複雑・ファジー小説
- Re: Ultima Fabura—〝最後〟の物語 ——第二章へ。 ( No.96 )
- 日時: 2011/05/07 23:43
- 名前: Aerith ◆E6jWURZ/tw (ID: hQNiL0LO)
- 参照: 〝奇跡はあたしらの得意技だ〟
>>90 Before shot >>109 After shot
SHOT 2 救いたかった
返り血を浴びて全身ずぶ濡れになっていたミュレアは雨の中でひとり立っていた。
雨が全身の不快感を洗い流す。しかし血は流れて消えても罪は消えない。
耐え切れなくなった本当のミュレアは随分前に幼い時体の中の心の中奥底に閉じこもってしまった。
そうしないと壊れるから。
そうじゃないと耐えられないから。
代わりに〝もうひとりのわたし〟と彼女の呼んでいる私が外面に出ている。
何かミュレアは勘違いしているようだが私は彼女の中の人格ではない。その前に人間でもない。あくまで私は闇の中からミュレアを救いに来たのであって彼女ではないのだ。
しかし救えていない気がする。ただ罪を重ねているだけのような。
服は赤いまま。罪を象徴しているかのように。
けれど死ぬ事はしない。
どんなに罪を背負っても。穢れても。罪も責任も私が全て負う。
私はこの子を守ると誓ったんだから。
しばらくしてさっきの服は落ちない血で赤く変色していたため服を新しく着替えたミュレアは牢屋に戻っていた。
また・・・一人だ。
いや、巻き込まないですんでよかったと思う。
きっとあの男の子の運命もこれで曲がることは無いだろう。
(お〜いあんた! 外出てみよっ!)
『!』
いきなり声がしてミュレアは牢屋の奥を見やる。
あの少年だった。
『・・・去れ、という意味でここに鍵を置いていったんだが?』
(あぁ! 待ってた)
『私を・・・? 馬鹿げている』
銀翠の瞳でミュレアは冷たく笑った。
しかし少年の瞳を見る限り本気だ。なぜ見ず知らずの私たちのために。
——コイツ、正気か?
ミュレアの手錠を外し、そのまま彼女の手を引く。
唐突だったためミュレアはぼーっとしていたがはっと我に帰り引かれた腕に力を込めた。
『は・・・なせっ!』
(なんだよ、こんなとこにずっといたら闇の中でひとりになるだろ?)
『闇の中・・・?ひとり・・・?』
一人闇の中で、泣いていたから。
この子が——ミュレアが泣いていたから。助けたかったから。
だから私が代わりに罪を全部背負ってあげたかった。少しは背負っているものを軽くしてやりたかった。
闇の中から救いたかったから。
(ヒカリ! 見に行こう!)
光。
・・・・・・ねぇ。
あの時私はもうひとりのわたしの肩越しに君を見ていた。
姿も容貌も顔も・・・覚えていない。なまえさえ。君のくれた暖かくて優しい言葉だけが頭に、心に残ってる。
・・・・・・ねぇ。
もしもあの日あの時君と一緒に外へ出なければ。
〝光〟を知らないまま今も闇の中で生きていたら。
わたしは闇に染まった?
世界にあふれる光を知らずに生きてゆけた?
闇の濃さを。
光の純粋さを。
この落差を知らずに生きてゆけた?
もっとつらくなった。君が暗闇からわたしを連れ出したから。
闇の濃さを、冷たさを知ってしまったから。光の優しさを、暖かさを知ってしまったから。
罪も一緒に強く知ってしまった。わたしの闇も知ってしまった。
しかも君はあの日——
『—————っ!!』
『逃げろミュレアーっ!!!!!!!』
『殺せ』
君の上に、凶刃・・・。
出会ってから2年。君はわたしを逃がそうとした反逆者として追われていた。
わたしが君の手を握ってしまった。
5年前のあの瞬間から君はわたしのために死ぬ運命を。
〝私〟の意思じゃなく〝わたし〟として連れ込んだんだよね。
———皮肉なことだね。あの時の君の血の色だけ鮮明に覚えてるんだ。
赤くて、赤くて、紅くて。
その時の君の紅い血が瞳に宿った気がした。
頭が、真っ白になって。〝空虚〟という名の白になって。
あの日からわたしの瞳は銀紅。
君への償いのできなかった証みたいに紅い瞳。
わたしの、せい。
わたしの・・・せい・・・
「どーしたんや、ミュレアちゃん」
「えっ? ううん、何でも。ちょっと考え事」
救われない魂。
わたしのせいであの日ひとつ増えたんだろうね。
「なぁ・・・ミュレアちゃん」
「なに?」
「あ・・・いや。やっぱええわ」
「なんなの!? 気になるな〜っ」
シュヴェロはいたずらっぽく笑った。なんだかまぶしかった。
いいのかな、わたしといても。
——裏切るのか?
〝私〟が目を伏せて言う。心の中で、だけど。
でも最近気づいた。寂しいけど、〝私〟が他人ってことに。
だから幻影として心の中でわたしの姿を借りた私が目を伏せる様子がうかがえる。
優しいね。〝私〟は。
傷付けたくないから裏切るの。ううん、失いたくないから裏切るの。
それで守れるかもしれない。
酷いことを見せて。そうしたら愛想をつかされて見放されるかもしれない。
またひとりはつらいけど目の前でわたしのために死ぬ人を見ているほうがもっとつらくて痛くて哀しいから。
だから。
港の人たちを。
〝——殺せ——〟
殺してしまうかもしれない。シュヴェロを守りたいだけなのに。
なんで?
どうしてこうするしか方法がないんだろう。なぜ、わたしはこんなにも巻き込んでしまうのだろう。
わたしがいなかったら失われなかった命は星の数ほどもある。
どうしてわたしは生まれてきてしまったんだろう。
そう思うほどにつらかった。
