複雑・ファジー小説

Re: Ultima Fabura—終焉の物語—[参照1600感謝] ( No.342 )
日時: 2011/09/09 18:16
名前: Aerith ◆E6jWURZ/tw (ID: Ma3wYmlW)
参照: スクエニ社のFF部門って神様の集いなんですよね?わかります

>>339 Before shot  >>364 After shot


     SHOT 7 女神の言






 心地よい暖かさに身を委ね、瞼を下ろしたまま呼吸する。やがて何かの音を耳が拾った気がして、瞼を持ち上げた。
 鋭利な高音が耳を掠める。その音と共に自分の身体の在ったところから静かに波紋が広がる。
「何・・・? ここ、は・・・」
 一体、いつの間にこんな所へ来たのか。辺りは真っ暗で何も光などは見えない。それなのに足許は、自分の身体は鮮明に目に映る。眉を潜め、顔を上げると再び先刻と同じような鋭利な音がして波紋が広がる。波紋は淡い薄青緑に輝き、何処までも深い闇へと消えていく。
 それでも闇に悪意は感じられない。柔らかく、暖かだ。
「聖、護・・・?」
 仲間が修行していた空間を作るのに協力し合っていた聖護の姿が無い。心許無くなり辺りを見回すと、自分からではない他所から波紋が広がってきて自分の足許に触れるのが視界に入った。そして触れた瞬間、呼応するように自分の足許からあの音と共に波紋が広がり周囲に溶ける様に広がってゆく。
 何故だか解らない。敵意は感じられなかった。それでも普通は警戒する筈なのにそれどころか気付けばそっちに足を向けていた。内心何かに呼ばれていたような気がしたからかもしれない・・・。
「誰、ですか・・・?」
 歩を進めた先に薄ぼんやりとした人影が見え、誰何すいかを投げる。人影は声に気付いたのか此方を向き、頷いた。まるで、此方に来いと言わんばかりだ。
 少し首を傾げ、人影のある方向へと赴く。
 間近で見れば招いた人物は女性で純白に輝いていた。神々しい光に包まれたその女性はいくらか身長が高く細身だ。
『白魔導士、ですね』
 問われ、頷く。
『此処が何処だか知っていますか?』
「・・・、夢?」
『ええ。如何にも。ですが、真実』
 光を纏いし女性は少し浮遊したまま言った。動作の一つ一つに何処か神秘的であり尚且つ人へ畏怖の念を抱かせるものがあった。
 夢。そう断言され白魔導士はやけに現実のある夢だと些か不思議に思う。先刻まで自身の頬が触れていた所は温かみを持っていた。女性の目の眩む眩しさも何処かリアルで、ただの夢とは思えない。
「貴女は・・・」
『もう答えは知っているはず』
「・・・。調和の神、コスモス」
 確信にも似た声に遠くの闇を見遣り女神は頷いた。その顔が何処か申し訳なさを含んでいるのに白魔導士は不思議な気持ちになる。自分達の前に現れ出でることの出来ない自分を悔いているのだろうか?
『でも私は未来の女神。この時代のコスモスではありません』
「未来?」 
『はい。私は何度も記憶を失いながら、この元の姿を失いながら時を彷徨っているのです・・・。今の時代の貴女方に関与するとなればこうして忠告や少しの手がかりを与えられるだけ・・・』
「忠告・・・。手がかり・・・?」
 言葉をなぞる様に復唱すると女神は三度、顔を縦にした。未来の女神は一体これから起こる、何の危険の忠告を、手がかりを自分や自分達に与えようと言うのか。
 遠方の深い闇を見たまま微動だにしようとしない女神の面持ちを見上げた。彼女は何か決意を固めようとしているようにも見え、白魔導士は女神と同じ方向に視線を投げかけ、静かにその口が開く瞬間を待った。
『忠告は貴女一人に』
「私・・・だけに」
『時が来るまでその力を真に明かされることの無いよう。気付いても決して他言はなりません』
「・・・? わかりました」
 哀しげな色の湛えられた双眸を細め、女神は呟いた。今は解らずとも、時が来たればわかります、と。
 女神は不意に前進すると上方を見上げ、手がかりはと言葉を零す。
『すぐ側に』
「えっ?」
『救いの光は見えない程近く』
 白魔導士はそこでようやっと気付く。辺りがぼやけ始めていた。コスモスも、世界も、自分さえ・・・。
 刻一刻と淡さを増す風景に慌て、待って! と荒げた声も何処か頼りなく、ぼやけて消えていく。

「待って!」
 自分の声に驚き、がばっと起き上がる。呼吸が荒い。白魔導士は一瞬、自分が何処に居るのか忘れそうになった。
 荒ぶる呼吸を押さえ、顔を上げる。覗き込んだ聖護の心配そうな顔がそこにあり、白魔導士は何とか呼吸を落ち着かせることに成功した。何時の間に持ってきてくれたのか、聖護は水を持っていた。
「一体、どうした? 悪い夢でも——」
「あ、悪夢、では・・・無いんだけど・・・」
 呼吸が落ち着いても動悸はまだ静まっていなく、白魔導士はしばし深呼吸して語り始めた。夢で見た、聞いた事の顛末——。しかし忠告については聖護に話すべきか躊躇した。結局、話さなかったのだが・・・。難しい顔をして聞き入っていた聖護は愁眉を潜め、考え込むように唸った。
「未来の女神のお言葉、ねぇ・・・」
「救いの光。コスモスの事だよね」
「ああ、だろうな。ただ、“見えないほど近く”ってのがわっかんねェ」
 見えないほど近く。
「記憶を失くして時に翻弄され続ける女神か。・・・、可愛そうに」
 ・・・記憶。時。
 忍び寄る大きな力の存在に白魔導士は僅かな身震いをした。
 ———ガサッ

「おぅ、お前か。ごくろうさん。じゃ、始めるから。その辺に座れ」