦中! ( No.314 )
日時: 2011/08/07 11:39
名前: Aerith ◆E6jWURZ/tw (ID: Ma3wYmlW)
参照: 夏の小説大会参加中!

>>310 Before shot  >>323 After shot


     SHOT 4 繋がる未来






 強い乾燥した土の感触にヴィルは重い瞼をゆっくりと開く。起き上がると、石柱に背を任せ腕組したままたったライシェルが「やっと起きたか」と近づいてきた。そのすぐ横下にはまだ寝ぼけ眼のミュレアが惚けた顔で座り込んでいた。
「お前達。起きるのが遅いぞ。もう明け方だ」
「へ・・・? 明け方?」
「そうだ。さっきも言ったとおり、ここでは元の世界の360倍速い時間が流れている・・・。ここでの一日は外でも一分間に過ぎない。要するに、あっちで一時間経てばここでは60日経っている、ということだ」
「早っ!」
 だからと言ってサボるなよ、とライシェルは念を押した。
「今は一分でも惜しいんだ。それにこの人数、その倍速で時を進める空間を作ってる二人の身にもなれ」
「!」
 嫌々ながらも引き受けてくれた聖護、快く応じてくれた白魔導士・・・。二人のことを脳裏に思い浮かべ、目が覚めた。
 二人の身にもなれ、というのは暗に彼らが魔力を使っている間に迫る可能性のある危険についてのことも示していると気付き、ヴィルは即刻黙る。身の危険を冒してまで二人はこの儀に協力してくれていたのだ。
 異空間魔法。それは異なる空間と魔術でつなげることであり、元の世界の住人を繋ぎとめる命綱に成り下がることでもある。命綱は断ってしまえばそこに繋がれた一切のものを永遠に断ち切ってしまう。責任重大、且つ危険だ。魔力を使っている間に襲われれば、それを断ち切ること叶わず最悪命を落とす危険さえ生まれるのだ。

 暗に示された言葉。お前には、仲間の命も背負い、守る覚悟があるのか——。

「ああ、わかってる。やろう」
 本気の目になったことを感じたのかライシェルは頷いた。そのまま立ち上がったミュレアに声をかける。
「お前には二つやってもらうことがある」
「なぁに?」
「一つは此処に来る前言ったとおり、私達の傷の治癒。もう一つは——環境保護だ」
「????? へ??」
 環境保護、と聞いて唖然とするのには無理も無い。ミュレアは辺りを見回した。辺りには遺跡のようなもの、崖、岩、その他剥き出しの地面しかない。怪訝そうに首を巡らせ、再びライシェルの顔を見て頭上に?を浮かべた。
「驚くのは無理も無い」
「此処、自然が・・・無いよ?」
「お前は今まで膨大な魔力を一気に放出する機会が多かっただろう。それはお前が得意とするからだ。なれば——苦手なものを克服する。それが当然の選択だ」
「持続的魔力行使?」
 そうだ、とライシェルは頷く。肯定の言葉を受け取り、ミュレアは何となく自分の成すべきことを理解できたような気がした。環境保護、あるいは自然の育成。ライシェルは懐から種のようなものを取り出した。
「それは?」
「此処へ来る前、シュヴェロに作らせておいた。植物の種だが・・・、持ち主のお前の心のままに育つ。水をかけ、土に投げるとお前が念じた植物が芽生えるだろう。お前の心に応じて植物達は成長を遂げてくれる」
「すごい、ね!」
「お前も作っただろう? 水の結晶を」
 心当たりはすぐに見つかり、ミュレアは頷いた。此処へ来る少し前ヴィングに頼まれて水の結晶を作り出したのだ。同じようなところに飛ばされているならばシュヴェロにはその結晶がヴィングから手渡されていることだろう。
「それだけじゃない」
「まだ何かやることがあるの?」
「ああ。此処には水が無いんだ。お前が湖を作り、川と海を生み出せ。それは他の次元の者たちの次元にも現れるだろう。森も然り・・・。実際、シュヴェロとの共同制作のようになるか」
「わかった」
 側にはいないけど繋がってるってことだよね、とミュレアは心中で呟き心が温まる感覚を覚えた。まるで、身内を心配する家族のような・・・。ミュレアには家族らしい家族が居たことは無かった為初めての感情だった。 
「お互い、頑張ろうな! ミュレア」
「うん!」
「さあ、ヴィル。見せてもらおうか、今のお前の力」
「望むところだ!」
 大地の結晶を握り締め、強くなろうと決意するミュレア。それは誰か、他の人の為。大切な人の為。自分のことで精一杯で逃げ回っていた昔とは違う。今は守り、支えてくれる仲間が居る。その幸せと未来の為に。
 雷光を纏いし大剣を構えるヴィル。その瞳に宿る光は探究心、好奇心だけでなく星を守る使命を課された責任感をも背負う、少し大人びた光であった。痛みをも分かち合い、傷ついた他人に手を貸して信じる心を与えた強い光とそれを知った優しさの光。優しさは人の強み。人だからこそ優しさが生まれ、やがてその純粋な感情は人の強さになる。
 彼らの少し成長した光を感じるライシェル。ヴィルの守る為の光を宿した瞳を見てある少年の面影が重なる。彼女にとって最も守りたかった存在——。自分の脆いところを見つめ、支えてくれた存在だった。ヴィルにとってのミュレアは類似する関係だろう。なれば全力を尽くして〝守る力〟を彼に与えよう。それでいて彼よりも強くなり引っ張っていかなければならない・・・。
 三人の思いは交錯し、星を守る為の力を育む——。



少女は決意した。大切なものを守る優しさの為に力を使おうと。

少年は決意した。過去よりも今や未来の為手に入れよう強さを。


女は二人に誓う。遠い過去の自分の様な二人を終焉へ導こうと。



調和の神は人知れず遠い未来に導いていた。
光の戦士を率いることとなりし者達は 未来永劫の生命を持つ者を導かせるように。

調和の神は人知れず遠い未来に願っていた。
生という名の永遠の死。呪わしき運命を克服することを。


調和の神は人知れず遠い未来に誓っていた。
自らの司る調和を引き裂く神を倒し 未来へと希望を繋げさせることを。



それには戦士達が強く。そして自らが加担せねばならない。
混沌の神が戦いに参戦している。なれば自らも参戦せねばならない。


未来を創造することが可能なのは混沌ではなく調和のみなのだから———。