複雑・ファジー小説

Re: Ultima Fabura—終焉へ向かう物語— ( No.387 )
日時: 2011/10/14 19:06
名前: JUDGE ◆D.R9e.YnxE (ID: 5oEh1Frl)

>>384 Before shot  >>390 After shot


     SHOT 3 婚約






 寝惚け眼のヴィルはそこにいる面子に眉を潜め、首を90度傾げた。なんせ、見た覚えのない面々ばかりだ。短髪の眼つきの鋭い女性、ちょっと服装が変た・・・いや、露出度の多めなローブを纏った黒髪の好青年。
 女性は自分の肩を抱き、震えているようだった。当然理由なんて見当もつかない。青年はミュレアと会話している。それも異常なほどに近距離で、彼女の肩を抱いて——。
「何だおまえ!喧嘩売ってんじゃねーかッ!」
「おや、お目覚め?」
「『お目覚め?』じゃねーよ!仲間に手ェ出す奴ぁ許さねェ!ミュレア返しやがれ!」
「ヴィル、この人敵じゃないから!」
 今にも戦い始めそうな二人の間に立ち、慌てて止める。視線が交わり火花を散らす勢い(男性はあくまで笑顔、ヴィルは鬼の形相)で睨み合っていたがミュレアが介入した途端男性はミュレアにくるっと向き直った。
「ミュレア?この気品の欠片も無い子とどんな関係?」
「どんな関係って・・・。な、仲間でしょう。ふざけるのも大概にしてください、ロクティス殿下!」
「本当かい?僕というものがありながら許さないよ、不倫なんて」
「ふりっ・・・!?」
 溜息と共に吐き出された台詞にミュレアは動揺して言葉を発せなくなる。みるみるうちに赤面すると、握りこぶしを突っ張って今まででは見たことが無いほど大きく息を吸った。
「誰も結婚した覚えはありません!あなたの妄想です!」
婚約者フィアンセ=夫婦」
「何ぼそっと非常識なことを!大体っ、親の決めたことですっ」
 林檎よりも赤くなった顔のまま腕を組むと、ミュレアはつんっと男性——ロクティスに背を向ける。(ある意味)今までに無いミュレアの気迫に介入できずにいたヴィルは硬直中であるがロクティスは彼への当て付けの如く付き纏う。
「何なら今この場で家族に——」
「この・・・変態王子!!!」
 言われるが速いか、変態王子(ミュレア談)は頬に紅葉したもみじを貼り付け、お空へ飛んでゆきましたとさ・・・。

 聖星首都皇太子殿下、もといロクティス・A・テュレーヴは王家の息子らしい子息であった。
 慈悲深く頭の回転は速く、男女問わず高い支持を誇っていた。貴族より結婚の申し出は絶えずあったが、彼はどんなにそこが有名であっても権力を持っていても娘が美女であっても会うことはなく全て断っていた。
 理由は只一つ。咽び泣く彼女らに聞けば皆口を揃えて同様の拒絶の言葉を唇にのせるであろう。「忘れられぬ人が居る」と。
 中にはその発言に付け入るという汚い戦法を選ぶものも居たが、残念ながら彼女らの権力も地位も名声も翌日には全て剥奪されている——という、『立ち位置にこだわる人間』にとっては耐え難い苦痛を与えた。
 自分の気分を損ねられたから財政を、まつりごとを操作・・・など彼にかかれば容易いものだった。
 婚約者に初めて出会ったのは13歳の時。しかし実感など湧かなかった。相手はまだ5歳・・・。
 だが数年前、最後に見た婚約者は見違えたように美しく、気品に溢れていた。王の横で絶えず笑顔を振り撒いていた王女を一度きり。一度だけ見かけたたったそれだけだったのに、心を奪われた。

「ずっと探していたんだよ?一体何処にいたんだ」
「あ・・・わた、しは」
「とにかくっ!俺は仲間盗られるなんてゼッテー許さねぇー!!」
 The☆空気読めないヴィルって最強。
「君は一体何の話を・・・」
「てめーこそ何の話だァ!なんだふぃあんせって!そんな呪文効かねーぞ!」
「呪文ー!?」
 婚約者も知らないのか。ロクティスはあきれを通り越して不可解な表情になっていた。それに一体彼は何者なのか。本当にミュレアにとっては只の仲間なのか・・・。思考は巡りに巡る。
「フィ、フィアンセって言うのはね、生涯ずっと一緒に居るってことよ」
「?ふーん・・・。じゃあミュレアは俺のふぃあんせだな!」
「・・・えっ。——えッ!?えええ!?」 
 最初は呟きだった「え」が叫びになって、ミュレアは頭を抱え後ろ向きにその場へしゃがんだ。絶え間なく震えた声で「えええええ・・・」と言っているし耳が真っ赤である。
「さっきから『え』しか言ってねーぞ、おまえ」
「ミュレア。これはどういうことなんだ?」
「え、ええっとわ、たしにも、よくは・・・わから、ないです、はい」
 動揺に途切れ途切れの言葉を発しながらもまだミュレアは混乱の最中に居た。何!?こんなところでプロポーズ!?
 わたしまだ心の準備が——!!
「何で皆驚いてんだ?自分が好きな相手とずっと一緒にいることくらいフツウじゃん」
「はわ、はわわ・・・」
 いい加減やめてくださいっ!いっぱいいっぱいです——!


*


「なぁ。ミュレアたち遅くねェか?」
「そやな。なんかあったんやろか」
「うーん、そうねぇ。楽しそうだし行って見ようかな♪」
「だよな・・・。ん?リトゥス?『楽しそう』って何のことだ」
 遠方——ミュレアたちが行った方を見てリトゥスが微笑しつつ言ったことに気付き、聖護が質疑をかける。
 一層微笑んで(ある意味怖いほど)リトゥスは振り返った。

「ん?さっきから爆音とか聞こえてるでしょ?」
「え・・・!」

 それがつい2,3分前の話。