複雑・ファジー小説
- Re: Ultima Fabura—〝最後〟の物語— 更新再開なう! ( No.273 )
- 日時: 2011/07/03 21:53
- 名前: Aerith ◆E6jWURZ/tw (ID: Ma3wYmlW)
- 参照: Aerith完全復活!
>>253 Before shot >>277 After shot
SHOT 4 成れの果て
怒濤の如く流れ落ちる滝がカーテンのように目前で立ち塞がっている。そこかしこから水の音が聞こえ、反響している。
ふと違和感を覚え、ヴィルは自身の身体を見やる。と、そこで気付いた。自分を自ら守っていたはずの泡が無いのだ。しかし呼吸は出来る。目も開いている。
この空間には、空気がある・・・?
「ねぇ、ヴィル。ここから入れるよ」
「ん?・・・いやぁ・・・とてもじゃねぇけど、そこはムリ」
振り返った先でミュレアが指差していたのはこのデカい滝だった。この水圧、半端じゃねぇけどムリだって。万一行けたとしてチビどもはどーするよ。
高速で手の輪郭がぶれるほどに手を振っているヴィルを見、ミュレアは「そうかなぁ」と首をかしげた。
そりゃあそちらさんは水の神霊様でございますからねぇ。けど俺や仲間達は違うんだよ。
心の中でとんだ嫌味を唱えていたヴィルは、背後の水の持ち上がる気配に視線を向けた。想像通り、仲間達御一行のご到着である。
「すっげぇな・・・。本当に人間の作ったもんかい?」
「神霊と妖精族ですよ、ジェッズさん」
「おお、そうだった。こいつぁ失礼」
苦笑しつつ、ジェッズはいい歳して声を上げてしまった自分に、自虐的に頭を叩く。
そこへ何故か気絶中の、先程の変態×2がライシェルに首根っこを掴まれ引きずられるようにして水の中から登場した。
推測だが、見かねたライシェルからの制裁が恐らく下ったのだろう。前後の記憶も飛んでいるさ、とライシェルは恐ろしくも見える微笑をヴィルに送った。
「しかし・・・これは、通れないよな? 向こう側に道があるんだろうが・・・」
「そーそー。俺もそれが気になってたんだよなぁ。良い事言ったぞ、フェルド君。ナイス!」
「もうっ。だーかーらー、言ってるでしょ? 『通れる』の!」
腰に手を当て、軽く頬を膨らませながらミュレアは聞き分けの無い幼子に言い聞かせるようにむくれて言った。かと思うと、得意げで何処か不敵な笑みを口元に浮かべた。
「このミュレアちゃんに任せなさーい」
「・・・お前そんなキャラだった?」
「うん? いいんじゃない? 気分、気分!」
あ、ミュレアだ。
再確認し終えると、ミュレアは月杖を滝にゆっくり差し込んだ。当然ながら天から落ち杖に激突する滝は水しぶきを上げる。その細やかな飛沫を頬に、睫毛に、体中に少しずつかかりながら目を瞑った。
「Jesu, magni regnator aquarum.
Noli adorare Dominum heredis ad aquam.
Alligatus es contractually Antiqua divulsa redirent.
Dominus. Sciant spiritum sanctum tuum aperiens viam ipsum.」
うわ、またその理解不能呪文かよ。
先刻の白魔導士が唱えていたような呪文を今度はミュレアが噛む事も無くすらすらと唱える。・・・様を呆気にとられて見ている自分。かなり滑稽。うん、笑える。
とりあえずミュレア。この星の言語で話してくれ。
「ほぉ〜ら!」
得意げな調子の声で言い放つミュレア。その言葉に従い、滝を見る。するとそれは上から下へ真っ二つに割れた。
「からの?」
・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。
え? 何も起こらないんですケド??
見かねて口を開こうとした矢先、亀裂が入ったところ— 一瞬で消えた為既に跡形も無く—がざぁっという音を立ててまるでカーテンのように開き、道が現れた。皆は唖然とその場に棒立ちになる。
「・・・えぇー・・・?」
「おし! 行こーぜ!」
一人本人を除き目を輝かせながらその光景を見ていたヴィルは、やる気満々で一歩踏み出した。皆もその後に続いた。
—*—
歩く。歩く。歩く———。
「一体どこまで歩くんや、これぇ・・・」
「んとね、一番奥」
「嘘や〜ん・・・。どんだけあるん、奥まで」
「今の3倍ぐらい?」
疲労感にしゃがみ込み、シュヴェロはもううんざりとばかり両手足を投げ出した。
横ではアルス、レフィーナ、テフィルが彼を鼓舞している。
〝———————〟
「へっ・・・?」
「・・・? どうしたの・・・?」
立ち上がり、歩みかけたシュヴェロは小さく声を漏らし立ち止まった。振り向き、フィニクスが小首をかしげる。
「なんや、声聞こえた気ィしたんやけど・・・」
声?
ヴィルも立ち止まる。つられて全員が立ち止まった。右を凝視している。眉をひそめ、ヴィルも覗き込む。と、そこに何か蠢く『もの』がいた。何かと思ったが人影だ。
「人がいるぞ? おーい!!」
「やめろ、ヴィル!!!」
肩を掴まれ、ぐっと後退させられる。フェルドは人影を睨みつけたまま方を掴んだ手に力を入れていた。厳しい表情。いや、空気も。気付けば他の皆も警戒の色を浮かべている。
そこでやっと気付く。こんなところに今、人がいるはずは無い。
幻か、あるいは———。
「ヴオ゛、ゴ・・・」
人影、いや何かが唸った。その瞬間ハッとして白魔導士が身を引く。どうした、と聖護が声を掛ける。顔面蒼白のまま白魔導士は震えながら首を振った。
「そ、んな・・・! あ、あ、あれは・・・っ!! 大昔、その魔術は封印されたはず・・・っ!」
「大昔? まさか!!」
「あれは、ご、〝獄怪骸〟
闇の魔導士の——成れの果て・・・!!」