複雑・ファジー小説
- Re: Ultima Fabura—終焉へ向かう物語—キャラ投票開始 ( No.399 )
- 日時: 2011/12/23 10:29
- 名前: JUDGE(元Aerith ◆D.R9e.YnxE (ID: l0EYH8mH)
>>396 Before shot >>401 After shot
SHOT 2 預けられた背中
何処をどう戻ったのか覚えていない。気付けばヴィルは先刻まで自らが横になっていた岩陰に腰掛けていた。衝撃的な事実。それはミュレアが、仲間達を率いている自分に最も知られたくないのは痛いほどよくわかった。だから彼女が帰ってきても問い詰めるつもりなど無かった。しかし・・・帰ってきた少女に何と声をかけたら良いものか、その正確な答えがわからなかった。
「あれ?ヴィル。起きてたの?」
「え?あ、ああ・・・」
「調子悪い?だいじょぶ?」
何事も無かったように会話するミュレアにヴィルは胸が痛むのを感じた。自分がこんなに弱くてはいけない。
「いや、急に立ったからちょっとだけな」
「そう?回復魔法いる?」
「治った治った。変なことで魔力無駄遣いすんなよなー」
立ち上がり、腕を組んで半分冗談を入れながらミュレアの額を小突く。その点を押さえ「はぁーい」と言いながら彼女は伸びをした。
「ねぇ、聖星行くんでしょ?」
「んー?そりゃあな・・・。でもそこまで行くのに魔力無駄遣いとかできねーよなぁ。ミュレアみたいに翼もねぇし」
「だから氷竜よ。今——」
言いかけ、ミュレアがはっとして口ごもる。ヴィルは不可解な言動に首を捻るがすぐに理由に思い至った。昨日この話題をしていた時、ヴィルは彼女を問い詰めてしまったのだった。ミュレアはそれを正に恐れている。
「ミュレア、俺なんも聞かねーよ」
「えっ?」
「確かに隠し事は良くねぇ。けど俺にも言えない位大変なんだよな」
腰に手を当て、わざと明るく言って空を見上げるが視界の端ではちらりとミュレアが俯く姿がよぎった。
「いいんだ。お前が言いたいなら言う。言いたくないんなら言わない」
「・・・ありがとう」
「うんうん、気にすんなよ!な!」
肩を組んでやる。ミュレアはもう一度お礼を言うとそっと離れた。あり?何かよそよそしい。仲間同士で肩組むのってフツウじゃねぇの?・・・女は違ぇのかなぁ。
「じゃあ、呼ぶね。皆を集めてきて」
「おう」
返事をすると、ミュレアは微笑んだ。柔らかく、それで居て何処か儚げに。
外したイヤリングを手の中へ握りこめ、ミュレアは目を瞑る。以前と比べてずっと魔力への感知能力が鋭敏になったヴィルはミュレアの水の魔力が鋭利に研ぎ澄まされていくのを感覚で捕らえていた。
『万物を凍て付かせる神の冷気よ!契約の御許において汝に従い、神の分けし空の大地へ導きたまえ!』
水の入り混じる大地の息吹がうねり、空へと放たれる。風の勢いに閉じていた目を開くと上空を大きな影が横切った。同時に大気がひやりとした空気に包まれる。
「うわ、でか・・・」
早速祐希は腰を抜かしそうになっている。しょうもねぇ奴め、と隣では聖護が苦笑していた。
『我を呼んだか、天の申し子よ』
「ええ。呼びました。今あなたの力が必要なのです。力を、貸してくれますね?」
『拒否などせん。契約とはそういう理だ』
氷竜の纏う冷気は本物だったが、空の旅は比較的快適だった。氷竜自身発する冷気以外は魔力で守られていて、暑くも寒くも無かったからだった。強風が当たることも、飛び方により落ちる事も無かった。これも氷竜の魔力ゆえであった。
「お前もバハムート族なんじゃないのか?」
『いかにも。だが我は特別だ。守護神として召喚はされぬ代わりにいくらでもこのルセムに留まれる』
「ルセム?」
初耳の単語に氷竜と何気なく会話を交わしていたフェルドは眉を潜めた。氷竜は意外そうに吐息を吐いた。氷竜の吐息は吹雪にも等しいもので、空高く舞い上がっていた木の葉を一瞬にして凍て付かせた。
『人がこの世界につけた名だ。今ではそうは呼ばんか?神の世を意味する』
「神の・・・。太古の昔、そういえば魔力は神力とも呼ばれていたとかいなかったとか」
『そうだ。まあ人にとっての太古など我にとっては一瞬の時に等しきものよ』
神の世、ルセム。フェルドは心で呟く。
『太古の昔は貴様のような竜族にももっと我と近い物があった。瞳の瞳孔、翼や尾・・・』
「・・・」
異族にあるのは何も違和感は湧かないが、自分で想像してみると少し不気味に思えてフェルドは黙りこくった。
『彼の神、神獣とも呼ばれた者の子には美しい尾や翼を持つ者もいたぞ。今も何処かで生きているやもしれぬ。神の子の命は永遠に等しきものだ。天地分裂の後は愛すべき者の刃によって以外傷付けられん』
「天地分裂?」
『久遠の昔、天地は一つであった。しかしあることをきっかけにこうして二つへと分かれたのだ』
「何か凄い話をしてますね」
不意に声がして振り向くと何時から聞いていたのやら、フェルドの横にはアルスがいた。背後では子供達(ヴィルも含めた)が大騒ぎではしゃいでいる為、大方逃げおおせてきたのだろう。
「氷竜さん、子供たちの暴れている状況で何か痛かったりしないんですか」
『我が子供などに傷付けられるわけなかろう』
「・・・そうですね」
溜息をついてアルスは腰を落ち着け・・・たところに子供達が現れアルスは引きずられていった。
『ところで竜族の小僧』
「俺は小僧じゃない」
子供達が完全にアルスを連れ去った後、氷竜は言った。それもフェルドの主張を無視して続ける。
『天使族の娘、それに雷獅子の小僧の様子がおかしいようだが?』
「・・・ああ。俺も気にはなっていた。他の奴らは気付いていないようだが何か違和感がある」
『しかし問いただしはせぬ、か?』
「当たり前だ」
相棒であるヴィルが話さないということは何か大きな意味がある。それを根掘り葉掘り聞いたところで恐らく力にはなれないのだろう。でなければヴィルは自分に相談しているから。
とにかく伝説についてはわからないことだらけで、その中からヴィルは選ばれた存在。俺はあくまで暗躍だ。
「あいつの背中を守るのが俺の仕事だ。あいつが俺に預けたんだから・・・な」