複雑・ファジー小説

Re: 【Ultima Fabura—最後の物語—】 圧倒的感謝! ( No.286 )
日時: 2011/07/15 18:31
名前: Aerith ◆E6jWURZ/tw (ID: Ma3wYmlW)
参照: 夏休みは勉強詰め・・・乙((

第十一話 〝調和の神〟コスモス


>>280 Before Episode   >>287 After shot


     SHOT 1 仕打ち





 さて、と呟いて白魔導士は先刻ライシェルの出てきた右の道のほうへ一歩近付いた。そうだ。此処に来た目的——。皆を引き連れやってきた自分がそれを少々思考の片隅に追いやっていた事に嫌気が差した。
 静かに頷き、ヴィルは横に立って手を広げた。
「行こうぜ、皆。俺らが此処に来たのは他でも無ェ、この世界救う為だろ?」
「ああ・・・そうだったな」
 暫く無言だったジェッズが久々に口を開いた。道を譲るヴィルの前を、神妙な面持ちで歩いていく。皆もその後に続く。ちら、とライシェルは祐希を見た。その仕草に気づいたか、そっとヴィングが彼女に耳打ちした。
「・・・似てるよな、やっぱ」
「・・・・・・ああ」
 私の守るべきだったもの。それに凄く似ている。髪色も雰囲気も違う。しかし顔立ちや仕草や、瞳の奥に秘めるものが似ている。
 何かを守る為に強くなりたいという、優しさと言う名の光。まるで同じ。錯覚を引き起こしてしまうほど・・・。事実、祐希が自分達の名を呼んだ時はひやりとしたものだ。
「でもあいつはもういない。・・・辛いけどそうなんだろ?」
「・・・・・・ああ」
 自分自身に苛立っているような、振り絞った声でライシェルは歩を進めつつ繰り返す。——ああ、そうさ。あの子は私の所為で死んだ。あの子が私を庇ったりしたから・・・。あの時、私が死んでいればよかったのに。
「生きていたとして、私には会う権利も無いさ」
「そんなことはねーだろ」
 少々声を荒げて、ヴィングが言う。前を歩いていたフィニクスが振り返ったがそれだけだった。
「そんなことがあるんだ」
「あいつが一番逢いたいと思ってんのはお前に決まってんだろーが。おまえが迎えに行かなくて誰が行く?」
「・・・・・・」
「もしまた逢えたらちゃんと向き合ってやんな」
 穏やかな口調でヴィングが諭すように行ったが、ライシェルは俯き無言のままだった。
 自分の言葉が相手に届いたかなんて解らない。仕方が無いがあとは本人次第だ。自分に出来ることは精々これだけだった。

 —*—

 長く続いた通路の先に、光が覗く。ヴィルは思わずそれを見た瞬間に駆け出していた。慌ててミュレアが追い、シュヴェロが追う。背後の状況など露知らず、ヴィルは光の中に突入し思わずその眩しさに目を細めてしまった。
「うわ・・・」
 そこにあったのは、視界一杯のステンドガラス。何故か他の所と違い海面から来る光を採光しているわけではないことが一目瞭然だった。他のところは海が見えるが、このステンドガラスは色の所はともかく無彩色の所も海が透けてはいないのだった。故に光らないはずなのだがそれはまるで自ら発光しているかのように明るく、色鮮やかであった。
 勢い良く駆け込んできた後の面々も同じようにしてその光景に魅入る。
 その中でミュレアと白魔導士、それに祐希だけは不思議な—壁画とでも言うべきだろうか—光の元へと立った。そこには皇かな手触りの黒い石が置いてあった。何か記されていて、文字は水色に輝いている。何処か神秘的だ。
「これですね」
「んだこりゃ? 暗号かよ。読めねーしよ」
「何かな・・・。私達の世界の文字でもないよ」
「? この文字か?」
 覗き込み、ヴィルは問う。上のほうの文章も読もうとしたところでヴィルは水色の文字に触れた。その瞬間、身体が硬直する。何かに捕らえられたかのように。周囲の人々は彼の違和感に気付いていない。
「っ・・・」
 突如、先刻の来た時と同じく唐突にその感覚は消え失せていた。恐る恐る文字に触れてみるも何も感じない。
「ヴィル・・・?」
 遠くのほうでミュレアが呼ぶ声。しかし何故かヴィルは目の前に書いてある文章を無意識にも読み上げていた——。
 題されている銘は『——終焉に向かう物語——』。そしてその下の文に視線が移る。瞳が文字と同じ色になる——。

『時は期して巡り来る
 闇は熟して星は帰す

 万物の生命 悪修羅王の手により悪魔の供物と哀れな傀儡と化すであろう
 哂う悪魔と化した天 均衡を崩し 聖夜に墜つ

 天命の使者 女神コスモスは予見す

 大いなる海は引き裂かれ 天は荒ぶる光の矢に包まれ 地は千に砕かれるだろう
 疎は供物をも引き裂き 供物をも貫き 数多の命を砕ききるであろう
 冷酷な死 万物へと広がり 陰陽の境界線消えうせん

 救いの光よ 正道であれ
 多少なりとも曲がること無かれ 揺らぐこと無かれ 遅れること無かれ 閑散 なれば星は救われん
 邪な考え持ちし者潜むならば 揺らぐ魂潜むならば 送れば競るもの潜むならば 星の崩壊加速せん

 女神の予言は 絶対である』

 過度に驚愕すると、人は言葉を失うらしい。今、初めて知った。鼓動が早くなる。息が苦しい。自分が読み上げたその内容が理解できない。万物の生命、悪魔の供物・・・!? 意味は分からなかったが、走馬灯のような映像と共に流れ込んできた『もの』の所為で嫌と言うほど理解してしまった。
 ——全ての生命は闇の神霊の贄となることを。

「そんなことって・・・!?」
「嘘だ・・・」
 また、少しでも揺らげば自分達が星を破壊する運命に進むことを。つまりはこの世界の敵。この星に生きる、鼓動する、息づいている全ての生命の——敵。そう断言されたも同然だった。
 違う! 俺はただ、英雄に—————っ!
 ドクン。
「ヴィルっ!?」
 黒曜石の元で膝をつく。鼓動が早くなる。もう水色ではなくなった瞳で開いた両手を見る・・・。
 五月蝿いほどの耳鳴りがする。鼓動が耳元で脈打っている。暑くも無いのに汗が流れた。嫌な汗が。冷たい汗が。冷酷なほどに、恐ろしい位に冷たい水が。

 俺が、この世界にどんな仕打ちを受けた?
 物心つく前から親は居なかった。愚か、何も聞かされたことは無かった。只、『ゴミ溜めに捨てられていた』と知らされただけ。只、働かされただけ。ただ、ただ———。

毎日、必死に生きていた・・・。

 誰も救ってはくれない。誰にも心配をかけてもらったことが無い。愛など知らない。好意など知らない。心からの楽しみはあった。旅立って毎日が冒険だった。毎日が楽しかった。仲間が居てくれたから。
 でもその前は? 物心ついて自分の拾い主を殺し、森に入り、そのときの自分は魔物と同じで。
 あまり覚えていない。
森に迷い込んだ哀れな罪の無い人間を何人殺したことか。
 俺が仕向けた、生命への仕打ちは?



俺は——ッ!!